トピックス(役立つ医学情報-No.37)】
公開日2010.07.01 更新日2010.07.01  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
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136)動脈硬化の進行は動脈の部位によって異なる 2010.10.07記  
135)高コレステロール治療薬(スタチン)の有害事象 2010.10.07記  

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       【動脈硬化症】

 (136)動脈硬化の進行は動脈の部位によって異なる 

まとめ:動脈硬化の進行は動脈の部位によって、リスク因子の重みが異なるため、単一の指標で動脈硬化の評価は困難です。 

●血管構造から見たリスク因子の違いとその管理

 日本人の死因の約1/3は心疾患、脳卒中である。その大部分は動脈硬化による。全身の動脈の構造は均一ではなく、血管の大きさや部位によってミクロ的な構造が異なるため、また臓器によって血管走行の特徴が異なるため、動脈硬化進展リスクも異なる。
  動脈硬化性疾患の診療のためには、まず動脈構造、走行の多様性を理解し、各臓器によって異なるリスクの重みを判断することが必要である。
●動脈の基本構造●
 動脈壁の構造は大動脈から毛細血管に至るまでの間に徐々に変化する。動脈はその構造により弾性型動脈、筋型動脈に分けられ、さらにその移行型、小動脈、細動脈に分類される。
(1)弾性型動脈
 大動脈、腕頚動脈、鎖骨下動脈、総頚動脈、総腸骨動脈が含まれる弾性型動脈は収縮期に拡張し、拡張期に収縮することで、拡張期にも血流が連続する機能を担う。伝導型動脈とも呼ばれる。血管壁の構造は、中膜が発達し、弾性板が豊富である。
(2)筋型動脈
 弾性型動脈は上腕動脈、大腿動脈、橈骨動脈、膝窩動脈と、その枝の筋型動脈に移行する。中膜は主に平滑筋からなり、血管分布領域の需要に応じて運ばれる血液量を調節するために、血管径を活変化させる。分配型動脈とも呼ばれる。中膜の平滑筋層が発達している。
(3)動脈の移行型
 弾性型動脈と筋型動脈の移行領域の外頚動脈、膝窩動脈、総腸骨動脈、さらに腹部大動脈から起こる内臓の動脈は、混合型動脈と呼ばれる。中膜に島状の平滑筋線維群があり、弾性膜を離開させたり断裂させたりしている。
(4)小動脈と細動脈
 筋型動脈は分枝を繰り返して小動脈となり、さらに分枝して細動脈となる。細動脈は直径300μm以下のものと定義する。これらの血管は末梢血管抵抗の主要素となり血圧を調節する。内膜は内皮と薄い内皮下層、中膜は大きめの細動脈の場合2層の平滑筋細胞からなる。
●動脈硬化病変の多様性と関連するリスク●
 大動脈、脳動脈、冠動脈、腎動脈、腸骨動脈などの動脈壁の構造、走行にはとれぞれ特徴があるため、動脈硬化の危険因子(高血圧、糖尿病、喫煙、脂質異常、年齢、性別、遺伝性疾患)の重みが異なる。 

(1)脳血管の動脈硬化
 脳血管は、血管壁の構造および血管の走行が、他の臓器と大きく異なっているという特徴がある。
  a.脳の血管壁の特徴
 総頚動脈は弾性型動脈、頭蓋内外の主幹動脈は典型的な筋型動脈の構造である。粥状動脈硬化病変を基盤とするアテローム血栓性脳梗塞の原因となる。さらに脳動脈は筋型動脈であるが、中膜筋層が薄く、外弾性板を欠き、外膜の結合組織量も少ない。特に穿通枝系において中膜が薄い傾向にある。また、脳内の動脈は脳実質との間にVirchow-Robin腔と呼ばれる間隙を有し、外膜結合組織のが少なく、破綻しやすい。
  b.脳の血管走行
 大脳の動脈は、走行様式から皮質枝系と穿連枝系に分類される。皮質枝系は脳表面を走りながら分岐を重ね、脳表面に対してほぼ垂直に脳内に入る。距離の長い動脈である。一方、穿通枝系は、脳底付近でただちに脳内に入り、主に脳深部に分布する。走行距離は短い。穿通枝の中でレンズ核線条体動脈は中大脳動脈に対して逆行的に分岐するという走行的な特徴を示す。脳血管障害が最も起こりやすい動脈である。走行距離が短いと血圧勾配が急になり、高血圧の影響を受けやすいと考えられる。
 脳卒中の主要なものは脳梗塞と脳出血である。脳梗塞は、さらにアテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞に分けられる。アテローム血栓性脳梗塞の原因となる粥状硬化は、頭蓋内外の主幹動脈の分岐部に強い。ラクナ梗塞では、穿通枝系の細動脈硬化病変を基盤として発症する。内膜や中膜の肥厚と変性が見られる。
  脳出血の大部分は高血圧による。直径50-400μmの脳内小動脈に好発する。微小動脈瘤が破裂しておこると考えられている。
 他の部位の小動脈と比べ、脳の動脈では血圧の影響が大きい。原因として、血管壁が薄い、血管走行の特徴、血圧勾配などが関連していると考えられる。脳出血やラクナ梗塞に最も影響する危険因子は高血圧である。
  一方、アテローム血栓性脳梗塞は頭蓋内外の基幹血管の粥状硬化を基盤とするため、高血圧のみならず、脂質や喫煙が大きく影響すると考えられる。

(2)冠動脈硬化

 冠動脈は、他の部位と比べて肉弾性板が著明に発達している。中膜は平滑筋細胞からなるが、肉弾性板から分岐した弾性板が進入し、弾性型動脈のような構造となっている。高血圧に対しては脳血管よりは耐容性がある。アテローム硬化が心筋梗塞の重要病変となるため、高血圧とともに喫煙や高コレステロール血症が重要になる。

(3)腎血管の動脈硬化
 主幹腎動脈に粥状硬化を起こすと、狭窄を来し、腎血管性高血圧を惹起する。腎実質では、糸球体の破壊と尿細管の萎縮が見られ、腎機能が障害される。主幹腎動脈の粥状硬化では、脂質異常症、糖尿病、喫煙が大きく影響する。
 また、細動脈の肥厚性硬化と輸入細動脈の硝子様硬化がみられる。進行すると腎血流量が減少し、糸球体の硝子化、尿細管の萎縮、間質の線維化が起こる(細動脈性腎硬化症)。細動脈性腎硬化症は高血圧、糖尿病が重要なリスク因子とされている。
  細動脈硬化は、内皮細胞障害による透過性亢進により血漿成分が内皮下に入り込むことが原因となると考えられている。著明な高血圧においては毛細血管に過剰な圧がかかり、糸球体過剰濾過となり、毛細血管が障害され血栓や壊死が生じ、腎障害が生ずる。
 腎臓合併症には動脈硬化以外の高血糖などの因子の関与も指摘されている。腎障害の病理組織像では糸球体硬化が特徴的であるが、これはメサンギウム基質が増加、蓄積した状態と理解されており、これによる糸球体正常構築の破綻と血管網の減少、消失が腎機能低下をもたらすと考えられている。高血糖と糸球体硬化との関連の研究は多く、糖尿病の合併症としての腎症の原因は動脈硬化性のものと糸球体硬化によるものが混在している。

 

(4)大血管の動脈硬化
 閉塞性動脈硬化症における動脈硬化性病変は大腿動脈、膝窩動脈に最も多く、次いで腸骨動脈、腹部大動脈が多い。多くは弾性型動脈および、それに続く太い筋型動脈である。粥状動脈硬化が基礎的な病因である。リスク因子は喫煙、糖尿病、脂質異常症、高血圧などすべてのリスク因子が関与するが、その中で喫煙、糖尿病の影響が大きいとの報告が多く見られる。粥状硬化を基盤とする他の疾患とはやや異なる傾向が見られる。
 閉塞性動脈硬化症患者は冠動脈疾患を合併する例も多い。

 それぞれの臓器の動脈は走行、構造に特徴があり、動脈硬化リスク因子の寄与する重みも異なる。動脈硬化の治療、予防に当たっては、それぞれの病態に合わせたリスク管理が求められる。

参考資料
日本医事新報No.4492(2010年5月29日)
日本大学医学部内科学系腎臓高血圧内分泌内科学分野准教授
 上野 高浩
●血管構造から見たリスク因子の違いとその管理
 
2010.10.07記  2010.10.07修正    


       【脂質異常症】

 (135)高コレステロール治療薬(スタチン)の有害事象 

まとめ:製薬メーカー主導の治験(効果と副作用の調査)が社会問題になっている。製薬会社は息のかかった医師を通じて、製薬会社に都合のよい発表を行っている。患者さんの利益と製薬会社の利益が相反するのである。「利益相反」がキーワードとなり、米国では製薬会社から治験に関与した医師への報酬が全て公表されるようになった。 
以下記事の引用(文字数で35%省略)
 高コレステロール血症治療薬の主役であるスタチンの想定されていない効果および害について、英国(ノッティンガム大学プライマリ・ケア部門Julia Hippisley-Cox氏ら)で調査がなされた。対象は英国人男女200万人超である。調査方法は前向き※コホート研究※※により行われた。 BMJ誌2010年6月5日号(オンライン版2010年5月20日号)掲載より。
※「前向き」調査の反対の「後ろ向き」は、患者のデータを過去にさかのぼって調査する方法である。
※※スタチン投与群と非投与群の疾患罹患率を比較する方法。

スタチン各種、用量、投与期間ごとに効果・有害事象を定量化

 スタチンの思わぬ効果・有害事象について、イングランドおよびウェールズの開業医(GP)368人の診療データが検討された。200万4,692例分(30〜84歳)のうち、スタチン服用(商品名、リポバス、リピトール、メバロチンなど)新規患者は10.7%であった。検討主要項目は、心血管疾患の初回発生、中等症以上の筋肉障害、中等症以上の肝機能障害、急性腎不全、静脈血栓塞栓症、パーキンソン病、認知症、関節リウマチ、白内障、骨粗鬆症性骨折、胃がん、食道がん、大腸がん、肺がん、メラノーマ、腎臓がん、乳がん、前立腺がん。

肝機能障害・急性腎不全・筋肉障害・白内障リスクが増大した。食道がんリスク低下した。

 中等度以上の肝機能障害、急性腎不全、中等度以上の筋肉障害、白内障のリスクは増大した。一方で、食道がんリスクについては低下が認められた。その他の項目では両群間で差がなかった。
 肝機能障害はフルバスタチン(商品名:ローコール)でリスクが高かった。 有害事象は、スタチンの種類を問わず同等であった。
急性腎不全、肝機能障害の明瞭は用量依存性がみられた。

 服用期間中の全リスク増加は、最初の1年目が最も高かった。白内障リスクは男女とも、服用中止後1年以内で標準に戻った。5年予防NNT(治療必要数、対患者1万例)は、女性の場合、心血管疾患が37例(95%信頼区間:27〜64)、食道がんは1,266例(850〜3,460)だった。男性はそれぞれ、33例(24〜57)、1,082例(711〜2,807)だった。
 一方、5年NNH(有害必要数、対患者1万例)は、女性の場合、急性腎不全が434例(284〜783)中等症以上の筋肉障害は259例(186〜375)、中等度以上の肝機能障害136例(109〜175)、白内障33例(28〜38)だった。男性のNNHは、筋肉障害のNNHが91例(74〜112)だった以外は、全体として女性と同等だった。
 
文献
 参考資料
「スタチンの思わぬ効果・有害事象」2010/06/18(金) No.J001180 ケアネット配信情報よりhttp://www.carenet.com/news/det.php?nws_c=14941

オリジナル文献:Hippisley-Cox J et al. Unintended effects of statins in men and women in England and Wales: population based cohort study using the QResearch database. BMJ. 2010 May 20;340:c2197. doi: 10.1136/bmj.c2197. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20488911
 
2010.10.07記  2010.10.07修正