公開日 2002.10.01、更新日2004.10.1 
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記事は参考に留め、治療方針は診療医師と相談してください。
【高血圧Q&A(詳細解説 part1)】

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01)高血圧の原因は何でしょうか?
02)高血圧と自覚症状の関係は? 血圧が高いと頭痛・動悸・肩こりがするのでしょうか?
03)家庭血圧測定の注意点を教えてください。
04)血圧はいくらまでが正常ですか?
05)高血圧の治療を行うかどうかはどのようにして判断するのでしょうか?

06)「白衣高血圧」、「白衣現象」とは何でしょうか?(同義語「診察室高血圧」)
07)「白衣高血圧」も高血圧としての治療がいるのでしょうね? 2004.10.1追加
08)なぜ高血圧は治療しなければならないのでしょうか?
09)高血圧の人は薬を飲んで、できるだけ早く血圧を下げた方がよいのでしょうか?
10)症状のない軽症高血圧は経過をみるだけでよいでしょうか?

11)すれすれの正常血圧(正常高値血圧)はどうしたらよいのでしょうか?
12)高血圧の治療はどの年齢でも行うべきでしょうか?
13)高齢者の降圧目標値は高くてよいのでしょうか?(類似Q20)
14)一日の中で血圧はどれくらい変動するのでしょうか?
15)いつも診療所で血圧測定している人は、家庭血圧測定は不要でしょうか?

16)なぜ家庭血圧測定が大事なのでしょうか?
17)家庭での血圧測定器はどれがいいのでしょうか?
18)高血圧の人は血圧を下げることが一番の治療でしょうか?
19)私の血圧150/100mmHgは治療しないとどれくらい危ないのでしょう(日本版)?
20)高齢者の高血圧治療の特色はありますか?


PART 2へ

21)高血圧の治療で脳卒中はどれくらい予防できますか? 2003.2.16記
22)高血圧の治療で痴呆が少なくなりますか?  2003.2.15記
23)グレープフルーツジュースは血圧の薬に影響するのですか?  2003.2.15記
24)高血圧の薬は一度飲み始めると止めることができないのでしょうか?  2003.3.24記
25)高血圧の薬は1日1回と3回のどちらがよいのですか?  2003.3.24記
26)高血圧で脳梗塞も増えますか?   2003.3.24記
27)いろいろな血圧降下剤がありますが、どのようにして選ぶのですか?  2003.7.26追記
28)Ca拮抗剤とARBはどちらが優れているのか(VALUE試験)? 2004.07.01記
29)仮面高血圧とはどんな病気? 2005.04.01記
30)高血圧治療における心拍数抑制の重要性 2005.08.24記


PART3へ
31)高血圧で脳卒中はどれだけ増えますか? 2005.09.14記
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Q1:高血圧の原因は何でしょうか?

A:80%が詳細な原因不明の本態性高血圧です。

  非常に頻度の高い病気である高血圧の原因の約80%は、以外にもいまだに原因がはっきり究明されていない「本態性高血圧」と呼ばれるものです。本態性高血圧の原因は一つでなく、遺伝的因子・後天的因子(食塩摂取量・肥満・ストレスなど)の複数の原因によるものと推測されています。
 両親ともに高血圧の場合は子供の約半数が、片親が高血圧の場合は約4分の1が高血圧になるといわれています。一卵性の双子の本態性高血圧の一致率は70%と言われています。つまり、100%遺伝で決まるものではないが、遺伝的要素が大きい病気といえます。
 日本における高血圧の頻度は年齢とともに増加し、50-70歳の約30%に高血圧があると言われています。家族に高血圧の人がいる場合には40歳ぐらいから血圧に注意しましょう。
 一方、腎臓病、血管障害、心臓病、内分泌や代謝の異常などの基礎疾患によって血圧の上昇がおこる場合を二次性高血圧と呼んでいます。高血圧の15%は腎臓障害に伴う高血圧です。残りの5%がホルモンなどの異常です。
  最初の高血圧診断に際しては発症年齢、家族歴、身体所見、検査所見、治療抵抗性から2次性高血圧の可能性が高くないか考える必要があります。特に若年性の中等症以上の高血圧は2次性高血圧の可能性を念頭において診察します。
 二次性高血圧の治療方針はその基礎疾患に大きく左右されるので、本態性高血圧と区別されます。二次性高血圧の場合は、外科的な治療で高血圧が治癒できることもあります。

 


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Q2:高血圧と自覚症状の関係は? 血圧が高いと頭痛・動悸・肩こりがするのでしょうか?

A:純粋に高血圧が原因で生じる症状は極めて少ない。むしろ、臓器障害が生じるまで無症状であることが問題です。

 収縮期血圧が180 mmHg程度の血圧なら重症の基礎疾患でもない限り、上昇した血圧だけが原因で症状がでることはまずありません。調査によると頭痛・肩こり・耳鳴り・めまい・手足のしびれなどの症状は、高血圧の人も正常血圧の人も同じ頻度で出現しています。
  しかし、気分が悪いときに血圧を測ると上昇しているという経験を持つ患者さんは少なくありません。これは頭痛などのストレスがかかると20mmHg程度の血圧上昇が起こるからです。
 つまり、多くの場合血圧上昇や随伴するいろいろな症状は、ストレスなどの結果 であり、血圧上昇によって症状が生じたのではありません。高血圧の診断には自覚症状は全くあてにならないと思ってください。
 高血圧には「沈黙の殺人者」の異名があります。無症状でも着実に血管や臓器障害が進み、合併症の危険性が高まります。合併症による症状が現れたときはかなり進行していると言えます。また、定期的な血圧測定をしないと突然の脳卒中・心臓病発作・大動脈瘤破裂など、初発症状から重症であることもあります。
つまり、かなり病状が進むまでは自覚症状が少ないことが高血圧という病気の大きな問題点なのです。

 


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Q3:家庭血圧の測定の注意点を教えてください?

A:安静時、座位、食前または眠前。

  高血圧診療の基準血圧としては、現在外来診療時の「座位の血圧測定 」が世界の標準となっています。

血圧は一日の中でかなりの変動(日内変動)があります。また、体位(仰臥位:仰向け状態、立位、座位)・運動直後・喫煙・食後・入浴後・排尿排便前および後・室内温度・精神的なストレスなどによる変化が大きく、いつどのようにして測った血圧かが常に問題となります。

  外来では10〜15分以上休んだ後に、数分間座らせてから血圧を測り、高い場合は2〜3度測定し、後の血圧の平均を使うこともあります。しかし、そのようにきちんと測ることはむしろまれでしょう。通常、何回か異なった機会に測定した複数の血圧値に基づいて高血圧の診断を行うようにします。

 なんらかの原因で片腕の動脈の狭窄や閉塞があると,それよりも末梢での血圧は低下します。脈拍の強さに左右があったりするなど末梢血管障害の徴候がみられた場合には、両腕で血圧を測定します。左と右で血圧が10mmHg以上違う場合は異常です.この場合の血圧測定は高い方で測ります。 測定時には、きついシャツ等で腕の上部を締めつけないように注意してください。血圧計は腕と同じ高さのところにおいて測ります。巻き付けるカフが心臓の高さになるように注意します。

 高齢者、糖尿病患者、および起立性低血圧がしばしばみられるような他の状況が存在するときには、患者さんを臥位または座位から立位にして血圧を測定します。 すこし、細かいことを言えば巻き付けるカフ(腕帯)の大きさも、肥満者の太い腕では幅の広いもの(肥満者用腕帯)を使うのが正しい測定法です。
  記録する内容は収縮期血圧(最大血圧)、拡張期血圧(最小血圧)と脈拍数です。脈拍数は、リラックスの状態や薬の作用などをみるのに大事な指標です。 自宅で測る場合には、時間帯(朝食前、昼食前、就寝前など)を必ず記録しましょう。

※起立性低血圧: 寝た姿勢や座った姿勢から,直立姿勢をとった直後に起こる過度の血圧低下(20/10mmHg以上)。起立性低血圧はいろいろな原因による血圧調節の異常を意味し,立ちくらみの原因となる。ひどい場合には失神を生じる。

 


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Q4:血圧はいくらまでが正常ですか?

A:外来診療時の正常血圧基準値は140/90mmHg未満と決められています。一方、家庭血圧の正常血圧の目安は125〜135/80〜85mmHg未満くらいです。家庭血圧の正常基準値はまだ決まっていません。(※注1)


■血圧分類(日本高血圧学会2000年)
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至適血圧は   収縮期血圧<120mmHg   かつ  拡張期血圧< 80mmHg
正常血圧は   収縮期血圧<130mmHg   かつ  拡張期血圧< 85mmHg
正常高値血圧は 収縮期血圧130-139mmHg または 拡張期血圧85-89mmHg
---------------------------------------------------------------------------
軽症高血圧は  収縮期血圧140-159mmHg または 拡張期血圧90-99mmHg
中等症高血圧は 収縮期血圧160-179mmHg または 拡張期血圧100-109mmHg
重症高血圧は  収縮期血圧180mmHg以上  または 拡張期血圧110mmHg以上
---------------------------------------------------------------------------
収縮期高血圧  収縮期血圧140mmHg以上  かつ  拡張期血圧90mmHg未満
---------------------------------------------------------------------------

※注1 家庭血圧の正常値(まえだ談)

 高血圧の診断は外来で測定した血圧が基準になっていますが、外来診察時の血圧がその人の日常的な血圧を代表しているかどうかは大変疑問です。最近は家庭血圧計が普及し、外来血圧よりも家庭血圧測定値のほうが高血圧診療の参考になるとの意見が多く聞かれるようになりました。しかし、困ったことに家庭血圧の正常値の基準はまだ統一されていません。

  日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2000年版」では、大迫研究をもとに家庭血圧135/85mmHg以上が高血圧の基準値になっています。しかし、1999年WHO-ISHガイドラインの解説では「125/80mmHg付近の家庭血圧は、診察室で測定する血圧の140/90mmHgに相当する」と言っています。
  今井らは広範な疫学研究の成積を元に家庭血圧の分類を「135/85mmHg以上を要治療」、「125/80mmHg未満を正常」としています。少なくとも135/85 mmHg以上あれば,治療を要する高血圧と考えられています。
 とりあえず、当院では家庭血圧125/80mmHg未満を正常とし、125〜135mmHgは境界域として扱っていますが、正式な基準ではありません。できるだけ早く家庭血圧の正式な分類がほしいものです。

【参考】永井謙一、今井 潤:日内会誌88:262、1999

※日本高血圧学会は、2003.9月に「家庭血圧測定条件設定の指針」を発表した。


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Q5:高血圧の治療を行うかどうかはどのようにして判断するのでしょうか?

A:治療を要する高血圧があるかどうかの判断は以外と難しい。

  外来診察室において数回測定した血圧で、収縮期血圧が140mmHg以上で高血圧と診断します。または拡張期血圧が90mmHg以上で高血圧と診断します。さらに拡張期血圧が90mmHg未満であっても収縮期血圧が140mmHg以上の場合も、高血圧(収縮期高血圧)とみなされます。ただ、血圧は季節や日常活動、精神状態によって刻々と変化しています
 また診察室では高いのに、自宅では正常という人もいます。自宅で測定した血圧は記録して、医師に提示して下さい。家庭での血圧測定値の高血圧の目安は135/85mmHg以上(130/80mmHgという人もいる)です。家庭血圧の基準値は正式には定まっていません。 注※

こうやって、高血圧と診断されたならすぐに薬を飲み始めなければならないと言うわけではありません。
高血圧ガイドラインでは、重症高血圧ではすぐに降圧剤を開始することを勧めています。
しかし、合併症のない中等症以下の高血圧は、生活習慣の改善で降圧が期待できる場合には薬物治療の前に生活指導を行うことを勧めています(後述Q9)。

※日本高血圧学会は、2003.9月に「家庭血圧測定条件設定の指針」を発表した。

 


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Q6:「白衣高血圧症」、「白衣現象」とは何でしょうか?(同義語「診察室高血圧」)

 A:「白衣高血圧症」とは医師や看護婦の前で測った時の血圧は高いが、他では正常である場合。

 診察室で測る時に血圧が上昇することを「白衣現象(または白衣効果)」と呼んでいます。「医師や看護婦の白衣を見ると、血圧が高くなる現象」という意味です。さらに病院や診療所ではいつも血圧が高いが、他の場所で測定した時には正常血圧である場合を「白衣高血圧症(または診察室高血圧)」と呼んでいます。
  高血圧と診断された患者の20%以上が実際は白衣高血圧症ではないかと推定する研究者もいます。これを知らずに持続性高血圧として治療している医師が多いとも言われています。是非家庭での血圧測定を記録して、高血圧診療に詳しい医師に相談してください。
  白衣現象の成因は多くの場合、精神的な緊張せいと考えられますが、これだけでは説明つかず、正確にはまだよく分かっていません。

 


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Q7:「白衣高血圧症」も高血圧としての治療がいるのでしょうね?

 A:治療すべきかどうかについて、まだ結論がでていません。

 白衣現象の成因は十分に解明されていません。また、白衣高血圧症が臓器障害を起こすかどうかも結論がでていません。
  高血圧の治療の目的は臓器障害の予防ですから、臓器障害を起こさないなら治療の必要がなく、逆にあれば治療の必要があります。ですから、現在のところどう対処するのがよいか結論が出ていません。とりあえず、 減塩、肥満解消、禁煙などの生活指導を行い、薬物治療せずに血圧の経過観察するのが普通でしょう。経過中に持続的な血圧上昇に移行したり、臓器障害の兆しが生じてくれば降圧療法を行ったほうがよいでしょう。

 白衣高血圧症の約30%が3年以内に持続性の高血圧に移行したとの報告もあります。特に「最も血圧が高かった患者群」と、「血圧の変化の幅が最も大きかった患者群」が持続性高血圧に移行しやすいと言っています。このような患者さんに対して、医師は 3 〜 4 か月に 1 回血圧を調べ、よく観察しておく必要があります。
 白衣現象自体はほとんどの高血圧患者さんに見られる現象ですので、患者さんはぜひ家庭での血圧と脈拍測定を記録してみることをお勧めします。この場合の高い血圧を治療するかどうかの判断は専門医でも難しいことがあります。
患者さんに注意してほしいことは、「血圧に対する判断は自己判断しないこと」。必ず高血圧に詳しい医師に相談してください。

  また、家庭血圧計を購入する際には「腕に巻く」タイプの血圧計を選んでください。
 くれぐれも「指」や「手首」で測定するタイプの血圧計は使わないでください。
「指」や「手首」で計る血圧は、大雑把な血圧の目安にしかすぎません。高血圧治療には不向きです。
左室肥大の出現頻度:AM.Grandi,etal.:Arc INtern med.161,2677,2001
 
左室肥大あり
正常血圧 42例 0例 0%
白衣高血圧 42例 7例 17%
持続性高血圧 42例 17例 40%
左室肥大の基準、男性LVMI>130g/m2、 女性LVMI>110g/m2
白衣高血圧の中には、高血圧治療を行った方がよい例がある可能性は高い事を示ている。 2004.10.1追加

 

 


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Q8:なぜ高血圧は治療しなければならないのでしょうか?

 A:高血圧による臓器障害(合併症)を減らし、生命ならびに生活の質を損なわないようにするためです 。

 高血圧ではいろいろな臓器の障害(合併症)がほとんど自覚症状のないまま進行します。やがて臓器不全が徐々に進んで、生活の制限を受けるようになるか、または心筋梗塞や脳卒中などを突然発症します。これらの心血管合併症のために最終的には死に至ります。高血圧治療の最終目標は、これらの臓器障害を予防することです
 降圧剤による治療によって高血圧合併症が減ることが証明されています。しかし、たとえ正常血圧になっても元から正常血圧の人よりは臓器障害を起こしやすいので、喫煙などの血圧以外の心血管危険因子の排除を怠らないでください

●脳血管障害

 脳血管障害とは脳出血(脳内の血管が破れる)、脳梗塞(血管が詰まる)、くも膜下出血(脳表面の血管が破れる)などの総称です。脳血管は全身の動脈の中でも高血圧の影響を最も強く受ける部位です。 人間の脳は急速に大きくなったために、脳の血管の成長がそれについていけず、発育不良になっていると言われています。脳血管は他臓器の血管に比べて脆弱で、高血圧によって破綻しやすいのです。
  高血圧治療が普及したおかげで脳血管障害の発病率は過去の最も多かった時の1/3くらいにまで減少しました。
参考:Q21:高血圧の治療で脳卒中はどれくらい予防できますか?

 脳梗塞は動脈硬化により、血管に血の塊がつくために起こる脳血栓と心房細動・心臓弁膜症・心筋梗塞など心臓病患者さんの心臓内に血の塊(血栓)が形成され、それが剥離して流れて飛んで、脳の血管に詰まる血栓塞栓 があります。その割合はおよそ2:1と推測されています。 脳梗塞は高血圧で増加しますが、脳出血ほど高血圧の影響は強くありません。
 そのため、高血圧治療の普及により、脳血管障害の総数が減りました。その内訳では、過去10年間で脳出血の割合は35%から25%へ減少し、逆に脳梗塞では総数は減少したものの、脳血管障害に占める割合は50%から60%に増えました。

 脳出血も脳梗塞も脳の損傷を受けるわけですから、当然痴呆症の原因となります(脳血管性痴呆症)。 小さな脳梗塞は古くなると頭部CT検査でも確認が難しくなることがよくあります。脳梗塞や脳出血がなくても小さな脳梗塞を繰り返したために痴呆になったのではないかと思われる患者さんはたくさんいます。 血圧が高いと明らかな脳卒中発作がなくても痴呆症が増えます。ぼけ予防のためにも高血圧の治療はきちんと行っておきましょう。
参考:Q22 高血圧の治療で痴呆が少なくなりますか?

●心臓の障害

 高血圧は狭心症・心筋梗塞の重要な危険因子(冠動脈危険因子)の一つです。
  冠動脈硬化症による虚血性心疾患、肥大による心筋障害やそれらの結果としての心不全などの高血圧性病変が、高血圧の程度と期間とともに増加します。心臓に関しては「心疾患」のページで詳しく解説する予定ですので、ここでは省略します。

●腎臓障害(腎実質障害、腎動脈の狭窄)

 高血圧により、左右の腎臓へ通っている腎動脈の動脈硬化による狭窄や腎実質障害によって腎臓機能障害が起こります。多くは後者です。 合併症のない患者の降圧目標値は140/90mmHg未満ですが、腎機能障害が認められる高血圧では、腎機能障害の初期から130/85(または80)mmHg、蛋白尿が多い人は125/75mmHg未満とより厳しい管理目標とされています。
 また、糖尿病患者はもともと腎機能障害を生じやすいので、腎機能障害を認める以前から130/85(または80)mmHg未満に管理目標が設定されています。
  しかし、現実には腎機能障害のある患者さんの高血圧は複数の降圧剤を使っても、十分に降圧できないことが少なくありません。また中等度以上の腎機能障害では薬の副作用も増え、使える降圧剤も限定されるので注意が必要です。

●大動脈瘤(解離性大動脈瘤、胸部・腹部大動脈瘤)

 一部の先天的な大動脈壁の脆弱性や高血圧による動脈硬化により生じます。解離性大動脈瘤は3層からなる大血管壁に裂け目が生じ、大動脈壁内に血液が入り込み血腫が形成され、内外の2層に解離する病気です。
 血管解離が脳への血管の分岐よりも心臓側(上行大動脈)から生じると経過が悪く、それより後(下行大動脈)だとそれよりは予後がよいと言われています。手術療法を除けば血圧コントロールが大動脈瘤の進展予防の最大の重要項目です。
 持続的な血圧上昇だけでなく、突発的な血圧上昇による大動脈瘤破裂にも注意を払う必要性があります。β遮断薬は突発的な上昇や脈波の急峻な立ち上がりを抑制します。しかし、あくまでも大動脈瘤の根本的治療は外科手術です。

  腹部大動脈瘤は瘤の大きさや形態から、その破裂の危険性が予想ができます。腹部エコー検査で瘤の大きさが5cmを越えたら外科手術を念頭に置きます。また、腹部大動脈瘤の手術は、脳への血流を遮断しないでできるので、人工心肺を使う必要がありません。腹部大動脈瘤は手術方法の進歩もあり、かなり安全に手術できるようになりました。さらに、1991年よりステントグラフト治療(人工血管内挿術)という開腹を行わない方法も始まりました。
  一方、胸部大動脈瘤は脳血管への分岐があるため、手術は大がかりになり、手術の死亡率もずっと高いやっかいな病気です。診断にはCT検査またはMRI検査が必要です。通常のレントゲンでは詳細な評価はできず、体表からのエコー検査も不十分です。

●その他の末梢動脈硬化症(閉塞性動脈硬化症など)

 閉塞性動脈硬化症は、おもに足(下肢)の動脈硬化による血管の狭窄または閉塞により生じる病気です。高血圧だけでなく、喫煙や糖尿病の合併があるとさらに生じやすくなります。 初期には足の冷感やしびれがあります。 やや進むと一定の距離を歩くと下肢の筋肉の痛み・ひきつれを感じて歩けなくなるが、休むと回復し、再び歩くことができるという症状がでます。これを間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼び、かなり特徴的な症状です。
 このとき足背部にある動脈の拍動が微弱になっていないかに注目すれば、90%は診断できると言われています。間歇性跛行様の症状のある方は、一度診察してもらいましょう。

 


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Q9:高血圧の人は薬を飲んで、できるだけ早く血圧を下げた方がよいのでしょうか?

 A:薬を必要とする高血圧どうかの判断は、判断が難しいことも時々あります。高血圧治療に詳しい医師と相談してください。

 脳、心臓、腎臓、大血管などの臓器障害のない初期の高血圧の当院の治療指針について述べましょう。

 通常の診察・検尿・血液検査で異常がなければ、40歳以上の高血圧はほとんど基礎疾患のない本態性高血圧です。しかし、診察室では血圧が高く、それ以外ではほとんど正常という人(白衣高血圧症)かどうかの判断を行うために、問診や家庭血圧測定を必ず行います。
  合併症がないかぎり、170/95mmHgの中等症高血圧(中等リスク群:後述Q19)は3ヶ月くらいかけてゆっくり降圧しても問題ありません。ですから、生活習慣の改善や肥満の改善により降圧が期待できる場合には、最長3ヶ月くらいまでは生活習慣の改善だけで様子をみてもよいのです。

 逆に、一部の医師がいまだに行っている薬物舌下などによる緊急血圧降下治療は好ましくないと言われていますので、ご存じない先生方はご注意下さい。かなり前から米国では言われてきたことですが、2002年には日本の厚生労働省も、好ましくない治療として通達を出しています。

  当院では通常まず減塩食療法の指導を行い、1〜2週間家庭血圧測定を記録していただきます。主に白衣高血圧の除外と治療前の血圧評価のためです。高血圧の診断は簡単そうですが、治療前の血圧の評価には意外と落とし穴があるのです。 当院では診察室での血圧が180mmHgあっても、家庭血圧でほとんど135/85mmHgよりも低ければ、しばらくは血圧の経過をみながら薬物療法は行わず、原則的に一般療法のみとしています。 ただし、糖尿病の合併、腎臓機能の障害、心電図や心エコー検査で左室肥大の所見などが少しでもあれば、積極的に薬による治療を開始します。

 


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Q10:症状のない軽症高血圧は経過をみるだけでよいでしょうか?

A:いけません。高血圧以外の危険因子を考慮して、一般療法のみするか、薬物療法とするか検討すべきです。

 高血圧は一定期間持続すれば、例外なく血管や臓器障害を生じます。 頭痛、肩こり、気分不良などの症状による重症度の推定は全くあてにできません。 合併症の重症度が高い場合には症状がなくても高血圧は生命に直結します。高血圧が「沈黙の殺人者」と呼ばれるゆえんです。 軽症高血圧でも長期的な予後を考えれば、生活習慣の改善を含めた治療はかならず必要です。
  特に糖尿病や腎臓機能障害のある患者さんでは、血圧130〜139mmHgでも障害が増加すると言われています。 これらの人に勧める血圧管理目標値は130/85mmHg(または130/80mmHg)未満です。

 


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Q11:すれすれの正常血圧(正常高値血圧)は経過をみるだけでよいのでしょうか?

 A:合併症がなければ、高血圧予備軍として生活習慣の改善を行う。糖尿病や腎機能障害があれば積極的に降圧療法を行う。

 血圧130〜139/85〜89mmHgは正常高値血圧と呼ばれています。正常だから治療しなくても問題ないのかどうかを以下で説明します。

  このレベルの血圧でも120/80mmHg未満の至適血圧よりも心臓・血管系の病気は増えると言われています。 しかし、糖尿病や腎機能障害などの合併症がない場合には、至適血圧の人との合併症の発生率の差はわずかなので薬物療法まで行う必要はないとされています。

 正常高値血圧は通常薬物療法を必要としませんが、例外があります。 糖尿病や腎臓機能障害がある場合は130/85mmHg未満(130 / 80mmHg未満との意見もある)、また多量の蛋白尿を認める場合は降圧による腎障害の進行抑制効果がはっきりしており、降圧の程度が大きいほどその抑制効果が大きいとされています。 1日1g以上の多量の蛋白尿がある場合は125/75mmHg未満を目標血圧値にすべきと言われています。
 これらの患者さんでは130/80mmHgを越えたあたりで、すでに腎臓機能障害が進行すると言うのです。この場合には正常高値血圧であっても薬物療法が勧められます。また、糖尿病や軽度の腎機能障害がある場合の降圧剤はACE阻害薬やAII受容体拮抗薬がよいとされています。 これらの薬剤は血圧降下の割に腎機能障害の進行を抑制すると言われています。さらに血圧降下がなくても腎臓障害の進展を遅らせるとも言われています。

 高血圧は通常年齢とともに発症してきますので、正常高値血圧は高血圧に進む初期段階の可能性があります。 事実、正常高値血圧の人は、そのまま何もしなければ、5年以内に約2割が高血圧に移行したと報告されています。 しかし、積極的な生活習慣の改善(減量、減塩、節酒)を行った場合は、高血圧への移行が半分以下になると報告されています(Stamlerら1989)。正常高値血圧の段階から生活習慣の改善に心掛ければ、高血圧発症を予防または遅らせることができるのです。

 


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Q12:高血圧の治療はどの年齢でも行うべきでしょうか?

 A:原則的にどの年齢でも治療効果が期待できます。

 85歳以上の超高齢者の降圧の有効性は証明されていません。 その超高齢者を除いて、どの年齢でも高血圧治療による合併症予防・軽減効果があります。しかし、残念ながら治療により血圧が正常範囲になっても、もともとの正常血圧者に比べると心血管合併症は多いと言われていますので、血圧以外の危険因子の排除も一緒に行うことが大事です。
 また、「若い頃は高血圧にも耐えられるだろうから、もっと年齢が高くなってから治療を開始しよう」と治療を先送りにする人がいますが、高血圧合併症の大部分は一度起こると正常に復帰しないので、この考え方は危険です。 同年代の高血圧群と正常血圧群との心臓病や脳卒中の発生率の比較では、高齢者よりは若年者のほうが、高血圧の影響が大きいと報告されています。
 また若年者は積極的な治療が必要な二次性高血圧の頻度が高く、正確な診断を早期に行うことが必要です。若くてもライフスタイル改善の指導を受け、必要なら薬物療法を行ってでも高血圧治療行うことを勧めます。

 

 


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Q13:高齢者の降圧目標値は高くてよいのでしょうか?

 A:高齢者でもできるだけ、140/90mmHg未満が望ましい。

    以下は当院の考え方です。
「血圧は年齢プラス90が標準」と年齢を加味した血圧を時々耳にしますが、どうもこの値は同年代の血圧平均値を示した数字らしく、正常値や目標値と言うことではないようです。「理想的な血圧は年齢には関係ない」というのが、現在の世界の常識です。 米合同委員会(JNC-VI '98)、世界保健機関・国際高血圧学会(W HO/ISH '99)はいずれも年齢にかかわらず、合併症のない高血圧は140/90mmHg未満に血圧管理することを目標にしています。

 世界保健機関・国際高血圧学会(WHO/ISH1999)では、高齢者における高血圧の治療により心血管合併症を低下させる効果は、壮年患者の場合と比較して、少なくとも同等であると述べています。 一方、日本老年病学会では高齢者の血圧目標値を高く設定し、年齢ごとに異なった血圧管理目標値をおいています。どちらが正しいのか、欧米人とアジア人で異なるのか、正しい答はまだ不明です。

 日本での講演会に招待された海外の高血圧の専門家は、日本の高齢者血圧管理目標に対して、首を傾げています。「世界で明らかにされた研究成果、を日本の高血圧治療にも是非反映させてほしい」と言っていました。しかし、心臓病よりも脳血管障害の多い日本と欧米では、高血圧治療が多少異なってきても不思議ではありません。 また、高齢者に多い収縮期高血圧は測定値の変動も大きく、なかなか常時140mmHg未満にすることが困難なことが多いようです。

個人的な意見として、日本の勧告は根拠となる研究が不十分のようですが、推奨された血圧管理目標値は、現実的な数値ではあります。

 結局、合併症がない高血圧の場合は、高齢者でも血圧は140/90mmHg未満が好ましいと当院では考えています。ただし、高齢者では潜在的に血管合併症を持っている可能性が高いので、ゆっくり血圧を下げることを行っています。 また、夏場は脱水傾向が重なり、血圧の低下や脳梗塞の増加が心配されますので、下げすぎないように特に注意します。 一方、合併症(特に脳梗塞)がある場合には、正常血圧域にまで降圧すると血流低下からさらに臓器障害が進行することがあり、症状をみながら下げすぎないことと、数カ月をかけてゆっくり降圧することが大切と考えています(類似Q20へ)。

参考:老年者高血圧における降圧薬治療対象血圧値、降圧目標値
年代/血圧(mmHg)
60歳代
70歳代
80歳代
治療対象血圧値
収縮期血圧
140〜159
160〜169
160〜180
拡張期血圧
90以上
90以上
90以上
降圧目標値
収縮期血圧
140以下
150〜160
160〜170
拡張期血圧
90未満
90未満
90未満
老年者の高血圧治療ガイドライン―1999年改訂版―、日老医誌36: 576-603, 1999



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Q14:一日の中で血圧はどれくらい変動するのでしょうか?

  A:一日の中でみると、驚くほどの変動があります。

 血圧は起床前に急上昇して日中の間は高く、就寝とともに下降し、深夜の間に最低値をとるという一日内の変動(日内変動)がみられます。高血圧患者や高齢者では特に大きな血圧の日内変動がみられます。 また日常の活動、精神状態によって、血圧は強く影響され、1分も経たない間に変化します。
  人によってずいぶん変動の幅は異なりますが、ちょっとした会話・食事・歩行直後、一服の煙草で10〜20mmHg上昇、慣れた車の運転で30〜40mmHg上昇、排尿前の緊張で40mmHg上昇、排便でりきむと60mmHg以上の上昇がみられたとの報告があります。 また、熱い風呂や寒いトイレなども血圧の急上昇を起こします。

 カフェインを含む飲料物でも血圧は短期的に上昇します。飲酒では血圧は上昇する人だけでなく、低下する人もあります。

日内変動での早朝の血圧上昇は心筋梗塞や脳卒中の誘因になると言われ、高血圧治療の大きな問題点となっています。 また、夜間に血圧が低下しすぎると脳梗塞になりやすいと言われています。血圧変動は病気の起こりやすい時間帯と深い関わり合いがあるのです。 リスクの高い人は血圧の急上昇が起こらないように生活の工夫も大事です。

 

 


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Q15:いつも診療所で血圧測定している人は、家庭血圧測定は不要でしょうか?

 A:家庭血圧と診察時の血圧に大差がないことを確認しておく必要があります。

  最近は診察中の血圧よりも家庭血圧の記録のほうが、予後予測において信頼性が高く、高血圧外来診療に役立つと言われるようになりました。しかし、家庭血圧測定を十分に利用しているのはまだごく一部の医療機関です。

 当院では高血圧と診断された患者さんは、基本的には診断の初期段階で自宅血圧測定を行っていただきます。そのために血圧計を貸し出したりもします。血圧が安定してない患者さんや140〜160mmHgくらいの患者さんも自宅での測定値を記録してもらい、診察室の測定値と比較します。
 ただし、家庭血圧測定で得られた情報はまだ資料不足で、従来の外来測定に取って代わるのではありません。あくまでも補助的なものと現在のところは考えてください 。

 

 


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Q16:なぜ家庭血圧測定が大事なのでしょうか?

 A:適切に測定できれば、診察室の血圧測定値よりも家庭血圧の記録の方が優れている点があります。

 ●家庭血圧の記録を重要視する理由
 治療の指標となっている診療時血圧測定の問題点は小さくありません。
血圧は日内変動が大きく、刻々と変化しています。ちょっとした会話でも血圧は上昇します。 また、大して緊張もしてないのに診察中だけ血圧がずいぶんと高い人がいます。月に1〜2回、診察室という特殊な環境下での血圧測定だけでは日中の平均的な血圧から、かなりずれる人もでてくるのです。

 高血圧による障害は高血圧の程度と持続期間によります。これに血圧以外の喫煙や高血糖などの動脈硬化促進因子が相乗的に作用し、合併症の発症を加速します。 高血圧による臓器障害は、診察室における血圧よりも日中の平均血圧とより密接に関連しているとした多くの証拠がでています。
もし、一日のなかで血圧の上昇がわずかの時間だとしたら臓器障害はわずかです。

  家庭血圧測定の利点は、日常生活により近い状態で測った異なる多数の日の血圧値が得られることです。
そのため、診察室の血圧測定よりも家庭での血圧測定を頻回おこなう方が、高血圧の診断や降圧治療効果の判定において信頼性が高いのではないかと考えられるようになってきました。
  では家庭血圧はどのように測定したらよいのでしょうか。自動携帯型血圧測定器を使って1日の血圧を30分ごとに自動的に測定記録する方法もありますが、一般的ではありません。また、ある程度患者さんに持続的なストレスをかけるので、日常の血圧からずれることが予想されます。
  家庭血圧計は性能が悪く、不正確ではないかと思っている患者さんが多いのですが、血圧が計るたびに異なっているのは器械の性能のためではありません。
  高血圧の疑いのある人やすでに高血圧の治療を行っている人は、高血圧の正確な評価のために何回かは家庭血圧測定を行うことをお勧めます。 これによって、「診察室で血圧が高くても、自宅の血圧がいつも低ければ、1日の大部分は血圧は低いのだから心配いらない」と過剰な投薬を避けることができた例は少なくありません。ただし、このとき病院で測定した場合と自宅で測定した場合で治療目標血圧値が異なることに十分注意下さい。

 ●家庭血圧測定の限界(参考報告1999年WHO-ISHガイドライン)

  家庭血圧測定や携帯型自動血圧測定(ABPM)は、大変役立つ追加情報を与えてくれます。しかし、その有用性にも問題があります。

 第一に、どれだけ予後の予測に役立つかを示すデータがまだ不十分で、従来の測定に取って代わるのではなく、現時点ではあくまでも補助的なものです。
 第二に、125/80mmHg付近の家庭血圧は、診察室で測定する血圧の140/90mmHgに相当するということです。はっきりとした家庭血圧の正常値も定まっていません。※注
第三に、用いる装置はその精度と性能について、標準化されておらず、精度に問題が生じる場合があります。特に、手指や手首で血圧を測定するものは、高血圧治療に使用すべきではありません。

 

※注:日本高血圧学会は、2003.9月に「家庭血圧測定条件設定の指針」を発表した


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Q17:家庭での血圧測定器はどれがいいのでしょうか?

 A:上腕に腕帯を巻くタイプなら、通常どのメーカでもよい。

 上腕に腕帯を巻くタイプで、よく知られた製造メーカーならどれでもまず支障ありません。 ただし、指、手首測定タイプは絶対に高血圧評価に使わないでください。理由は、手首や指で測定する血圧と上腕で測定する血圧には、もともと違いがあるからです。 人間の血圧は弾力のある血管に伝わる脈波です。心臓に近いところと遠いところでは脈派の形が大きく異なります。 ですから、血圧の比較を行うときは、同じ部位、条件で測定する必要があります。 家庭血圧計も診察室と同じように上腕での測定をお勧めします。

 個人的な意見を言わせていただければ、手首タイプの血圧計を販売するときに、「通常の血圧計としては使えません」ぐらいの説明を販売メーカーが責任を持って情報提供してほしいものです。家庭の自動血圧計は性能がよくないので不正確ではないか、病院の血圧計のほうが信頼できると思っている患者さんが多いのですが、血圧が計るたびに異なっているのは、器械の性能のためではありません。

 高血圧の評価には、まず家庭血圧測定を行うことを勧めます。できれば、水銀血圧計を用いて同時に得た測定値と比較することによって、精度を確認しておくとよいでしょう。
  ただ注意してほしいこととして、家庭血圧と診察室の血圧の差は個人個人で大きく異なることです。ほとんどの場合、家庭血圧の方が低くなります。 その差は平均すると10/5mmHg(最大血圧/最低血圧)との報告がありますが、差が大きい人は50mmHg以上にもなります。また逆に家庭血圧の方が低い人もまれにいます。

 さらに、困ったことに家庭血圧の正常値は基準が統一されていないのです(※注)。135/85mmHg以上あれば高血圧と考えられていますが、 1999年WHO-ISHガイドラインの解説では、「125/80mmHg付近の家庭血圧は診察室で測定する血圧の140/90mmHgに相当する」とも言っています。つまり、家庭血圧130/80mmHgは正常というよりも高血圧の可能性が高いわけです。

 

※注:日本高血圧学会は、2003.9月に「家庭血圧測定条件設定の指針」を発表した


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Q18:高血圧の人は血圧を下げることが一番の治療でしょうか(類似Q20)

 A:部分的にしかあっていません。血圧以外の心血管危険因子の影響はとても大きいのです。

 ●虚血性心疾患では高血圧以外の心血管危険因子の影響が大きい

 重症の高血圧では血圧値そのものの予後に大きく影響するのは理解できます。 しかし、以外に感じるかもしれませんが、軽症や中等症の高血圧患者では血圧値そのものよりも、他の心血管疾患のリスク因子の有無よる影響が非常に大きいのです。
  脳出血など血圧の影響が最大の危険因子となる疾患もありますが、脳梗塞・虚血性心疾患などは糖尿病や喫煙などの他の心血管危険因子の影響が大きいのです。特に虚血性心疾患の予防については、降圧療法だけでは不十分です。
  高血圧の人が治療により正常血圧値になっても、もともと正常血圧者に比べると心血管疾患リスクは同じにはならないと言われています。高血圧の予後を決めるのは血圧値だけではありません。高血圧を含めて心血管疾患のリスクをできるだけ排除するのが高血圧の治療の基本です。

 

例1)
 A:65歳の男性、糖尿病(+)、一過性脳虚血発作の既往(+)、血圧145/90mmHg
 B:40歳の男性、糖尿病(-)、   心血管疾患の既往(-)、血圧145/90mmHg
  例1)では血圧以外の因子の心血管疾患のリスクへの影響を比較しています。
欧米の研究によると、Aの人の心血管事故の発症リスクは、Bの人の20倍にもなります 。
血圧が同等でも他の危険因子が多いため、前者ではかなりの高リスクになっています 。

 

例2)
 A:40歳の男性、糖尿病(-)、心血管疾患の既往(-)、血圧170/105mmHg
 B:40歳の男性、糖尿病(-)、心血管疾患の既往(-)、血圧145/ 90 mmHg
  例2)では純粋に高血圧のみによる発症リスクの増大を示しています。
この2人と比較すると、Aの人は主要な心血管事故の年間発症リスクはBの人の約2〜3倍にしかなりません。

 

  例1)例2)は心血管リスクが血圧値よりもむしろ他のリスク因子により大きく影響されることが多いことを示しています(*注1)
             (1999年WHO-ISHガイドライン参考) 

*注1: ただし、以上の見解は虚血性心疾患が循環器合併症の主体となる欧米でその傾向が強く、いまだ脳血管障害の多い日本では血圧そのものによる危険性が欧米よりは重要になると思われます(まえだ談)。

 

 


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Q19:私の血圧150/100mmHgは治療しないとどれくらい危ないの(日本版)?

 A:高血圧の予後の予測は血圧値だけでなく、心血管リスクの種類、数、程度に影響されます。

以下はMedical Practice 2002年9月号(文光堂)をおもな参考書としてまとめたものです。

世界保健機関/国際高血圧学会 (WHO/ISH 1999年)の内容と日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2000年版(JSH2000)」を比べると、
日本のガイドラインでは、
1)欧米よりも日本では脳卒中が3〜4倍多く、虚血性心疾患が1/4と少ない(*注1)ことを考慮した。
2)日本人を対象とした研究論文をできるだけ引用した。
3) 高齢者高血圧の治療および小児高血圧について詳述した。
4)降圧剤の第一選択は実用性に基づいて優先順位をつけ、かつ適応を拡大した。
などの相違があります。

*注1:ただし、近年日本でも心臓病が増え、脳血管障害は減っているので、この割合も変化しているようです。日本には死亡統計以外、正確な資料がないので詳細不明ですが、虚血性心疾患は欧米の1/2〜1/3くらいになっているかもしれないと報告したものもあります。

●成人における血圧分類(JSH2000) (表1)の解説 
1999世界保健機関/国際高血圧学会WHO/ISH(1999年)の分類とほぼ同じ。
表1。成人における血圧分類(JSH2000)
分類
収縮期血圧
 
拡張期血圧
至適血圧
<120 mmHg
かつ <80 mmHg
正常血圧
<130 mmHg
かつ <85 mmHg
正常高値血圧
130〜139mmHg
または 85〜89 mmHg
軽症高血圧
140〜159 mmHg
または 90〜99 mmHg
中等症高血圧
160〜179 mmHg
または 100〜109 mmHg
重症高血圧
≧180 mmHg
または ≧110 mmHg
収縮期高血圧
≧140 mmHg
かつ <90 mmHg
収縮期血圧と拡張期血圧の分類が異なる分類に属する場合は、 高い分類のほうの分類に組み入れる。


●高血圧のリスク層別化に用いる心血管病の危険因子と臓器障害/心血管病(JSH2000) (表2)の解説 
1999世界保健機関/国際高血圧学会WHO/ISH(1999年)の分類と類似するが異なる 。


表2。高血圧のリスク層別化に用いる心血管病の危険因子と臓器障害/心血管病(JSH2000)
心血管病の危険因子(高血圧以外)
臓器障害/心血管病
喫煙 心臓:左室肥大、狭心症・心筋梗塞の既往、心不全
高コレステロール血症 脳:脳出血・脳梗塞、一過性脳虚血発作
糖尿病 腎臓:タンパク尿、腎障害・腎不全
高齢(男性>60歳、女性>65歳以上 ) 血管:動脈硬化性プラーク、大動脈解離、閉塞性動脈疾患
若年発症の心血管病の家族歴 眼底:高血圧性網膜症


●高血圧患者のリスクの層別化(JSH2000) (表3)の解説 

1999世界保健機関/国際高血圧学会WHO/ISH(1999年)の分類と異なる。
WHO/ISH(1999年)の分類には「超高リスク」群がありますが、JSH2000にはありません。

表3。高血圧患者のリスクの層別化(JSH2000)
血圧分類
軽症高血圧
中等症高血圧
重症高血圧

収縮期圧/拡張期圧(mmHg)

140〜159/90〜99
160〜179/100〜109
≧180/ ≧110

高血圧以外の心血管病の危険因子なし

低リスク
中リスク
高リスク

糖尿病以外の心血管病の危険因子あり

中リスク
中リスク
高リスク
糖尿病、臓器障害、心血管病のいずれかがある
高リスク
高リスク
高リスク


●降圧目標レベル(JSH2000) (表4)の解説 

若年・中年者、および糖尿病合併者の目標血圧レベルは同じだが、高齢者の目標血圧レベルは、WHO/ISH(1999年)では年齢に関わらず140/90mmHg未満となっており、大きく異なる(※注2

※注2:この両者の違いについては、いろいろ意見もありそうですが、日本でのデータは欧米に比べてまだ貧弱です。ここでは批評を控えます。当院では可能ならば、WHO/ISH(1999年)の基準140/90mmHg未満、困難な場合JSH2000の水準を目標にしています(まえだ談)

表4。降圧目標レベル(JSH2000)
収縮期圧
拡張期圧
若年・中年者
130mmHg未満
85mmHg未満
糖尿病合併 (※注3)
130mmHg未満
高齢者60歳以上
140〜160mmHg未満※注4)
90mmHg未満※注5)


※注3:糖尿病の血圧を収縮期圧と拡張期圧に分けて分析すると、130/85mmHgよりも130/80mmHgの方がよいという研究者がいます。たまたま血圧分類の境界が130/85mmHgになっているためにこうなってしまっているとの意見です(まえだ談)。

※注4※注5:高齢者高血圧の降圧目標レベルの表現はやや曖昧です。老年者高血圧治療ガイドライン(長寿科学研究班2002年)では60歳代140mmHg未満、70歳代150mmHg未満、80歳代180mmHg未満となっています。JSH2000もこれに準じるようになると予想されています。

 

 


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Q20:高齢者の高血圧治療に特色がありますか?

A:合併症が多いこと、血圧の変動が大きいこと、収縮期高血圧が多いこと、副作用が生じやすいことなどの特徴がある。下げ過ぎがないように注意が必要。

  当院では、血圧目標値としては基本的に年齢較差は設けていません。
ただし、家庭血圧で下げ過ぎがないことを確認しながら、診療時血圧で収縮期血圧が140mmHg未満、拡張期血圧が90mmHg未満になるように心がけます。
  しかし、現実には、高齢者は収縮期血圧の変動幅が大きく、必ず家庭血圧を調べながら、下げすぎがないようにすると、「時々は150〜160mmHgになるようでもよし」とする場合が少なくありません。

下げすぎに注意

  高齢者では脳へ栄養する血管の狭窄がすでに存在している場合が多く、この場合不用意な降圧は脳血流の減少を招く可能性があり、立ちくらみなどの低血圧症状に注意しながら、血圧を下げすぎないように注意すべきです。
 高齢者は血管が硬くなっており、ちょっとした緊張でも血圧の上昇が生じるため、血圧の変動が大きいのも特徴です。そのため、なかなか目標通りの血圧に安定しないのも現実です。一説には高血圧症の血圧コントロールが勧告通りにできているのは全体の60%以下とも言われています。家庭血圧を参考にしながら、若年者よりも慎重に降圧するように心掛けます。

●副作用が生じやすい

 高齢者では薬物代謝速度が低下しており、薬物の副作用もでやすい。また、副作用による症状がありながら、「高齢のため」と思いこんで、症状を訴えないことも多い。
 下腿(すねの部分)の浮腫、体重増加、息切れ、脈拍数異常などの症状、空咳などACE阻害薬の副作用症状、不眠・抑うつの精神症状などは医師の方が日頃から積極的に問わないと発見率がかなり下がるようです。高齢者では、薬物量も通常の少な目から開始します。 β遮断薬はうまく適合するとよいのですが、高齢者では徐脈、心不全などの副作用がでやすいので、特に慎重に利用すべきです。

●他科通院、他科処方薬に注意

 高齢者は内科だけでなく他科に通院している場合も多い。
眼科では緑内障にβ遮断薬の目薬を使います。これが涙管を通って鼻粘膜から吸収されると徐脈になります。内服のβ遮断薬との併用がないように注意します。
整形外科からの鎮痛剤は高頻度に胃障害を生じさせますし、心機能障害患者さんでは心不全の頻度を高めます
 このほか胃腸科でもらう胃薬であるタガメット(商品名)は、ほかのH2遮断薬と異なり、多くの薬剤の効果をかなり強めます。特にβ遮断薬などの徐脈を生じる薬を内服中は併用しないようにします。

 


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