【トピックス(役立つ医学情報-循環器以外編No.23)】 
公開日2007.06.14 更新日2008.06.26  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報(必ずしも最新ではありません)を紹介します。
このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。
107)【腎臓病】慢性腎臓病の診療ガイドライン                   2007.06.14記
106)【痛風】痛風の食事療法、プリン体制限は無意味                2007.06.14記
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   【腎臓病】
(107)慢性腎臓病の診療ガイドライン

まとめ:糸球体濾過量(腎臓の働き)の推定値を指標とし、慢性腎臓病(CKD)の重症度分類を基準とした専門外の医師(かかりつけ医)向けの慢性腎臓病の診断と治療のガイドラインが2007年5月に発表された。
  日本腎臓病学会で慢性腎臓病の診療ガイドラインを公表
 2002年に米国腎臓財団は、腎臓の異常を早期に発見し、管理・治療するために慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)という概念を提案した。2007年5月25日、日本腎臓学会も「慢性腎臓病診療ガイド」を公表した。
  「CKD診療ガイド」は主に一般医を対象とし、(A)考え方、(B)診断、(C)フォローアップ、(D)治療の4章で構成されている。
  (A)ではCKDの定義やステージ分類、心血管疾患や生活習慣病との関係について解説。(B)では腎機能・尿所見の評価法、小児・成人・高齢者別の診断について解説。(C)では専門医へ紹介するタイミングなど、(D)では食事や生活習慣の指導、高血圧や高脂血症などの治療がまとめられている。この診療ガイドは日本腎臓学会ホームページ:(http://www.jsn.or.jp/)で閲覧可能である。

 CKDを定義づける腎機能の重症度(ステージ)評価 
 腎機能の評価は糸球体濾過量であるGFRで行う。2008年、日本人でのデータによる衰残式に改訂された。 2008.5.8変更
 
 

計算式が面倒なので、日常診療に使えるようにこのサイト内で計算できるようにした。

【CKDの患者診療のエッセンス】
1.●CKDとは、「腎臓の障害(尿蛋白陽性などの尿異常、画像診断、血液検査、病理検査で腎障害の存在が明らか」、もしくは「糸球体濾過量GFRが60mL/min/1.73m2未満の腎機能低下」が、3ヶ月以上続く状態を慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)と定義した。
2.●推算GFR(eGFR)は以下の推算式で算出する。
eGFR(mL/min/1.73m2) = 194×Crの-1.094乗×年齢の-0.287乗
 (女性はこれに×0.739)
3.●CKDは、CVD(心血管疾患)、ESRD(末期腎不全)発症の重要な危険因子である。
4.●CKDの診療は、かかりつけ医と腎臓専門医の連携を通じて集学的におこなう(垣根を越えた医療)。
5.●次の場合は、腎臓専門医に紹介することが望ましい。
 1)0.5g/gクレアチニン以上または2+以上の尿蛋白
 2)eGFR 50ml/min/1.73m2未満
 3)尿タンパクと血尿がともに陽性(1+以上)
6.●CKDの治療にあたっては、まず第一に生活習慣の改善(禁煙、減塩、肥満の改善など)を行う。
7.●血圧の管理目標は130/80mmHg未満であり、緩徐に降圧することを原則とする。
8.●降圧にはACE阻害薬やARBを第一選択とし、必要に応じて他の降圧薬を併用する。
9.●ACE阻害薬やARBの開始後は、血清Crや血清カリウムを2週間〜1ヶ月以内に測定し、その後もモニターする。
10.●糖尿病性腎症では血糖をHbA1c6.5%未満に管理する。
11.●LDLコレステロールを120mg/dl未満に管理する。
12.●腎性貧血を疑う場合は、腎臓専門医に相談する。
13.●エリスロポエチンや経口吸着薬の投与にあたっては、腎臓専門医と相談する。
14.●腎排泄性の薬剤は腎機能に応じて減量する。
15.●非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、造影剤、脱水などは腎機能低下のリスクである。
 ESRD:end stage renal desease

慢性腎臓病のステージと診療計画
ステージ
(病期)
説明
推算GFR値
mL/min/1.73m2
診療計画
0
ハイリスク群※1
慢性腎疾患には至っていないがリスクが増大した状態
≧90
(CKDのリスクファクターを有する状態で)
CKDスクリーニングの実施(アルブミン尿など)、CKD危険因子を軽減させる治療。
1
腎障害は存在するが、GFRは正常または増加
≧90
上記に加えて、
CKD進展を遅延させる治療、併発疾患の治療、心血管疾患のリスクを軽減する治療
2
腎障害が存在し、GFR軽度低下
60〜89
上記に加えて、
慢性腎臓病の進行度の評価
3
腎障害が存在し、GFR中等度低下
30〜59
上記に加えて、
CKD合併症を把握し、治療する(高血圧、貧血、続発性上皮小体機能亢進症など)
4
腎障害が存在し、GFR高度低下
15〜29
上記に加えて、
透析又は移植の準備
5
腎不全・透析期
<15
もし尿毒症の症状があれば、透析または移植の導入
透析患者はすべて5Dに分類、移植患者は各々のステージにTをつけて、T,1T,2T,3T,4T,5Tとする。
2007年CKD診療ガイドラインから
CKDハイリスク群とは※1
 CKD発症のリスクファクターとして、高齢(最も大きな要因だが個人差が大きい)、CKDの家族歴、過去の検診における尿異常や腎機能異常および腎形態異常、脂質代謝異常、高尿酸血症、NSAIDs(鎮痛剤)などの常用薬、急性腎不全の既往、高血圧、耐糖能異常や糖尿病、肥満およびメタボリックシンドローム、膠原病、感染症、尿路結石などがある。
  CKDハイリスク群では、CKD発症前から高血圧、糖尿病などの治療や生活習慣の改善を行い、CKD発症予防に努めることが重要である。
 糖尿病性腎症は人工透析が必要となる末期腎不全の最大の原因疾患である。十分な血糖管理でCKDの重症度(ステージ)の改善が可能である。
 CKDの家族歴を有する症例では、禁煙、減塩食などの生活習慣が推奨されている。肥満は蛋白尿、ESRDの危険因子で男性の方が影響が大きい。
●CKDの定義 
 蛋白尿などの腎疾患の存在を示す所見と腎機能低下のいずれか、あるいは両方が3ヵ月以上持続する状態をCKDと定義した。国内でのCKD頻度は成人の19%と推定される頻度の高い疾患である。

CKDの臨床経過
・CKDは一般に自覚症状が乏しく、微量アルブミン尿、蛋白尿などの尿異常から始まり、徐々に腎機能が低下して、多くは自覚症状がないまま末期腎不全に進行する。
・GFRの低下に伴い、高血圧や貧血、高カリウム血症、カルシウム・リン代謝異常が出現する。
・CKDの原因が不明な場合、薬剤の服用歴を含めた詳細な病歴の聴取が必要である。

CKDと心血管疾患との連関 
・CKDは末期腎不全に至る前に、心筋梗塞、心不全および脳卒中などの心血管疾患を発症および死亡することが多い。このためCKDの早期発見と心血管系疾患のリスク管理が重要となる。
・CKDは糖尿病や高血圧と同等もしくはそれ以上の心血管系疾患の危険因子である。
  最近、重症の腎疾患だけでなく、中等度の蛋白尿や中等度の糸球体濾過量の減少が心血管疾患の危険因子になることが、明らかになった。
・CKDと心血管疾患の危険因子の多くは共通である。
・逆に心血管疾患では、CKDの有無を確認する必要がある。
図1 腎臓機能が悪化するほど死亡率が上昇する。心血管疾患(脳卒中、心筋梗塞など)も増加する。
 図出典:2007年CKDガイドラインから
図2 日本人の資料でもCKDでは心臓病、脳卒中が増加する。
 図出典:2007年CKDガイドラインから
 


●末期腎不全の増加
  CKD患者は400万人以上と推測されている。慢性透析患者は25万人を越えて、毎年1万人以上増加している。国民の500人に1人が透析をうけている。透析にかかる費用は年間1兆円に近づいている。
●CKD患者に薬物を使うときの注意点
・多くの薬剤は腎臓から排泄される。CKD患者では腎排泄性の薬剤は血中濃度が上昇し、副作用の頻度が増大する。
・腎機能に応じて薬剤を減量する必要がある。
・抗菌薬やNSAIDs(鎮痛剤、解熱剤)はCKD患者や高齢者では腎障害を来す危険が大きい。
・造影剤による腎障害はCKD患者、糖尿病患者、高齢者で発症頻度が増大する。
・アロプリノール(商品名:ザイロリックなど)は腎機能が低下した症例では減量または中止する。

 参考:本サイトの内容は以下から抜粋、変更したものです。
1)日本腎臓学会のCKD診療ガイドライン: http://www.jsn.or.jp/jsn_new/news/CKD-web.pdf 
2)日本腎臓学会のサイト:http://www.jsn.or.jp/
3)日本医事新報2007年6月2日号
2007.6.14記  2007.6.15修正


   【痛風】
(106)痛風の食事療法、プリン体制限は無意味

まとめ:痛風の人にはプリン体の少ない食品を勧める」、「プリン体の多いビールより焼酎がよいは間違い!
痛風患者には、「プリン体の多い食品を
避ける」食事療法の効果はあまりない。
 米国の4万7150人の男性を対象に食事内容と痛風の関連を解析した研究が行われた。高プリン体野菜は痛風発症のリスクではないという結果が出た(ChoiHK,AtkmsonK,KarlsonEW,et al.N Engl J Med.2004;350:1093-103)。プリン体摂取量ではなく、総カロリーやアルコールの摂取制限を指導した方が効果が高いことが分かっている。
 食品由来の尿酸は2割にすぎない。
 
痛風の原因となる尿酸はプリン体から産生されるために、高尿酸血症の患者では、プリン体の摂取を抑えることが従来の常識であった。しかし、これを証明した示したデータはほとんどなかった。一方では体内で産生されるプリン体の量と比べると、食品由来のプリン体量は全体の約2割と少ないため、食事中のプリン体制限はあまり効果がない認識が広がってきた。
  プリン体よりも総カロリー、アルコール量の制限の方が大事
 帝京大内科教授の山内俊一氏は、プリン体摂取の制限よりも低カロリー食の方が尿酸値が低下すると言っている。軽症の高尿酸血症(尿酸値 7-8mg/dL)で、肥満のない患者の方は特に顕著に下がるという。
 また、一般には「プリン体が多く含まれるビールは痛風によくない。同じアルコールでもプリン体を含まない焼酎はよい」という常識も否定的である。アルコールの分解時には、大量のプリン体が産生される。またアルコールの種類にかかわらず、尿酸排泄の低下がおこるために尿酸値が上昇する。ビールでも焼酎でも、アルコール換算量が同じなら、影響もほぼ同じと考えた方がよい。

参考: 日経メディカル2007.2月号より 2007.6.14記  2007.6.15修正