トピックス(役立つ医学情報-No.36)】
公開日2009.08.24 更新日2009.12.16  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
 このページは、当院が興味を惹かれた医学情報を紹介しています。一般向けではない内容も多いのですが、一般の方でも読みやすいように、なるべく専門用語を少なくするようにしました。冗長な表現を避けるために、「である調」にしました。情報源は、医事新報、日経メディカル、medical practice、新聞などです。明らかに製薬会社の利益を優先した情報誌や内容は避けました。情報は必ずしも最新のものとは限りません。また、記事の内容を保証するものでもありません。あくまでも参考に留めてください。
134)手洗いの奨励で感染性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルス感染症)が激減した? 2009.12.16記  
133)インフルエンザ死亡数よりも桁違いに多い喫煙による死亡数 2009.10.02記  
132)新型(豚)インフルエンザは純粋な新型ではない 2009.10.02記  
131)突発性血小板減少性紫斑病のピロリ菌除菌療法   2009.09.18記  
130)早期の慢性腎臓病患者には、ACE阻害薬またはARBとスピロノラクトンの併用が有用かも?   2009.08.24記  
129)【皮膚科】難治性じん麻疹にレセルピンが著効する場合がある   2009.08.24記  
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       【喫煙】

 (134)手洗いの奨励で感染性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルス感染症)が激減した? 

まとめ:インフルエンザ予防法として、マスク、手洗いが推奨され、薬品メーカーが便乗して手の消毒が急激に普及した。新型インフルエンザ感染は阻止できず、これらのインフルエンザ予防法に効果があるかどうか大変疑問であるが、一方で、感染性胃腸炎は過去10年間のなかで、突出して少なくなっている。 
 インフルエンザ予防として、「マスク着用」、「手洗い」が奨励されているが、その効果に関しては極めて疑問である。これだけ、マスクや手洗いが普及しているにもかかわらず、学級閉鎖や感染者数は異常多くなり、大流行となった(全国のインフルエンザ発症者定点報告数の推移)。この二つの方法はほとんど効果がないというのが学術的に妥当と思われる。ましてや手洗いに便乗した「手の消毒」は手荒れを引き起こす可能性が高く、とても推奨できるものではない。世間では、「手洗い」と「手の消毒」が同じ効果を狙ったものだと考えているが、専門家からすると大きな違いがある。ウイルスや細菌を洗い流すのは、水や石けんでそれほど皮膚にも悪くない。しかし、細菌は皮膚よりも強い細胞膜をもっているので、皮膚にかなり障害を起こす程度の薬剤が必要である。そのために、皮膚が荒れやすくなる。予防効果よりも手荒れの副作用の頻度のほうが圧倒的に高い。
 これは予想したことではあるが、「みんなが手洗いや手の消毒を行えば、感染性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルス感染)は減るはずだ。」と思って全国の感染性胃腸炎発症者定点報告数の推移をチェックしていたところ、明らかに今年度の同疾患の感染数の立ち上がりが鈍くなっていた。手洗い習慣が同疾患の予防に極めて有効であることが確認できそうだ。
 参考資料
  感染症情報センター>サーベイランス>IDWR>過去10年間との比較グラフ>感染性胃腸炎   2009.12.16記   2010.1.12修正
 


        【喫煙】

 (133)インフルエンザ死亡数よりも桁違いに多い喫煙による死亡者数 

まとめ:日本政府は喫煙の有害性に関する情報の広報に極めて消極的である。しかし、喫煙によって増加する死亡数(超過死亡)は、インフルエンザや交通事故による死亡数よりも桁違いに多い。 
 喫煙による超過死亡数は、毎年約12万人、総死亡の10%にも及ぶ。
「喫煙によって肺癌が増加する」、「それ以外にも害がある」、、これくらいは皆知っている。それでも「周囲で喫煙する人は多く、マスコミでも大騒ぎにならないので、喫煙はそれほど危険ではない」と平均的な日本人は思っているようだ。さらに、「ニコチンの少ないタバコは比較的安全」と思っている人もいる。しかし、タバコの有害物質は、むしろニコチン以外が重要であり、煙草による死亡増加数、健康被害は驚くような数値であることを知らされていない。
  タバコの煙の中には、約200種類の有害物質、40-60種類の発がん物質が含まれる。なお、タバコ煙は粒子成分とガス成分に大別され、両者に有害成分が含まれる。空気清浄機は粒子相成分(33%)を除去できるが、96.7%を占めるガス相成分を除去できない。すなわち、空気清浄機はタバコの煙の有害成分を除去するためには、ほとんど役に立たない。
 煙草がなければ、
癌が約1/3ほど減るとされている。また、肺癌以外にも、循環器疾患(脳卒中、心筋梗塞)、呼吸器疾患(慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患)、消化器系(潰瘍、種々の癌、ほか)、生殖器系の疾患を引き起こす。タバコによる超過死亡は12万人近くになると推計されている。この数字は全死亡数の約10%である。
  世界においてもタバコによる超過死亡は600万人にものぼると米がん学会などが2009.8.25報告した。報告書によると、喫煙はがんや心臓病、呼吸器疾患などさまざまな病気の原因となり、喫煙する人はしない人に比べて平均で15年早く死亡する。たばこを吸わない人も受動喫煙によって、毎年20万人が死亡しているという。これを日本に当てはめると4,000人/年が受動的喫煙で死亡していことになる。交通事故は約6,000人/年、インフルエンザは1,500-5,000人?/年くらいと考えてよい。
 米国や日本など先進国の喫煙率は減少しているが、中国を中心に発展途上国の喫煙人口は年々増加している。
 また、WHO(世界保健機関)は
先進国においては単一の要因で健康に影響を及ぼす最大の要因はタバコであると断言している。煙草で亡くなる人は、癌や心臓病、脳卒中で、高齢者がほとんどと思っている人がいるが、これは間違いである。若年の女性喫煙者は非喫煙者の6倍突然死が多い。30代、40代の喫煙男性は70代の非喫煙者なみに心筋梗塞が多い。私自身の経験でも男性では30代後半過ぎると心筋梗塞や突然死の話を時々聞く。くも膜下出血も喫煙で増加する。40代、50代の同窓会では、同級生の数人が病死している。多くは「男性」で、「喫煙者」の割合が2倍くらい高いと思うのだが、あなたの同級生はどうですか。
 
参考資料
「喫煙で年600万人死亡」 米がん学会が報告書提供:共同通信社 2009年8月26日
http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/08/26/106401/?Mg=d3b044ec982df71fc838f60ff9095073&Eml=f2ca6120f9d7bb47bd5351a8854858e2&F=t&portalId=mailmag 2009.10.02記   2009.10.02修正


       【インフルエンザ】
   (132)新型(豚)インフルエンザは純粋な新型ではない 

まとめ:今回の新型インフルエンザは、過去のスペイン風邪の遺伝子を受け継いでいると考えられ、スペイン風邪の亜型とも言える。1956年以前に生まれたひとはある程度の免疫を持っている可能性があり、純粋な「新型ウイルス」ではない。
 
新型インフルエンザは旧型スペイン風邪のマイナーチェンジ?
1977年の出現以来、Aソ連型インフルエンザウイルスと今回の新型インフルンザウイルスは、分類錠同じHlNl型である。しかし、長期に渡って動物間においてのみ感染を繰り返していた豚インフルエンザウイルスが、ヒトからヒトの間での流行まで引き起こしたため、新型インフルエンザと見なされた。ソ連型インフルンザウイルスの親戚みたいな存在であるが、別物とされた。
 従来、一般化されていた新型インフルエンザウイルスの定義は、「大部分のヒトが感染した経験のない亜型のインフルエンザウイルスが出現し、このウイルスがヒトからヒトヘ容易に感染を繰り返すことができる性質を獲得した場合」であった。すなわち、突然、大変異を起こしたウイルスを指していた。
 1956年までヒトの間で感染を繰り返していたインフルエンザウイルスは、スペイン風邪型ウイルス(HlNl)のみであった。スペイン風邪型HlN1ウイルスは、ヒトからブタヘ感染して、現在まで、豚インフルエンザウイルスとしてブタの中で80年間生き延びてきた。今回のウイルスの主要な遺伝子は、このインフルエンザウイルスに由来するという。
「大部分のヒトが感染した経験のない
」という条件からすると、新型インフルエンザウイルスという名称をつけることがふさわしいか否か疑問であるという。
 1956年以前生まれのヒトの多くは、HlN1ウイルスに感染した経験を持つことが予想され、すでに、何がしかのHlN1ウイルスに対する抗体を持っている可能性が高い。したがって、このような世代のヒトが今回の新型インフルエンザウイルスに感染しても、重症化を免れる可能性があるという。
 実際、50歳以上の新型インフルエンザ患者は少なく、半数以上が20歳以下だという。当院には小児科がないので、10歳以下はほとんど来院しないが、患者の年齢層はは10歳-35歳のみである。職員にも感染していないし、高齢者が多い定期通院中の患者さんの誰も発症していない。9月27日の読売新聞によると、重症インフルエンザ患者さん用の病床の稼働率は50%未満だという。2009年10月にどうなるかはまだ不明だが、いまのところ重症化率は高くない。
参考資料
日本医事新報2009年7月25日号 「新型インフルエンザ判明の経緯」  京都産業大学鳥インフルエンザ研究センター長 大槻公一
2009.10.02記   2009.10.02修正


      【血液疾患】

 (131)突発性血小板減少性紫斑病のピロリ菌除菌療法

まとめ:ピロリ菌陽性のITPへの除菌療法での血小板増加患者の割合は約50%である。再燃はほとんどない。 
 ピロリ菌陽性ITPに対する除菌療法の有効性
 保険適用にはなっていないが、ピロリ陽性ITPに対する除菌治療の有用性はすでに確立されている。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、免疫異常により血小板が破壊され減少し、出血しやすくなる疾患である。若年から中年の女性に好発する。多くは原因不明とされてきたが、近年、ピロリ感染の関連が示唆されている。
 最近の論文で、ピロリ陽性成人慢性ITP患者に除菌治療を行うと、約50%に血小板増加が認められた。罹病期間の短い症例で有効例が多い。血小板増加反応は除菌後1-2週でも起こる。除菌治療後の長期予後も良好で、再燃はきわめて少ない。除菌の副作用は軽微である。
  ピロリ菌除菌による血小板増加の機序については未だに不明である。
参考資料
日本医事新報2009年7月25日号 「ピロリ陽性ITPに対する除菌療法の有効性」北海道大学医学部第三内科准教授 橋野 聡
2009.09.26記   2009.09.18修正


       【慢性腎臓病】

 (130)早期の慢性腎臓病患者には、ACE阻害薬またはARBとスピロノラクトンの併用が有用かも?

まとめ:ACE阻害薬またはARBを服薬中の慢性腎臓病患者への、スピロノラクトンの併用は心血管疾患の予後改善に有効かもしれない 
 早期の慢性腎臓病でのスピロノラクトン併用は心血管疾患の予後指標を改善する
  早期慢性腎臓病(CKD)で血圧管理が良好な患者は、ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)にスピロノラクトンを併用することにより、心血管疾患マーカーの改善がみられるとの報告が、「Journal of the American College of Cardiology」8月4日号にあった。
  英バーミンガム大学のNicola C. Edwards氏らは、慢性腎臓病のステージ2-3期で、血圧管理が良好な患者112人を、無作為にスピロノラクトン服用継続群またはプラセボ群に割り付けた。全ての患者では、ACE阻害薬またはARBの服用を継続服用した。 治療開始40週後、スピロノラクトン群ではプラセボ群に比し、左室心筋重量、脈波伝播速度、Augmentation Index (AIx)、大動脈伸展度が有意に改善していた。 効果の大部分は統計学的に血圧変化とは独立して認められたとしている。
 なお、スピロノラクトンは血清カリウム濃度を高める作用があるので、副作用には厳重な注意が必要である。

参考資料
Abstract:http://content.onlinejacc.org/cgi/content/abstract/54/6/505
2009.08.24記   2009.08.24修正


   【皮膚科】
 (129)難治性じん麻疹にレセルピンが著効する場合がある

まとめ:各種の抗ヒスタミン剤やステロイドを使っても治らない蕁麻疹にレセルピンが著効することがあるという。 
  教科書や治療ガイドラインには載っていないが、難治性蕁麻疹に降圧薬のレセルピン追加すると著効することが少なくないと言う。診療にあたる医師は覚えておくと役立つかも知れない。
  一般に、蕁麻疹の治療は原因の排除に努め、抗ヒスタミン薬を中心に薬物療法を行う。薬剤の効果が不十分の場合には、抗ヒスタミン薬を変更したり、増量したり、ステロイドを少量追加する。 ほかに、H2拮抗薬や漢方薬、ロイコトリエン拮抗薬なども補助的治療薬と治療のガイドラインにあるが、レセルピンの記載はない。 抗ヒスタミン薬やステロイドなどが効かない難治性の蕁麻疹に、レセルピン(商品名アポプロンほか)0.3-0.4mgを追加投与を試すとよいと言う。
  自治医大さいたま医療センター皮膚科教授の出光俊郎氏によると、難治性の蕁麻疹患者19人にレセルピンを投与したところ、著明改善が13人、有効5人だったと報告している。レセルピンは投与して1-2週間、早ければ3日ほどで驚くほど改善するという。
 作用機序として、レセルピン.は肥満細胞由来のセロトニンを枯渇させるなど、肥満細胞を介して作用すると考えられている。なお、現在も レセルピンの蕁麻疹に対する保険適用はない、この点には注意が必要。この情報は、あくまで医師向けです。レセルピンは副作用のない安全な薬剤ではないので、上記の薬剤を勝手に服薬しないようにしてください。必ず、医師の指導の上で治療してください。
参考資料
日経メディカル2009.8月号 :抗ヒスタミン薬との併用で難治例が改善
2009.08.24記   2009.08.24修正