トピックス(役立つ医学情報-循環器編No.7)】
公開予定日2005.02.28 更新日 2005.02.25  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  トピックスの目次へ 
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報(必ずしも最新ではありません)を紹介します。
このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。
46)【心臓】両心室ペーシングの適応 2005.02.28記  

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     【循環器】  


(46)両心室ペーシングの適応:内容レベル高、医療関係者向け

まとめ:左室壁運動の同期性が障害された心不全の改善には両心室ペーシングが有効なことがある。


心室内の電気の伝導様式
正常
左脚ブロック又は右室ペーシング
両室ペーシング
左室の短軸断面を例にして、心室筋肉への電気刺激の伝搬の様子を描いています。なお見やすいように実際の速度の1/20程度にしています。電気生理学的な正確さにおいて、情報不足のため一部曖昧なところがあります。

 心不全を伴う重症心疾患では、心電図のQRS幅が広くなる脚ブロックを合併することが多い(wideQRS)。また、通常のぺ一スメーカー植え込みでも心電図のQRS幅が広くなる。左脚ブロックでは、左室の中隔壁の反対側の自由壁側の収縮が遅れておこる。右室ぺ一スメーカー刺激(右室ぺ一シング)では心室興奮は右室心尖部から始まり、その後中隔、左室側壁と拡がっていく。
  このような場合、心室全体に刺激伝導が伝わるのに時間がかかり、心室の収縮運動の足並みが揃わなくなる。そのため、心室特に左室の壁運動が非効率的となり、心臓の働きを悪化させる。心筋があまり弱っていない心臓ならこの程度のことは問題にならないが、もともと心筋の動きが弱っている心不全の心臓の場合は、心不全のさらなる悪化の原因となる。
 これら心不全を伴ったwideQRS患者に対して、「両心室ぺ一シング」を行うと、心室収縮の非同期性が改善し、心不全も改善されることが近年注目されている。ただし、心不全が改善する症例があるが、効果がない症例もあり、全員に有効というわけではない。

両心室べ一シングによる心機能改善の機序
 両心室ぺーシングでは、右心室の心尖部と左室側壁基部を同時に刺激し、左室全体が同時に収縮するようにする。また、左室収縮の非同期性が高まれば僧帽弁前後乳頭筋収縮の同期性も失われ、僧帽弁逆流が増長されるが両心室ぺーシングによりこの逆流の程度も軽減させる可能性がある。現在では左室ぺ一シング用には、経静脈的アプローチによりリード先端を冠状静脈洞から左室心外膜側側壁、あるいは後壁に分布する枝まで進め、刺激閾値の低い部位に留置する。
 2004年4月に経静脈的リード・システムによる両心室ぺ一スメーカー(Medtronic社製Insync)が保険適応とされた。


両心室ぺ一シング(心臓再同期療法CRT)の適応基準:どの症例に両心室ぺ一シングを行うとよいかの目安
・高度心不全がある
  適切な内科的治癒が行われているにもかかわらず、身体的状況(NYHA分類)NYHAIII-IV度の心不全がある
・左室収縮の非同期性の程度が高度
  QRS幅≧130ms。臨床試験(MIRACLE試験)により右脚ブロックでも有効性が期待できることが明らかとなった。
・左室収縮能低下がある
  エコー上の心機能でLVEF≦35%
・基本心調律
  正常洞調律か遅い心室応答、あるいは完全房室ブロックを伴った心房細動
その他 基礎心疾患では虚血性あるいは非虚血性心疾患などその種類は関係ないが、虚血性より拡張型心筋症の方に有用度が高いとする報告もある。また、患者の基本心調律は洞調律であれば、至適AV間隔を設定することにより、より高いCRTの効果を得ることができる。しかしながら心房細動であっても、薬剤あるいはカテーテル・アブレーションにより徐拍化に成功していれば、CRT適応可能である。

両心室べ一シング特有の合併症 症状・臨床所見と対策
・冠状静脈洞(CS)解離(2-4%)、または破裂(1-2%)
・心外刺激(大胸筋、横隔膜)(1-2%) CSリードからの刺激により、胸の筋肉がピクピク動く。横隔膜の痙攣の動きはしゃっくりに似る。
・冠状静脈洞内リード先端位置の移動に伴うぺ一シング不全(最も高頻度:4-6%) リードの再留置が必要。経過観察中に生じる。

【当院の見解】
 
特殊な治療で、どこでもできるというわけではないが、心臓移植ができない日本においては心不全のコントロールがうまくいかない重症心不全患者の治療として考慮すべき選択枝のひとつとある。
参考資料(出典)
参考:Rythm of the Heart創刊号 2004年12月作成 日本医科大学第一内科助教授 小林義典
【コメント】
 心筋の電気刺激伝搬の様式では、心臓の動きと一緒に描こうと思ったが、アニメ作成の手間が大きく、今回は心臓の動きはない状態で描いた。
2005.02.24記   2005.03.30追記