『米国ATPIIIの冠動脈10年リスク評価ツール(機能拡張版)』による高脂血症治療効率(NNT)一覧表
一次予防(心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症など動脈硬化性疾患がないひとが対象)
公開日2006.09.08 更新日 2006.09.14 HOMEへ  メニューを隠す
 
合併症の有無
標準治療(目標LDLC140mg/dl)
強力治療(目標LDLC100mg/dl)
1)
合併症なし
男性
女性
男性
女性
2)
高血圧症あり
男性
女性
男性
女性
3)
糖尿病あり
男性
女性
男性
女性
4)
糖尿病+高血圧症あり
男性
女性
男性
女性
治療効率評価
「高い」
「低い」
「かなり低い」
「極めて低い」
「非実用的」
NNT(人/5年)
〜50
51〜75
76〜100
101〜200
201〜
注:NNTとは、望ましい治療効果の患者を1人得るために治療の必要な人数をさす。小さいほど治療効率が高い。
以下では中等度の高コレステロール血症とは、LDLC 200mg/dl程度、軽症とはLDLC 160mg/dl程度を意味する
合併症の有無
一覧表でのNNT(人/5年)最小値
備考
男性
女性
強力治療
標準治療
強力治療
標準治療
強力治療と標準治療のLDLC目標値はそれぞれ100と140mg/dl
合併症なし
106
173

283

465
NNT最小値の男女比はおよそ1:2〜3。一覧表では男性では57歳が、女性では67歳でNNT値最小となる。このグループの診療ガイドラインでのLDLC目標値は140mg/dl未満である。標準的な治療でのNNT値は男性では173(人/5年)以上、女性に至っては465(人/5年)以上である。参考までにこのときのHDLC値は40mg/dlで、低HDLC血症合併もある。
 合併症のない場合は、中等症以下の高コレステロール血症の標準的な薬物療法の効率は、男女とも極めて低い」または非実用的」レベルである。副作用の頻度や医療コストを考えると女性に至っては、むしろ有害である可能性が高い。強力治療の治療効率も男性では「極めて低い」、女性では「非実用的」レベルである。
高血圧症
72
118
132
218

NNT最小値の男女比はおよそ1:2。一覧表では男性では57歳が、女性では67歳でNNT値最小となる。このグループの診療ガイドラインでのLDLC目標値は、危険因子の数によって120mg/dl未満または140mg/dl未満である。中等症以下の高コレステロール血症の男性での治療効率は標準的治療で、「非常に低い」または「非実用的レベルである。同じく、強力治療では「低い」または「極めて低い」レベルである。女性では、さらにその治療効率が低く、標準的治療では「非実用的レベル、強力治療でも多くは「非実用的レベルである。

糖尿病
66
108
94
155
NNT最小値の男女比はおよそ1:1.5。米国では糖尿病があるだけでハイリスクとされており、診療ガイドラインのLDLC目標値は120mg/dl未満とされている。しかし、冠動脈リスクをみると、日本では糖尿病があるだけではハイリスクとなっておらず、NNT値も高い。男性では中等症以下の高コレステロール血症は、強力治療でも治療効率は「低い」〜「極めて低い」となった
  糖尿病の影響は男性より、女性に強くでているが、女性では強力治療でも、治療効率は「極めて低い非実用的レベルである。中等症以下の高コレステロール血症は糖尿病合併だけでは、薬物療法を積極的に勧めるだけの危険因子とはなっていない。
高血圧+糖尿病
45
74
44
73
NNT最小値の男女比はおよそ1:1で、男女差がなくなる。中等症の高コレステロール血症の強力治療の場合には、HDLC値が40よりも大きい場合は、ともに「低いまたは「かなり低いレベルが多い。低HDLC血症や喫煙などの危険因子が追加された場合には、積極的な薬物療法を考慮すべきと考える。また、男性では高齢者で治療効率が低下(NNTは67歳>62歳)するが、女性では62歳と67歳のNNTはほぼ同じである。女性では高齢でも積極的なLDLC低下療法を勧めた方がよいかもしれない。
■LDL低下療法による冠動脈疾患の予防効率解析結果と考察(NNT:高脂血症治療効率の指標、小さいほど効率がよい。)

男性
●合併症のない男性●   一覧表を開く(標準治療強力治療
 57歳<50歳=<62歳<67歳と57歳でもっともNNT値が小さい。NNT値は57歳以上では加齢とともにかえって大きくなり、治療効率は低下する。
  強力治療の一覧表でもっともNNT値が小さいのは57歳、LDLC200mg/dl、HDLC40mg/dlの場合で、NNT値=106人/5年、ガイドラインの目標値までLDLC値を低下させる標準治療の場合は、NNT値=173人/5年である。年齢以外に喫煙、糖尿病、高血圧、家族歴、家族性高脂血症などのほかの危険因子のない中等度の高コレステロール血症の男性では、薬物療法は「非実用的」レベルであり、勧められない。

●高血圧症を合併した男性●  一覧表を開く(標準治療強力治療
 57歳<50歳=<62歳<67歳と57歳でもっともNNT値が小さい。NNT値は57歳より上では加齢とともにかえって大きくなり、治療効率は低下する。
 強力治療の一覧表で、もっともNNT値が小さいのは、57歳、LDLC値 200mg/dl、HDLC値40mg/dlの場合で、NNT値=72人/5年、標準治療(ガイドライン推奨値上限)で、NNT値=118人/5年である。高血圧症があっても、年齢以外にほかの危険因子のない中等度の高コレステロール血症の男性では、LDL低下療法は治療効率が「極めて低く、薬物療法は勧められない。

●糖尿病症を合併した男性● 一覧表を開く(標準治療強力治療
 ここでは男性は糖尿病の合併で冠動脈疾患発症率が1.6倍になる(J-LIT、2001年発表。年齢別の検討はされていない。)という仮定で計算している。
 NNT値は 57歳<50歳<62歳<67歳と、57歳でもっとも小さくなる。NNT値は57歳より上ではむしろ加齢とともに大きくなり、治療効率が低下する。
  強力治療の一覧表で、もっともNNT値が小さかったのは、57歳、LDLC値 200mg/dl、HDLC値 40mg/dlの場合で、NNT値=66人/5年、標準的治療の一覧表で、NNT値最小値は108人/5年である。
 NNT値の最小値を糖尿病と高血圧の場合で比較すると糖尿病合併の方が高血圧症合併時よりも小さく、その比は、強力治療で0.91(66/72)、標準治療で0.91(108 / 118)となり、高血圧よりも糖尿病の方が高い治療効率となった。しかし、その比は女性では0.71であるのに比べると男性では1.0に近かった。なお、ATPIIIのガイドラインでは高血圧よりも糖尿病の合併を重く評価している。
 糖尿病があっても、年齢以外にほかの危険因子のない中等度の高コレステロール血症の男性では、薬物療法は治療効果が低いことを
認識するべきである。 年齢、糖尿病以外に1つ以上の危険因子が追加された場合には、薬物療法を検討する価値がある。


●高血圧症+糖尿病症を合併した男性● 一覧表を開く(標準治療強力治療
 これは男性は糖尿病の合併で冠動脈疾患発症率が1.6倍になる(J-LIT、2001年発表。年齢別の検討はされていない。)という仮定で計算している。
  NNT値は、57歳<50歳=<62歳<67歳と57歳でもっとも小さくなる。NNT値は57歳より上では。加齢とともにかえって大きくなり、治療効率が低下する。強力治療の一覧表で、もっともNNT値が小さかったのは、57歳、LDLC値 200mg/dl、HDLC値 40mg/dlの場合で、NNT値=45人/5年、標準治療で、NNT値=74人/5年である。
  糖尿病+高血圧ではそれだけで十分なハイリスクとなる。強力にLDLC低下療法を行った場合、HDLCが70mg/dlと高くても、50歳代〜60歳代前半では中等度の高コレステロール血症では、NNT値が45〜100程度となり、積極的にLDLC低下療法を行うことに意義があると考えられる。ただし、男性では
高齢者で治療効率が低下する傾向にある。
女性
●合併症のない女性● 一覧表を開く(標準治療強力治療
 男性とは異なり、NNT値は高齢者で小さくなり、62歳と67歳のNNT値はほぼ同じであった(62歳=67歳<57歳<50歳)。しかし、NNT値の絶対値は極めて大きく、強力治療の一覧表で、もっともNNTが小さかったのは、67歳、LDLC200mg/dl、HDLC40mg/dlの場合で、NNT値=203人/5年、標準的なLDLC低下療法を行った場合(ガイドライン推奨値上限)で、NNT=465人/5年である。それぞれのNNT値は合併症のない男性の最小NNT値の約2倍であった。
  喫煙、糖尿病、高血圧、家族歴、家族性高脂血症の可能性などの合併症のない女性の場合、中等度の高コレステロール血症では、低HDLC血症であっても、薬物療法は非実用的である。

●高血圧症を合併した女性● 一覧表を開く(標準治療強力治療
 高血圧症の男性とは異なり、高齢者でむしろNNT値が大きくなる傾向は弱まり、62歳と67歳のNNT値はほぼ同じであった(62歳=67歳<57歳<50歳)。
  強力治療の一覧表で、もっともNNT値が小さかったのは、67歳、LDLC 200mg/dl、HDLC 40mg/dlの場合で、NNT=132人/5年、標準的なLDLC低下療法を行った場合(ガイドライン推奨値上限)で、NNT=218人/5年である。高血圧症以外の喫煙、糖尿病、家族歴、家族性高脂血症の可能性などの合併症のない中等度の高コレステロール血症の女性では、高血圧症+低HDLC血症であっても、薬物療法は治療効率が極めて低く、勧められない。

●糖尿病症を合併した女性● 一覧表を開く(標準治療強力治療
 これは女性は糖尿病の合併で冠動脈疾患発症率が3倍になる(J-LIT、2001年発表。年齢別の検討はされていない。)という仮定で計算している。
 NNT値は 67歳<62歳<57歳<50歳の順に小さく、高齢者ほど治療効率が高くなることを示した。強力治療の一覧表で、もっともNNT値が小さかったのは、67歳、LDLC 200mg/dl、HDLC 40mg/dlの場合で、NNT値=94人/5年、標準的なLDLC低下療法を行った場合で、NNT値=155人/5年である。
  NNT値の最小値を糖尿病と高血圧の場合で比較すると糖尿病合併の方が高血圧症合併時よりも小さく、その比は、0.71(94人/132人)、0.71(155人/218人)となり、高血圧合併時よりも糖尿病合併時の方が高い治療効率となった。この傾向は男性でも認められたが、男性0.91に対して、女性は0.71と差が大きく、女性は男性以上に糖尿病合併の影響が高血圧症合併よりも強い可能性がある。なお、ATPIIIのガイドラインでは高血圧よりも糖尿病の合併を重く評価している。
  糖尿病以外の喫煙、高血圧、家族歴、家族性高脂血症の可能性などの合併症のない中等度の高コレステロール血症の女性では、糖尿病+低HDLC血症であっても、薬物療法は治療効果が低いことを認識するべきである。

●高血圧症+糖尿病症を合併した女性●  一覧表を開く(標準治療強力治療
 これは女性は糖尿病の合併で冠動脈疾患発症率が3倍になる(J-LIT、2001年発表。年齢別の検討はされていない。)という仮定で計算している。
  NNT値は50歳<57歳<62歳=67歳と、60歳代は50歳代はよりもNNT値が大きく、高齢者で治療効率が低くなる傾向は見られない
  強力治療の一覧表で、もっともNNT値が小さかったのは、67歳、LDLC 200mg/dl、HDLC 40mg/dlの場合で、NNT値 =45人/5年、標準的なLDLC低下療法を行った場合で、NNT値=73人/5年である。この数値は男性のNNT値とほとんど同じである。
 高血圧症+糖尿病の場合は男女差がなくなり、同程度に極めてハイリスクで、積極的なLDLC低下療法が勧められる。糖尿病+高血圧では、強力にLDLC低下療法を行った場合、50歳代〜60歳代前半では、HDLC値が70mg/dlと高くても、LDLC値200mg/dlではNNT値が100以下となった。
 
家族歴、家族性高脂血症や頸動脈のプラーク病変、左室肥大など少しでも動脈硬化関連所見や因子がある場合、LDLC値が200mg/dlを越す場合などは、男女問わず積極的に薬物療法を考慮すべきと思われる。