インフルエンザの追加情報(5)

公開日2009.10.10 更新2009.11.18 更新履歴   HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す
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流行状況(約2週間遅れ:【1】全国の集計【2】各地の流行状況:インフルエンザ情報サービスより

26)インフルエンザ予防に手洗いは有効?             2009.10.10記
27)インフルエンザ予防にマスクは有効?             2009.10.10記
28)新型インフルエンザの死亡率は季節性と同等?          2009.10.10記
29)タミフル耐性インフルエンザの出現               2009.11.08記
30)新型インフルエンザは季節性インフルエンザの親戚?       2009.11.08記
31)季節性インフルエンザ用ワクチンが新型にも有効?         2009.11.08記
32)新型インフルエンザにかかったら、新型用ワクチンは不要?     2009.11.18記
  

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26)インフルエンザ予防に手洗いは有効?

A:インフルエンザ予防に手洗いは有効かどうかは、疑問視されている。
 2009年5月の新型インフルエンザの流行に際して、日本ではマスク着用者が激増し、マスクが売り切れ状態が続いた。テレビなどの映像によるマスコミの影響が大きかった。その後、「海外ではマスクはあまり効果がない」と言われていると報道されると、マスク騒動が下火になった。
  9月に再び流行が拡大すると、今度は「手洗い」が大きく取り上げられた。便乗して、「手指用の消毒薬※注(注:専門家は手洗いは奨励しているが、手指消毒は奨励していない)」がブームになった。人の出入りの多い機関では、入り口にアルコール含有の消毒薬を置くことが一般的となった。日本では横並びに一斉に同じ行動をとる。結果、根拠のない間違った情報が蔓延することが頻繁にある。
 当院では、手指消毒用アルコールの使用を患者さんには勧めていない。「インフルエンザの主な感染路は、くしゃみや咳などの時に飛ぶ飛沫による感染や微粒子となったウイルス塊による空気感染と考えられている。
  手に飛沫が付着することは、保育園、幼稚園、小学校では十分ありえるが、大人、とくに地方の高齢者の生活環下では極めて少ない。また、手に付着したとしても手からは侵入しないと考えられている。手を舐めたり、鼻をいじったりしない大人の場合は、手洗いの効果は極めて限定的であろう。子供の場合は、下痢・嘔吐、そのたのウイルス予防に流行時にはとても手洗いが有用であるが、インフルエンザとなると効果は疑問である。少なくとも地方の高齢者ではほとんど効果が期待できないと考えられる。
 この考えを裏付けるような記事が、 2009年10月7日号の NEWS WEEK(日本語版)にあったので内容を紹介する。
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1)米国疾病対策センター(CDC)でもインフルエンザ予防に手洗いを推奨している。
2)米国内でも新型インフルエンザ予防の最善の方法は、手洗いだとの認識が広まっている。
3)手洗いは通常の感冒などの呼吸器系疾患の予防には大きな効果があることがわかっている。
4)インフルエンザが手を介して感染するという説は、現時点では根拠が薄い。
5)感染の可能性が最も高いのは患者の咳やくしゃみで飛び散ったしぶきを吸い込んだときと考えられている。
6)完全ではないものの、現在ある最良のインフルエンザ予防法はワクチンである。
7)動物実験の結果は手洗いの効果に疑問を投げかけている。
  ●フェレットにH1N1型ウイルスを吸入させると感染が起きた。
  ●モルモットをインフルエンザ(非H1N1型)で汚染された籠に入れても感染しなかった(手足に付着しても感染しない)。
8)手洗いの奨励は「手洗いさえしっかり行えば、インフルエンザにかからない」との誤解を生み、有効な他の対策がおろそかにされる危惧がある。
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 以上から頻繁な手洗いの奨励は 、集団生活する小児と一緒に生活する大人に限定してよいと思われる。
  ついでに、あまり推奨されてはいないが有効性が高いと考えられる予防法として、「気流を考慮する」もありそうである。外気温が低い冬季は、窓を開放するのは困難であるが、秋や春なら地方では窓を開けっ放しで換気をよくするとウイルス数が激減するはずである。車に患者を乗せる際には少しだけ後ろの窓を開け、車内の空気の流れが前から後ろになるようにする。同乗者は前に乗る。煙草の煙を想定して頭の中でシュミレーションすれば、わずかな風量で煙が前席に来ないことが想像できるだろう。

参考:Hand-Washing Won't Stop H1N1 手洗い予防に効果なし?NEWS WEEK 2009.10.7日本語版
2006.12.21の記事から
2009.10.10記  2009.10.14修正


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27)インフルエンザ予防にマスクは有効?

A:マスクはインフルエンザにかかっている人、回復後しばらくの人、インフルエンザ患者に近接する人。
 インフルエンザ予防には「マスクが一番」というのが、日本での一般常識のようだが、専門家や海外ではこの考えはかなり疑問視されている。インフルエンザウイルスの主な感染路は、患者の咳やくしゃみで飛ぶ飛沫である。しばらくすると、水分がなくなり、小さな微粒子となり、7-8時間は室内の空中に漂うことになる。このあたりの実験は、2008年か2009年のためしてガッテンで紹介された。
 マスクには「99.5%ウイルスをカットします」と表示したものがあるが、これは嘘、誇大広告であることはすぐに理解できる。なぜなら、1)実験の条件が不明、本物のウイルスでの実験は大がかりな設備が必要で極めて困難であること、2)マスクの孔の大きさから推測しただけではないか、3)ありそうな条件とは、ウイルスが唾液のしぶきとして飛んでくると仮定して、しぶきの多くがマスクに付着して、鼻、口には入ってこないことを推測しているのではないか、4)ウイルスも通さないような微細孔マスクでは気流抵抗が大きくなり、マスクの横から流れ込む割合が増加する。また、紙製なので微細構造は呼気の水蒸気によってすぐに壊れると予想される。そのため、99.5%カット効果の持続性は極めて低いと考えられるなどなど、、、、
 結局、マスク着用が勧められる状況は、インフルエンザ患者、インフルエンザから回復して1週間くらいまで、インフルエンザ患者の2m以内に近づくことがある場合(インフルエンザ医療従事者、家族を含めた介護者、流行期の満員電車内)などが妥当と考えられる。
2009.10.10記  2009.10.14修正


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28)新型インフルエンザの死亡率は季節性と同等?

A:遺伝子分析では弱毒株であると判明。疫学調査でも死亡率は季節性並とわかった。
 以下は毎日新聞社からの引用情報
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  2009年9月30日 提供:毎日新聞社
新型インフルエンザの致死率は季節性並み 従来の報告の10分の1(米チーム解析)
 新型インフルエンザの致死率は毎年流行する季節性インフルエンザと同程度の0.045%とする分析を、米ハーバード大などの研究チームがまとめ、米医学サイト「PLOS Currents」に発表した。これまでは、1957年から流行した「アジアかぜ」並みの0.5%程度とみられていた。
 研究チームは、4-7月、米ミルウォーキーなど2市で入院した感染者、入院していない感染者のデータをもとに、通院しなかった人も含めた発症者を推計した。従来の解析では、確定診断を受けた患者に対する死者の割合を致死率として計算していた。
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2009.10.7日の山口市保健所所長の新型インフルエンザに関する勉強会での発表では、口頭のみの数字ではあるが、「0.00●●%」と米国よりも低値だと言う。最新のNEWS WEEK 2009.10.7日本語版では、新型インフルエンザの低リスク株にもかかわらず、騒ぎが大きいので、巻頭の風刺画のページで、小さな豚(=「新型インフルエンザ」)の横に何十倍もの大きな豚のイラストを描いて、「新型インフルヒステリー」と皮肉っている。
2009.10.10記  2009.10.14修正


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29)タミフル耐性新型インフルエンザの出現

A:新型インフルエンザにもタミフルの効果がないか、弱いタミフル耐性インフルエンザウイルスが出現してきた。
 今までにも、タミフル耐性インフルエンザウイルスが出現しているが、これらは感染力が弱く、ヒトからヒトへは感染しにくいと言われていた。ところが、最近ヒトからヒトへ感染したタミフル耐性新型インフルエンザの報告が出てきた。米国では耐性ウイルス対策として、軽症のインフルエンザ患者にはタミフルの使用を推奨していない。タミフルの予防的使用は控えるように勧告している。
 以下は毎日新聞社からの引用情報
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新型インフル タミフル耐性 人から人感染の可能性
【新型インフル】タミフル耐性発見
 人・人感染の可能性
厚生労働省は7日、新型インフルエンザに感染し、8月22日に札幌市内の医療機関を受診した10代の女性から、抗ウイルス薬タミフルに耐性を持つウイルスが検出されたと発表した。女性はリレンザを投与されており、タミフルは服用していない。
 タミフルを服用した別の患者の体内で耐性を獲得したウイルスが、人から人へと感染した可能性もある。タミフル耐性ウイルスの感染が拡大すれば、タミフルが使えなくなる可能性もあり、厚労省は「周囲の感染状況を注意深く見る必要がある」としている。
 札幌市衛生研究所には6月11日から9月8日までに149株のウイルスを調べているが、他に耐性ウイルスは確認されていない。
出典:2009年10月8日 産経ニュース
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-09-15/2009091501_01_1.html

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2009.11.08記  2009.11.08修正


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30)新型インフルエンザは季節性インフルエンザの親戚?

A:新型インフルエンザ(H1N1)はAソ連型(H1N1)と同じ分類に入る。新型が見つかった当初から、これを新型とすべきかどうか疑問であったという。今回、疫学的にも新型は「季節性の親戚にあたり、免疫学的に共通性が高い」可能性が指摘された。新型は自動車で言うところのFull model changeではなく、大きなminor changeとして、扱うべきかも知れない。多くのヒトが免疫を持っているので「新型」の名称はふさわしくないかもしれない。「準新型」として扱った方がよいようである。

 新型インフルエンザは、全くの新型にしては、矛盾する報告が相次いでいる。 1)感染する年齢層が若年者に大きく片寄っている、2)成人では一回のワクチン接種で十分な効果が得られている、3)季節性インフルエンザワクチンでもある程度効果があるようである、、など。これらを総合すると、最終的な結論を下すにはまだ早いかもしれないが、暫定的に大人にとっては「準従来型(弱毒株)」扱いで、未成年には「準新型(弱毒株)」扱いでよい可能性がますます高くなった。

 以下は読売新聞(ネット配信)から一部引用(印●は読みやすいように追加)情報
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新型インフル「過去の季節性感染で」成人に免疫?
 新型インフルエンザに対して、成人の多くはある程度の免疫を持つ可能性があることが分かってきた。●データを分析すると、患者が増えているのは圧倒的に未成年。
さらに新型用のワクチンの臨床試験では、●1回の接種で成人の大半が十分な免疫を獲得できたことから、過去の季節性インフルエンザの免疫が、新型にもある程度働くという解釈で、厚生労働省のワクチンに関する専門家の意見交換会の見解がほぼ一致した。「ほとんどの人に免疫がない」とされてきた新型対策の見直しにつながる可能性がある。
全国約5000の定点医療機関から報告されたインフルエンザ患者数は、ほとんどが新型になった6月末以降、10月11日までで計20万人余り。年齢層別では10〜14歳が最も多く、未成年が85%。最新のデータでは新規患者の90%が未成年だった。●大阪大の岸本忠三・元学長(免疫学)は、「子どもと大人の発症率の差は行動の違いだけで説明がつかない。過去に類似したウイルスに感染したことが影響している可能性が高い」と指摘する。
20〜50歳代の200人に行われた国産の新型用ワクチンの臨床試験では、1回の接種で78%が十分な免疫を獲得した。●国立感染症研究所の田代真人・インフルエンザウイルス研究センター長は「1回の接種で効果が出るのは、過去の免疫が呼び覚まされたから。今回の新型は、過去に流行した季節性の『いとこ』か『はとこ』なのだろう」と話す。
 だからと言って、成人が新型に感染しないというわけではない。米国でも当初、10歳代で新型が流行したが、その後ほかの世代に感染は拡大し、最終的に入院患者の半数が18歳以上となった。感染研の安井良則主任研究官は「今は、集団生活を送っている子供が感染の中心だが、時間をかけて成人に感染が広がっていく。成人の方が感染すれば重症化する危険性が高く、十分な注意が必要」と強調している。
(記事提供:読売新聞)
2009/10/23(金) http://www.carenet.com/news/det.php?nws_c=10513
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2009.11.08記  2009.11.08修正  


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31)季節性インフルエンザ用ワクチンが新型にも有効? 

A:今回の新型インフルエンザは従来のインフルエンザと類似性が認められ、免疫学的にも共通部分が多いようだ。そのため、季節性インフルエンザ用ワクチンが重症例を中心に有効性を示唆する報告が出てきている。
 以下は毎日新聞社からの一部引用情報
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新型インフルに、季節性インフルワクチン有効か?:メキシコからの最新報告
 新型インフルエンザウイルス(汎発性2009インフルエンザA/H1N1)に対し、2008〜2009年の季節性インフルエンザ3価不活化ワクチンが限定的ではあるが一定の有効性を示すことが、メキシコ国立衛生研究所のLourdes Garcia-Garcia氏らが行った症例対照研究で示唆された。特に重症例に対する効果が期待されるという。.......   一部省略  ......
  これまで、季節性インフルエンザワクチンは新型インフルエンザウイルスに対する有効性をほとんどあるいはまったく持たないと考えられていた。
.......  一部省略  ......
ワクチン接種者で低い新型感染率(有効率73%)、ワクチン接種の新型感染例に死亡例なし

 季節性インフルワクチンの接種を受けていたのは、.......   一部省略  ......。
季節性ワクチンの新型インフルに対する有効率は73%であった。新型インフル感染者のうち、季節性ワクチン非接種例52例の死亡率は35%(18例)であったのに対し、接種例8例に死亡は認めなかった。
これらの知見により、著者は「少数例に関するレトロスペクティブな評価の初期結果という限界はあるが、2008〜2009年の季節性3価不活化ワクチンは、汎発性2009インフルエンザA/H1N1(特に重症例)に対し有効なことが示唆された」と結論している。
(菅野守:医学ライター)
出典:2009/10/23(金) 
http://www.carenet.com/news/det.php?nws_c=10515
http://www.carenet.com/news/cardiology/newsnow/list.php
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19808768?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum
Garcia-Garcia L et al. Partial protection of seasonal trivalent inactivated vaccine against novel pandemic influenza A/H1N1 2009: case-control study in Mexico City. BMJ. 2009 Oct 6;339:b3928. doi: 10.1136/bmj.b3928
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2009.11.08記  2009.11.08修正


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32)新型インフルエンザに感染したら、新型用ワクチンは不要?

A:2009年夏期〜11月現在までにA型インフルエンザにかかったひとは基本的に不要と考えられる。   
 現在流行しているのはほとんどが新型インフルエンザである。この時期にA型インフルエンザと診断されたら、まず新型インフルエンザと考えてよいでしょう。インフルエンザウイルスに対する免疫応答には、液性免疫、細胞性免疫、気道粘膜免疫、自然免疫などが関与し、防御免疫が成立する機序は単純ではない。個体の防御免疫能を評価する際、我々はしばしば血清抗体価により判定するが、これは液性免疫の一指標である。また、免疫のできかたは、ワクチン接種の場合と自然感染の場合で異なり、一般に自然感染のほうが強い免疫ができると考えられている。これまで流行した種々のインフルエンザの経験から考えれば、今回の新型も同様に、罹患後には免疫が得られると考えてよいでしょう。そのため、新型インフルエンザ用ワクチン接種は、今回は省略しても問題ないと考えられます。
 なお、新型インフルエンザに罹患したかどうか、不明な場合、希望すれば接種することは可能です。 
参考
新型インフルエンザ罹患者への新型ワクチン接種 国立病院機構 三重病院小児科中野貴司 、日本医事新報(2009年11月14日)
2009.11.18記  2009.11.18修正