トピックス(役立つ医学情報-循環器編No.9)】
公開日2005.08.10 更新日 2005.09.16  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す 
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報(必ずしも最新ではありません)を紹介します。
このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。
58)【心臓】心房細動の高齢者には、軽症の甲状腺機能亢進症が多い。 2005.09.16記
57)【心臓】薬剤溶出性ステントにより再狭窄が劇的に減少。 2005.09.16記

56)【心臓】狭心症または心筋梗塞の再発予防薬の使い方に問題あり! 2005.08.10記

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     【循環器】


(58)心房細動の高齢者には、軽症の甲状腺機能亢進症が多い。

まとめ:ごく軽症の甲状腺機能亢進症でも骨折頻度の増加、心房細動の増加を引き起こすので臨床上注意がいる。
 血液検査で明らかな甲状腺機能亢進症と診断されても、甲状腺腫大、手指の震え、眼球突出の典型的な症状を示すのは、1/4以下と言われている。とくに高齢者の甲状腺機能亢進症では、心房細動、衰弱、錯乱、うつなどの非典型的な症状が目に付くことが多い。
  甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低い(<0.5mU/ml)だけで、甲状腺ホルモン(T3,T4)が正常である一群は軽症の甲状腺機能亢進症と考えられ、不顕性甲状腺機能亢進症(subclinical hyperthyroidim:SH) と定義されている。血液中のT3,T4濃度が減少すると脳下垂体から分泌されるTSHが増加し、血液中のTSH濃度が上昇する。逆に、血液中のT3,T4がわずかに上昇してもTSHは抑制され、血中TSH濃度ははっきりと低下する。つまり、血液中のTSH濃度は甲状腺ホルモンが多いのか少ないのかを示す敏感なシグナルになっている。
 甲状腺機能低下症の治療のために甲状腺ホルモンを内服し続けているすべての人は、このSHの危険性がある。しかし、SHがすべてよくないわけではない。甲状腺癌、孤立性甲状腺腫、多発性あるいはび漫性甲状腺腫に対する甲状腺ホルモン療法は、意図的にこのSHの状態にすることを治療の目標としている。軽症の甲状腺ホルモン過剰よりもTSH低値の恩恵が高いと考えてこのような治療を行っているのである。
 ではSHには臨床上、どの様な不都合があるのだろうか。過剰な甲状腺ホルモンは骨吸収を増大し、骨粗鬆症を引き起こすため、骨密度の低下や骨折の増加が起こる。また、高齢者に多い心房細動になりやすくする。60歳以上で10年間にわたる観察では、心房細動の頻度は、正常TSHでは11%、TSH 0.1未満では28%、TSH0.1-0.4mU/mlでは16%であったという。
60歳以上の高齢者での心房細動の頻度
血液中のTSH濃度(mU/ml)
正常
< 0.1
0.1-0.4
10年間の心房細動の発生頻度
11%
16%
28%

【当院の見解】
 
慢性の甲状腺機能低下症に対しては、一生涯甲状腺剤を処方する。この時、T3,T4(freeT3,freeT4)が正常ならTSHが低くてもあまり気にしていなかった。今回T3,T4が正常で、TSHが下がり過ぎている不顕性甲状腺機能亢進症もよくないことが、この解説からわかった。今後このことを踏まえて甲状腺機能低下症の治療を行いたい。

参考資料
出典:日本内科医会会誌2005年6月号  著者:吉田幸一郎 (千葉県)
2005.09.16記   2005.09.24修正


               【心臓】            トピックスのTOPへ   次へ  前へ 


(57)薬剤溶出性ステントにより再狭窄が劇的に減少。

まとめ:動脈硬化により狭くなった心筋への動脈(冠動脈)の治療には、冠動脈ステント留置が広く行われるようになった。 しかし、20%近い再狭窄率が問題になっていた。普及した免疫抑制剤で表面と覆ったステントが2004年から日本でも普及し、再狭窄は劇的に減少した。
 手足の動脈からカテーテルと呼ばれる管を冠動脈まで挿入し、冠動脈の狭くなった部分を拡げる方法がいくつか発明され、総称してPCI(経皮的冠動脈インターベンション)と呼ばれている。代表的なものには、狭窄部分を風船で膨らませる●冠動脈バルーン形成術(POBA:plain old balloon angioplasty)、動脈硬化で狭窄した部分を高速で回転する刃で削り取る●DCA(directional coronary aterectomy)、硬いダイアモンド粒子に覆われた紡錐形の金属球を高速で回転させ、狭窄さらには完全閉塞した動脈硬化部分を細かな粒子に破砕する●ロタブレーター(rotabletor)、狭窄部分を風船で膨らませたあとに、内腔を押し広げる金属の網目状のチューブを留置する●冠動脈ステント留置などがある。
 POBAだけでは3-6ヶ月以内に約30%が再び冠動脈の狭窄を起こす。バルーン拡張の後に冠動脈ステントを留置するとこれが約20%に減少する。PCIの最大の問題のひとつが、この再狭窄をゼロに近づけることにあった。拡げた直後に生じる再狭窄の原因は、内膜の解離、血栓、弾力により元に戻る(recoil)であるが、徐々に生じる慢性期の再狭窄の最大の原因は内膜細胞の増殖であることがわかっていた。
  薬剤溶出性ステント(DES:drug eluting stent)はこの慢性期の再狭窄防止を目標に開発された。現在日本で使われているのはシロリムスという免疫抑制剤でステントを覆った製品(商品名Cypherステント:J&J株式会社)である。ステントの表面は薬剤を含むポリマー層とその表面を覆う薬剤を含まないポリマー層に覆われており、これにより薬剤がゆっくり長い期間かけて溶け出すようになっている。
  ステント留置に共通して、留置直後に血の塊(血栓)がつかないように抗血小板薬が併用される。通常、アスピリン(商品名:バイアスピリン、バファリン81など)とチクロピジン(商品名:パナルジン)の併用が行われる。アスピリンは一生涯続けた方がよいとされているが、チクロピジンは30日間〜90日間の使用を目安にする。なお、チクロピジン開始後2ヶ月間は重篤な副作用(血栓性血小板減少性紫斑病、無顆粒球症、重篤な肝障害)予防のために2週間に一回は血液検査を行うようになっている。

【当院の見解】
 
DESによる治療は急速に拡がっている。実際に、この治療に直接あたらない臨床医もDESでの治療やDES治療後の患者さんを診る機会が増えてくる。心臓病を扱わない医療機関でも、PCIやDESの最低限の知識を持っていた方がよいと思う。

参考資料
出典:日本内科医会会誌2005年6月号  著者:洞庭 賢一 (石川県)
2005.09.16記  


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(56)狭心症または心筋梗塞の再発予防薬の使い方に問題あり!

まとめ:現在、狭心症または心筋梗塞になった患者さんに処方されている薬は、処方しない方がよい薬、またはもっと有効で処方されるべき薬がしばしばある。
 一度、狭心症や心筋梗塞になった人の再発予防(二次予防という)に使われる薬剤の使用状況はわが国と欧米で比較するとかなり異なっており、日本での使い方を考え直したほうがよいものもある。
心筋梗塞2次予防のための処方薬の日本と欧米の比較
薬剤の種類
2次予防での使用率
コメント
当院の意見
日本
欧米
Ca拮抗薬
商品名(ノルバスク=アムロジン、ヘルベッサーRなど多数)
60%
15%
血圧降下が確実である。日本に多いとされる心臓の血管(冠動脈)の痙攣による狭窄または閉塞(攣縮)予防効果があり、よく使われている。しかし、ヘルベッサーRなどを除くと浮腫、心不全を悪化させやすい。発作性心房細動も誘発しやすい。 高血圧の合併症があるとき脳卒中や冠動脈攣縮の多い日本では、ノルバスクは合理的かもしれないが、真実は不明。心不全の人にはなるべく使わない方がよいかも。
硝酸薬
商品名(フランドルテープS、ニトロダームTTSなどの貼り薬、フランドル錠、アイトロールなど)
70%
35%
症状のある患者さんでは使い方によっては有益かもしれない。しかし、安定した患者さんへの使用はむしろ有害との報告が多い。少なくとも役立たない。 日本では本来使うべきでない人に、使われている。漫然と使うべきではない。
ACE阻害薬
商品名(レニベースなど多数)
30-40%
80%
高血圧、心不全、心機能障害などの合併がある場合に積極的に使う。 浮腫や心不全がある場合の降圧剤としてはお勧め。利尿剤と併用することもよいが、利尿剤のあとに追加すると予想以上に血圧低下することもあるので注意。心機能が悪くない人への心不全予防効果はないとされている。
ARB
商品名(オルメテック、ディオバン、ブロプレスなど多数)
不明だが増加中。ACEIより頻用されている。
??%
ACEIと同じ使い方。心不全へのACEIとARBの併用により効果が高まるとの報告がある。この場合の保険適応は米国ではあるが、日本ではまだない。 同上。一部の薬剤(オルメテック)は他のARBやACE阻害薬よりも降圧効果が強い印象である。
抗血小板薬
商品名(バイアスピリン、バファリン81など)
30-40%
80%
基本的には全例で使用する。原則、少量のアスピリンを使う。価格とともに長期的な安全性の点で、アスピリン以外はアスピリンが使えないときのみに使用するようにしたい。 低価格で効果が期待できるので、原則使用する。しかし、最近では年齢、性別、疾患によって効果が異なるとの報告あり
β遮断薬
商品名(アーチスト、メインテート、テノーミンなど極めて多数)
35%
70-80%
生命予後に関して、大変優れた薬剤。ただし、使う医師の熟練を要する場合がある。 循環器専門医なら積極的に使うべき。もっと多く使われてよい。
ニコランジル
商品名(シグマート)
?頻度少ない
血管拡張作用、再発予防効果、再潅流障害軽減作用など優れた証拠もある薬剤。狭心症の症状軽減にも効果が高い。ただし、一日3回の投与のため、服薬が面倒。血管拡張による頭痛、顔面紅潮がしばしば生じる。 もっと多く使われるべきだが、一日3回投与は使いにくい。徐放剤にするなどメーカーは改善してほしい。

Ca拮抗薬(カルシウムきっこうざい)と硝酸薬(しょうさんやく:心臓の貼り薬はすべてこれです)はわが国は欧米に比し明らかに多い。ACE阻害薬、抗血小板薬、β遮断薬は海外でよく使われている。欧米各国での薬剤の使用頻度はほぼ同じであり、日本と欧米の医師との薬剤選択の差違は興味深い。
長時間作用型のCa拮抗薬は、脳卒中、虚血性心疾患ともに減らすとされ、ACE阻害薬やARBに勝ると報告されている。食塩摂取量が多く、脳血管疾患の多いわが国では、ARBやACE阻害薬は作用機序の面と効果において類似している。両者の降圧効果はメーカー側の報告とは異なりCa拮抗薬より明らかに弱く、まず降圧が重要と考えれば冠動脈疾患患者に合併した降圧目的にCa拮抗薬を選択するのは、当院もふさわしいと考えている。短時間作用型のCa拮抗薬の場合は、交感神経を活性化させるため虚血性心疾患治療、降圧薬としても好ましくない。しかし、現在主流のCa拮抗薬はすべて長時間作用型であり、特にアムロジピン(商品名:ノルバスク、アムロジン)は血液中の濃度がピークの半分になるまでの時間が33時間と非常に長い。ほかの降圧剤の半減期はほとんどが4-12時間の範囲内にある。
  ARBとCa拮抗薬の降圧効果が対等とする報告は、すべて食塩摂取量が日本の約半分である欧米での調査であり、こういった人には、ARBやACE阻害薬の効果が高い。また、解析の方法もARBに都合のよい方法を用いている。最近、急速に台頭しているARBは咳の副作用がなく、ACE阻害薬に取って代る勢いにあるが、両者の効果の同等性は証明されたが、凌駕する成績はない。なお、私見ではあるが一部のARB(商品名オルメテック)は症例によっては、Ca拮抗薬と同等の降圧効果を示すようだ。特に、高圧利尿剤(商品名ナトリックス)を先行して使っている場合は、急激な血圧下降が生じることもある。
  硝酸薬に関しては心筋梗塞、狭心症とも急性期の治療には有用な薬剤てあり、症状、血行動態、予後を改善する。急性心不全では肺のうっ血を急速に改善し(肺毛細血管圧を急速に下げる)、狭心症を伴う心不全に対しては硝酸薬とβ遮断薬は明らかに有効である。 しかし、慢性期の長期投与に関して欧米でも日本でもむしろ心事故を増加させ、有害とする報告がある。少なくとも有用とする報告はない。日本循環器学会のガイドラインでも、「梗塞後狭心症や新たな心筋虚血が認められる患者に対して頓用または短期間使用する」とされ、「状態の落ち着いている心筋梗塞慢性期患者に対する漫然とした長期投与」は有効はないばかりか、ときに有害となる可能性のあると記されている。少なくとも狭心症状がない症例では漫然と投与しない方がよい。
 抗血小板薬には、いろいろあるが少量のアスピリンよりも優れた効果が期待できるものはない。冠動脈ステント留置後の場合は、一時的にアスピリンと他の抗血小板薬(商品名:パナルジン)との併用がより、優れているとの報告もあるが、基本的には、価格、効果を考慮して、アスピリンの少量投与を考慮する。
 β遮断薬は心筋梗塞の二次予防薬として海外では高く評価されているが、わが国では冠攣縮の出現と心拍数の高度減少や心不全の誘発を恐れて使用が少ない。Ca拮抗薬との相性もよく、症例を選んでもっと使用されるべき薬剤である。
【当院の見解】
 
現在、以外にも、日本の外来診療で処方される薬は、循環器専門医の処方をですら、学会推奨の内容となっていないことがしばしばある。その原因のひとつは、専門医の勉強不足があると考えている。多くの医師が、製薬メーカー主催の勉強会にたよって、薬物治療の最新情報を入手している。この方法には大きな盲点がある。製薬メーカーに都合の悪い講演を聞けることは、ライバル薬の講演でもなければまずない。そのため、薬剤の副作用は過小評価され、薬剤の効果は過大評価される。後日変更された評価は、厚生労働省の指導がない場合は、製薬会社に不都合なときは伝達されない。伝達資料には大きなバイアスがかかっている。
  Ca拮抗薬は浮腫や心不全傾向のない、高血圧を合併した冠動脈疾患には最適であろう。硝酸薬は現在までの資料では、慢性期の外来心筋梗塞・狭心症患者への適応はほとんどない。抗血小板薬はアスピリンを主体として、原則的に使うべきであろう。β遮断薬は使い慣れていない医師には使いにくいと思うが、大変効果が高い薬剤と考えている。特に、心機能が悪いがうっ血のない頻拍傾向の患者さんにはアーチスト(商品名)をうまく使うとよい。また、高血圧+冠動脈疾患+心拍数70/分以上には、β遮断薬の処方を考えてみるべきと思う。ACEIとARBの心機能改善作用は同等であるが、β遮断薬が有効な症例には、ACEIとARBの効果は劣ると考えている。 
 ニコランジル(商品名:シグマート)は、急性期または慢性期ともに狭心症症状の改善 、予後の改善、発症予防ともに優れた成績報告のある薬剤である。しかし、内服薬の場合。一日3回服薬と煩雑である。また、血管拡張作用による動悸、頭痛が多いことから、あまり使われていない。本当に狭心症の発作があるのなら、β遮断薬とともにもっとも症状改善の期待ができる薬剤のひとつであると考えている。
  いずれの薬剤も患者さんの病態掌握、入念な観察、薬剤の教科書レベル以上の経験的な知識が治療する医師にないとうまく使えない。一般的に狭心症や心筋梗塞患者の処方解説のほとんどが、大規模研究の結果を鵜呑みにしたもので、個々のケースを熟慮した実地医科のための処方解説は少ない。これらは多くの患者さんの平均像をモデルにしていることに大きな限界がある。平均的な患者さんによくても、個々の患者さんに悪い、また逆に有効が場合があるということは少なくない。高脂血症治療でたとえれば、総コレステロール280mg/dlなら、一度心筋梗塞になった患者さんでは、HDLコレステロール値をみて、スタチン薬を処方した方がよいことが多い。しかし、合併症のない50歳の女性で、総コレステロール280mg/dlなら、薬を処方した方がよい場合はほとんどない。総コレステロール280mg/dlだけを見て、スタチンを処方した方がよい、逆にしない方がよいという議論は、無意味である。

参考資料
出典:Medical Practice 1427  著者:兼木内科・循環器科クリニック兼本 成斌
2005.08.10記   2005.09.12修正