【高脂血症Q&A NO.2】 【高脂血症Q&A NO.1】01)〜15)へ

公開日 2004.06.01  更新日2004.11.12    HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す
記事は参考に留め、治療方針は診療医師と相談してください。
16)J-LITチャート1とJ-LITチャート2とは何でしょうか?  2004.06.01記  2004.06.03追加修正
17)Pleiotropic Effectsとは何でしょうか?        2004.07.01記 
18)J-LITチャートによる冠動脈リスクは信頼できるか?   2004.07.01記
19)総コレステロール値270mg/dlは治療すべきか?     2004.07.11記  
20)HDL-C値の影響はどの程度でしょうか?          2004.09.01記  


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Q16:J-LITチャート1とJ-LITチャート2とは何でしょうか?

A:J-LIT(日本脂質介入試験)は日本人の高脂血症患者を対象に、冠動脈危険因子の有無と冠動脈疾患発症率の関係を大規模かつ6年間の比較的長期に渡って調査した疫学研究である。またその結果に基づいて冠動脈の発症危険率を予測する一覧表(J-LITチャート)も報告している。冠動脈疾患などの心血管系疾患の既往がない高脂血症患者用のJ-LITチャート1と冠動脈疾患の既往のある高脂血症患者用のJ-LITチャート2がある。米国のFramingham studyと違って投薬のない対照群がなく、全例にシンバスタチン(商品名リポバス)が処方されている。

■J-LITチャートによる冠動脈疾患発症リスク評価■
 
欧米人に関しては、米国のボストン郊外にある地域住民5000人以上を対象にした長期疫学追跡調査(Framingham study)によって、性別、年齢、高血圧、喫煙習慣、高コレステロール血症(高LDL-C、低HDL-C)、糖尿病などが冠動脈疾患の発症率にどれくらい影響するか報告されている。また、その資料をもとに10年に冠動脈疾患を発症するリスクを評価するソフトが開発され、公開されている。当院では当局の許可を得て、その日本語版を作成、ホームページで公開している(卓上版 、オンライン計算)。
  しかし、日本の冠動脈疾患の発症率は米国の約1/4であり、食事も生活習慣も遺伝的体質も日本人と欧米人では当然大きく異なると考えられ、海外の結果をそのまま日本人に適応することはできない。
  J-LIT (Japan Lipid Intervention Trial、和訳名「日本脂質介入試験」)は日本人約5万人の高脂血症例を対象に1992年から1999年までの6年間の観察を行った前向き調査である。登録時、1年後、3年後、6年後の4回で脂質検査、全死亡率、冠動脈疾患の発症、心臓突然死の発症率を脂質分布との関連が調査された。すべての患者にはシンバスタチン(リポバス)が5-10mg/日の少量投与が行われた。シンバスタチンの冠動脈脈疾患発症率、死亡率への1次、2次予防効果を検討したJ-LIT研究の結果が2000年12月に発表された。

  J-LITは、米国のFramingham studyに比べると、調査の対象、期間、内容、信頼性など異なるものの、この研究で得られた冠動脈疾患の発症率に関するJ-LITチャート1(一次予防)とJ-LITチャート2(二次予防)は、日本人における唯一の長期、大規模疫学研究であり、Framingham studyとの相違に関心が寄せられた。
  J-LITチャート1は心血管系疾患の既往のない高脂血症患者47,294例(男性15,230.女性32,064;平均年齢58±8歳)が対象で、J-LITチャート2は心血管系疾患の既往あるい高脂血症患者5,127例(男性2,194.女性2,933;平均年齢60±7歳)が対象である。
  J-LITチャート1は、性別(2分類)、年齢層(4分類)、高血圧の有無(2分類)、糖尿病の有無(2分類)、喫煙の有無(2分類)、LDLコレステロールレベル(9分類)、HDLコレステロールレベル(9分類)により、5000分類以上(2×4×2×2×2×9×9=5184分類)の細かな分類からなる一覧表である。それぞれの群の患者が6年間に冠動脈疾患になる危険率を教えてくれる。J-LITチャート2では、60歳以下の女性の冠動脈疾患がまれなので、女性の年齢層の分類を2つに(64歳以下、65-70歳)簡略化しているが、それ以外はJ-LITチャート1と同様な分類である。

■J-LIT (Japan Lipid Intervention Trial、和訳名「日本脂質介入試験」)とは■

(目的)コレステロール低下療法が、欧米人のみならず日本人おいても冠動脈疾患の発症抑制に有効なのか、また治療の目標値を欧米人と同じにしてよいかなどを調べることを目的とした日本で初めての長期かつ大規模疫学研究である。

(対象)
 対象は各都道府県の人口分布に基づいて選定された。登録基準は血清総コレステロール(TC)値が220mg/dL以上の男性あるいは閉経後の女性からなる高脂血症患者51,321例である。年齢は35〜70歳である。心筋梗塞や脳血管障害発作の新鮮例、また、重篤な腎疾患、二次性高コレステロール血症、および悪性新生物の合併患者は除外された。
 登録時に心血管系疾患のない一次予防例の年齢分布は、男性は35歳から70歳まで幅広く分布し、大きな偏りはない。女性は55歳以降が多い。
 一方、登録時に心血管系疾患の既往がある二次予防例では、一次予防例と異なり、男女とも年齢が高いほど症例数も多くなっていた。
  高血圧の合併頻度は、一次予防例の44%、二次予防例の48%と高い。糖尿病の合併頻度は、一次予防例の15%、二次予防例の19%である。そのほか、脳血管障害や腎疾患、肝疾患などの合併もそれぞれ10%未満あった。これらの合併症の頻度に関して一次予防例と二次予防例との間に大きな差はない。

(デザイン)
  高脂血症患者全例に対してシンバスタチン(商品名:リポバス) 5〜10 mg/日による治療を行い、6 年間継続した。全例にシンバスタチンによる治療が行われた。登録時、1年後、3年後、6年後の脂質検査を実施し、全死亡率、冠動脈心疾患の発症、心臓突然死の発症率を脂質分布との関連を調査した。
  登録時冠動脈疾患を有しない1次予防群42,360例と有する2次予防群4,673例の計51321例を解析対象とした。
 試験の一次エンドポイントは急性心筋梗塞および突然心臓死であり、二次エンドポイントはその他の血管系疾患(狭心症、脳卒中など)、および総死亡である。

(結果) 

6年間に観察された虚血性心疾患の内訳、 発症率(人/千人年)
一次予防
二次予防
例数
発症率
例数
発症率
心筋梗塞(致死性)
60
0.25
48
1.87
心筋梗塞(非致死性)
163
0.68
74
2.88
心臓突然死
11
0.05
5
0.19
狭心症(確診)
171
0.71
102
3.97
狭心症(疑診)
101
0.42
17
0.66
合計
506
2.1
246
9.58


   死亡に関しては、これまでのところ解析対象例51,326例中746例(4.02/千人年)が確認されているが、そのうち冠動脈疾患によるものは93例(0.50/千人年)で、脳血管系疾患による死亡100例(0.54/千人年)とほぼ同程度である。
  一方、悪性新生物による死亡は187例で、その発症率は1.01/千人年であった。そのほか、スタチン系薬剤による治療でしばしば問題にされる事故や自殺に関しては、それぞれ0.17/千人年、0.16/千人年に見られた。
 ただし、J-LITはプラセボ対照試験ではないので、以上のような死亡率の評価にあたって、日本人の人口動態統計をもとに、性と年齢を調整して日本人一般の各原因による予測死亡率を算出し、これをJ-LITの結果と比較することにした。
 その結果、日本人一般における悪性新生物による予測死亡率は2.66/千人年であり、J-LITのほうが低いことが示された。
 また、脳血管系疾患による予測死亡率は0.66/千人年、心疾患については0.69/千人年、自殺による予測死亡率は0.22/千人年であり、いずれも J-LITが低いことが示された。

【1次予防効果
 心筋梗塞、心臓突然死の発症率(209例、0.91/千人・年)から見て、総コレステロール値を240mg/dl以上LDL-Cが160mg/dl以上HDL-Cが40mg/dl未満の群で冠動脈イベント発症リスクが有意に高かったTGについては治療後も300mg/dl以上の群で心筋梗塞の発症率が高かった。また加齢、高血圧、糖尿病、心電図異常、脳血管疾患合併、虚血性心疾患の家族歴、喫煙習慣にて冠動脈疾患の発症リスクが上昇した。また死亡率(844例、3.69/千人・年)から見ると、総コレステロールが260mg/dl以上、LDL-Cが160mg/dl以上の高い群だけでなく、逆に総コレステロールが180mg/dl未満、LDL-Cが80mg/dl未満の群でも死亡率が高くなるというJ曲線現象が見られた。なお、LDL-Cが80mg/dlまでの低下例では悪性新生物による死亡が多かった中性脂肪値(TG)と総死亡率との間には有意な相関がなかった。喫煙により死亡率が高まる傾向にはあったが、有意な増加は認められなかった。

1次予防における冠動脈疾患発症率への効果
性差
喫煙
高血圧
糖尿病
3因子すべて
LDL-Cの影響
HDL-Cの影響
TGの影響
男性
1
1.2倍
2.5倍
1.6倍
4.8倍
10mg/dlの低下で、冠動脈疾患発症率が15.8%減少した。
10mg/dlの上昇で、冠動脈疾患発症率が37.5%減少した。
10mg/dlの低下で、冠動脈疾患発症率が1.2%減少した。
(このようにわずかである。)
女性
55歳未満
男性の1/6倍
65-70歳
男性の1/2 倍
2.4倍
2.5倍
3.0倍
18.0倍

【2次予防効果
 男性の冠動脈疾患発症率は、女性の2.4倍であった。加齢の影響は顕著ではなかった。心筋梗塞、心臓突然死の発症率(110例、4.45/千人・年)からみて、LDL-C値が120mg/dl以上HDL-C値が40mg/dl未満で冠動脈疾患再発リスクが有意に高まり、HDL-C値が60mg/dl以上の群ではリスクが低かった。また亡率からLDL-C値が120mg/dl以上と100mg/dl未満で死亡リスクが高まり、J曲線現象が見られた。HDL-C値が40mg/dl未満の群は死亡リスクが高かった

2次予防における冠動脈疾患発症率への効果
性差
喫煙
糖尿病
喫煙+糖尿病
加齢の影響
LDL-Cの影響
HDL-Cの影響
TGの影響
男性
1倍
1.2倍
1.4倍
1.7倍
顕著ではない。
10mg/dlの低下で、冠動脈疾患発症率が8.0%減少した。
10mg/dlの上昇で、冠動脈疾患発症率が28.3%減少した。
影響なし
女性
男性の1/2.61倍
1.4倍
2.3倍
3.2倍


(結論)
 本研究から日本人の総コレステロール値220mg/dl以上の高脂血症治療で、1次予防として総コレステロール値は240mg/dl以下LDL-C値は160mg/dl以下、HDL-C値は40mg/dl以上、2次予防ではLDL-C値が120mg/dl以下、HDL-C値が40mg/dl以上が治療目標と考えられた。

【当院の意見】
・心筋梗塞などの動脈硬化性疾患にすでになった人は、なったことのない人の5-7倍冠動脈疾患になりやすいと言われている。そのため、前者の冠動脈疾患予防(一次予防)と後者の冠動脈疾患予防(2次予防)は、はっきりと分けて論議する必要がある。
・喫煙の影響が従来の報告よりもずっと低かったことは、喫煙の有無のチェックが甘かったのではないかと疑ってしまう。また、喫煙の影響は年齢差が大きいと言われているので、年齢別の影響が検討できたら、違った結果になった可能性が高い。
・調査の対象が高脂血症患者だったということで、冠動脈疾患になりやすい家族性高脂血症の割合が、一般住民よりも高くなっているものと考えられる。
・論文の結論はスタチンによる治療の有用性を唱うものであるが、どの程度役立つかは示していない。治療効果がわずかな群は、薬物療法の意義は低い。

参考資料
・Matsuzaki M,et al. Large scale cohort study of the relationship between serum cholesterol concentration and coronary events with low-dose simvastatin therapy in Japanease patients with hypercholesterolemia. - primary prevention cohort sudy of the Japan lipid intevention trial(J-LIT) - Circ J 2002;66:1087-1095.
・MabuchiH ,et al. Large scale cohort study of the relationship between serum cholesterol concentration and coronary events with low-dose simvastatin therapy in Japanease patients with hypercholesterolemia. - secondary prevention cohort sudy of the Japan lipid intevention trial(J-LIT) - Circ J 2002;66:1096-1100.
・馬淵 宏ら: J-LITチャート1:日本人における冠動脈疾患の一次予防 - 冠危険因子の影響 -:2001年日本動脈硬化学会抄録P102
・馬淵 宏ら: J-LITチャート2:日本人における冠動脈疾患の二次予防 - 冠危険因子の影響 -:2001年日本動脈硬化学会抄P103
札幌厚生病院循環器科 J-LIT の解説 http://ns.gik.gr.jp/%7Eskj/megalipids/J-LIT.php3

2004.06.01追加  2004.06.15追加修正


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Q17:Pleiotropic Effectsとは何でしょうか?

A:スタチンのpleiotropic effectsとは、「スタチンの持つ脂質低下作用とは別の多面的効果」のことである。


 
スタチンは高脂血症治療の主役となっている薬剤である。この薬剤では、投与患者のの脂質値が高くなくても、心血管系疾患の予防効果があることが知られています。スタチンは主に肝臓でメバロン産合成経路を阻害することによりコレステロールの合成を抑制し、脂質低下作用を発揮します。
 それとは別に、ゲラニルゲラニルピロリン酸の産生を阻害することにより末梢の血管内皮細胞心筋細胞において内皮機能改善作用、平滑筋細胞増殖抑制作用などがあります。このように脂質低下作用以外の多面的作用により、血管保護作用や心保護作用効果を発揮していると思われます。これが脂質低下作用に比べてどれほど効果があるのか、同じスタチンでも作用に強弱があるのか、詳細はまだ不明である。

2004.07.01記


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Q18:J-LITチャートによる冠動脈リスクは信頼できるか?

A:十分な検証はできていませんが、冠動脈疾患の診断予測に役立つとの報告がある。

 J-LITチャートを使うと6年間に冠動脈疾患イベントのおこる絶対リスクを推測できる。J-LITスコア(6年間、1000人あたりの冠動脈イベント発生数)と運動負荷心電図の結果を比較した発表が2003年の日本循環器学会であった。
  J-LITスコア9点を基準にすると、冠動脈硬化症の診断の陰性的中率は100%となった。J-LITスコア18点を基準にすると精度は最大となり、陽性・陰性的中率は、運動負荷心電図よりも優れていたと報告した。 

冠動脈硬化の予測診断精度:J-LITスコアによる方法と運動負荷心電図による方法の比較

赤:陽性的中率、青:陰性的中率、緑:陰性的中率と陽性的中率を考慮した総合的精度
川尻剛照氏の資料より

【当院のコメント】
 J-LITスコア9点(6年間の冠動脈イベント発生率が0.9%)以下(未満?)なら、冠動脈疾患はほとんどなかったということは、発生率1%未満なら、その時点での冠動脈疾患はまれということになる。また、J-LITスコア18点(6年間の冠動脈イベント発生率が1.8%)を基準にすると最も精度よく、その時点での冠動脈疾患の有無を予測できると言う。しかも、その精度は面倒な運動負荷心電図よりも高いと言うことである。ならば、臨床家としては運動負荷心電図とJ-LITスコアによる予測の両方を併用して、診断に当たるべきと言える。具体的には以下の表のような診断基準も役立つと思われる。

運動負荷心電図
陰性
陰性
陰性
陽性
陽性
陽性
J-LITスコア9点
陰性
陽性
陽性
陰性
陽性
陽性
J-LITスコア18点
陰性
陰性
陽性
陰性
陰性
陽性
冠動脈硬化症の可能性
極めて低い
極めて低い
可能性あり
低い
高い
高い

 

Medical Tribune2003.05.22 第67回日本循環器学会 パネル発表 川尻剛照 金沢大学保健学科
2004.07.01記 2005.001.08修正

 


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Q19:総コレステロール値270mg/dlは治療すべきか?

A:J-LITチャートから個々の症例の冠動脈リスクを検討してみると、総コレステロール値のみで薬物療法を行うかどうか判断することは妥当ではない。

 米国ATP-IIIの冠動脈リスク評価ツールや日本のJ-LITチャート1とチャート2を使うと冠動脈疾患イベントがおこる絶対リスクを推測できる。「どんな人に対して積極的に治療を行うべきか」、裏を返せば「どんな人に薬物療法を行う必要がないのか」をJ-LITチャートによって得られる冠動脈発症リスク値から検討してみた。以下はあくまで当院の見解である。

 J-LITチャート1とチャート2では、合計9000通り以上のケースの冠動脈発症リスクが表記されている。とてもすべてについて検討できないので、年齢層65-70歳をモデルとした。また、喫煙によるすべてのリスク増加の是正は禁煙によってしか、できないと考えるので、すべて非喫煙者(禁煙者)として分析した。
・総コレステロール(TC)の正常代表値=210mg/dl、中等度増加の代表値=270mg/dl
・HDL-Cの正常代表値=50mg/dl、中等度増加の代表値=70mg/dl、低HDL-Cは今回取り扱わない。
・LDL-Cの正常代表値=140mg/dl、中等度増加の代表値=200mg/dl
・TGの正常代表値=100mg/dl、中等度増加の代表値=250mg/dl
以上を組み合わせて個々の症例を考えてみた。
 

判断基準の指標
高脂血症低下剤であるリポバスを内服中の高脂血症治療患者が6年間に狭心症(確診)、心筋梗塞、心臓死になった頻度から求めた、冠動脈疾患発症リスクを判断の指標とした。6年間の冠動脈疾患発症リスクが3%未満を低リスクとみなした。
注:LDL-C  = TC  -  HDL-C  - 1/5×TGの式で、LDL-C を計算した。

 

以下のNo1-No.14のケースは心筋梗塞や狭心症などの既往がない場合(一次予防)
- 狭心症・心筋梗塞の既往がない場合 - (1)冠動脈リスクが低い場合の標準リスクと性差
No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
1
男性
65-70
(-)
(-)
(-)
(-)
210
50
100
140
1.1%
2
女性
65-70
(-)
(-)
(-)
(-)
210
50
100
140
0.5%

・N0.1とNo.2は特に冠動脈リスクがない場合の65-70歳の6年間の冠動脈疾患発症率を示す。男性1%、女性0.5%ぐらいである。年齢が高くなると性差が小さくなるが、この年齢でも男性は女性の2倍高い。

 

- 狭心症・心筋梗塞の既往がない場合 -(2)TCが270mg/dlの場合(LDL-Cのみ増加)
No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
3
男性
65-70
(-)
(-)
(-)
(-)
270
50
100
200
3.1%
4
女性
65-70
(-)
(-)
(-)
(-)
270
50
100
200
1.4%

・男性はN0.1からNo.3へ、女性ならN0.2からNo.4へ、LDL-Cのみを60だけ増加させている。
LDL-Cの60mg/dlの増加(ここではTC増加=LDL-C増加)で、冠動脈疾患発症リスクは男女ともに3倍弱とかなり高くなっているが、男性+2.0%、女性+0.9%と実際の増加数値は小さい。
冠動脈リスクが3倍といっても、冠動脈リスクの絶対値は決して高くない。
  No.3の男性100人を薬物増量してN0.1にできたとしたら、およそ6年間に2人が狭心症や心筋梗塞などにならずに済む計算である。女性だと100人中0.9人が助かることになる。
 ちなみに心房細動の年間脳梗塞発症率は約5%で、ワーファリン療法では脳梗塞発症率が1/3にまで低下することを考えれば、100人を6年間治療すると20人が脳梗塞にならずに済む(6(年間)×5(%)×2/3)。ワーファリン療法に比べて高脂血症治療によって発症を免れる割合は、男性では1/10、女性では1/20となり、高齢と中等度の高コレステロール血症の2つの危険因子しかない一次予防患者の薬物療法は、かなり効率の悪い治療と予想される。

 

- 狭心症・心筋梗塞の既往がない場合 -(2)TCが270mg/dlの場合:見かけ上の高脂血症(HDL-C,TGが増加,LDL-Cの増加は軽度)
No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
5
男性
65-70
(-)
(-)
(-)
(-)
270
70
250
150
0.7%
6
女性
65-70
(-)
(-)
(-)
(-)
270
70
250
150
0.3%

・N0.3とNo.5(女性ならN0.4とNo.6)の違いは、同じTC=270mg/dlでも、後者ではHDL-CとTGが高く、LDL-Cはあまり高くなっていないことである。女性でしばしば認めるタイプである。HDL-CはLDL-Cの2倍以上の動脈硬化抑制作用がある。一方、TGの動脈硬化促進作用は、LDL-Cの1/10以下である。その結果、TCでみると270と高いにもかかわらず、冠動脈疾患発症リスクはTC=210mg/dlのときの基準No.1やNo.2のリスクよりも低くなっている。この例からも、個々の患者さんのリスクを評価する場合には、TCでなく、LDL-CとHDL-Cの両方を考慮したものでなければならないことがわかる。一生涯薬物療法を続けさせることになる可能性が高いのだから、手抜きせずにきちんと評価して、薬物療法を導入すべきである。動脈硬化診療ガイドラインでは「原則として、LDL-Cで評価するとある」が、この表現は弱すぎる。「薬物療法を行うときには、かならずLDL-C値で評価する、同時にHDL-C値も考慮する」と強い表現にすべきと考える。

 

- 狭心症・心筋梗塞の既往がない場合 -(4 )糖尿病が単独ある場合
No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
7
男性
65-70
(-)
(+)
(-)
(-)
210
50
100
140
1.9%
8
女性
65-70
(-)
(+)
(-)
(-)
210
50
100
140
1.5%

・N0.7とNo.8は糖尿病がある場合である。冠動脈発症リスクは、男性で2倍、女性で3倍になっている。しかし、他の危険因子や高脂血症がないので冠動脈疾患発症リスクの絶対値は、6年間で2%未満と低い。


- 狭心症・心筋梗塞の既往がない場合 -(5 )糖尿病と高脂血症がある場合

No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
9
男性
65-70
(-)
(+)
(-)
(-)
270
50
100
200
5.1%
10
女性
65-70
(-)
(+)
(-)
(-)
270
50
100
200
4.1%

・N0.9とNo.10は糖尿病に高脂血症を合併した場合である。冠動脈疾患発症リスクの絶対値は、6年間で4-5%と無視できないレベル(3%以上)となっている。

 

- 狭心症・心筋梗塞の既往がない場合 -(6)糖尿病と高血圧がある場合
No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
11
男性
65-70
(-)
(+)
(+)
(-)
210
50
100
140
4.4%
12
女性
65-70
(-)
(+)
(+)
(-)
210
50
100
140
3.5%

・N0.11とNo.12は糖尿病と高血圧がある場合である。高脂血症がなくても冠動脈疾患発症リスクの絶対値は、6年間で4.4%、3.5%で高くなっている。

 

- 狭心症・心筋梗塞の既往がない場合 -(7)糖尿病・高血圧・高脂血症がある場合
No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
13
男性
65-70
(-)
(+)
(+)
(-)
270
50
100
200
11.7%
14
女性
65-70
(-)
(+)
(+)
(-)
270
50
100
200
9.5%

・N0.13とNo.14は糖尿病と高血圧に、さらに高脂血症が加わった場合である。冠動脈疾患発症リスクの絶対値は、6年間でそれぞれ11.7%、9.5%でかなり高くなった。 NO.13からNO.11(女性ではNO.14からNO.12)へ治療して変化したとしたら、冠動脈リスクはその差に近くなるだろうから、男性で7.3%、女性で6%冠動脈疾患発症数が減少することになる。これは非弁膜症の心房細動患者のワーファリンの脳梗塞発症率抑制効果のおよそ1/3である。一次予防の場合は、危険因子が複数ある患者でも、この程度の臨床効果と推測される。

 

- 狭心症・心筋梗塞の既往がない場合 -(8)糖尿病・高血圧と見かけ上の高脂血症がある場合
No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
15
男性
65-70
(-)
(+)
(+)
(-)
270
70
250
150
2.6%
16
女性
65-70
(-)
(+)
(+)
(-)
270
70
250
150
2.1%

・N0.13とNo.14と同様にN0.15とNo.16も糖尿病と高血圧、TC=270mg/dlの場合である。しかし、N0.13とNo.14と違って、HDL-C,TGが多い。同じTC=270mg/dlでも、冠動脈リスクはN0.13とNo.14の約1/4と低い。LDL-Cはほとんど増加してないことと、抗動脈硬化作用のあるHDL-Cが多いことの影響である。「個々の症例でTC値から冠動脈疾患リスクを予測して、薬物療法を行う」ことが、どんなにいい加減かを示している。

 

以下のNo15-No.30のケースは心筋梗塞や狭心症などの既往がある場合(二次予防)
- 狭心症・心筋梗塞がすでにある場合 - (9)性差の比較
No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
17
男性
65-70
(+)
(-)
(-)
(-)
210
50
100
140
12.8%
18
女性
65-70
(+)
(-)
(-)
(-)
210
50
100
140
2.9%

冠動脈疾患の既往がある場合も、その冠動脈疾患の再発率にはおおきな男女差がある。高脂血症によるリスクがなくなっても冠動脈リスクは心筋梗塞の既往のない患者さんより、はるかに高い。とくに男性では約12倍と非常に高い。

 

- 狭心症・心筋梗塞がすでにある場合 - (10)LDL-Cが60mg/dl増加した場合

No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
19
男性
65-70
(+)
(-)
(-)
(-)
270
50
100
200
18.2%
20
女性
65-70
(+)
(-)
(-)
(-)
270
50
100
200
4.3%

・男性N0.17とNo.19(女性ならN0.18とNo.20)の違いは、後者でLDL-Cのみが増加していることである。
このことにより、冠動脈リスクは約1.5倍になっている。その倍率はNo.1とNo.3の3倍よりも小さいが、リスク増加の絶対値は大きくなっている(+2.0%対+5.2%)。

 

- 狭心症・心筋梗塞がすでにある場合 - (11)見かけ上の高脂血症(HDL-C,TGが増加,LDL-Cの増加は軽度)

No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
21
男性
65-70
(+)
(+)
(-)
(-)
270
70
250
150
8.1%
22
女性
65-70
(+)
(+)
(-)
(-)
270
70
250
150
1.8%

・男性N0.19とNo.20(女性ならN0.20とNo.22)の違いは、同じTC=270mg/dlでも、後者ではHDL-CとTGが高く、LDL-Cはあまり高くなっていないことである。HDL-CはLDL-Cの2倍以上の動脈硬化抑制作用があり、逆にTGの動脈硬化促進作用はLDL-Cの1/10以下と弱い。結果、TCでみると270と高いにもかかわらず、冠動脈疾患発症リスクはTC=210mg/dlのときの基準No.17(女性ではNo.18)のリスクよりも低くなっている。この例からも、個々の患者さんのリスクを評価する場合には、TC値でなく、LDL-C値とHDL-C値の両方を考慮したものでなければならないことがわかる。

 

- 狭心症・心筋梗塞がすでにある場合 - (12)糖尿病が単独ある場合

No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
23
男性
65-70
(+)
(+)
(-)
(-)
210
50
100
140
18%
24
女性
65-70
(+)
(+)
(-)
(-)
210
50
100
140
6.1%

・N0.23とNo.24は糖尿病がある場合である。高脂血症がなくても冠動脈疾患発症リスクの絶対値は、男性18%、女性6.1%で高い。

 

- 狭心症・心筋梗塞がすでにある場合 - (13)糖尿病と高脂血症がある場合

No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
25
男性
65-70
(+)
(+)
(-)
(-)
270
50
100
200
25.3%
26
女性
65-70
(+)
(+)
(-)
(-)
270
50
100
200
8.8%

・N0.25とNo.26は糖尿病がある場合である。高脂血症の合併で冠動脈疾患発症リスクの絶対値が上昇しているが、男性+7.3%、女性+2.7%と上昇率、この数値が大きいとみるか、以外と小さいとみるか、意見が分かれるところであろう。

 

- 狭心症・心筋梗塞がすでにある場合 - (14)糖尿病と高血圧がある場合

No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
27
男性
65-70
(+)
(+)
(+)
(-)
210
50
100
140
18%
28
女性
65-70
(+)
(+)
(+)
(-)
210
50
100
140
14.5%
・N0.27とNo.28は糖尿病と高血圧がある場合である。高脂血症がなくても冠動脈疾患発症リスクの絶対値はかなり高い。 冠動脈疾患再発予防の目標を高脂血症治療に集中させている印象のある日本医療の現状が異常に写る。


- 狭心症・心筋梗塞がすでにある場合 - (15)糖尿病・高血圧・高脂血症がある場合

No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
29
男性
65-70
(+)
(+)
(+)
(-)
270
50
100
200
25.3%
30
女性
65-70
(+)
(+)
(+)
(-)
270
50
100
200
20.6%

・N0.29とNo.30は糖尿病と高血圧に、さらに高脂血症が加わった場合である。冠動脈疾患発症リスクの絶対値は20%以上ととても高い。 NO.29からNO.27(女性ではNO.30からNO.28)へ治療して変化したとしたら、冠動脈リスクはその差に近くなるだろうから、男性で7.3%、女性で6.1%冠動脈疾患発症リスクは減少する。これは非弁膜症の心房細動患者のワーファリンの脳梗塞発症率抑制効果のおよそ1/3である。危険因子が複数ある冠動脈疾患の既往のある患者でも、この程度の臨床効果と推測される。

 

- 狭心症・心筋梗塞がすでにある場合 - (16)糖尿病・高血圧・見かけ上の高脂血症がある場合

No
性別
年齢
CHD
糖尿病
高血圧
喫煙
TC
HDL-C
TG
LDL-C
冠動脈リスク
31
男性
65-70
(+)
(+)
(+)
(-)
270
70
250
150
11.6%
32
女性
65-70
(+)
(+)
(+)
(-)
270
70
250
150
9.3%

・N0.31とNo.32は糖尿病と高血圧、さらにTC=270mg/dlと高い場合である。しかし、HDL-C,TGが多く、LDL-Cはわずかに高くなっているのみである。同じTC=270mg/dlでも、N0.25とNo.26に比べて冠動脈リスクは約1/2と低くなっている。

 

以上から、以下を結論づけた。
1)総コレステロール値270mg/dlは、他の冠動脈危険因子の状況で冠動脈疾患発症リスクが大きく異なるので、総コレステロール値だけで薬物療法を行うかどうかを決めてはならない。
2)総コレステロール値は、治療すべき人を見つけるための簡易検査(スクリーニング検査)として用い、治療を行う際の指標にしてはならない。
3)高脂血症治療はよい適応と考えられる場合でも、臨床効果が高いと言われている心房細動のワーファリン療法に比べて、その1/20-1/3とかなり低い。とくに、低リスク患者でのコレステロール低下療法の効果は低い。
4)逆説的ではあるが、総コレステロール値とHDL-C値が同じならば、中性脂肪値が大きい方がLDL-C値が小さくなり、冠動脈疾患発症リスクは低くなる(こういった内容の医学解説が2004年の医事新報にあった)。また、中性脂肪値の動脈硬化促進作用はとても弱い。よって、「総コレステロール値が高く、中性脂肪値も高いのでリスクが高い」と考えるのは間違い。
5)J-LITチャートによる冠動脈発症率の評価は、高脂血症の薬物療法を行うかどうかの判断にとても役に立つ。



以上の解説は当院の見解です。医師によって考え方が大きく異なる場合があります。
なお、ほとんどの医師は上記のJ-LITチャートの資料を検討したことがないはずです。
  2004.07.13記  2004.08.30修正

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Q20:HDL-C値の影響はどの程度でしょうか?  

A:HDL-C値を無視した総コレステロール値のみによる冠動脈疾患リスク評価は、個々の治療方針決定には使えない。高血圧、糖尿病、動脈硬化性疾患の有無を考慮するとともに、必ずLDL-C値とHDL-C値の両値を考慮するべきである。

 以下は当院見解です。

 最初に断っておくが、現在ある冠動脈疾患発症危険率の評価方法はどれも、一人一人の患者のリスクを満足いく水準で評価できていない。特に、動脈硬化学会のガイドラインは米国の高脂血症治療ガイドラインの模倣であり、科学的根拠が薄く、あきらかに不適切な内容も少なくない。よって今後もその評価方法の発展があるものと予想します。
 
ここでは、現在最も個々人の冠動脈疾患発症リスクを細かく評価できる手段として、J-LITチャート(調査対象は日本人)とATPIIIの10-year risk assessment tool(調査対象は米国白人)を使って、HDL-C値の影響を調べてみる。たとえ総コレステロール値が270mg/dlと一定でも、HDL-C値が40mg/dl増減すると冠動脈疾患発症リスクは2-10倍も変化すると推定された。つまり、同じ総コレステロールレベルでもリスクの高い人と低い人が混在していると推定された。一般に疫学調査では、多数の人の平均を取るので、HDL-C値が高い人と低い人が平均化されて、総コレステロール値が高い人が冠動脈疾患が多くなるという結果がでる。しかし、総コレステロール値が高い人が全員ハイリスクとは限らない。

【設定条件】 67歳の男女、LDL-C値=200mg/dl(一定)、TG=100mg/dl(一定)、HDL-C値=30〜70mg/dl(変動)、高血圧なし、糖尿病なし、高脂血症なし、喫煙習慣なし 、J-LITチャート1資料より算出 (心臓死、心筋梗塞、狭心症の発症頻度)。
HDL-C値
30
35
40
45
50
55
60
65
70
LDL-C値
200
200
200
200
200
200
200
200
200
男性の6年発症率
6.1
5.1
4.3
3.6
3.1
2.6
2.2
1.8
1.5
女性の6年発症率
2.8
2.3
2.0
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.7
LDL-C値=200mg/dlと中等症の高LDL-C血症である。HDL-C値を30mg/dlから70mg/dlへ増加させると、男女とも冠動脈疾患リスクは約1/4になった。これらからすると、「中等症以下の高コレステロール血症の冠動脈リスク評価ではHDL-C値が非常に重要である」と言える。

 

【設定条件】67歳の男女、TC値=270mg/dl(一定)、TG=100mg/dl(一定)、HDL-C値=30〜70mg/dl(変動)、高血圧なし、糖尿病なし、高脂血症なし、喫煙習慣なし 、J-LITチャート1資料より算出 (心臓死、心筋梗塞、狭心症の発症頻度)。
HDL-C値
30
35
40
45
50
55
60
65
70
LDL-C値
220
215
210
205
200
195
190
185
180
男性の6年発症率
8.5
6.6
5.1
4.0
3.0
2.3
1.8
1.3
1
女性の6年発症率
3.9
3.0
2.3
1.8
1.3
1
0.9
0.6
0.4
TC値=270mg/dl(一定)と中等症の高コレステロール血症である。TC値 = LDL-C値 + HDL-C値 + TG値/5の関係がある。TC値とTG値が一定なら、HDL-C値を30mg/dlから70mg/dlへ増加させていくとその分だけLDL-C値が小さくなることもあり、冠動脈リスクは上のグラフよりも大きく減少する。男女とも冠動脈疾患リスクは1/8〜1/10になっている。しかもHDL-C値70mg/dlの男女では、TC=220,TG=150,HDL-C=50の正常範囲内の人のリスク(男性1.1%、女性0.5%)とほぼ同じである。これほど違うリスクの患者を同等に治療することが合理的ではないのは明らかである。

 

【設定条件】67歳の男女、TC値=270mg/dl(一定)、TG=100mg/dl(一定)、HDL-C値=30〜70mg/dl(変動)、高血圧なし、糖尿病なし、高脂血症なし、喫煙習慣なし、 米国ATPIIIの冠動脈リスクスコアから算出(心臓死、心筋梗塞の発症頻度)
HDL-C値
30
35
40
45
50
55
60
65
70
LDL-C値
220
215
210
205
200
195
190
185
180
男性の10年発症率
21
18.6
16.6
15
13.8
13
11.8
11.1
10.4
女性の10年発症率
7.1
36.0
5.1
4.5
3.9
3.5
3.2
2.9
2.7
TC値=270mg/dl(一定)、TG=100mg/dl(一定)と中等症の高コレステロール血症である。TC値とTG値が一定で、HDL-C値を30mg/dlから70mg/dlへ増加させていくと、冠動脈リスク減少するのは同じであるが、その差はJ-LITチャートよりも小さく、HDL-C値70と30で、男女とも冠動脈疾患リスクは2倍の差しかない。米国の高脂血症治療では、HDL-Cの重要性を日本以上に強調しており、60mg/dl以上は「危険因子の数を一つ減じる」ほど重要視している。

 

 

 

2004.09.01記 2004.11.12修正