トピックス(役立つ医学情報-循環器以外編)】 
公開日2005.03.14 更新日2005.04.01  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
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49)【インフルエンザ】インフルエンザによる心筋炎について 2005.04.01記
50)【インフルエンザ】インフルエンザによる心膜炎について 2005.04.01記
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               【感染症】    

(49)インフルエンザによる心筋炎について

まとめ:インフルエンザ感染の合併症として心筋炎や心膜炎がある。診断が難しいが、それほど希ではない。重症度は無症候から急激な心肺不全の劇症型まで多彩である。


        【1】定義・病因・病態・疫学
1)病因
 心筋炎の原因はウイルス性が大部分である。特に、コクサッキーB群とアデノウイルスの頻度が高いとされる。インフルエンザも心筋炎を引き起こす代表的ウイルスである。
2)発生頻度
 ウイルス性心筋炎は、無症状から突然死まで病状が多彩で、診断が難しいために、発症率や死亡率は明らかでない。インフルエンザ心筋炎の頻度も詳細不明である。ウイルス心筋炎61例中インフルエンザが6.6%を占めたと報告されている。最近行われた小児の心筋炎の調査では、161例中37例で原因ウイルスが判明し、インフルエンザは13例(35%)とコクサッキーウイルス群15例(41%)に次ぐ頻度である。インフルエンザ心筋炎はまれな合併症ではない。
3)発生機序・病態
 ウイルス心筋炎の発症機序は明らかでない部分が多い。病理学的にはリンパ球性心筋炎が多い。産生された炎症性サイトカインが、心筋障害を引き起こすことがわかっている。
        【2】診断
 ウイルス性心筋炎は症状が多彩で診断は簡単ではない。さらにインフルエンザでは、心臓以外の症状が強いために心筋炎を見逃しやすい。インフルエンザ心筋炎がまれではないことを念頭において、呼吸困難、不整脈に注目し、心筋炎を疑う必要がある。
1)臨床症状
 インフルエンザの発症後4-7日後に発症することが多い。心不全症状、心膜炎による胸痛、不整脈、が代表的な症状である。進行する呼吸困難で気づかれることが多いが、胸痛、動悸の頻度も高い。重症例ではショック、Adam-Stokes発作をきたす。

2)理学的所見
  頻脈、ブロックによる徐脈、ギャロップ調律、心音微弱、心膜摩擦音、肺水腫に伴うラ音、頸静脈怒張、肝腫大を認めることがある。
3)検査所見
(1)血液検査
 白血球増多、CRP陽性、血沈亢進などの炎症所見、心筋逸脱酵素の上昇を約半数に認める。トロポニンーTの検査は鋭敏である。またBNPは心不全の重症度・治療効果の判定に有用である。
(2)胸部X線
 心拡大(約半数)、肺うっ血、胸水を認める。
(3)心電図
 心筋障害(ST-T変化、R波滅高)、刺激伝導障害(房室ブロック、脚ブロック、異常Q波)、心室・上室性期外収縮、心室頻拍などを高率に認める。
(4)心エコー'ドブラ検査
 左室全体の収縮低下あるいは限局性の壁運動低下を認める。
(5)ウイルス学的検査
 急性期に限られるが、他のウイルス心筋炎と違い咽頭・鼻腔にウィルスが増殖するインフルエンザ抗原迅速検査ができ,信頼性が高い。血清ウイルス学的検査では、急性期と回復期のペア血清で4倍以上の抗体価の上昇があれば陽性とする。回復期だけの検査では型特異1gM中和抗体価か赤血球凝集抑制価で32倍以上を陽性とする。
(6)心筋生検
 病理組織検査での心筋細胞変性と間質の炎症細胞浸潤により心筋炎の確定診断ができる。浸潤細胞はウイルス性心筋炎の場合はリンパ球が中心である。急性期を過ぎると炎症細胞浸潤は消失し、膠原線維が主体の線維化病変となる。心筋採取部位により組織病変にばらつきがあるので複数箇所(3ヵ所以上)からの採取を原則とする。心筋からのウイルスの証明はウイルス性心節炎の診断の特異度が高い。最近PCR(polymerase chain reaction)法やin situ hybridization法を用いて心筋生検組織からウイルスゲノムを証明することが可能となっている。
        【3】治療
1)抗ウイルス薬
 インフルエンザ感染が明らかになればすぐに抗インフルエンザウイルス薬を投与する。一般にウイルス心筋炎に対する抗ウイルス薬は感染初期に投与しなければ効果が少ない。
2)ガンマグロブリン大量静注療法
 γ-グロブリンの急性心筋炎に対する有効例が報告されているが、評価は定まっていない。
3)免疫抑制療法
 臨床的に有効との報告もあるが、グルココルチコイドや免疫抑制剤はウイルス増殖を促進し、心筋壊死を助長する可能性があるため、病初期は避けたほうがよいでしょう。
4)心不全治療
  利尿剤、血管拡張薬、カテコラミンを用いて急性心不全のコントロールをはかる。劇症型心筋炎では急激に心原性ショックに陥るため、騰曙することなく循環補助装置を使用する。大動脈バルーンパンビング(IABP)、経皮的心肺補助(PCPS)、心室補助装置(VAD)など。劇症型心筋炎の救命率は57.7%であるが、救命例の遠隔予後は良好。
5)不整脈治療
 心室頻拍には抗不整脈薬を投与する。Mobitz II型および完全房室ブロックに対しては体外式ぺ一スメーカーによる一時ぺ一シングを行う。房室ブロックは通常一過性であるが3-4週間以上高度房室ブロックが持続する例では埋込み型へ一スメーカーを考慮する。

2005.04.01記


               【感染症】            トピックスの目次  次へ  前へ 

(50)インフルエンザによる心膜炎について

まとめ:インフルエンザ感染の合併症として心筋炎や心膜炎がある。診断が難しいが、それほど希ではない。
        【1】定義・病因・病態・疫学
 心膜炎の原因は感染、全身性疾患、腫瘍、医原性(心膜切開・放射線照射)であるが、ウイルス性がもっとも多い。心膜炎は、単独または心筋炎に合併して発症する。コクサッキーB、エコー、アデノ、ムンプス、インフルエンザ、EBウイルスなどが原因となる。重症の心筋炎を合併しないウイルス心膜炎では経過は良好であるが、ときに心嚢液貯留による心タンポナーデ(心臓の周囲に液体がたまり、心臓を圧迫するために生じる心不全)をおこすことがある。軽症も含めるとまれな疾患ではないが、自覚症状なしに自然治癒している場合も多いと考えられる。そのためウイルス心膜炎自体の正確な発生頻度は明らかでない。インフルエンザ心膜炎も同様に発生頻度は不明であるが、インフルエンザ心筋炎に合併することは多い。

       【2】診断
1)臨床症状
 発熱と胸痛の頻度が高い。発熱の程度はさまざま。胸痛は前胸部に限局した鋭い痛みが多く、放散痛を認めることもある。深呼吸や仰臥位で増強、座位で軽減する。胸痛の持続は数時間から数週間。他に呼吸困難・筋肉痛を認めることがある。理学的所見では心膜摩擦音が特徴的であるが、必ずあるわけではない。心嚢液貯留がすすむと心膜摩擦音はなくなる。
 心膜炎の代表的な合併症である心嚢液貯留は重症度がさまざまである。急速に多量の心嚢液がたまると心臓の圧迫による血行動態の異常と症状が出現する(心タンポナーデ)。多量の心嚢液貯留では、呼吸困難・起座呼吸・尿量減少がおこり、理学的所見では微弱心音・頸静脈怒張・低血圧(Beckの三主徴)に加えて頻脈・奇脈・Kussmau1徴候を認める。
2)検査所見
 (1)血液検査
  白血球数増多、CRP上昇、血沈亢進などの炎症所見を認める。
 (2)胸部レントゲン
  中等度以上の心嚢液貯留では心拡大を認める。心タンポナーデでは肺うっ血像を認めることがある。
 (3)心電図
  比較的特徴的なST-T変化を示す。病初期に上円型のST上昇を認め、改善後にT波は平低となりその後逆転する。数週間〜数ヵ月で正常化することが多い。心嚢液貯留が高度の場合はQRS低電位を示す。
 (4)心エコー検査
  心嚢液貯留の診断が正確にできる。心タンポナーデによる血行動態の異常の評価にも役立つ。
 (5)ウイルス学的検査
 インフルエンザ心筋炎と同様
 (6)心嚢穿刺
    心タンポナーデでは治療を兼ねる。穿刺液の性状は透明。PCRでウイルスゲノムを検出できれば原因診断が得られる。
  (7)鑑別診断
 胸痛、胸部苦悶、呼吸困難や心電図異常を生じる疾患として、急性心筋梗塞、肺梗塞、解離性大動脈瘤、胸膜炎、気胸などがある
        【3】治療
 インフルエンザウイルス性心膜炎では、抗インフルエンザ薬の投与、心嚢液の吸収のため利尿薬、胸痛緩和・抗炎症のため鎮痛解熱剤(NSAIDS)投与を基本とする。NSAIDS無効例や心嚢液貯留が高度で症状を認める場合はステロイドを用いる。心タンポナーデでは心嚢穿刺と持続ドレナージを行う。

参考資料

 綜合臨床2005.2月号 インフルエンザ特集 「心疾患患者とインフルエンザ」 佐野哲也 大阪厚生年金病院小児科部長

2005.04.01記