トピックス(役立つ医学情報-循環器以外編No.8)】 
公開日2005.04.02 更新日2005.08.06  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報(必ずしも最新ではありません)を紹介します。
このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。
55)【脳梗塞】MRI検査で見つかる脳梗塞?には、脳梗塞の再発予防薬は無効である。 2005.08.06記
53)【骨粗鬆症】高齢者の骨折再発予防にビタミンDもカルシウムも効果なし。 2005.06.24記
51)【感染症】刺青(いれずみ)により感染する疾患 2005.04.02記
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     【脳梗塞】

(55)MRI検査で見つかる脳梗塞には、脳梗塞の再発予防薬は無効である。

まとめ:脳ドッグのMRI(磁気共鳴)検査、CT検査で診断される「小さな脳梗塞(ラクナ脳梗塞)様所見」は、必ずしも脳梗塞とは限らない。また、手足の麻痺や言語障害などの症状のある「小さな脳梗塞」の人に処方される薬剤を症状のない「小さな脳梗塞」のあるひとに処方しても脳梗塞の予防効果は期待できない。
ラクナ脳梗塞とは

 最近、脳ドッグ健診で無症状にもかかわらず、MRI検査やCT検査で小さな脳梗塞像または脳梗塞類似像を指摘されることが多くなっている。さらに「小さな脳梗塞があるから、血液をさらさらにする薬を飲みなさい。コレステロールをさげる薬を飲みなさい。」と医師から処方を受ける患者さんを私の診療所でも時々みかけるようになった。なかには、20歳で頭痛を訴え脳外科受診、MRI検査で脳梗塞像(後で受診した総合病院のMRI検査では脳梗塞は否定された)があるから、薬を飲み続けなさいと言われた症例もある。これらの無症候性脳梗塞または脳梗塞に似た所見の取り扱いに関して、参考となる記事があったのでまとめた。
 「小さな脳梗塞」は、正式には「ラクナ梗塞」と呼ばれる脳梗塞の一タイプである。大脳深部や脳幹に生じる小梗塞で、頭部CTやMRIにて直径1.5cm以下の病巣である。ラクナ梗塞の原因の60-70%は脳の中を走る細い動脈の枝(脳内穿通枝動脈)の細小動脈硬化によるものとされている。しかし、心房細動などで心臓内に生じた血の塊(血栓)が剥がれて、流れ飛んで、脳の血管に詰まる「心臓原性の脳塞栓症」や首の動脈(頸動脈)の動脈硬化により、その部分にできた血栓が剥がれて飛んで詰まる「内頚動脈狭窄に伴う」発症もある。
  手足の麻痺や言葉が話せないなどの臨床症状引きを起こしうる。しかし、診断機器の発達や脳ドック検査の普及に伴い、症状のない「ラクナ梗塞様の画像変化」が頻繁に見つかるようになった。 このような無症状の「ラクナ脳梗塞」および「ラクナ脳梗塞に似たMRI検査、CT検査所見」はどのように対処すべきなのか?
頻度の高い病態なので、一般臨床医も知っておく必要がある。

【ラクナ脳梗塞様所見の取り扱い】
●MR機器の性能が大きな問題
  まず、脳MRI検査で「ラクナ脳梗塞」と呼ばれるものが、本当に脳梗塞かどうかあやしいという事実を知っておく必要がある。MRの器械は極めて強い磁場を必要とする。強い磁場と得るには、超伝導に必要な高額な冷却装置が必要となる。磁場が弱いと診断能力が大きく劣化する。その性能差には、「1000円の固定焦点カメラ」と「本格的な一眼レフカメラ」くらいの違いがある(?)。予算の関係で一般脳外科開業医では前者、総合病院では後者が多いが、総合病院でも古いMR機器は性能が劣る。
●MR機器による診断の基準、手法が問題 
  また、脳梗塞病変の診断もそれほど明確ではない。厚生省よる無症候性脳梗塞の診断基準によると、画像診断における重要点として、「頭部MRI上、T2強調画像で高信号かつTl強調.画像で低信号の径が3mmを超える限局性病変」とされている。その多くは大脳白質や基底核部に認められ、受診者の20-80%に発見されている。脳梗塞の診断基準は、医療機関ごとに異なっているいると考えて良さそうだ。そのためMRI錠の脳梗塞の発症頻度は施設によりかなり異なる。
 このようなMRIによる診断の 問題は、脳梗塞病巣の所見は、血管周囲腔の拡大、髄鞘の淡明化、グリオーシスなどの加齢による変化と類似していることである。これを脳梗塞と判定すると高齢者のほとんどが脳梗塞の診断をうけることになる。 前記の無症候性脳梗塞診断基準を参照し、 ラクナ梗塞との鑑別を行う必要がある。

        【ラクナ脳梗塞の対処法・治療法】
  一般に疾病の治療は、同じ病名でもその原因・発生機序によって異なるので、ラクナ脳梗塞の発症機序が問題となる。無症状のラクナ脳梗塞は有症候性のラクナ梗塞と同様に、大半が脳内細小動脈硬化によるものと考えられている。
  しかし、塞栓症の可能性もあり、心臓由来の塞栓症の予防の場合には、使う薬が全く異なるので、両者を鑑別する必要がある。しかも、心臓由来の塞栓症の診断は循環器専門医でも見落とす可能性がある。具体的には、発作性心房細動による塞栓症は、見落とされやすい。
 無症候性脳梗塞の存在は、将来の脳卒中発症の危険を増すとされ、その危険率は脳梗塞がない者の10倍に達するとされる。

脳ドック受診者にMRI上にて無症候性脳梗塞と思われる変化が見出された際の対応としては、以下を参考とする。
1) まず脳梗塞以外の画像異常の可能性を判定する。
 施設によって、また器械の性能によって、●脳梗塞と診断されたり、●加齢による変化と診断されたり、全く異なる診断を受ける可能性があることを銘記しておく。場合によっては、他の信用できる総合病院でもういちどMRI検査を受けたほうがよい。

2)無症候性脳梗塞の危険因子として高血圧があるので、高血圧を有する患者に対しては血圧管理を勧める。

3)手足の麻痺などの症状のある脳梗塞患者に用いられる抗血小板薬(バイアスピリン、バファリン81、パナルジン、ケタスなど)を症状のない患者に投与することには、現時点では積極的に勧められないとの見解が一般的である。
アスピリン投与はラクナ梗塞発症予防効果ない」との報告があること、「無症候性脳梗塞患者の脳卒中発症の20%は脳出血である」ことなどがその原因となっている。心疾患や頚動脈狭窄症などが見出された際は、それぞれに応じた投薬の必要性を検討する。

 無症候性脳梗塞への対応の詳細については「日本脳ドッグ学会のホームページ」http://www.snh.or.jp/jsbd/gaido.html)の脳ドッグガイドラインが参考にしてほしい。

【当院の意見】
 本文のほとんどが参考資料1)の引用文です。高価な検査器械による安易な脳梗塞の診断が浮き彫りになっている。検査が本来ない病気を作り出している。
1988年頃よりわが国で始まった磁気共鳴映像(MRI)を主な検査として脳の診査を行う「脳ドック」は、日本だけで行われている。脳ドックの目的や検査制度は必ずしも十分ではなく、また、発見される異常の意義・対処法も確立されていない。信頼できる脳ドック医療機関の選択も大事である。

参考資料1)

日本医事新報2005.3.5  著者:日本医大第二内科 西山 穣、片山泰朗
2005.08.06記  2005.08.07修正


               【感染症】            TOPへ  次へ  前へ 

(53)高齢者の骨折再発予防ビタミンDもカルシウムも効果なし

まとめ:高齢者にビタミンDやカルシウム製剤を与えても、骨折再発予防の効果はない。
【オリジナル報告論文】
 無作為化試験「RECORD」(Randomised Evaluation of Calcium OR vitaminD) ;the RECORD trial Group、Lancet.2005;365:1621-28(Lancet誌5月7日号掲載)

【対象と方法】
  英国で通院中の骨粗鬆症性の骨折歴がある70歳以上の男女5,292人(女性85%,男性15%)を(1群)ビタミンD3とカルシウムの併用(1群)、ビタミンD3製剤(2群)、カルシウム製剤(3群)、プラセボーの4群に無作為に振り分けて、24-62ヵ月追跡し、骨折や転倒の発生率を調べた。
【結果】
 追跡期間中、698人(13%)が新たに骨折した。ビタミンDの服用者(上記の1群+2群)と非服用者(上記の3群+4群)とを比較すると、骨折の頻度に差がなかった。
ビタミンD単剤、あるいはビタミンDとカルシウムとを併用しても、骨折の再発予防効果が認められなかった。 
ビタミンDによる骨折予防効果の「根拠」として知られていた、転倒に対する予防効果も認められなかった。 
なお、同様にカルシウム製剤も、骨折や転倒の予防効果がなかった。

【考察】 
 以前は「ビタミンDは転倒予防効果よる」、と小規模試験のメタ分析(JAMA.2004;291:1999-2006)で報告されていた。これが、ビタミンDによる骨折予防効果の根拠とされていた。
 「骨折予防効果効果あり」との結果がでた過去の小規模研究の対象者は、極端なビタミンD不足状態にあった可能性が示唆されている。普通に自立生活している高齢者に、骨折予防のためにビタミンDを投与する意義はなさそうだ。 70歳以上の女性3,314人を対象とした同じような介入試験( British Medical Journal.2005;330:1003-6、4月30日号)でも、ビタミンDによる骨折予防効果は否定的であった。

表1 ビタミンDは高儒者の骨折や転倒を予防しない
ビタミンD
+カルシウム
ビタミンD
単独 
カルシウム
単独
偽薬
ビタミンD服用群
のハザード比
(95%信頼区間}
新規骨折 
14.1%
15.8%
14.4% 
14.7%
1.01(0.88-1.17)
転倒 
12.3%
16.3% 
14.1% 
14.7%
0.97(O.84-1.12〕

【当院の意見】
 医学情報(論文)には著作権ないとあるが、ほとんど引用であることを断っておく。 従来から、ビタミンDとカルシウム製剤は、医師からの処方やサプリメントとして、骨粗鬆症のリスクの高い高齢者に広く使われている。高齢者の多すぎる服薬数を減らすためにも、意味のない処方を中止する根拠となる重要な結果と考える。

参考資料

参考:日経メディカル2005.6月号P118 :ほとんどすべてがここからの引用です。

2005.06.24記  2005.06.24修正




               【感染症】            TOPへ  次へ  前へ  

(51)刺青(いれずみ)により感染する疾患

まとめ:刺青で感染する可能性が高く、問題となる疾患はB型肝炎、C型肝炎、エイズの3種類である。

 一般的には刺青する行為により、血液中にあるすべての病原体は感染する可能性がある。
しかし、実際に問題となるのは表1のような条件をみたす場合である。
表1 刺青で感染する可能性が高く、問題がある場合とは
1)その病原体を保持する者(キャリア)が多い。
2)キャリアの症状が軽く、キャリアであることがわかりにくい。
3)病原体が血液中に多く存在し、移行した量で感染が成立しやすい。
4)感染すると高率に発病する。
5)疾患が健康を脅かす。
6)治療が困難。

つぎに、具体的な血液を媒介として、感染する疾患の種類を表2に挙げる。

表2 血液媒介感染の種類
病原体
疾患
特徴
1)
B型肝炎ウイルス
(HBV)
B型肝炎
一部慢性化して、慢性肝炎となる。肝硬変や肝臓癌になることがあるが、C型肝炎ウイルス感染よりは少ない。感染力は強く、ごく少量の血液で感染する。
2)
C型肝炎ウイルス
(HCV)
C型肝炎
感染者の大多数が慢性化して、慢性肝炎となる。最終的には肝硬変や肝臓癌になる。肝臓癌の一番の原因となっている。B型肝炎ウイルスより感染力は弱い。
3)
ヒト免疫不全ウイルス
(HIV)
エイズ
血液製剤により感染した報告が社会問題となった。
4)
G型肝炎ウイルス
(HGV)
G型肝炎
感染しても疾患をほとんど引き起こさない。
5)
TTウイルス
(TTV)
感染しても疾患をほとんど引き起こさない。
6)
サイトメガロウイルス
(CMV)
成人のほとんどがキャリアで、感染しても発病しないことが多い。
7)
エボラをはじめとする出血熱ウイルス
エボラ出血熱

日本ではきわめて稀。症状が強いために保菌者が刺青に行くとは考えにくい。

8)
プリオン
狂牛病
感染した牛の臓器をたべての発症、感染した硬膜の移植手術での発症がある。プリオンは感染者が稀。現在までにヒトの輸血後感染の報告はない。
9)
ヒトT細胞白血病ウイルス
(HTLV-1)
成人T細胞白血病
成人T細胞白血病(ATL)を発症する可能性が低い。
10)
梅毒スピロヘータ
梅毒
早期に治療すれば容易に治癒する。
11)
その他
未知の病原体は今後も出現すると予想される。

 この中で刺青による感染が実際に問題となるのはB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスの三者である。
【B型肝炎ウイルス(HBV)】
 B型肝炎ウイルスは日本人の約1%が保有している。HBe抗原陽性の場合では1ml中に一兆個もの感染を起こしうるウイルス粒子が存在し、ごく少量の血液でも容易に感染する。たとえば、医療従事者が感染した人に使った注射針を誤って、自分の指に突き刺してしまう「針刺し事故」がしばしばあるが、事故直後に免疫グロブリンなどの感染予防を行わない場合には約60%が感染する。
  B型肝炎ウイルスに感染すると急性肝炎を起こす。その1%程度は劇症肝炎を発症して死亡するが、ほとんど治癒してキャリア化にならずにすむ。したがって多くの場合、肝硬変や肝細胞癌には至らない。しかし、ヨーロッパに多いA遺伝子型のB型肝炎ウイルスは慢性化しやすい。ヨーロッパではB型急性肝炎の10%が慢性化するとされていある。近年、外国人のCSW(comercial sex woker)や同性愛者が日本でも増加し、A遺伝子型の感染が増加して、大都市を中心にB型急性肝炎の慢性化が報告されている。
【C型肝炎ウイルス】

  C型肝炎ウイルスは日本人の約1%が保有している。 B型肝炎ウイルスより血液中のウイルス量は少ない(1ml中に100万前後)。針刺し事故での感染率は約2%とされる。 B型肝炎ウイルスと異なり、成人の感染でも80%が持続感染(キャリア化)となる。刑務所の受刑者の調査では、刺青を入れた者の約70%がC型肝炎ウイルスに感染していたというから、刺青で最も問題となる感染症とも言える。C型肝炎ウイルスが感染した場合、半数は肝機能正常であるが、残りの半数は慢性肝炎を引き起こして、肝硬変・肝細胞癌に至る可能性が高い。肝臓癌の70%以上がC型肝炎ウイルス感染者であるという。しかし、最近は副作用の危険性はあるものの治療により、三分の二が治癒する時代になった。
【ヒト免疫不全ウイルス】
 
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)はC型肝炎ウイルスより血液中のウイルス量は少ない(1ml中に1万前後)。針刺し事故での感染率は約0.3%とされる。日本の男性同性愛者での感染率は1%強であり、刺青や覚醒剤濫用者のような高危険群での感染はそれ以下とされる。最近は治療薬の進歩により、一定の基準を満たせば、強力な抗ウイルス療法により短期的な死亡率が改善し、3年生存率が96%になったと報告されている。
 注射器や注射針を使い捨てにすることで医療行為によるC型肝炎ウイルス感染がなくなったように、刺青でも針と墨を使い捨てにすれば危険はない。「このため平成以降の専門業者の刺青では、C型肝炎ウイルス感染はかなり低下しているようである」と新妻宏文先生は述べている。
参考資料
 刺青により感染症する疾患、新妻宏文(東北大学病院消化器内科)、日本医事新報2005年3月19日号
2005.04.02記  2005.04.26校正