トピックス(役立つ医学情報-循環器以外編No.9)】 
公開日2005.09.28 更新日2005.11.04  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報(必ずしも最新ではありません)を紹介します。
このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。
62)【呼吸器】アトピー体質と咳 2005.10.22記
61)【呼吸器】咳喘息・アトピー咳嗽の薬物治療 2005.10.20記
60)【呼吸器】アトピー咳嗽とは 2005.10.20記
59)【呼吸器】喀痰の多い長引く咳は、気管支炎を合併した慢性副鼻腔炎が多い 2005.09.28記
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     【呼吸器】

(62)アトピー体質と咳

まとめ:「アトピー」という言葉は、アレルギー疾患にかかりやすい人、つまり体質を表す言葉である。 < align="left"> 多く場合、「アトピー」という言葉は、「IgE抗体(I型アレルギー反応の原因)を産生するアレルギー反応と、その傾向を有する体質を表現する名称」として使われている。
  つまり、IgE抗体を測定して上昇を認めたとき、アトピー体質という診断がなされる。しかし、本来「アトピー」という言葉は、アレルギー疾患にかかりやすい人、つまり体質を表す。明らかに家族歴をみるとその傾向があるけれど、血液中のIgE抗体の上昇がみられないことがよくある。従って、「アトピー体質=IgE抗体の上昇がある」という考え方では、アトピー疾患の全体をとらえることができない。
アトピー体質には様々な症状の出方がある。喘息、アレルギー性鼻結膜炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー性気管支炎(アトピー咳嗽)などの疾患、ときには頻尿、倦怠感などの症状がみられることもある。これらの疾患は別々のものではない。外からの刺激(抗原)が引き金になり、体内の反応の現れる場所が異なるだけである。

2005.10.22記  2005.11.03修正


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(61)咳喘息・アトピー咳嗽の治療

まとめ:慢性の空咳には「効果をみながら、薬を試す」治療効果による診断が有用である。
 風邪の後に咳が続いている場合を除くと、長引く空咳(慢性乾性咳嗽)の大部分は、アトピー咳嗽咳喘息である。発作の起こり方や病歴を参考に診断するが、この両者の鑑別には治療効果による診断が大変に有用である。
 具体的には、初診時の空咳に対して、いわゆる咳止め(中枢性非麻薬性鎮咳薬)や漢方薬の咳止め(麦門冬湯)を投与して、咳の強度が半分になれば、「単に風邪後の咳が長引いているだけ」の可能性が高い。
  一方、この治療が無効の場合は、アトピー咳嗽や咳喘息の可能性が高くなる。このような患者に対しては、 気管支拡張剤を使ってみるとよい。これが有効なら「気管支喘息」と診断してよい。気管支拡張剤としての吸入β刺激薬は、副作用も少なく、効果も直ぐに発現するので便利である。しかし、吸入の仕方が下手だと十分な薬剤が患部に行き渡らずに、効果が不十分と判断されることがあるので注意する。効果が不十分の場合は、ステロイド(プレドニン20-30mg/日)を3〜7日処方するか、吸入ステロイドを併用する。この際、プレドニンは漸減せず、急にやめてもよい。咳喘息ではロイコトリエン拮抗薬が有用な場合もある。
  風邪後でもなく、気管支拡張剤が無効な慢性の乾性咳嗽のほとんどは、「アトピー咳嗽」と思ってよい。アトピー咳嗽の治療にはヒスタミン-H1拮抗薬を使う。無効な場合は吸入ステロイドや短期間の経口ステロイドを併用する。咳喘息もアトピー咳嗽も、軽症例であれば咳嗽は治療によって速やかに軽快するが、中等症例や重症例では、咳嗽の軽快に2〜4週程度を必要とする場合が少なくない。

【当院のコメント】
 治療薬に関する内容は医師向けレベルですので、一般の方は自己診断せずに呼吸器科の医師に相談下さい。
参考資料
日本医事新報「咳喘息・アトピー咳嗽の治療」(神戸大大学院循環呼吸器病態学 西村 久男善博)、2005年10月01日号
日本咳嗽研究会のHP:http://www2.eisai.co.jp/netconf/cough/c_spe.htm

2005.10.18記  2005.11.04校正


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(60)長引く空咳があれば、アトピー咳嗽かも?

まとめ:長引く喀痰の少ない頑固な咳の原因で最も多いのがアトピー咳嗽と呼ばれている疾患で、日本に多い。似たような症状で喘息の一種、または初期症状と考えられている咳喘息とは治療薬も予後も異なるので、的確な対応が必要である。
【はじめに】
 わが国における長引く慢性の咳(慢性咳嗽)の三大原因疾患はアトピー咳嗽(せきのこと)、咳喘息、副鼻腔気管支症候群である。その数は過去20年間で増加しているという。その大部分は、初診時の身体所見、胸部X線写真、一般的血液検査に咳嗽の原因となる異常を認めない。
1. 慢性の咳の持続時間と性状
 (1)咳嗽の持続期間
 3週間以内の咳嗽は急性咳嗽、3-8週間持続する咳嗽は遷延性(せんえんせい)咳嗽、8週間以上持続する咳嗽は慢性咳嗽と定義する。さらに、胸部の身体所見、画像所見、スパイロメトリーなどの通常の診療によって原因を特定できない8週間以上持続する咳嗽を狭義の慢性咳嗽と定義する。
 (2)咳嗽の性状
 咳嗽には、喀痰を喀出するための生理的反応としてある湿性咳嗽と、痰がほとんどない乾性咳嗽(いわゆる空咳)がある。
 慢性湿性咳嗽では副鼻腔気管支症候群が多い。一方、慢性乾性咳嗽の原因疾患としては、欧米では咳喘息と胃食道逆流が多いが、本邦では胃食道逆流は少なく、代わってアトピー咳嗽と呼ばれる病態が多い。
 
藤村政樹氏の資料より


2. 咳喘息とアトピー咳嗽
(A)咳喘息
  咳喘息は咳だけを唯一の症状とする病気である。ヒューヒュー、ゼーゼーといった喘息の特有の症状はない。 通常、咳は痰を伴わない。咳喘息の1/3は数年以内に喘息に移行する。咳喘息では、気管支は何らかの刺激(例えば冷たい空気や煙)に対して過敏になっており、刺激があると咳が出る。咳喘息の特徴の一つは、咳が夜間に多いことである。また電話で話をしたり、冷たい空気にあたったり(冬に暖房のきいた部屋から寒い戸外へ出たり)運動をしたりすると咳が出ることが多い。 検査所見では、肺機能は正常である。
 咳喘息とアトピー咳嗽とも喘息と同様にアレルギー反応の担い手である好酸球という白血球が気管支分泌物に増加する好酸球性気道疾患である。
  咳喘息は、現在喘息の一亜型又は喘息の前段階と考えられている。咳嗽は気管支平滑筋の軽度収縮が引き金となって発症すると考えられている。咳嗽全体に対する抑制効果のないβ2-刺激薬が、 咳喘息の空咳に有効である。
(B)アトピー咳嗽
 アトピー咳嗽とは、藤村政樹らが提唱した新しい疾患概念である。咳喘息と同じように、咳だけを唯一の症状とする病気である。ただし、喘息になることはない。患者は何かしらのアトピー素因(アレルギー疾患がある、なったことがある、なりやすい体質)を有するか、誘発喀痰中に好酸球がみられる。咳に対して気管支拡張薬はまったく無効で、ヒスタミンH1-拮抗薬とステロイド薬が有効である。
  アトピー咳嗽と咳喘息の病理学的基本病態は中枢気道から末梢気道全体の好酸域性気管支細気管支炎であり、この点ではまったく同じである。
  英語表記では、
eosinophilic tracheobronchitis with cough hypersensitivity associated with atopic constitution
となっている。
(2)診断
  長引く空咳の診断では、咳喘息とアトピー咳嗽の鑑別が問題となる。厳格な診断は面倒で、患者負担の大きい検査も多く、現実的でない。咳嗽研究会とアトピー咳嗽研究会がまとめたあまい診断基準が日常臨床では使うことが妥当である。
(1)治療前の診断

●咳喘息のあまい診断基準(下記1-2のすべてを満たす)
1.喘鳴や呼吸困難を伴わない咳嗽が8週間(3週間)以上持続。聴診上もwheezesやrhonchiを認めない。
2.気管支拡張薬が有効。
参考所見:
1)喀痰や末梢血中に好酸球増多を認めることがある(特に前者は有用)。
2)気道過敏性が亢進している。
(咳嗽研究会案、2000年10月)
------ より具体的には1〜6がそろえば、咳喘息といえる。------
1. 慢性的に咳が出る。
2. ヒューヒュー、ゼーゼーといった喘息の特有の症状がない。
3. 肺機能、胸のレントゲン写真が正常。
4. 鼻炎や副鼻腔炎(慢性的な鼻づまりは要注意です)がないこと、胸焼けがないこと。
5. 気管支が特定の刺激に対して、過敏になっており、咳がでること。
6. 気管支拡張剤が有効。


●アトピー咳嗽のあまい診断基準(下記の1-4のすべてを満たす)
1)喘鳴や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が3週間以上持続。
2)気管支拡張薬が無効。
3)アトピー素因を示唆する所見
 注1)または誘発喀疫中好酸球増加の1つ以上を認める。
4)ヒスタミンHi一拮抗薬または/およびステロイド薬にて咳嗽発作が消失。
注1):アトピー素因を示唆する所見
(1)喘息以外のアレルギー疾患の既往あるいは合併
(2)末梢血好酸球増加
(3)血清総IgE(アイジーイー)値の上昇(血清IgE:アレルギーに大きくかかわっている血液中の免疫タンパク質)
(4)特異的IgE陽性(特異的IgE:IgEのうち、ハウスダストやダニなど、特定のアレルギーの元になる物質)
(5)アレルゲン皮内テスト陽性
(咳嗽研究会案、2000年10月)
(2)治療に対する反応による診断
本邦では慢性乾性咳嗽の大部分がアトピー咳嗽と咳喘息なので、この二疾患を念頭に診断的治療を開始する。
 最初に、「気管支拡張薬が有効な咳嗽は咳喘息だけである」ことに基づき、1〜2週間の気管支拡張療法を実施して、その効果を判定する。咳嗽が消失しないまでも、明らかに軽減すれば咳喘息と診断し、より十分な治療を開始する。気管支拡張薬が無効な場合には、アトピー咳嗽と一時的に診断し、ヒスタミンH1-拮抗薬およびステロイド薬を用いて治療する。それぞれの治療によって咳嗽が完全に軽快すれば、それぞれの疾患の確定診断となる。
 しかし、それぞれの治療によって咳嗽が完全に軽快しない場合には、胃食道逆流による咳嗽心因性咳嗽など、他の原因を考えて検査・治療を進めることになる。この場合、中心型肺癌気管支結核気道内異物などが原因となることもあり、気管支鏡検査が必要となる。

参考資料
日本医事新報(2005年4月9日〕金沢大学大学院細胞移植学・呼吸器内科、助教授 藤村政樹
日本咳嗽研究会のHP:http://www2.eisai.co.jp/netconf/cough/c_spe.htm
日経メディカル2000年10月号「自らの咳喘息の体験が目を向けさせたアトピー咳嗽」藤村政樹
日本医事新報No.3898(1999年1月9日)p140「アレルギー性の持続性咳嗽(タイトル不詳)」

2005.10.18記  2005.11.04校正


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(59)喀痰の多い長引く咳の原因として、気管支炎を合併した慢性副鼻腔炎が多い(副鼻腔気管支症候群)。

まとめ:2ヶ月以上続く慢性の咳の原因のほとんどは、1)アトピー咳嗽、2)咳喘息、3)慢性副鼻腔炎に気管支炎を合併した副鼻腔気管支症候群と言われている。1)2)はともにアレルギー体質が基本にあり、空咳が続く。後者は喀痰の多い慢性の気管支炎である。いずれも単なる咳止めでは満足できる効果は期待できない。これらに対しては著効する有効な治療法があるので、きちんと診断治療できる医師に診てもらうことが肝心だ。
慢性咳嗽

 肺炎、気管支炎、肺癌、結核など特定の原疾患に伴う咳ではなく、「咳症状だけを8週間以上持続する」ものを「慢性の咳」という。8週間以上持続する咳で発熱やレントゲン、血液検査などで炎症性変化がない場合は、感染症をほぼ否定できる。これらの「慢性の咳」の原因の種類はそれほど多くなく、ほとんどが3種類のいずれかであると金沢大学呼吸器内科の藤村政樹氏は言う。藤村氏の調査では、8週間以上持続する咳嗽のみを主訴とした初診患者では、1)咳喘息41.1%、2)アトピー咳嗽32.9%、3)副鼻腔気管支症候群19.2%、逆流性食道炎2.1%、その他4.8%だった。
湿性咳嗽
 喀痰の多い咳は、湿性咳嗽(しっせいがいそう)と呼ばれ、合併する気管支炎のために起こる。副鼻腔気管支症候群は慢性湿性咳嗽を起こす代表的な疾患である。副鼻腔気管支症候群は、慢性の副鼻腔炎があり、数年から数十年後に気管支炎が起こり、慢性の咳や痰が生じるようになる。副鼻腔気管支症候群は、慢性の鼻炎・副鼻腔炎と慢性の気管支炎(気管支拡張症なども含む)が合併した病態である。
 顕微鏡レベルで検討すると、アレルギー性気管支炎(咳喘息+アトピー咳嗽)では、好酸球という白血球が増加しているのに対して、副鼻腔気管支症候群では好中球が増加している。このように両者は全く違う機序により咳が生じているので、治療方法が全く異なる。慢性の咳と痰がある場合の90%が、この副鼻腔気管支症候群だったと藤村氏は言う。喀痰量が多い場合は、まず副鼻腔気管支症候群を疑ってほしい。副鼻腔炎の診断のキーポイントは、「咳払い」、「後鼻漏」である。慢性の副鼻腔炎の患者さんは、鼻汁が喉に落ちてきた(後鼻漏)のために時に咳払いをする。胸部レントゲンでは気管支拡張症の変化がないか診る。副鼻腔2方向で液体貯留、粘膜肥厚像の有無を診る。膿性の喀痰を伴う咳嗽があり、副鼻腔のレントゲンで異常所見があれば副鼻腔気管支症候群と診断できる。
湿性咳嗽(副鼻腔気管支症候群)の治療
 慢性の咳と痰の原因の90%は副鼻腔炎に合併した気管支炎であるので、副鼻腔炎の治療が主眼となる。 具体的には、マクロライド系抗生剤の少量長期処方を行う。マクロライド療法の有効性は非常に高い。他方、気道粘液修復剤(商品例:ムコダイン)のみで改善する頻度は低い。 マクロライドの長期処方は副作用が問題になることが少ないので診断が確実でなくとも安全性に問題はない。効果判定は2ヶ月の投与期間後に行う。症状が軽快すれば減量、中止する。通常6ヶ月間の投与で治癒することがほとんどである。 マクロライド(代表薬品名:クラリスロマイシン=商品名クラリス、クラリシッド)の作用機序の研究が進んでいるが、炎症性サイトカイン産生抑制、炎症細胞浸潤抑制、粘液線毛輸送機能改善、気道分泌抑制、バイオフィルム産生抑制などの抗生物質の本来の抗菌作用以外の作用が確認されている
 

参考資料

 Medical tribune 長引く咳の原因を探る、藤村政樹(金沢大学大学院呼吸器内科)、2005年8月18日号
2005.09.28記  2005.11.04校正