トピックス(役立つ医学情報-No.35)】
公開日2009.08.20 更新日2009.08.20  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
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128)【心臓】自動体外式除細動器AEDとは   2009.08.20記  
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       【心臓】

 (128)自動体外式除細動器(AED)とは

まとめ:熟練した医師以外でも簡単に使えるようにした体外式除細動器がAEDである

1)緊急の除細動が必要な状態とは
心室細動は心室心筋が不規則に痙攣している状態である。この状態になると心臓から運び出される血液量がゼロとなる。脳への血流が途絶すると8秒程度で意識がなくなり、4分間で脳死になる。急性心筋梗塞患者では、心臓マッサージを続けていると、脳死を避けるだけの最低限の血流は維持できて、数分から数時間後に通電による除細動がなくても心室細動から洞調律に戻ることをしばしば経験している。しかし、十分に効果的な心臓マッサージが行われなければ、たった4分間で脳死になるため、心室細動になった人が、なんら処置なしで、自然回復することはほとんどないと考えたほうがよい。
 除細動法のなかで最も確実で、速いのが、通電による方法である。 通電方法にはいくつか種類がある。収縮電極を皮膚の上から通電する方法が体外式直流除細動で、他に直接心臓に電極を当てる方法(手術時)や体内に埋め込んで心臓の中から通電する方法(植え込み型除細動器 ICD)がある。現在、除細動に使う通電はすべて、直流である。除細動器は、電池またはコンデンサーに電気を充電し、これを一気に放電する。以前は単相波形の電流を使っていたが、最近は、除細動の効率が高い2相性波形のものが多い。
 AED(Automated External Defibrillato)は日本でも最近普及してきた除細動器で、医療の専門家でなくても簡単な使えるように、スイッチを入れると音声による操作指導が自動的に起動する。 
 
2)除細動器の実際
 体外式除細動器は、通常、医療者が使用し、心室細動や心房細動を停止させるために用いる。電源をONにして、心臓を挾むように電極を皮膚に密着させるとモニター画面に心電図波形が現れる。これをみて医師が心室細動を確認する。出力エネルギーを設定し、充電開始ボタンを押す。充電が完了したらただちに通電する。この時の設定エネルギーは、心室細動の場合、2相性では200Jから、単相性では360Jで開始する。無効な場合、順次出力を増して数回繰り返すが、最高360Jとする。心筋は通電による損傷(やけど)を負うことになるので、通電のエネルギー設定、回数、間隔には配慮が必要である。むやみと短い間隔で何度も行ってはならない。
 一方、AEDでは装着すれば、心室細動の診断を機械が自動的に行なってくれる。具体敵意には、脈が触れない心停止と思われる人がいる場合、胸骨圧迫による心臓マッサージを続けながら電源を入れる。蓋を開けると自動的に電源が入るものがある。以後は、音声誘導に従う。電極を胸部に貼付し、電線ケーブルをAED本体に接続する。心室細動かどうかの診断が自動的に行われる。出力も自動的に定まっている。心室細動であれば、音声で通電の指示がなされるので、指示とおりに行う。
  AEDは、非医療従事者でも簡単に使用できるように作られた除細動器である。心電図波形はモニターで見ることはできない。また、AEDの心電図波形の診断はすべて機器によるため、振幅の小さい心室細動では心静止と診断され、除細動の指示が出ない状況などもありうる。
  最近は医療機関以外の人の集まる建物や施設にもAEDが多数設置されており、救急救命に役立っている。マラソン大会や万博などでのAEDの救命効果が報道されている。なお、安全のため、通電時には全員が患者から電気的に離れていることなどの確認が重要である。

3 )除細動の私の経験から
 最後に私の経験から付け加えておく。心室細動が心臓突然死のかなりを占めるからといって、除細動器があればすべてを除細動でき、救命できるとは限らない。スポーツ時の強い胸部圧迫や落雷などによる心室細動なら一回の除細動で正常心拍に戻る可能性が高い。一方、心筋梗塞などの局所心筋虚血(局所的な心筋の血流不足で心筋の状態にムラが生じる)、重症心不全、低酸素血症などの心室細動の誘因が続いていれば、除細動しても再び心室細動になることが予想される。この場合、心室細動の背景となる病態の改善も速やかにおこなう必要がある。
  数回の除細動が成功しない場合は、むやみと短時間で除細動を繰り返すことを行わずに、心臓マッサージを数十分行ってから再度除細動を行うことをお勧めする。除細動器がない場合は、心臓マッサージと人工呼吸だけでも数時間は不可逆的な障害はおこらない。
 なお、 心臓マッサージでは、しばしば肋骨骨折を生じるが、救命を第一と考えた場合は肋骨骨折をおこしても心マッサージを続けるべきである。こういうと肋骨骨折をするくらいにできるだけ強く、胸骨圧迫するほうがよいと思っている若い医師が多い。私は心マッサージ時をしている時に患者に話しかけて何らかの反応がある場合には、その程度の強度で十分な脳血流が維持されていると判断し、それ以上の強い胸骨圧迫は行わないようにしている。胸郭の前後径が小さい人、心臓の内径が大きい人(心エコーで確認)はそうでない人よりも少しの圧迫で心拍出量が出せるなどの配慮も有効である。
参考資料
日本医事新報2009.5.2 :手動式除細動器とAEDの差異 新潟大学大学院循環器学分野教授 相澤義房
2009.08.20記   2009.08.20修正