トピックス(役立つ医学情報-循環器編No.22)】
公開日2006.11.20 更新日2007.01.17  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報(必ずしも最新ではありません)を紹介します。
このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。
105)【循環器】発症から3日以上経った心筋梗塞は、血流再開しても好ましい効果は得られない。 2007.01.17記
104)【循環器】発作性心房細動の洞調律維持治療に、薬物療法とアブレーションのどちらが優れているか2006.11.20記
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     【循環器】

(105)発症から3日以上経った心筋梗塞は、血流再開しても好ましい効果は得られない。

まとめ:従来から急性心筋梗塞(冠動脈が突然詰まることにより生じる)では、できるだけ早期(一般的な目安は6時間以内)に詰まった血管の血流を再開すると心筋梗塞の大きさが小さくなる、心臓の拡大が軽度ですむ、より良好な予後が得られる、など治療効果は明らかであった。では、「12時間から24時間はどうか」、「3日以上後ではどうか」。とくに、「3日以上後」はきちんとした研究がなかった。今回、米国の学会(AHA2006)で、「発症から3日以上経った心筋梗塞は、血流再開しても好ましい効果は得られない」との大規模研究結果の報告があった。
 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)に対する早期の血行再建術は左室機能および生存率を改善するが、約3分の1の症例は搬送の遅れなどで早期PCI(経皮的冠動脈インターベンション)の適応外となる。遅れてのPCIに何らかの好ましい効果が期待できないとの発表がAHA(2006年秋)であった。
1)OAT【急性心筋梗塞後3日-28日のPCは予後改善しない】Judith S.Hochman氏(ニューヨーク大学)発表
  OAT(Occluded Artery Trial)では、急性心筋梗塞発症後3-28日に対するPCIを施行した場合の予後改善効果を評価するランダム化比較試験を行った。結果は薬物療法単独群と同等であり、PCI併用の予後改善効果は確認されなかった。
 対象となった急性心筋梗塞2,166例はPCI併用群(1,082例)あるいは薬物療法単独群(1,084例)にランダムに割り付けられた。平均追跡期間はPCI併用群1,062日、薬物療法単独群1,057日。1次評価項目である複合エンドポイントの発生率はPCI群17.2%、薬物療法単独群15.6%で、両群間に有意な差は認められなかった〔ハザード比(HR)1.16,p=020〕。また、2次評価項目である全心筋梗塞(HR1.36,p=0.13)、非致死的心筋梗塞(HR1.44,p=0.08)、NYHA IV度心不全(HR O.98,p=0.92),死亡(HRl.03,p=0.83)も両群間で有意差はなかった。同氏は「MI発症後3-28日のPCIは心血管イベントの発生を低減せず、むしろ非致死的心筋梗塞を増加させる傾向が見られ、PCIは不要であると結論づけた。
「medical tribune 2007.01.11」より

2)TOSCA-2【安定期心筋梗塞の梗塞責任動脈に対するPCIの適応は推奨されない】Vladimir Dzavik氏(大学保健ネットワーク,カナダ・トロント)
 TOSCA(Total occlusion Study of CAnada)-2はのOATのサブスタディである。急性期を過ぎた心筋梗塞(MI)の閉塞した梗塞責任動脈に対して、PCIを併用する群と薬物療法のみ行う群を比較したところ、1年後の梗塞責任動脈の開存率はPCI併用群で良好であったが、左室駆出率(LVEF)は改善されなかった。
 対象はOAT登録例のうちの381例(PCI併用群195例、薬物療法単独群186例)で、1年後の血管造影再施行例は332例(同173例、159例)、左室血管造影施行例は286例(同150例、136例)であった。
 1次評価項目の1つ、1年後の梗塞責任動脈開存率はPCI併用群82.7%、薬物療法単独群25.2%とPCI併用群で有意(p<0.0001)に優れていたが、1年後のLVEF変化率はPCI併用群4.2±8.9%、薬物療法単独群3.5±8.2%と、両群間で有意差は認められなかった(p=0.47)。また、左室収縮末期容積の変化量、左室拡張末期容積の変化量は両群間で有意差はなかった。心筋梗塞発症後3-28日のPCIは1年後も高い開存率がもたらされるが、LVEFの改善は得られず、臨床上の利益が得られなかったことから、安定期心筋梗塞に対するPCIの適応は推奨されないと報告した。
【参考】
出典は、「medical tribune 2007.01.11」の記事。第79回米国心臓協会学術集会(AHA2006)より
2007.01.17記   2007.01.1修正


     【循環器】

(104)発作性心房細動の洞調律維持治療に、薬物療法とアブレーションのどちらが優れているか。

まとめ:アブレーションは、発作性心房細動の根治療法となるが、まだ安全性、有効率、長期成積などに難点があり、現時点では薬物療法に取って代わるほど技術レベルに達していない。
 【カテーテル・アブレーションの問題点】
●リズムコントロールにおいて薬物治療を推奨する立場での研究成績を報告。

 中里助教授(順天堂大学循環器内科)は、アブレーションの問題点を挙げた。
1)身体への侵襲が大きい。
2005年のWorld wide Survey(CappatoL,etal.Circulation 2005;111:1100-1105)によると、5)重症合併症もある。アブレーションの合併症発症頻度は約6%で、肺静脈狭窄などの重症例周術期死亡例もある。致死的合併症として左房・食道痩なども指摘されている。
2)熟練した手技が求められ、施設間の治療結果にばらつきがある。 
 World wide Surveyで、年間150例以上のアブレーションを施行している施設の半数以上が薬物療法併用なしで治療に成功している。一方、施行例数がそれ以下の施設では、薬物療法を併用しても7割程度の成功率維持にとどまっていた。
3)再発例もあり、アブレーション後も薬物療法を中止できないことがある。

 長期成績では術後1、2年で30-40%が再発するとの報告もある(Oral H,etal .J Cardiovasc Electrophysio 2004;15:921-924)。
 一方、薬物治療については、近年有効性の高い抗不整脈薬を組み合わせた治療が可能となってきており、長期観察でも良好なリズムコントロールが可能であると報告。同助教授は「アブレーションの治療成績と比較してもそん色がない」としている。
 また、レニン・アンジオテンシン系阻害薬やスタテン系薬併用の有用性も報告がある。さらに、魚の摂取量が多いと心房細動の発生が少ないとする疫学データもある。

【アブレーションの有用性】
 一方、青沼和睦教授(筑波大学大学院人間総合科学研究科循環器病態医学)は、早い段階での根治的治療としてアブレーションの施行が優れると報告した。アブレーション治療は根治が得られる可能性があり、「少なくとも数年単位での洞調律の維持が高頻度に認められる」とその意義を述べた。
【参考】
出典は、「medical tribune 2006.10.26」の記事。第54回日本心臓病学会のコントラパーシー「心房細動」より
2006.11.20記   2006.12.10修正