トピックス(役立つ医学情報-循環器編No.8)】
公開日2005.03.02 更新日 2006.03.02  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報(必ずしも最新ではありません)を紹介します。
このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。
54)【心臓】心筋梗塞のリスクは総コレステロール値とは無関係 2005.07.26記 関連記事
52)【心臓】低用量アスピリンの効果には男女差がある。   2005.04.12記
47)【心臓】心筋障害の指標「トロポニンT」について  2005.03.02記 

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     【循環器】

(54)心筋梗塞のリスクは総コレステロール値とは無関係。

まとめ:総コレステロール値が高いだけでは、狭心症・心筋梗塞の危険度が高いと言えない。

以下は毎日新聞からの引用文です。
毎日新聞朝刊2005年7月16日号の第一面(左上)

<心筋梗塞>総コレステロール値と無関係 青森の教授ら発表
 血液中の総コレステロールの値は、心筋梗塞(こうそく)を発症する危険性とほとんど関係がないとの調査結果を、青森県立保健大の嵯峨井勝教授(環境保健学)らが15日、東京都内で開かれた日本動脈硬化学会で発表した。関係するのは血圧や「善玉」と言われるHDLコレステロールの値だった。嵯峨井教授は「総コレステロールより血圧に注意し禁煙と運動で善玉コレステロールを増やすべきだ」と訴えている。
 同学会は、血液1デシリットル中の総コレステロールが220ミリグラム以上を「高コレステロール血症」と定め、心筋梗塞の可能性が高まるとして、喫煙者や45歳以上の男性、55歳以上の女性は220未満に抑えるべきだとの指針を発表している。220以上は全国で2300万人と推定されるが、今回の調査は指針に疑問を呈する形となった。
 嵯峨井教授らは、04年度に青森県内で健康診断を受けた40歳以上の男女1491人について、総コレステロール値やHDL、血圧、年齢、性別、喫煙の有無などを調査。全国の男女5万人を6年間追跡して心筋梗塞の発症率を調べた別の調査と比較し、各個人が健診後6年間に心筋梗塞を発症する確率を計算した。
 総コレステロールが260程度でも、大半の人の発症率は1%未満にとどまった。180程度でも、喫煙などの影響で同約5%に達する人もおり、総コレステロール値と心筋梗塞の発症率にはほとんど関係がなかった。【高木昭午】
 ▽佐久間一郎・前北海道大講師(循環器科)の話 私たちが北大で患者と健康人計約2500人を比べた分析でも、心筋梗塞の発症と総コレステロールに関係はなく、あるのは血圧やHDLだった。学会の指針は、遺伝的にコレステロールが高まって心筋梗塞を起こしやすい人を含むデータをもとに作られた可能性がある』

●当院からのコメント
 青森県立保健大の嵯峨井勝教授(環境保健学)は、住民健診の資料から、当院が作成・公開した「冠動脈10年リスク(ATPIII)」 と「冠動脈6年リスク(J-LITチャートI)」を利用して、冠動脈疾患のリスク評価に総コレステロール値が役に立つかどうかを調べたところ、全く役立たないと今回報告しました。この研究には当院院長の私も協力しています(別紙の発表では共同著者)。同教授は、2004年10月に遠路青森県から山口県の当院にリスク計算の仕組みに関して、質問に来られました。この時に私の所持している多くの資料を渡しました。

参考資料
・毎日新聞社会ニュース - 7月16日(土)3時5分 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050716-00000011-mai-soci

・関連記事 「(76)心筋梗塞の危険度(絶対リスク)は、総コレステロール値単独では評価できない。

2005.07.26記  2006.03.03追記  


               【心臓】            トピックスの目次へ   次へ  前へ 


(52)低用量アスピリンの効果には男女差がある。

まとめ:少量のアスピリン(低用量アスピリン)は、脳梗塞や心筋梗塞の予防に世界中で使われている。この低用量アスピリンの予防効果に男女差があると報告された。今後、男女差を考慮してこの薬剤の使用する必要がありそうです。

●低用量アスピリンの脳梗塞・心筋梗塞の低リスク群の初発予防効果に男女差がでた。
 低用量アスピリンは、脳梗塞や心筋梗塞の初発の予防(一次予防)や再発予防(2次予防)に広く使われている。今回、低リスク群の初発イベント抑制効果に明らかな性差が認められた。低リスクの女性では低用量アスピリンで脳卒中発症が減少するが、心筋梗塞発症、心血管死は減少せず、また脳卒中や心臓病を合わせた総合的な心血管イベント初発予防効果がないことがわかった。 ※心血管イベント=心血管事故=心臓や血管(脳血管、その他の血管)が破れたり、詰まったりしたためにおこる病気)
低リスク群の女性での低用量アスピリンの脳卒中ならびに心筋梗塞の一次予防効果
性別
脳卒中初発予防
心筋梗塞初発予防
副作用ほか
登録されたすべての女性

 

脳卒中はアスピリン群は偽薬群よりも17%減少、脳梗塞はアスピリン群で24%減少した(それぞれ統計的に差があった)。

 

アスピリン群と偽薬群で発症率に差がない。心筋梗塞は偽薬群の1.02倍(相対リスク)、心血管死は0.95倍(相対リスク)で、統計的な差がなかった。

・アスピリン群と偽薬群で統計的な差がなかったが、脳出血はアスピリン群で24%増加。

・消化管出血がアスピリン群で(輸血を要する消化管出血は40%)22%増加した(統計的に差があった)。また、消化性潰瘍、血尿、易紫斑、鼻出血も増加した(統計的に差があった)。

65歳以上の女性に限ってみると 脳梗塞はアスピリン群で30%減少した(統計的に差があった)。 心筋梗塞はアスピリン群で34%減少した(統計的に差があった)。 主要心血管イベントはアスピリン群で26%減少した(統計的に差があった)。ただし脳出血のリスクは、アスピリン群66%増加した(ただし統計的には有意差なし)。
 今回の研究(WHS)を含む6つのアスピリンによる初発予防試験を複合した解析(メタアナリシス)の結果からも心筋梗塞、脳卒中に対するアスピリンの初発予防効果は男女で異なった。男性では心筋梗塞が32%減少(統計的に差があった)、脳卒中は13%増加(ただし、統計的に差がなかった)した。女性では心筋梗塞はほぼ不変、脳卒中は19%減少(統計的に差があった)した。
※偽薬=見た目は本物のアスピリンと同じだが、何の薬理効果がないもの

 米国立心肺血液研究所(NHLBI)の後援で実施されたプラセボ(偽薬)対照ランダム(無作為)化二重盲検(検者=医師と被検者=患者のいずれにも、本物の薬か、偽薬かをわからないようにした調査)試験(WHS)の結果を、Brigham and Women's病院(ボストン)心血管疾予防センターのPaul M.Ridker所長が報告した。
●女性では心筋梗塞は不変、脳卒中は減少
 対象は45歳以上(平均年齢54.6歳)の健常女性医療従事者3万9,876例。これらを(1)偽薬群(2)低用量アスピリン群に不規則に割り付け、偽薬またはアスピリン100mgを隔日に投与し、平均10.1年追跡した。対象の84.5%は、フラミンガムリスクスコアで10年間の冠動脈疾患発症リスクが5%未満の低リスク集団であった。
  結果、主要心血管イベント(非致死性心筋梗塞・脳卒中または心血管死の初発)は、アスピリン群で9%のリスク減少を示したが、統計的に差がなかった。
 心筋梗塞はアスピリン群と偽薬群でほぼ同等。脳卒中はアスピリン群で17%減少、脳梗塞は24%減少した(それぞれ統計的に差があった)。一方、統計学的な差は証明されなかったが、脳出血はアスピリン群で24%増加していた。
●65歳以上の女性には有益
 しかし、女性でも65歳以上だけを抽出して解析すると違った結果が得られた。アスピリン群では、主要心血管イベントが26%減少、脳梗塞が30%減少、心筋梗塞が34%減少した(それぞれ統計的に差があった)。ただし、脳出血のリスクは、統計的には有意ではないがアスピリン群で66%増加していた。
  さらに、WHSを含む6つのアスピリン初発予防試験のメタアナリシスの結果からは、心筋梗塞、脳卒中に対するアスピリンの初発予防効果は男女で異なり、男性では心筋梗塞が32%減少、脳卒中は統計的には差がないものの13%増加していた。一方、女性では心筋梗塞はほぼ不変、脳卒中は19%減少(統計的に差があった)と、対称的な様相を示した。

 WHSの結果を踏まえて、今後は心血管疾患初発予防ガイドラインにおける女性に対する勧告が改訂されそうだということである。
参考資料(出典)
  ・N Engl J Med 2005;352:1293-1304
  ・medical tribune (2005年4月7日号)

2005.04.12記  2005.4.26校正


               【心臓】            トピックスの目次へ   次へ  前へ 


(47)心筋障害の指標「トロポニンT」の意義

まとめ:トロポニンTは心筋特異性が高く、心筋障害の程度を評価できる。急性心筋梗塞以外にも有用である。
●トロポニンTとは

 トロポニンは筋肉細胞(筋原線維)を構成する蛋白であり、その中でもトロポニンTは心筋特異性が高い。トロポニンTの約94%は筋原線維構造蛋白を構成し、残りの6%は細胞質中に可溶性成分として存在する。トロポニンTは心筋細胞膜障害による細胞質からの逸脱と筋原線維障害の両者を反映する。つまり、トロポニンTは骨格筋の壊死のみでは上昇しないので、筋肉注射や運動などで異常値を示すことはない。トロポニンTは心筋障害を正確に、定量的に評価できる。
 血液中に出たトロポニンTが半分に減るまでに時間(血中半減期)は約2時間である。なお腎不全では排泄が遅延するために血中レベルが上昇する。この点ではトロポニンIがより優れていると言われている。トロポニンTは急性心筋梗塞、不安定狭心症、心筋炎、心臓の手術で心筋損傷の評価などの診断と重症度の評価に有用である。 血液中の基準値は0.1ng/ml以下である。
●臨床応用例
 (1)急性心筋梗塞の診断、梗塞範囲の評価
  現在トロポニンT測定が最も利用されている分野である。これまでは急性心筋梗の診断には心電図やCK(クレアチンキナーゼ)という酵素の測定が利用されてきた。しかし、心電図に異常が現れにくい部位の心筋梗塞や小さな梗塞もあり、CKは心筋以外の他の組織にも多いため、特異性の点で問題があった。また、CKは2日以上過ぎると正常化する。トロポニンTは急性心筋梗塞では発症後3.5時間で上昇し、11-18時間で最高値となり、発症後7-10日にわたって上昇が持続するため、数日経った心筋梗塞でも診断できる。心筋障害診断法としての特異性と感度が高く、小さな心筋梗塞の有無の診断もできる。血液中のトロポニンT値は梗塞の重症度(梗塞サイズ)評価にも使われる。
 ただし、急性心筋梗塞の緊急スクリーニング検査として使われるトロポニンTの迅速測定キット(約15分以内に結果がでる)は、心筋梗塞発症後4時間以内ではトロポニンTの遊出量が少ないために偽陰性を示すことがあるので注意する。発症2時間以内の診断には、「H-FABP」なら見落としが少ない。ただし、これは狭心症や心不全でも陽性を示す場合がある。

(2)梗塞予測マーカーとしての意義 
  トロポニンTは心筋障害マーカーとして、他の検査よりも感度と特異度が高く、上昇持続時間が長いので、微小な心筋の病変でも検出しやすい。トロポニンTの上昇を認める一部の不安定狭心症は、心筋梗塞や心臓突然死などの心事故を発症する危険が高いとされている。
(3)拡張型心筋症・心筋炎・手術術で心筋損傷
  拡張型心筋症でトロポニンTが高値を示す群では、心筋障害が続いていることを意味し、予後不良であるとされている。血液透析患者でのトロポニンT高値群も生命予後が不良とする報告もある。慢性の心筋炎では、現在も心筋障害が進行しているかどうかの評価に使える。いずれも心血管系合併症を予測する指標としての可能性を示している。
【当院の見解】
 
現在、急性心筋梗塞の診断法として、当院は心電図と心エコー検査が中心で、トロポニンT測定を行うことはない。今回、トロポニンTを取り上げたのは、現在慢性化した心筋炎の患者さんが数人いて、今後その活動性評価法として使いたいと思ったからである。
参考資料(出典)
  日本医事新報(2005年2月12日号):「心筋障害の指標としてのトロポニンTの意義」、 弘前大学臨床検査医学教授 保嶋 実
2005.03.02記  2005.04.26校正