公開日 2003.07.26 更新日2005.08.24
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記事は参考に留め、治療方針は診療医師と相談してください。
【高血圧Q&A(詳細解説 part2)】

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高血圧Q&A(詳細解説 part1) へ戻る

21)高血圧の治療で脳卒中はどれくらい予防できますか? 2003.2.1記
22)高血圧の治療で痴呆が少なくなりますか? 2003.2.15記
23)グレープフルーツジュースは血圧の薬に影響するのですか? 2003.2.15追記
24)高血圧の薬は一度飲み始めると止めることができないのですか? 2003.3.24記
25)高血圧の薬は1日1回と3回のどちらがよいのでしょうか? 2003.3.24記

26)高血圧で脳梗塞も増えますか? 2003.3.24記
27)いろいろな血圧降下剤がありますが、どのようにして選ぶのですか? 2003.7.26記
28)Ca拮抗剤とARBはどちらが優れているのですか(VALUE試験)? 2004.07.01記
29)仮面高血圧とはどんな病気? 2005.04.01記
30)高血圧治療における心拍数抑制の重要性 2005.08.24記 2005.09.12追記


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31)高血圧で脳卒中はどれだけ増えますか? 2005.09.14記

 


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Q21:高血圧の治療で脳卒中はどれくらい予防できますか?

A:高血圧の治療により、脳卒中は半分以下になると報告されています。

高齢高血圧患者に対する降圧治療による脳卒中の減少
(中国人1、632人を平均30ヶ月の追跡).
脳卒中は降圧剤により半分以下に減少した。注:偽薬とは「偽の薬」のことで、見た目は本当の薬と同じ格好をしています。

  脳卒中は日本人の死亡原因の第三位です。また、寝たきりの原因の約4割を占めています。脳卒中には、脳の血管が破れる脳出血とくも膜下出血や、脳の血管が詰まる脳梗塞があります。
  ともに、脳の一部に血液が届かなくなることにより、血液の塊や周辺脳の腫れ(浮腫)による圧迫のために脳の働きが損なわれ、片側麻痺や話すことができなくなったり、片側半分が見えなくなったりします。重症では意識がなくなります。
  高血圧の治療効果が最も大きい脳血管疾患は、脳出血です。高血圧の治療が普及したおかげで、日本での脳出血は1/3に減りました。しかし、脳梗塞はそれほど減らず、脳血管障害に占める脳梗塞の割合は増加しています。
  脳卒中を一度発症して一年後に「不自由なく自律している」状態まで回復する人は、1/4に過ぎないと言われています。

高血圧治療による脳卒中の減少はどれくらいなのでしょうか。

いろいろな発表があるなかで、日本人と同じ東洋人である中国人の研究を見てみましょう。中国人の60〜79歳の高血圧患者1、632人を平均30ヶ月追跡した大規模試験の結果では、カルシウム拮抗剤(ニフェジピン)と偽薬を使った群との比較で、57%減少を認めています。(STONE試験:Gong L,et al.:Hypertensions 14 : 1237 , 1996)。カルシウム拮抗剤は降圧剤として日本でも最も多く使われています。ですからこの資料は、日本人でも似たような結果が予想されます。

2003.2.7記、2003.2.16追加修正

 

 


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Q22:高血圧の治療で痴呆が少なくなりますか? 

A:高血圧に治療により「脳血管性痴呆」が約半分に減少します。

痴呆には大きく分けて、「脳血管性痴呆」と脳血管は異常なく、まだ原因がよくわかっていない「アルツハイマー型痴呆」の2つがあります。
  脳血管性痴呆の主な原因は、脳卒中(=脳梗塞+脳出血+くも膜下出血)です。高血圧は脳卒中の最大の危険因子です。高血圧を治療することによって脳卒中が減少し、痴呆が減ります。
  おもにカルシウム拮抗薬という降圧剤を使った60歳以上の高血圧患者を対象とした大規模試験では、高血圧治療により、痴呆の発症が約50%減少することが報告されています。(Syst-Eur サブ研究:Forette.et al.:Lancet 352:1347,1988より作図)

2003.2.15記

高齢高血圧患者に対する降圧治療による痴呆発症の減少(2418人、平均年齢69.9歳を2年間追跡、2重盲検試験).
降圧剤にはカルシウム拮抗剤およびACE阻害薬あるいは利尿剤を追加した。高血圧の治療により痴呆症の発症が約半分に減少した。注:偽薬とは「にせの薬」のことで、見た目は本当の薬と同じ格好をしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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Q23:グレープフルーツジュースは血圧の薬に影響するのですか? 

A:多くのカルシウム拮抗剤はグレープフルーツ(ジュースも)で効果が2倍以上になるので、注意が必要です。

  多くのジヒドロピリジン系カルシウム拮抗剤(表)は、水で飲んだ場合とグレープフルーツジュースで飲んだ場合で身体で薬が利用される割合(生体利用率)が平均2.8倍も違うといいます。そのため、グレープフルーツジュースで薬を飲むと血液の中の薬が増加し、血管拡張作用が強くあらわれて、頭痛・顔面紅潮・動悸などの副作用が増加しやすくなります。
  ザボン・土佐文旦・平戸文旦・スイーティー・だいだいでも、同様の現象が現れる可能性があります。同じ柑橘系のレモン・カボス・温州みかん・オレンジジュースではこのような現象は見られません。
 ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗剤は「CYP3A4酵素」によって分解代謝されます。グレープフルーツジュースはこのCYP3A酵素を強力に阻害する「フラノクマリン」を含むために、薬が身体の中にたくさん残るようになります。フラノクマリン影響の程度には個人差があり、小腸におけるCYP3A4活性が高い人ほど影響を受けやすくなっています。解析の内容が薬剤によって異なるので単純な比較はできませんが、アムロジピン(商品名:ノルバスク、アムロジン)以外は影響が大きいといえます。
  カルシウム拮抗剤の分類に入っていてもノルバスク、アムロジンはほとんど影響が出ないといわれています。アムロジピンではグレープフルーツジュース1杯1回きりならならそれほど気にする必要はないと思われますが、毎日飲む場合は注意がいるかもしれません。またその他の分類の血圧降下剤のほとんどは心配ありません。グレープフルーツ大好きという患者さんはアムロジピンか、影響のない他の薬に変えてもらうのがよいかもしれません。どれくらい間隔をあけてから薬を服用すればよいのかということに関しては、薬の種類や各個人の体質の差が大きく、30分から1日以上の間隔をあけるというばらつきの大きい結果となっています。
 たとえば、 グレープフルーツジュースを飲んだ後に起こるニソルジピン、フェロジピンの血漿中濃度増加は3〜4日程度持続することが報告されています。
 他にも薬の効果に影響を及ぼす飲み物がありますので、薬はできるだけ水で飲んでいただくことをおすすめします。ただし、今までグレープフルーツが重症の副作用を引き起こしたとの報告はないようです。

カルシウム拮抗剤の効果に対するグレープフルーツの影響 参考資料 CLINICIAN 96年5月号他より一部改変
成分名 吸収率 利用率 グレープフルーツジュースの影響 商品名 その他の商品名
ニソルジピン 約90%  8.4±1.0% AUC 2倍 極めて強い バイミカード   
フェロジピン       極めて強い ムノバール  
シルニジピン       強い アテレック 注1)
ニカルジピン 約100% 6.5〜30.3%   強い ペルジピン 注2)
ニトレンジピン 約90% 約20% AUC 1.4倍 強い バイロテンシン 注3)
ニフェジピン >90% 45〜70% AUC 1.3倍  強い

アダラートL

注4)
マニジピン 血中濃度上昇が報告されている。   注:AUC =area under the curve 強い  カルスロット  
ベニジピン  初回通過効果大     強い コニール  
バルニジピン 初回通過効果あり     程度の報告なし ヒポカ  
ニルバジピン >65% 14%   程度の報告なし ニバジール   
エホニジピン       程度の報告なし ランデル  
アラニジピン       程度の報告なし サプレスタ  
アムロジピン  96% 64% 初回通過効果の影響が少ない 可能性小 ノルバスク アムロジン
ベラパミル       やや強い ワソラン  
ジルチアゼム       程度の報告なし ヘルベッサー ヘルベッサーR
   消化管や肝臓での初回通過効果が大きいカルシウム拮抗剤ほどグレープジュースの影響を受けやすい。
注1)その他のシルニジピン製剤=シスカード、シナロング
注2)その他のニカルジピン製剤=ニコデール、アカルジピン、アプロバン、アポジピン、イセジピール、カルトラン、サリベックス、ツルセピン、ニスタジール
注3)その他のニトレンジピン製剤=エレナール、ドスペロピン、トルチンシン、ニトプレス、ニトレナール、ニルジピン、バイニロード、バロテイン
注4)その他のニフェジピン製剤= アダラート 、ヘルラート、セパミット、アタナール、アンペクト、エマベリン、カサンミル、コロジレート、セレブレート、トーワラート、ニレーナ、マリポロン、レマール、ロニアン、ヘルラートL、セパミットR、アダラートCR、エマベリンL、キサラートL、トーワラートL、ニレーナL

 

グレープフルーツジュースと相互作用の可能性のあるカルシウム拮抗剤以外の主な薬剤
参考資料(永生会病院HPから改変)http://www.eisei.or.jp/ei4.htm

薬効 主な商品名  
抗血小板剤 プレタール  
片頭痛治療薬 レルパックス 作用が増強する可能性がある
片頭痛治療薬 カフェルゴット・シヒデルゴット  
抗真菌剤 イトリゾール  
高脂血症用薬 リポバス、リピトール、ローコール  
抗不整脈薬 アンカロン  
向精神薬 セルシン・ハルシオン・ダルメート・メンドン・セダプラン  
精神神経用剤 テグレトール  
抗精神病剤 オーラップ

重篤な副作用を起こす可能性がある。
併用を避けたほうがよい

抗うつ薬 アナフラニール  
抗てんかん薬 リボトリール  
抗がん剤 グリベック  

抗マラリア剤

メファキン  
免疫抑制剤 プログラフ・ネオラール  
ステロイドホルモン メドロール・デカドロン  
抗HIV薬 インビラーゼ・レスクリプター・ビラセプト・ノービア・クリキシバン  

 


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Q24:高血圧の薬は一度飲み始めるとやめることができないのですか? 

A:軽症高血圧の患者が生活習慣を改善した場合には、休薬できる場合もあります。

 Schmiederらは、過去の報告をまとめ、休薬後の血圧が正常に維持できた割合は、研究によりまちまち(3〜74%)であったと解説しています。そして休薬後に正常血圧を維持できた患者に特徴があったと報告しています。

降圧剤を一時中止できた患者の特徴(Schmiederら)
○軽症高血圧 ○若年者 ○正常体重 ○塩分摂取が少ない
○アルコールを飲まない ○一剤のみで治療ができる ○臓器障害がほとんどない  

朝日生命成人病研究所の研究では、20年以上経過を観察し得た106例中、1年以上休薬できたのは18%と報告しています。

その患者群の特徴は以下の通りです。

降圧剤を一年以上休薬できた患者の特徴(朝日生命成人病研究所)
○心電図で高電位がない ○一剤のみで治療ができる ○休薬開始時に体重が減少している

1999年世界保健機関/国際高血圧学会や2000年日本高血圧学会のガイドラインでは、生活習慣の改善を厳格に行っている患者で、長期間の血圧コントロール後に注意深く、徐々に減らすことが可能であると述べています。

 米国のTONE研究(老年者非薬物療法介入試験)でも、ライフスタイルの改善を行うと休薬しやすくなると述べています。

降圧剤を一時中止できた患者の特徴(米国のTONE研究)
○体重減少 ○食塩制限

つまり、まだ高血圧の初期の軽症高血圧なら、生活習慣の改善だけで高血圧が改善できる可能性が高いということです。逆にいえば、生活習慣の改善を行わなければ、休薬は難しいと考えられます。

参考資料

芦田映直(朝日生命成人病研究所付属病院循環器科部長) 高血圧患者とよりよいコミュニケーションのために
 Hypertens-Scope vol1No2 2002.10
Schmieder RE,et al.:Antihypertensive therapy:To stop or not to stop.JAMA 265:1566〜1571,1991

今鷹耕二他:治療前血圧レベルからみた降圧剤休薬の可能性。心臓20:830〜835、1988

2003.3.24追記


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Q25:高血圧の薬は1日1回と3回のどちらがよいのですか? 

A:薬の飲み忘れ防止には、1日1回または1日2回(朝夕)がよい。長時間作用の降圧剤を使えばこれが可能です。

 20年前の降圧剤は1日3回毎食後に飲むものがありました。その後、薬がゆっくり吸収されるような工夫や長時間作用する薬剤が開発され、1日1回の薬がよく使われるようになりました。その理由は、1日1回のほうが、患者さんの手間が省け、飲み忘れも少ないということです。指示通りの通院や服薬が行われることを「コンプライアンスが良好だ」と言います。1日1回または1日2回(朝夕)の服薬の指示に、比べて1日3回の服薬は、守られないことが多いと報告され、特に昼の服薬が忘れがちになるいう報告されています。

服薬回数・時刻と服薬コンプライアンス
Fujii J et al.:J Hypertens 3(suppl 1):19.1985より改編

    処方の95%以上を服用
服薬回数 1回 69.2%
2回(朝夕) 50%
2回(朝昼) 68.6%
3回 54.1%
 
服薬時間 75.8%
52.2%
63.8%

 

参考資料

藤井 潤(朝日生命成人病研究所名誉所長) 高血圧患者とよりよいコミュニケーションのために
 Hypertens-Scope vol1No2 2002.10
Fujii J et al.:J Hypertens 3(suppl 1):19.1985

2003.3.24追記


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Q26:高血圧で脳梗塞も増えますか? 

A:高血圧は脳出血を大幅に増加させますが、脳梗塞も増加させます。

 移動の少ない地域の住民を長期間観察する手法により、高血圧の長期的な影響の情報が得られます。以下は、久山町における血圧の程度分類による脳梗塞の発症率の結果です。全員降圧剤は内服していません。また同じ血圧でも年齢が高くなると脳梗塞は増加するため、年齢調整も行った後の資料です。男女ともに血圧が140/90mmHg以上になると脳梗塞の発症が増加していることがわかります。

   

参考資料
高血圧治療ガイドライン2000年版

2003.3.24追記


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Q27:いろいろな血圧降下剤がありますが、どのようにして選ぶのですか?

A:降圧剤には色々種類があり、作用機序、降圧の効果、降圧以外の効能、副作用の種類と頻度、価格などの要素を顧慮して選びます。ここでは2003年に発表された米国の高血圧治療のガイドライン(JNC-7)推奨の薬剤選択を紹介します。

推奨される薬剤(JNC-7より) *わかりやすくするために表現を一部変更
 
推奨される薬剤の種類
合併症
(積極的にその薬剤が勧められる病態 )

尿
β



A
C
E


A
R
B
















心不全
心筋梗塞後
冠動脈疾患高リスク
糖尿病
慢性腎疾患
脳卒中再発予防
表の見方
 例えば心不全の合併がある高血圧は、カルシウム拮抗薬以外がお勧めです。慢性の腎臓障害がある方は、ARBまたはACE阻害薬がお勧めです。

 

左の表で推奨している薬の選択方法は、絶対的な物ではありません。現時点までの大規模研究を考慮した米国での結果です。日本人に完全に当てはまるかどうかは不明です。
 腎機能障害患者では、血圧を下げること自体が最も重要と報告されており、降圧効果に優れ、副作用の少ないカルシウム拮抗剤を併用薬として勧める報告も少なくありません。また、たとえ推奨薬剤であってもその薬剤で十分な降圧効果が得られなければ、他の薬剤への変更が望ましいと考えられます。
 なお、現在ある 抗アルドステロン薬は降圧剤として単独で使うことはほとんどなく、心不全治療や低カリウム血症改善の目的で使うことがほとんどです。
 薬物の効果だけでなく、よくある副作用や価格を考慮して、薬剤を選択することも重要な要素です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2003.2.7記、2003.7.26 追加修正

 


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Q28:Ca拮抗剤とARBはどちらが優れているのですか(VALUE試験)?

A:アムロジピン(Ca拮抗剤)とバルサルタン(ARB)の比較臨床試験(VALUE)が行われた。「複合心イベント」の発生頻度を比べると両群で有意差(統計的な差)はなかったと、第14回欧州高血圧学会(2004.6.14)で発表された。

 降圧剤にはいろいろな種類がありますが、現在日本や世界で最も使われているのはカルシウム拮抗剤であり、その代表的な薬剤としてアムロジピン(商品名:ノルバスク、アムロジン)があります。一方、この数年間で製薬メーカーが精力的に研究援助を行い、販売努力している降圧剤がアンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)です。その代表として、ARBの中でも降圧効果の強いとされるバルサルタン(商品名:ディオバン)との臨床効果の比較試験がヨーロッパで行われました。
 バルサルタンは降圧効果以外にも腎臓や心臓などの臓器保護作用があり、従来の降圧剤よりも高い臨床効果が期待されていました。しかし、今回の発表で意外なことは、製薬メーカーは「バルサルタンはアムロジピンと同等の降圧効果」と宣伝していたにもかかわらず、アムロジピンと同等な降圧が得られなかったということが一つに挙げられます。また、十分な降圧が得られるのにかかる期間がアムロジピンの方が短く、「高リスクの高血圧患者の予後の改善には、速やかな降圧の達成が重要である」ことが示されたと報告しています。
【VALUE試験】の要約
 VALUE試験は世界31カ国、642施設で行われました(ランダム化二盲検試験)。解析対象は心イベントの危険因子または合併症を1つ以上持つ、50歳以上の高リスクの高血圧患者15,245例です。(1)バルサルタン群(80-160mg/日)、(2)アムロジピン群(5-10mg/日)に割り付けて、平均4.2年間を追跡調査した。投与方法は段階的に増量、利尿降圧剤(ヒドロクロロチアジド)の追加・増量、他の薬剤の追加の順で追加し、両群で同等の降圧ができることを目標にした。対象患者は、平均年齢67.3歳、BMI28.7(25以上は肥満です)、白人が89%を占めた。
 【結果】
 降圧の程度を比較すると、1カ月後で4.0/2.1mmHg、6カ月以降の平均で2.0/1.6mmHgほどアムロジピンが勝っていた。
複合心イベント発生率(心疾患発症および心疾患死)は両群で差がなかった。総死亡率も両群で差がなかった。
 一方、アムロジピン群では、心筋梗塞が19%減少(有意差あり、p<0.02)、と脳卒中の減少傾向(15%)を認めた。
バルサルタン群では、糖尿病の新規発症が26%減少し(有意差あり、p<0.0001)、また心不全の減少傾向(11%)を認めた。

 【当院の意見】
 製薬メーカは、どうしても利益の多いARBの販売に力を入れます。 その宣伝内容をみるとどんな人にでもARBが勧められるような説明ばかりです。確かにARBはよい薬ですが、万能ではありません。MR(製薬メーカーの営業マン)や薬剤メーカー後援の講演会の演者は、立場上ARBの欠点に関しては説明したがりません。ARBの効果がACE阻害薬をこえるとの報告は、ひとつもありません。価格はACE阻害薬やカルシウム拮抗薬の約2倍です。医師は、ARBの長所と短所をよく理解して使う必要があります。
Medical Tribune2004.06.24より
2004.07.01記  


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Q29:仮面高血圧とはどんな病気?

A:『仮面高血圧』は外来での血圧が正常なのに、24時間血圧測定または家庭血圧測定で高い場合をいう。仮面高血圧では心筋梗塞や脳卒中の危険性が正常血圧より約3〜4倍多い。

 【仮面高血圧とは】
 『仮面高血圧』は外来診療時の血圧が正常であるにもかかわらず、24時間自由行動下血圧または家庭血圧値が高い場合をいう。医療機関では高血圧が遮蔽(しゃへい:かくされている:マスク)されているという意味で名付けられた。英語で Masked Hypertension あるいはIsolated Ambulatory Hypertensionという。

仮面高血圧の割合(J-MORE)より
早朝高血圧と外来高血圧は必ずしも一致しない。

このため4群に分けることができる。早朝高血圧(135以上は高血圧)と外来高血圧(140以上は高血圧)の基準値が違うことにも注意してほしい。

分類 血圧コントロール状況
正常血圧 早朝血圧(良好)、外来血圧(良好)
白衣高血圧 早朝血圧(良好)、外来血圧(不十分)
仮面高血圧 早朝血圧(不十分)、外来血圧(良好)
持続性高血圧 早朝血圧(不十分)、外来血圧(不十分)

治療中の高血圧患者969名、平均年齢66.5歳、男性42%、参加医師45名

Jichi Morning Hypertension Research(J-MORE)
Kario K et al:Circulation 108:72e-73e,2003

仮面高血圧の危険性(J-MOREより)
仮面高血圧の心血管系疾患の危険性は正常血圧の約3〜4倍

 米国Mount Sinai医科大学のPickering医師が、975人の患者さんを8年半追跡した結果で、仮面高血圧では正常血圧と比べて、心血管系疾患が年齢・肥満度・コレステロールなどで補正して、3.86倍あった(2002年の国際高血圧学会)。
 またスウェーデンUppsala大学で70歳以上の578人を平均8.7年間追跡した結果(Circulation)では、正常血圧と比べて仮面高血圧では心血管系疾患が2.86倍であった。


【家庭血圧を測りましょう】
 24時間血圧測定では保険診療の適応となっていないので、かわりに家庭血圧の測定を利用します。家庭血圧を測定の要領は次の通りです。

一日2回朝と寝る前に測定する
朝は
 
(1)朝起きてから1時間以内、(2)トイレを済ませた後、(3)朝ごはんを食べる前、
(4)クスリを飲む前、(5)座った状態、(6)薄手のシャツ1枚であればその上から測る
夜は 寝る前に測る。細かな条件は付けない。

【早朝高血圧と夜間高血圧】
 朝の早い時間帯に血圧が高いのを「早朝高血圧」と言う。早朝高血圧は夜間から朝までの間ずっと血圧が高い「夜間持続型」と、起床してから急に高くなる「早朝上昇型」に分類される。夜間持続型はとくに脳卒中・心筋梗塞の発症率が高いと言われている。また降圧剤を内服している人は、薬が効いて日中の血圧は下がっており、早朝や夜間に血圧が高くなっていることがある。

【家庭血圧値と病院での血圧測定値】

 仮面高血圧とは逆に、家庭における血圧測定では正常なのに診療所では血圧が高い場合を、白衣高血圧という。純粋な白衣高血圧はあまり危険性が高くない。
 また、24時間測定血圧の結果と心臓・血管系の病気の発症頻度を調べてみると、日中の血圧値は同じくらいでも、夜間血圧が高い人は、低い人に比べて約4倍、脳卒中・心筋梗塞の発症率が高かったという報告がある。昼間の血圧だけでなく、夜間の高血圧も意識した治療が必要となる。
  一般的には、「病院で測った血圧は正確で、それが正常なら大丈夫」と考えがちですが、実際は診療時の血圧値よりも家庭血圧の方がその人の病気の予後(病気の経過)を決める大事な要素になっている。医療機関での血圧測定値よりも家庭血圧測定値のほうが大事ということになる。

【参考資料】
1) Medical Tribune2004.06.24より
2) Medical Digest 特集 高血圧治療up-to-date 2005.3月号(第一メディカル(株):第一製薬提供の小冊子)清元秀泰、嘉川大学医学部第二内科
2005.04.01記 2005.04.26校正


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Q30:高血圧治療における心拍数抑制の重要性

A:高血圧治療では血圧コントロールが大事だが、心拍数のコントロールも予後改善と症状改善に極めて有効である。

 【心拍数と合併症・予後の改善】
 フラミンガム・スタディは、米国における有名な循環器疾患の定置点での疫学研究である。「どのような因子が心臓病や脳卒中のリスクとなるのか」を米国のボストン郊外にあるフラミンガム地方の一般住民約5000人が対象となり、1948年以降から現在も続いている。この調査によると高血圧患者において、心拍数の増加とともに心臓病が増加し、死亡率が上昇する。高血圧の治療において、心拍数を上げないことが重要な治療のポイントであることが示されている。
 
とくに、心拍数が100/分以上ではリスクの急激な上昇が見られる。

【当院の見解】
 心拍数は副交感神経と交感神経の2重支配を受けている。副交感神経は心拍数を減少させ、交感神経は心拍数を増加させる。また、血液中にはカテコラミンという交感神経刺激と同じ効果を持つホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン)が、運動時や種々のストレスの下で急増する。心拍数を減らす薬にはいろいろあり、主に交感神経系の亢進を抑制するもの(β遮断薬や広い意味では精神安定作用のあるものも含まれる)や主に副交感神経刺激作用のあるもの(ジギタリスなど)や、直接作用または詳しい機序不明のもの(ヘルベッサー、ワソランなどのある種のカルシウム拮抗薬)などがある。
 欧米では心拍数抑制の目的で心臓病の治療に最も利用されるのは、主にβ遮断薬と呼ばれる薬剤である。これは安静時の心拍数も減少させますが、特に運動時の心拍数増加を抑制するのが主な作用である。
  ジギタリスでは心房細動や安静時の心拍数を減少させるが、運動時の心拍数抑制はあまり期待できず、心臓病の予後改善は望めない。
  また、一部のカルシウム拮抗薬(ヘルベッサー、ワソラン)も心拍数を減少させ、逆に心拍数を増加させるカルシウム拮抗薬よりも冠動脈疾患の予後改善に優れているという報告もある。しかし、ヘルベッサー、ワソランでは、安静時の心拍抑制はできるが、運動時の心拍抑制はβ遮断薬よりも弱く、十分とは言えない。
  最近では、「心拍数を増加させない」または「わずかだが心拍数を減少させる」降圧目的のカルシウム拮抗薬も出てきました(カルブロック、アテレックなど)が、心拍抑制作用はβ遮断薬に比べるとはるかに弱く、心拍数抑制効果はあまり期待できません。処方される医師は、「心拍増加がない程度」と考えたほうがよいでしょう。しかし、このことで、頭痛や顔面紅潮、動悸などの関連した副作用も少なくなる傾向は期待できる。余分ですが足の浮腫という副作用も少ないようである。
 当院では歩いて診察室に入った時の心拍数が75未満になることを目安にしている。逆に、65/分未満の人には積極的に心拍数を減少させることはしていない。このために種々の強さのβ遮断薬を使っている。心拍数が多い患者さんにβ遮断薬を使うと、心拍数の減少とともに運動時の動悸息切れが改善し、階段や急いだときの自覚症状の改善が得られる。

高血圧のある男性の場合
高血圧のある女性の場合

Gillman et al.:American Heart Journal 125(4),1148-1154.1993


参考 日本臨床内科医会会誌 2005.9月号 「心拍を考慮した降圧療法」有田幹雄(和歌山県)
2005.08.24記 2005.09.12追記

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