【高脂血症Q&A No.1】 
公開日 2002.10.01、更新日2004.08.30  更新履歴   HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す
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記事は参考に留め、治療方針は診療医師と相談してください。

もっと専門的で詳しい解説を希望される場合は、動脈硬化性疾患診療ガイドライン(2002年版)全61ページをオンライン(PDF)で読むことができます。上記のホームページの最下段- 全文を読む - でアクセスください。


【高脂血症 Q&A No.1】 

01)高脂血症の診断基準はどうなっていますか?
02)高コレステロール血症の治療目標値はどれくらいですか? 
03)善玉コレステロール値が低いと言われました。その対策はどうしたらよいのでしょうか?
04)コレステロールの多い食品を制限してもコレステロール値はあまり下がりません。どうして?
05)高コレステロールの食事療法の注意点をまとめてください。

06)食事や運動に注意してももまだ総コレステロール値高いのですが、薬を飲んだ方がよいのでしょうか? 
07)コレステロール値を下げると癌が増えるというのは本当でしょうか?
08)糖尿病に合併した高脂血症の治療に何か特別なことがありますか?
09)総コレステロール値を下げると宣伝している油は本当に効くのでしょうか?
10)なぜ高コレステロール血症は治療しなければならないのでしょうか(相対危険率)?

11)運動療法や食事療法で実際どれくらい効果が得られるのですか?
12)総コレステロール値が高いとどれだけ心臓病になりやすいのですか(絶対危険率)? 2003.08.03記 
13)HDLコレステロール値は高い方がよいのでしょうか?2004.02.26追加
14)女性は総コレステロール値が高くても心筋梗塞になりにくいというのは本当ですか? 2004.02.26記  、Q&Aと同文
15)食事と運動でどれだけコレステロールが下がりますか? 2004.02.26記 、Q&Aと同文

【高脂血症 Q&A No.2】 
16)J-LITチャート1とJ-LITチャート2とは何?       2004.06.01記
17)Pleiotropic Effectsとは何でしょうか?       2004.07.01記
18)J-LITチャートによる冠動脈リスクは信頼できるか?  2004.07.01記
19)総コレステロール270mg/dlは治療すべきか?      2004.07.11記
20)HDL-C値の影響はどの程度でしょうか?         2004.09.01記  

参考資料

1)「動脈硬化性疾患診療ガイドライン(2002年版)」日本動脈硬化学会編 2002.7月発行
オンラインで見る
2)動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版発表にあたって:http://jas.umin.ac.jp/guideline.html
3)ATP-III(2001年米国コレステロール教育プログラム: NCEP)
4)ためしてガッテン:http://www.ktv.co.jp/ARUARU/  他 
5)日本医事新報:2002.7.27号 島本和明先生(札幌医科大学内科教授)
6)2002.9.2毎日新聞記事より
7)medicina,30,1501-1503,1993  山田信博


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Q1:高脂血症の診断基準はどうなっていますか?

A:米国のATP-IIIという高脂血症診療ガイドが有名ですが、欧米と日本では冠動脈疾患になる危険性が異なります。ここでは2002年7月に改訂された日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患診療ガイドライン(2002年版)」を参考に話します。
(参考資料:動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版発表にあたって)

 

●スクリーニングのための高脂血症の診断基準(2002年改訂版)

                     空腹時採血
高コレステロール血症     総コレステロール   ≧220 mg/dL
高LDL-コレステロール血症  LDLコレステロール  ≧140 mg/dL (※注1
低HDL-コレステロール血症   HDLコレステロール  < 40 mg/dL
高トリグリセライド血症    トリグリセリド    ≧150 mg/dL

ここで提示された基準値は冠動脈疾患の高リスク群を捜すための基準値です。この基準で「高脂血症」と診断されたら、「すぐに薬物治療」という性格のものではありません。高脂血症と言われたら、他の冠動脈危険因子を検討して、「冠動脈疾患になりやすい」と判断されれば、生活習慣の改善から見直すことをお勧めします。ガイドラインでは「安易な薬物療法が行われないように」と警告しています。
  総コレステロール値は、間近の食事の影響をあまり受けませんが、中性脂肪(トリグリセライド:TG)は食事直後に大きく上昇しやすいので、高中性脂肪血症の判断には、採血時の条件に注意ください。真の悪役は総コレステロール(TC)ではなく、悪玉コレステロール(LDLコレステロール:LDL-C)と考えられています。高コレステロール血症の評価はTCではなく、LDL-Cで評価することを基本とし、TCは過去の資料と比べるときの参考として扱います。

※注1)LDL-Cは直接測定できていなくても、TGが400mg/dL以下ならば次式で近似計算できます。 
LDL-コレステロール値 = 総コレステロール値 − HDL-コレステロール値 − トリグリセライド値/5

※注2)
  総コレステロール値だけで高コレステロール血症の治療方針が決まるわけではないことに注意して下さい。
理想的な各脂質の目標値は脂質以外の冠動脈危険因子の程度によって、異なる数字が提示されています。
あくまでも上記の数値はスクリーニング診断基準値であり、治療目標値ではありません。

 

2004.5.16修正


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Q2:高コレステロール血症の治療目標値はどれくらいですか?

 
A:コレステロール値以外の冠動脈危険因子の有無で治療目標値は異なる。

  ここでは日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患診療ガイドライン(2002年)」を基本に話します。

その特徴として、個々の患者のもつ冠動脈危険因子に応じて、LDL-Cの目標値を設定するとともに、治療手段として生活習慣の改善を優先することを勧めています。米国のATP-IIIという高脂血症診療ガイドラインでは目安としての薬物療法開始基準が設けられていますが、個々の患者の薬物治療開始時期や治療目標値については、高脂血症治療の先進国である米国でもまだ完成されたガイドラインはできていません。
  日本のガイドラインでは薬物療法適応基準は設定されていません。直接診療にあたる臨床医の判断にゆだねられています。 
 真の悪役は総コレステロール(TC)ではなく、LDLコレステロール(LDL-C)と考えられています。かならず高コレステロール血症はTC値ではなく、LDL-C値で評価するようにしてください、またHDL-C値も重要です。以上のことを念頭において次の解説に進んでください。

●LDLコレステロール値以外の主要冠危険因子のチェック

まずはLDL-C値以外の主要冠動脈危険因子の有無をチェックください。

1:男性で45歳以上、女性55歳以上(はい、いいえ) (※注1)
2:高血圧(あり、なし)            (※注2)
3:糖尿病(あり、なし)            (※注3)
4:喫煙 (あり、なし)            (※注4)
5:冠動脈疾患の家族歴 (あり、なし)
6:低HDLコレステロール血症(<40mg/dL ) (あり、なし)

(注釈)1-6の因子がどのように冠動脈疾患リスクに関与するかは単純ではありません。総合的な評価方法として、Framingham risk scoreによる評価J-LITチャートによる評価方法を勧めます。両者の方法は本サイトの自己健診とオリジナルプログラムがダウンロードできるようになっています。
 以下は、1-6の因子の 私なりの追加説明です。
※注1
女性ホルモンが動脈硬化を防ぐので、女性は閉経以後にリスクが高まります。

※注2:高血圧の人は降圧剤によって血圧がたとえ正常化していても、冠動脈疾患リスクが高まります。よって治療中の高血圧患者は現在正常血圧でもこれに該当します。

※注3:糖尿病は他の危険因子よりも影響力が強いので、単独で3つ以上の危険因子の存在と同等と見なされます。
また、軽症糖尿病、食後高血糖だけで動脈硬化は進むと言われていますので、「境界型糖尿病」と言われている人もここでは「糖尿病あり」と同等の扱いでよいと思われます。

※注4:喫煙の本数による冠動脈疾患発症の差が報告されていますが、ここでは取り上げられていません。
なお、禁煙から数年で非喫煙者と同じ冠動脈リスクに近づくと言われています。


●LDLコレステロール値以外の主要冠危険因子の数により分けた患者カテゴリーとLDL管理目標値

  次に、LDL-C値以外の主要冠動脈危険因子の有無によってグループ分けして、管理目標の目安を調べます。
どのグループに対しても脂質以外の主要冠動脈危険因子である高血圧、糖尿病の管理、禁煙の管理などをしっかり行うことを勧めています。また、どのグループに対してもHDL-C≧40mg/dL、TG<150mg/dLを管理目標としています。

冠動脈疾患になりやすさから分類したコレステロール値の目標値

A)冠動脈疾患の既往はない、LDL-C値以外の主要冠動脈危険因子はない人
冠動脈疾患の発症リスクが低いグループです。
目標値;  LDL-C<160mg/dL(TCならば<240mg/dL ※注5 )

B1)B2)冠動脈疾患の既往はない、LDL-C値以外の主要冠動脈危険因子数が1個または2個の人
冠動脈疾患の発症リスクがグループA)より少し高い群です。 
目標値:LDL-C<140mg/dL(TCならば<220mg/dL ※注5)
 

B3)B4)冠動脈疾患の既往のない人で、LDL-C値以外の主要冠動脈危険因子が3個または4個以上の人
冠動脈疾患の発症リスクが中等度のグループです。
ただし、糖尿病があれば他に危険因子がなくともB3)とします。また、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症があればB4)扱いとします。
目標値:LDL-C<120mg/dL(TCならば<200mg/dL ※注5)
C)冠動脈疾患のある人
冠動脈疾患の発症または再発の危険性が最も高いグループです。
目標値:LDL-C<100mg/dL(TCならば<180mg/dL ※注5)


※注5 TCのかなりの部分をLDL-Cが占めているので、TC値とLDL-C値は似た内容を違う指標でみていることとなります。
 動脈硬化促進と関連が深いのは、TC値よりもLDL-C値ですので、TC値は過去の遺産として、参考にとどめてください。昔は技術的な問題でLDL-Cを直接測定できなかったのです。過去の膨大なデータを利用するには、TCで比較するしかないので両方の指標が併記されてます。
  集団でみるときはTC値でよい相関がみられるのですが、一人一人ではHDL-C値のバラツキがとても大きく、HDL-Cは動脈硬化を抑制する作用がLDL-Cの2倍くらい強く、TC値のみで冠動脈リスクを評価することは大変乱暴な方法と考えてください。



表1 患者をLDLコレステロール値以外の主要冠危険因子の数により分けた6群の患者カテゴリーと管理目標値


患者カテゴリー 脂質管理目標値(mg/dL) その他の危険因子の管理
  冠動脈
疾患
他の主要冠
危険因子※※
TC LDL-C HDL-C TG 高血圧 糖尿病 喫煙
A なし 0 <240 <160 ≧40 <150 高血圧学会の
ガイドライン
による
糖尿病学会の
ガイドライン
による
禁煙
B1 1 <220 <140
B2 2
B3 3 <200 <120
B4 4以上
C あり   <180 <100
TC:総コレステロール、LDL-C:LDLコレステロール、HDL-C:HDLコレステロール、TG:トリグリセリド(中性脂肪)


冠動脈疾患とは確定診断された心筋梗塞、狭心症とする。
※※
LDL-C以外の主要冠危険因子
  加齢(男性≧45歳、女性≧55歳)、高血圧、糖尿病、喫煙、冠動脈疾患の家族歴、低HDL-C血症(<40 mg/dL)


原則としてLDL-C値で評価し、TC値は参考値とする。
脂質管理は先ずライフスタイルの改善から始める。
脳梗塞、閉塞性動脈硬化症の合併はB4扱いとする。
糖尿病があれば他に危険因子がなくともB3とする。
家族性高コレステロール血症は別に考慮する。

 

 


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Q3:善玉コレステロール値が低い(低HDL-C血症)と言われました。その対策はどうしたらよいのでしょうか?

A:低HDLコレステロール血症対策だけでは、十分な効果を上げることは困難です。総合的な動脈硬化対策が大切です。
 
総コレステロール値が正常で、HDLコレステロール(別名善玉コレステロール)値が低い場合の対策はどうしたらよいのでしょうか。
HDLコレステロール値の目標値は40mg/dL以上とされています。HDLコレステロールは動脈にたまったコレステロールを取り去り、肝臓に運ぶので動脈硬化に対して抑制的に働きます。そのため、低HDLコレステロール血症は冠動脈疾患を増やし、高HDLコレステロール血症は冠動脈疾患を減らします。 また、低HDLコレステロール血症はインスリン抵抗性が合併することが多いと言われています。
単に表面化した低HDLコレステロール血症だけでなく、総合的な動脈硬化対策が大切です。


 HDLコレステロール値を増加させる因子としては、1)禁煙、2)運動、3)大豆などの植物性蛋白、植物油(オリーブ油)、魚油(新鮮な青魚)、4)肥満の解消、5)適度な飲酒があげられています。
 
しかし、これだけで30 mg/dLのHDLコレステロール値を60 mg/dL以上に増加させることは困難です。HDLコレステロール値を大幅に上昇させる薬もありません。ですから、HDLコレステロール値をできるだけ上昇させるように努めることだけでは、十分な動脈硬化予防対策にはならず、他の冠動脈危険因子の排除、インスリン抵抗性の改善が大切です。
 喫煙は冠動脈疾患の主要な危険因子でもあるので、この場合最も重要と考えます。つぎに運動と肥満の解消です。これによりインスリン抵抗性の改善も期待できます。アルコールの動脈硬化予防作用は赤ワインに含まれるポリフェノールが一時有名になりましたが、アルコールならどれも似た作用があります。赤ワインにこだわる必要はありません。アルコールの冠動脈疾患予防作用はビール1本、日本酒1合以下でも認められ、これ以上酒量が増えると冠動脈硬化以外の病気が増加するので、総合的な疾患予防効果はなくなります。健康のためならアルコールは少量で十分です。また、酒を飲まない人に無理に酒を勧めるほどの価値はありません。
 冠動脈疾患は高LDLコレステロールや低HDLコレステロールだけで、発症がきまるものではありません。むしろ欧米に比べて日本ではコレステロールの値が正常か、やや高いぐらいの人が多いのが特徴です。
  コレステロール以外の要因による冠動脈疾患の多い日本においては、生活習慣の改善はさらに重要と思われます。くれぐれもコレステロール値ばかりに気を取られないようにしましょう。

 


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Q4:コレステロールの多い食品を制限してもコレステロール値はあまり下がりません。どうして?

A:コレステロールの大部分は体内合成される。脂肪の制限はコレステロールの合成を減らします。

 
実はコレステロールの多い食品を避けてもコレステロールは少ししか下がりません。体の中のコレステロールは7〜8割ほどが肝臓で合成されています。食事由来のコレステロールは2〜3割にすぎないのです。しかも食事からたくさんはいるとコレステロールの体内合成を減らし、食事中のコレステロールが少ないと体内合成を増やす機構があり、体の中でコレステロールが一定量になるように調整されています。
  ですから、コレステロールを極端に摂取制限をしてもさほど効果がないのです。一日のコレステロール摂取量は300mg以下になるようにすれば十分です。これ以上減らすように頑張っても、あまり効果はありません。
  現実的には、毎日の食事で問題となるのは卵とマヨネーズくらいでしょう。卵は一日一個までとします。マヨネーズはコレステロールが多いだけでなく、油も多いのでできるだけ避けるようにしましょう。
 カロリーの摂りすぎ(特に脂肪)は血中コレステロールの合成を促し、逆に細胞への取り込みを抑制するため、高コレステロール血症を引き起こします。 高コレステロール血症の食事療法で大事なのは、コレステロール摂取量を制限するよりもカロリー摂取量、特に脂肪を制限することです。 理想は一日摂取の総カロリーの四分の一以下(目安は500キロカロリー以下)を目安にしてください。

参考資料 ためしてガッテン 他 
    


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Q5:高コレステロール血症や高中性脂肪血症の食事の注意点をまとめてください。

:以下にまとめます。

まず、第一に総カロリー摂取量を減らし、肥満を改善しましょう。

 血液中のコレステロールも中性脂肪も体重の増減とともに上下します。肥満を避け、一日摂取カロリーは標準体重(※注1)×25〜30Kg/日程度とします。高度な肥満を呈する場合はいきなり標準体重を目指さず、10%の体重減少を目標とします。
(※注1)標準体重(Kg)= 身長(m)×身長(m)×22

次に、一日の総コレステロール摂取量を300mg以下とします。

 コレステロール含有の多い卵黄やレバー、バター、鶏肉の皮、魚卵などの摂取を制限し、一日あたりのコレステロールの量を300mg以下とします。特に毎日食べる卵には注意して下さい。
 イカやエビはコレステロールを多く含みますが、消化吸収が悪いためにあまり神経質になる必要はありません。 もう一つ誤解されやすい重要な注意事項があります。
 身体のコレステロールの70〜80%は食事由来ではなく、体内で合成されたものです。 極端にコレステロールの摂取制限を行っても、血中コレステロール低下の効果はありません。むしろ、体内合成を刺激するだけです。 取りすぎないように注意する程度で結構です。

食物繊維をたくさん取りましょう。

 穀物や野菜に多く含まれる非水溶性の食物繊維は、糖質の吸収を押さえて、血糖と中性脂肪を下げます。 一方、豆類やきのこ、こんにゃく、海藻類などに含まれる食物繊維はコレステロールを低下させます。 食物繊維として1日25g以上摂取しましょう。

魚の油をなるべく摂るようにしましょう。

 魚油の成分は「脂肪を燃焼させる効果」があります。「同じ油を摂るなら魚から」にすると脂肪はたまりにくくなります。

○中性脂肪が高い場合には  
中性脂肪は脂質の一種ですが、炭水化物(糖質)からも盛んに合成されます。 特に砂糖や果物に含まれる果糖などの単純糖質は、食後の血糖と中性脂肪の上昇を招きやすいので要注意です。 また、アルコールは脂肪合成を促すため、1日25gまで(ビール1本、日本酒1合)未満としましょう。

 

 


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Q6:食事や運動に注意してもまだ総コレステロール値が高いのですが、薬を飲んだ方がよいのでしょうか?

A:冠動脈疾患になる危険性の程度ごとにLDLコレステロール目標値が異なります。薬物療法の開始基準値は日本のガイドラインにはありません。

 まず総コレステロールではなく、LDLコレステロール値を調べてください。LDLコレステロール値以外の主要冠危険因子のチェックのあとに、治療目標値が決まります(Q2表1参考)
  この表では薬物療法開始基準が設けられていませんので、薬物療法開始基準が設けられている米国の勧告を参考までに下の表1に載せます(※注1)。
 この米国の基準では、「もし冠動脈疾患の既往がなく、年齢も含めてLDL-C値以外の主要冠動脈危険因子が1個以下の人ならば、LDL-C<160mg/dLなら特に治療はいらないし、薬物療法は場合によっては190mg/dLまで行わなくてもよい」ということになります。 ただし、米国でもこの基準通りに治療を行うことを強要してません。あくまでも大まかな目安としての数値であり。最終的には臨床医の総合的な判断で治療を行うことを勧告しています。生活習慣改善としては、食事療法、減量、運動療法が大事だと報告しています。

 
※注1:日本人は米国よりも冠動脈疾患発症率が1/2〜1/4(※注:死亡率でなく、発症率に関しては信頼できる統計資料がないと少ないと言われているので、ATP-IIIの勧告よりは緩い管理基準でもよいのではないかと当院では考えています。

表1 ATP-III(2001年米国コレステロール教育プログラム: NCEP)におけるリスク分類別の治療目標および治療開始時期

リスク別
目標LDL-C
生活習慣改善開始LDL-C
薬物治療開始LDL-C

冠動脈疾患又は冠動脈疾患相当(※注2)
(10年間の重症冠動脈発症リスク>20%)

<100mg/dL
≧100mg/dL
≧130mg/dL
(100-129mg/dLで場合により薬物開始)

複数の冠動脈危険因子がある
(10年間の重症冠動脈発症リスク≦20%)

<130mg/dL
≧130mg/dL
10年間の発症リスク10-20%なら
≧130mg/dL
10年間の発症リスク<10%なら
≧160mg/dL

冠動脈危険因子がない。または1個
(10年間の重症冠動脈発症リスクは殆どが10%以下になる)

<160mg/dL
≧160mg/dL
≧190mg/dL
(160-189mg/dLで場合により薬物治療)

(参考資料:ATP-III(2001年米国コレステロール教育プログラム:NCEP) = Executive Summary of the Third Report of the National Cholesterol Education Program (NCEP) Expert Panel on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Cholesterol in Adults (Adult Treatment Panel III). JAMA 285(19): 2486-2497, 2001.
※注2:冠動脈疾患相当 = coronary heart disease risk eqivalents:冠動脈疾患危険群」との訳もありました。


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Q7:コレステロールを下げると癌が増えるというのは本当でしょうか?

A:現在、「コレステロールが下がったために癌が増えることはない」と考えられています。


 一時、コレステロールを下げ過ぎると癌が増えるという話がマスコミ等でとりあげられていましたが、その問題はどうなったのでしょうか。
 結論からいうと薬によってコレステロールが下がったために癌が増えることはないと考えられています。
  確かにコレステロール値が160〜180ml/dL以下で癌死・総死亡が増える現象はあります。しかし、この現象は治療開始の最初の2年間だけです。もし、コレステロールが低くて癌が増えるのではあれば、3年以後も癌死が増加してなければならないはずです。
 また、途中で癌になると亡くなる数年前からコレステロールが約10〜20mg/dL下がるという現象が確認されています。つまり、現在のところは「まだ、診断がついていない癌による影響でコレステロールが低くなるのであり、コレステロールの低下により癌が増えたわけではない」と結論づけられています。
 さらに、「薬剤によってコレステロールが下がり、癌が増える可能性があるとすれば、絶対に薬剤として認可されることはない」と島本教授はコメントしています。誤った情報で、患者さんに不安を与えないようにしてほしいものです。

(参考資料:札幌医科大学内科教授、島本和明先生談より:2002.7.27 日本医事新報)
本院のコメント
 正確な情報をつかんでいませんので、当院では現在のところ判断しかねています。
2004.8.24追記

 


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Q8:糖尿病に合併した高脂血症の治療に何か特別なことがありますか?

A:LDLコレステロール管理目標値を厳しくする必要がある。

  ●糖尿病では様々な高脂血症の合併がみられます。

 血糖値が高くなると腸管からのコレステロールの吸収が高まり、逆に肝臓で処理する能力が低下します。また、インスリン作用の低下は脂肪組織から血液中への脂肪放出を増加させ、さらに脂肪処理能力の低下を引き起こします。3000名以上の日本人を対象とした調査でも糖尿病の人は非糖尿病の人よりも高脂血症の頻度が高いと報告されています。

高コレステロール血症 非糖尿病 約15%、2型糖尿病25%
高中性脂肪血症    非糖尿病 約20%、2型糖尿病34%
低HDL-C血症      非糖尿病 約19%、2型糖尿病28%
          
   (資料引用:山田信博:medicina,30,1501-1503,1993)

 

  ●糖尿病がある人はよりきびしい高脂血症の管理が必要です。

糖尿病、高脂血症、喫煙、高血圧は心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患の4大危険因子と呼ばれています。糖尿病患者さんではこれらの疾患は非糖尿病者の2〜4倍も頻度が高く、その死亡原因の第一位をしめると言われています。
 糖尿病に合併した高脂血症ではとくに動脈硬化を引き起こし易いため、その治療目標値を厳しくすることが勧告されています。

糖尿病に合併した高脂血症(虚血性心疾患がない場合)の管理目標値
 総コレステロール血症   200ml/dL 未満 (※注1)
 LDLコレステロール   120ml/dL 未満 
 中性脂肪        150ml/dL 未満 
 HDLコレステロール    40ml/dL 以上
                 (参考資料:日本糖尿病学会・日本動脈硬化学会合同委員会の基準2002)

※注1)できるだけ総コレステロール値ではなく、LDLコレステロールで評価してください。

 


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Q9:コレステロールを下げると宣伝している油は本当に効くのでしょうか?

A:今までの食用油に置き換えれば中性脂肪やコレステロールが低下しますが、取りすぎれば逆に上昇します。

  最近よく宣伝されている「コレステロールを下げる油」、「脂肪がつきにくい油」の価格が、普通の食用油の5〜6倍もするのによく売れているそうです。
  「健康エコナ」(花王)は油の構造が普通の油と異なるため、消化吸収されたあとに脂肪に再合成されにくく、食後の中性脂肪値が約半分になったという。3ヶ月間使うと普通の油を使った人に比べ、内臓脂肪、皮下脂肪、体重などに差が生じたという。

  「日清ダイエット」(日清製油)は脂肪酸の長さが短い「中鎖脂肪酸」からなる。水溶性であるため肝臓への取り込みが増加し、肝臓で燃焼されやすくなり、中性脂肪が上昇しにくいという。3ヶ月間使うと普通の油を使った人に比べ、体脂肪が減少し、体重が約1Kg減少したという。

 「健康サララ」 (味の素)は植物ステロールを含む油です。コレステロールは胆汁酸と結合して、小腸から吸収されやすくなります。一方、植物ステロールはコレステロールと構造が似ているので胆汁酸と結合し、コレステロールの結合を妨害する。このためコレステロールの吸収が低下してしまう。植物ステロール自身はほとんど吸収されずに排泄される。3ヶ月間11g/日摂取すると総コレステロールが10〜20mg/dL減少したという。植物ステロールを添加した油は他社からも販売されている。

  これらの油の使い方や量は普通の食用油と同じです。確かに中性脂肪や総コレステロール値が下がりますが、あくまでも普通の油と比較した場合の話です。これらの油も取りすぎれば体重も脂肪もコレステロール値も増えるので注意してください。
 また血液中の中性脂肪とコレステロールの両者の多くはもともと食物に含まれていたのではなく、他の栄養素から合成されたものです。食事中のこれらの成分の吸収を抑えるだけで、十分な高脂血症の正常化ができると考えると失敗します。 上記の食用油はあくまでも補助的な手段と考えて、多大な期待をかけないようにして下さい。

 

参考資料:2002.9.2毎日新聞より一部修正引用

 

高脂血症についての解説は2003年内に追加する予定です。


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Q10:なぜ高コレステロール血症は治療しなければならないのでしょうか(相対危険率)?

A:心臓病とくに虚血性心疾患(=冠動脈疾患)の増加と深い関係があるからです。

 

総コレステロール値と冠動脈疾患相対危険率の関係は日本と米国で同じ
日本動脈硬化学会高脂血症診療ガイドライン検討委員会より

総コレステロールの値(TC)が上昇したら、冠動脈疾患が何倍になるか(相対危険率)をみたグラフ

 

心筋梗塞の発生率は、10万人当たり米国197人、日本42人。米国は日本の約4-5倍の発生率です。しかし、総コレステロールが200 mg/dlから240 mg/dlに増加すると冠動脈疾患が2倍になるのは、日米で違いがありません。

TC=220mg/dlでは200mg/dlの1.5倍になる。
240mg/dlでは200mg/dlの2倍になる。

ただし、重要なのは「相対危険率」ではなく、「絶対危険率」です。

【例】

相対危険率:TC=220mg/dlでは200mg/dlの1.5倍になる。年間の冠動脈疾患発症率0.1%から0.15%、10%から15%に増加する場合の相対危険率はともに1.5倍で同じ。

絶対危険率:健康な50歳男性の冠動脈疾患発症率は年間0.5%である。

 動脈硬化による病気(心疾患と脳卒中の大部分)による死亡数の合計は、癌による死亡総数よりも多くなっています。コレステロールはこの動脈硬化とたいへん関わり合いが深い。ただし、高コレステロール血症は、一様に全身の動脈硬化を起こすわけではありません。高コレステロール血症は、特に冠動脈疾患との関わりが深く、心臓病の予防には欠かせない問題となっています。 特に、コレステロールの中でも悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が重要です。


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Q11:運動療法や食事療法で実際どれくらい効果が得られるのですか?

A:1日2.4kmのウォーキングで心疾患リスクが半減すると言われています。

 軽い運動で中性脂肪値が10mg/dl低下し、HDLコレステロール値が3mg/dl上昇するとの報告があります。 食事療法では総コレステロール値が13mg/dl低下し、中性脂肪値が40mg/dl低下し、HDLコレステロール値が5mg/dl上昇すると報告があります(Hataら:J Atheroscler Thromb 7:177-197,2000)。 運動では総コレステロール値はあまり変わりません。
  しかし、ハワイ在住の日系米国人で、心臓病のない高齢者2,678人を2〜4年間追跡した報告では、ほとんど歩かない人(1日400m以下)はよく歩く人(1日2.4km以上)より心筋梗塞が2倍多いと報告されています(medical tribune 1999.9.23より、Robert D. Abbott:Circulation100:9-13)。 歩行に限らず軽い運動を日頃から行うと心筋梗塞が半分になるらしいということです。


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Q12:コレステロールの値が高いとどれだけ心臓病になりやすいのですか(絶対危険率)?

A:総コレステロール値は、冠動脈疾患(=虚血性心疾患)の増加と関係が深い。LDLコレステロール値と虚血性心疾患との関係はさらに綿密。コレステロール値を低下させる薬(スタチン系)で大動脈弁狭窄症の進行度が遅くなったとの報告もある。

 
日本の高脂血症と冠動脈疾患合併率:調査基準 総コレステロール260mg/dl以上、中性脂肪250mg/dl以上の3,178例を調査
(厚生省特定疾患「原発性高脂血症」調査研究班。高脂血症病態と治療1988;44-45)

 上図は日本における高コレステロール血症と虚血性心疾患の関係を示す資料です。 他の病気で生じる二次性高コレステロール血症は含まれておりません。
 コレステロール、 特に悪玉コレステロール(LDLコレステロール)の増加に伴い虚血性心疾患が増えています。 注意してほしいことは、糖尿病、高血圧、喫煙。低HDLコレステロール血症などを合併するとこれらの値は何倍にも増加します。虚血性心疾患の危険因子はコレステロール以外にも多数あることをお忘れなく。
 この資料でもっとも注意すべきことは、「高い確率で心筋梗塞になりやすい家族性高脂血症」の人が含まれているために、総コレステロール値の上昇が冠動脈疾患の増加と強く結びついていると言うことです。また、高脂血症の人は高栄養状態のことが少なくなく、高血圧や肥満や糖尿病の合併が増えます。高コレステロール血症だけの影響で、このグラフに示したような冠動脈疾患の増加がおこるとは言えないと思われます。

2004.02.25一部修正


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Q13:HDLコレステロールは高い方がよいのでしょうか?

A:HDLコレステロールが低いと冠動脈疾患が増加しますが、高HDLコレステロール血症とともに冠動脈疾患を合併しやすい「CETP欠損症」が日本では多いので、単純に多い方がよいとは言えません。家族歴で冠動脈疾患がある場合は、高HDLコレステロール血症でも注意が必要でしょう。

HDLコレステロールは血管壁に余分に蓄積したコレステロールを取り除き、肝臓へ運び、過剰なコレステロールは肝臓で処理されます。このため善玉コレステロールと呼ばれています。したがって、血液中のHDLコレステロールが多いと(高HDL血症)動脈硬化を抑制します。
  アルコール多飲、薬剤(ステロイドホルモン、インスリン、HMG−CoA還元酵素阻害剤)、肝臓病(原発性胆汁性肝硬変症)に続発したり、運動などでHDLコレステロールが上昇することが知られています。通常、高HDL血症という場合は100mg/dl以上を指し、日本では1000人に1人位はいると言われています。
  しかし、一部の人は遺伝的に高HDL血症とともに動脈硬化性疾患になりやすいことがわかっています。さらに、そうした人が海外よりも日本に多いこともわかっています。そういった異常の代表が、CETP欠損症です。CETP欠損症は、遺伝的にCETPという酵素蛋白が欠損しています。特に日本人に多いとされています。CETP欠損症の人は冠動脈疾患になりやすいとの報告があります。現在のところ、CETPの検査方法が確立しておらず、疫学調査も不十分であり、CETP欠損症や高HDL血症の治療ガイドラインもありません。

2004.2.26


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Q14:女性はコレステロール値が高くても心筋梗塞になりにくいというのは本当ですか?

A:本当です。特に閉経前の女性は、重症の家族性高脂血症以外は滅多に心筋梗塞になりません。その理由として女性ホルモンの抗動脈硬化作用が言われていますが、この点はまだわかっていません。

  日本には、まだ大規模な信頼できる心筋梗塞の疫学資料がありません。そこで、米国のフラミンガム・スタディから導き出された「冠動脈10年リスク予測ツール」(10-year Risk Assessment Tool)を使って、総コレステロール(TC)以外に危険因子のない場合を想定して、グラフを書いてみました(下図)。正常50歳男性の冠動脈疾患の10年間での発症リスクは5%、一方、TC=280mg/dlと中等度の高脂血症のある70歳女性の冠動脈リスクも約5%である。TC=220mg/dlの70歳女性の10年間の冠動脈疾患発症リスクは約4%である。このため、TC=280mg/dlと中等度上昇を認める総コレステロール高値以外に危険因子のない70歳女性のTCレベルを改善したとしてもわずか1%/10年の違いしかない。しかも、日本の心筋梗塞の発生率は米国の1/4であることを考慮するとその1/4の0.25%/10年と極めてわずかの差でしかない。70歳未満ではさらにその差は小さくなる。
  これからすると、総コレステロール高値と年齢以外に冠動脈危険因子がない総コレステロール280mg/dlぐらいの女性では、薬物療法を行う意義は大変疑問である。実際、女性を対象にした冠動脈危険因子の少ない高脂血症患者の予防的コレステロール低下療法の有効性を証明した研究はない。 なお、日本の動脈硬化診療ガイドラインの資料には、動脈硬化が大変起こりやすい「家族性高脂血症」が含まれているので、これらを除いた人での高脂血症治療効果は日本で一般に考えられているより小さいと考えられることも念頭に置いておく必要がある。

冠動脈10年リスク(%/10年):10年間で重症冠動脈疾患(心筋梗塞、冠動脈疾患による突然死)になる頻度
- 喫煙習慣なし、糖尿病なし、収縮期血圧125、HDL-C50、
動脈硬化性疾患の家族歴なし、若年性冠動脈疾患の家族歴なし、家族性高脂血症ではない-

30歳
40歳
50歳
60歳
70歳
男性
TC220
0.28
1.71
5.0
9.55
14.12
TC240
0.4
2.22
5.92
10.51
14.64
TC260
0.57
2.82
6.91
11.48
15.14
TC280
0.78
3.52
7.97
12.44
15.61
女性
TC220
0.1
0.35
0.94
2.12
4.17
TC240
0.15
0.49
1.19
2.46
4.52
TC260
0.23
0.66
1.47
2.82
4.88
TC280
0.34
0.87
1.79
3.2
5.23
上表から作成

 


2004.02.26記


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Q15:食事と運動でどれだけコレステロール値が下がりますか?

A:年齢や運動、減量の程度によりますが、総コレステロール値で40mg/dlくらいは下がります

 きちんとした資料は、現在持ち合わせていません。当院の経験でいうと、総コレステロールで、40-50mg/dlくらい下がることはよくあります。男性比べて、女性は改善度が低いように思います。
 2003.12月初診の著明改善の症例を提示します。42歳男性、筋肉質、身長169cm、体重83Kg、BMI27.4 、肥満度25%、心臓病など動脈硬化性疾患の家族歴なし。運動不足、食べ過ぎであると自覚して、2ヶ月間ジムなどで運動に心掛けました。その結果、2ヶ月で体重約5Kg減少、総コレステロール値、中性脂肪値は著しく低下、HDLコレステロール値変化なし。AST,ALT値低下(脂肪肝の改善の結果)。
 当院の経験では、しっかり頑張ると総コレステロール値で40mg/dlくらい下がることが多い。中性脂肪値はもっと劇的に低下します。脂肪肝による肝機能障害AST、ALTの上昇があれば、多くは正常化します。

体重
(身長177cm)
総コレステロール
mg/dl
中性脂肪
mg/dl
HDL-コレステロール
mg/dl
AST(GOT)
IU/L
ALT(GTP)
IU/L
初診時(12月)
83Kg
314
264
57
35
84
2ヶ月後(2月)
78.2Kg
257
107
57
21
24
変化(変化率)
-4.8Kg
-57(-18%)
-157(-59%)
0
-24
-60


2004.02.26記


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