トピックス(役立つ医学情報-循環器編No.13)】
公開日2006.03.03 更新日2006.03.03  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報(必ずしも最新ではありません)を紹介します。
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76)【心臓】心筋梗塞の危険度(絶対リスク)は、総コレステロール値単独では評価できない。 2006.03.03記
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     【循環器】


(76)心筋梗塞の危険度(絶対リスク)は、総コレステロール値単独では評価できない。

まとめ:権威のある米国のFramingham studyから導き出された「総コレステロールやLDLコレステロールが高いと心筋梗塞の危険性が高くなるという」資料をもとにした作成された「心筋梗塞リスク計算プログラム(冠動脈10年リスク計算機)」を使って、日本人の心筋梗塞の危険性を評価すると「総コレステロールやLDLコレステロール値が高いだけでは、心筋梗塞のリスクは全く評価できない」ことが示された。高コレステロール値を標的にした本邦での心筋梗塞予防管理を見直す必要がある。

この内容は、昨年の7月動脈硬化学会で発表され、毎日新聞の全国版朝刊の一面で大きく取り上げられた演題にさらに検討を加えたものです。
--------------- 以下序文の引用(医学のあゆみ Vol.216 No.2 2006.1.14 P190-191より) --------------- 
 近年、食生活の欧米化などに伴い冠動脈疾患(心筋梗塞)による死亡者が増加傾向にある。冠動脈疾患の危険因子として高コレステロール血症が重視され、そのガイドライン値も決められている。そのほか、糖尿病、高血圧、喫煙、低HDLコレステロールなども危険因子としてあげられ、グローバルリスク評価も提案されている1)。しかし、その評価は相対評価であるうえに難解である。
 一方、アメリカの"国民のコレステロール教育プログラム(NCEP)"中の成人の治療パネルIII(ATPIII)2)ではFramingham研究に基づき、冠危険因子を点数化し、"冠動脈疾患発症10年リスク"の計算法と計算ソフトを公開している。10年リスクとは、今後10年以内に心筋梗塞あるいは心臓死の危険率(%)を示す絶対リスクである。この日本語版計算ソフトは前田敏明博士によって公開されている。また、国内では6年間の日本脂質介入試験(J-LIT)が行われ、J-LITチャート1(一次予防)からの6年リスク計算ソフトも同氏が公開している3)。そこで著者は、住民基本健診データから上記10年リスクと6年リスクを計算し、コレステロール値との関連を検討した。
--------------- 以下要約(医学のあゆみ Vol.216 No.2 2006.1.14 P190-191より) --------------- 
【調査方法の要約】
 調査対象者は平成16年度住民基本健診受診者1,484名(平均年齢は61.5歳)。10年リスクの計算因子は、1)性別、2)年齢、3)収縮期血圧、4)総コレステロール(T-Ch)、5)HDLコレステロール(HDL-Ch)、および6)喫煙の有無、7)高血圧治療の有無である。
図 冠動脈疾患発症10年リスクと総コレステロール値 【結果の要約】
 冠動脈10年リスクとコレステロール値

 左図のように、男性のリスクが女性よりも明らかに高い。また、総コレステロール値(T-Ch)と10年リスクと関係がないような分布であった(統計的に有意は相関はない)。つまり、T-Ch値が高くても低くても心筋梗塞リスクには影響がみられなかった。これからも言えることは、総コレステロール値単独からは心筋梗塞の危険度は評価できないということです。この傾向は総コレステロール値の代わりにLDL-Ch値を用いても同じであった。また、日本人の資料(J-LIT)を使ったJ-LITチャート1(冠動脈疾患の6年リスク)を用いて同様な解析を行っても、同じ傾向であった。なお、10年リスクと6年リスクの間のの相関係数は0.736(p<0.01)で、両者間には非常に高い相関性が認められた。つまり、2つの日米のどちらの心筋梗塞リスク予測計算法でも同じ結果がでると予測される。
 2種のリスク値と各種危険因子間の相関
 10年リスクと各危険因子間の相関(相関係数r※注1)では年齢(0.515)、血圧(0.468〉、HDL-Ch(-0.281)に相関がみとめられた。しかし、T-Chとは相関が認められず、LDL-Chとの相関も0.072ときわめて低かった。一方、6年リスクと各危険因子との相関は10年リスクの場合と類似していたが、相関係数の順は血圧(0.350)>HDL-Ch(-0.315)>年齢(0.298)>LDL-Ch(0.220)>T-Ch(0.151)となり、6年リスクとの相関は統計的にはすべて有意であった。※注2
【まとめの要約】
 本報告でもっとも特徴的なことは、T-Ch220mg/dl以上でもリスクが低いヒトと、それ以下でもリスクが高いヒトがいることであった。現在、4,200名まで増やして............ 。これらのことから、基本健診などでT-Chが220mg/dl以下であるがゆえに、心疾患の危険性が見逃されている可能性があることを強調したい。また、基本健診で、コレステロール値がガイドライン値を超えたことをもってコレステロール異常者としたり要薬物治療とすることなどは住民の不要な不安と医療費の適正使用などの点から再考が必要かもしれない。さらに、今後はコレステロール値中心に偏らず、危険因子全体を考慮した"絶対リスク"の利用が一次予防や治療上で有効と考えられる。
-------------引用終わり ----------------------------------
【当院の意見】
 医師も含めて知らない人が多いのだが、総コレステロール値やLDL-コレステロール(別名悪玉コレステロール)値が高いだけでは、心臓病のリスクは増加しない。特に、女性ではその傾向が顕著であるとの報告は数多い。むしろ、家族性高脂血症という遺伝性の病気を除いて、総コレステロール値やLDL-コレステロール値が高いだけで、心筋梗塞リスクが高まるという報告はほとんどない。それでも、「総コレステロール値が高いと心筋梗塞が増加する」と聞いたことがある、グラフをみたことがあるという医師は多いだろう。ところが、これらを調べてみると、ほとんどが「遺伝子の異常がある心筋梗塞が多発する家族性高脂血症が含まれる」、「糖尿病や高血圧などを多く合併している」、「男女別で分析していない」など問題の多い調査である。「コレステロールは危ないから、薬を飲みましょう」という見解に無理矢理に誘導する手法をとっているといっても言い過ぎではない。2005年末に発表されたMEGA STUDY(日本人のメバロチンによる治療効果)でも男女別や年齢別、糖尿病や高血圧合併の有無などによる分析を行わずに、総括りで「メバロチンで心筋梗塞が減った」と強調し、さもすべての高コレステロール血症の患者に薬物療法が有用と勘違いさせる表現をとっている。論文は製薬会社の名前でなく、医学部教授の名前で発表されている。完全に製薬会社の意向のみにすりあわせている。こういった大規模調査研究には多大な費用が必要で、すべて製薬会社がスポンサーになっている。そのため、製薬会社の都合のよい発表しかされないと考えても大筋間違いない。
参考資料 
・「心筋梗塞の発症リスクとコレステロール」 医学のあゆみ Vol.216 No.2 2006.1.14 P190-191: 嵯峨井 勝 青森県立保険大学大学院/健康科学研究科/生活健康科学分野/
参考記事 毎日新聞朝刊2005年7月16日号の第一面 <心筋梗塞>総コレステロール値と無関係 青森の教授ら発表 

※注1
:相関係数r:この数値の符号を外した数値が1.0に近いほど密接に関係し、0に近いほど関係が薄いと考えてよい。
※注2:ただし、冠動脈危険因子の扱い方は、10年リスク(Framingham米国)と6年リスク(J-LIT日本)で異なる。たとえば10年リスクでは高血圧治療の有無と最高血圧値を使うが、6年リスクでは高血圧の有無のみで血圧値は扱わない。
2006.03.03記   2006.03.10修正