トピックス(役立つ医学情報-循環器編No.21)】
公開日2006.11.08 更新日2006.11.14  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報(必ずしも最新ではありません)を紹介します。
このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。
99)【循環器】重症の睡眠時無呼吸患者がCPAP治療を受けないと高率に心血管疾患になる。2006.11.08記
98)【循環器】日本人では270mg/dl以下の高コレステロール血症は心臓病の危険因子とならない 2006.11.08記
97)【循環器】Dual Source CTで、将来冠動脈造影が簡単なるかも 2006.11.08記
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     【循環器】

(99)重症の睡眠時無呼吸患者がCPAP治療を受けないと高率に心血管疾患になる。

まとめ:睡眠時無呼吸症候群では、脳梗塞や心筋梗塞などの心血管疾患が高率に起こることが知られている。重症の睡眠時無呼吸症候群に高い治療効果を示す持続気道陽圧療法(CPAP)は、心血管疾患の発症を抑える効果があると報告された。CPAP装着を嫌がる患者に対して、「単に日中の眠気を取るだけでなく、脳卒中、心筋梗塞の予防になる」と勧める理由が増えた。
持続気道陽圧療法(CPAP)受けないと心血管疾患が高率に生じる
 第16回欧州呼吸器学会(ミュンヘン)で、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療の重要性に関する新たな報告が注目を集めた。睡眠中に頻回に呼吸が停止する睡眠時無呼吸症候群は、男性の4%、女性の2%に見られ、心血管疾患の危険因子と言われている。
【報告内容】
報告1:死亡と心血管イベントはCPAP療法を受けないと7倍増加した。

 スイス・バーゼル大学病院のWerner Strobel氏は、 2001-03年に、睡眠中に無呼吸および呼吸低下が平均で1時間に38.7回見られた739人(平均年齢52歳,75%が男性)を対象に、前向き研究を行った。CPAP療法を受けていた523人(CPAP群)と、PAP療法を受けていなかった216人(非CPAP群)を比較したところ、死亡と心血管イベントのリスクは、CPAP群に比べて非CPAP群のほうが7倍高かった。
「心血管疾患による死亡は、CPAP群が2人だったのに対し、非CPAP群では10人。CPAP療法を受けないことが独立した危険因子になる」と語った。 
報告2:SASの治療によって心血管イベントのリスクは64%低下した。

 ドイツのルール大学(ボッフム)内科のNikolausu Buchner氏らは、SAS患者638人を対象に平均7年間の追跡調査を行い、SAS治療の重要性を報告した。治療(おもにCPAP療法)を受けていたのは499人で、残り139人は治療を受けなかった。
 心血管イベント(心臓発作、脳血管障害、血管新生術が必要な急性冠症候群)が見られなかったのは、治療群では78.5%だったのに対し、非治療群では54.2%だった。同氏は「多変量解析では、SASのレベル、対象者の年齢(55歳以上)、心血管疾患の病歴の有無にかかわらず、SASの治療によって心血管イベントのリスクは64%低下した」と語った。
【当院の意見】
 睡眠時に「マスクが気になり、寝苦しい」とnCPAP装着を嫌う患者さんがいた。本人が気にするので、一時は「それならやめて様子をみようか」と話した。しかし、同患者さんは脳梗塞の既往があり、高血圧と糖尿病の合併もある。この報告を参考に、患者さんに再びCPAP療法を続けた方がよいと説明した。
【参考】
解説の参考文の出典は、「medical tribune 2006.10.19」です。
2006.11.08記   2006.11.14修正


     【循環器】

(98)日本人では270mg/dl以下の高コレステロール血症は心臓病の危険因子とならない。

まとめ:すでに狭心症や心筋梗塞になった場合や他の動脈硬化性疾患になった場合を除くと(つまり、一次予防)、「日本人では軽症から中等症の高コレステロール血症単独では、狭心症・心筋梗塞は増加しない」ことが明らかになった。また、危険因子が1-2個の人では、薬物療法(プラバスタチン:先発品の商品名メバロチン)では狭心症や心筋梗塞は減少しなかった。危険因子が3個以上の人では、薬物療法で狭心症や心筋梗塞は統計学的にかろうじて減少した。したがって、狭心症や心筋梗塞の危険性が高くない人(それでも高脂血症の病名がつく)に薬物療法を行うことは、薬物の副作用と効果を考えると返って害になると考えられる。
●軽症〜中等症の高コレステロール血症または、LDLコレステロール血症は冠動脈疾患の危険因子とならず●
 総コレステロール値が270mg/dl以下の軽度から中等度の高脂血症の日本人約8,000人をコレステロール低下薬を使った群と使わずに食事療法のみにした群の2群に分けて5年間(一部6年間)追跡調査したMEGA Studyの解析結果の追加発表があった。薬剤メーカーがスポンサーとなっている発表なので、無理矢理薬の使用を正当化する表現となっているが、中身はどうみても現在の薬剤使用方法に問題があることを示す内容であった。
【結果】
 統計学的な処理によって、MEGA Studyで冠動脈疾患を増加させる危険因子として確認されたのは、「性別」、「年齢」、「喫煙」、「低HDLC血症」、「高血圧」、「糖尿病」が同定された。総コレステロール値(TC値)、LDLコレステロール値(LDLC値)はリスク因子となっていなかった。
【当院の意見】
 以外に思うかも知れないが、動脈硬化性疾患の既往のない人において、 「少なくとも日本人では、総コレステロール値やLDLコレステロール値が中等度に高くても心筋梗塞は増加しない」という発表はたくさんある。むしろ、増加するという発表は、家族性高脂血症という特殊な患者群を多数含んだ問題だらけの報告であった。今回は、こういった2つの見解のどちらが正しいのかを確認するための前向き、大規模研究であった。
  薬剤メーカーから経済的支援を受けている報告者がまとめたにも関わらず、このような結果がでた。結果に対する報告者の説明をみると何とか薬剤の使用意義を保とうとする意図が濃厚に感じられ、返って報告内容にまだ隠された重要事項があるのではないかと考えられた。
-------------------------------以下は「medical tribune 2006.9.7」の引用文である。----------------------------
【MEGA Studyリスク因子保有数別解析発表】
メバロチン(プラバスタチン)によるリスク因子およびリスク因子の保有数別にみた冠動脈疾患一次予防のエビデンス
 2006年7月に東京で開催された第38回日本動脈硬化学会において、MEGA Study(Management of Elevated Cholesterol in the primary Prevention Group of Adult Japanease)における冠動脈疾患(CHD)発症リスク因子の保有数とCHD発症リスクの関係、そして、日本における通常用量のプラバスタチン(メバロチン)投与によるCHD発症リスク低下への影響を解析した結果が報告された。今回発表された解析結果に加えて、MEGA Studyの総括責任者を努めた防衛医科大学校名誉教授/三越厚生事業団乗務理事の中村治雄氏による解説を合わせて紹介する。
●MEGA Studyで同定された冠動脈発症リスク因子は、「性、年齢、喫煙、低HDLC血症、高血圧、糖尿病」
 本年6月に開催された国際動脈硬化学会(ISA)では、MEGA Studyのリスク因子解析によって、CHD発症リスク因子(性、年齢、喫煙、低HDLC血症、高血圧、糖尿病)が同定された。なお、総コレステロール(TC)値、LDLコレステロール(LDL-C)値はリスク因子として抽出されなかった。
 この解析において、TC値とLDL-C値が有意なリスク因子とならなかった主な背景として、MEGA Studyの登録基準がTC200-270mg/dLに限られており、TC値240mg/dL未満を基準にしてリスク因子を抽出していること、MEGA Studyの対象患者はHDLC値が比較的高値であることが挙げられている。
 しかしながら、プラバスタチン(メバロチン)はリスク因子の種類や有無にかかわらず、CHD発症リスクを低下させる傾向が示された統計学的には否定されるので、記述は間違いで、意図的な嘘と言われてもしょうがない)。
●リスク因子保有数の増加に伴い、冠動脈疾患発症リスクも増大
 今回、リスク因子保有数とCHD発症リスクの関係、そして、リスク因子保有数別に見たプラバスタチンの治療効果が新たに報告された。
まず、リスク因子保有数を検討する上で、 加齢(男性45歳以上、女性55歳以上)、喫煙、低HDL-C値(40mg/dL未満)および高血圧は「1個」、糖尿病は因子の下限を「3個」とした。リスク因子保有数の増加に伴い、CHD発症リスクも増大することが示された。なお、この傾向は、仮に糖尿病のリスク因子数「3個」から「2個」とした場合でも同様であった。
●プラバスタチンはリスク因子の保有数に関わらず、冠動脈疾患発症リスクを低下
 リスク因子保有数が1-2個の群と3個以上の群に分けて冠動脈疾患発症率を解析した結果、食事療法+メバロチン併用群は、食事療法単独群に比べ、保有数が1-2個では31%のリスク低下(統計学的には否定される)、保有数が3個以上の群では33%(統計学的にはかろうじて成り立つ)と同程度のリスク低下が示された。
 以上の結果から、 MEGA Studyにより同定されたCHD発症リスク因子は、保有数の増加に伴いCHD発症リスクも増大するが、プラバスタチンはリスク因子保有数にもかかわらず、一貫したリスク低下傾向※統計学的には否定されるので、記述は嘘)を示すことが明らかとなった。
赤字は当院の追加解説です。
報告のグラフを見ると、『統計学的に、リスク因子1-2個の群では、プラバスタチンでリスク低下していない』、『リスク因子2-3個の群では、プラバスタチンでリスク低下している』と統計学的にかろうじて言える程度の差があった。つまり、前者で「リスクが低下する」と言えないのは明らかである。言葉を濁して「リスクが低下傾向」とごまかしている。とても学術的な発言とは言える代物ではない。
【参考】
解説の参考文の出典は、「medical tribune 2006.9.7」です。
2006.11.08記   2006.11.08修正   


     【循環器】

(97)Dual Source CTで、将来冠動脈造影が簡単になるかも

まとめ:冠動脈造影にかわる身体に侵襲が少ない技術が発表された。
●近い将来、心臓カテーテル検査が一部不要になる●
 狭心症・心筋梗塞の診断・治療には、正確な冠動脈の情報が不可欠である。現在、手首、肘、鼠径部の動脈に穴をあけて、直径2mm弱のカテーテルという管を冠動脈の入り口まで挿入し、造影剤を流し込んでレントゲンで撮影する「選択的冠動脈造影法」が冠動脈疾患の重要な診断方法となっている。今回、Dual Source CTというレントゲンを使った新しいCT検査法で、心臓や冠動脈の鮮明な画像が得られるとの発表があった。近い将来、心カテーテル法による冠動脈造影検査が、一部置き換わる可能性があるという。
Dual Source CTによる右冠動脈の画像(縮小)
 第87回放射線会議の発表で、ルートウィヒマクシミリアソス大学(ミュンヘン)のChristoph Becker氏は「dual Source CT(DSCT)という新たな診断装置で、心カテーテル実施件数の半減も可能だ」と説明した。
●鮮明な右冠動脈の像が得られる。冠動脈枝も観察可能という。
サイト: http://www.ipse.de/RoeKo2006/より
拡大図: http://www.ipse.de/uploads/RoeKo2006/1148045566DSCT2.jpg
より


 普通のCTスキャナーの検出器が1個であるのに対して、DSCTには平行して回転する2個のX線管が装備されている。このため、著しい画質の向上と撮影時間の短縮が可能である。頻拍症や不整脈の患者でも鮮明な画像を得られる。
 臨床応用で特筆すべきは、「DSCTは冠動脈の診断で心カテーテルの代替法として利用できる」点である。検査に要する時間は10分以内で、心カテーテルより簡単で、コスト面でも有利である。心カテーテル検査の約半数が検査のみを目的としているので、DSCTよって、患者の身体的負担を著しく軽減することができるという。
 ただし、経皮的的冠動脈形成術(PTCA)やステント術などの治療は行えないので、DSCTは心カテーテル法を完全に代替できない。
【当院の意見】
 カテーテルを使わずに、もっと簡単に冠動脈の狭窄を評価できることは、心臓専門医の長年の夢である。ここに発表された内容通りなら、多くの医師や患者にとって大変な恩恵となる。
【参考】
解説の参考文の出典は、「medical tribune 2006.9.7」です。
2006.11.08記   2006.11.08修正