■■ 右冠動脈(近位部:1番)閉塞による急性心筋梗塞 ■■
公開日 2004.04.18 更新日2004.04.28  更新履歴   HOMEへ  左メニューを隠す

【臨床経過】
 患者さんは70歳後半の男性。高血圧と痛風の治療中だった。喫煙習慣は何十年もない。肥満はない。日頃の血圧は、日によって変動が大きく、130-200mmHgと変動が大きかった。総コレステロール値211mg/dl(この半年の値181-231),中性脂肪191mg/dl、HDL-C( 善玉コレステロール)41mg/dl(この半年の値34-41)と総コレステロールは高くないが、HDL-Cが低値であった。
  2004年2月のある日、午前11時30分に上腹部痛と強い気分不良が生じた。家族の話では、午後3時頃では手足が冷たく、脈拍が少なかったという。午後3時半に本院受診。
 診察時の血圧は130mmHg、脈拍数も64/分と正常で、不整脈はなかった。上腹部痛は軽くはなっていたが続いていた。嘔吐・吐気はない。呼吸数は正常で、呼吸困難なし。手足の冷汗やチアノーゼなし。
  高血圧のある高齢者の強い上腹部痛と一時的な除脈から、まず急性心筋梗塞かどうかを診断する必要があった。
 

 心電図検査
  心電図はST低下のみで、ST上昇はなかった。
 心電図は簡単にできる検査なので、急性心筋梗塞を疑ったら、心電図はまず真っ先に行う検査です。典型的な心電図所見ではST上昇を伴いますが、小さな枝、左回旋枝や左冠動脈主幹部、側副血行が発達している場合などはST低下ばかりで、ST上昇がないこともあります。胸部や上腹部症状があり、前回に比べて、心電図でSTまたはT波の変化があれば、急性心筋梗塞や低酸素血症(肺塞栓症、心不全、喘息、肺炎など)を疑ってください。ただし、急性心筋梗塞発症の数時間の超急性期では、ときにST上昇がわかりにくい(超急性期の心電図)こともあり、1回の心電図のみで確定するのは困難です。

心エコー・ドプラー検査
  心エコー検査では、左室壁の厚さが12mm(正常10mm以下)と軽度の(求心性)左室肥大を認めた。左室の心基部下壁と呼ばれる部分に、わずかに壁運動の低下が見られた。また、そこに接した右室壁が明らかに動いていなかった。ドプラー検査では、軽度から中等度の三尖弁閉鎖不全が生じていました。以上の心エコー・ドプラー検査所見から右冠動脈が右室枝分岐する前の部位(1番)の閉塞と考えられた。
  冠動脈閉塞の予想部位のわりに、左室壁運動の障害範囲が小さいので、(1)完全閉塞ではない状態か、(2)側副血行があるか、(3)右冠動脈が未発達の状態が考えられた。なお、転院先での約1時間後の心エコー再検査では、左室下壁の運動はほぼ正常と回復していましたが、右室壁は一部まだ動いていなかった。

冠動脈造影(静止画)

● 治療前の冠動脈造影(動画)
 冠動脈造影は急性心筋梗塞の確定診断と治療方針を決める最も重要な検査です。
冠動脈造影では、右の冠動脈の比較的根もと(右冠動脈近位部=1番の完全閉塞)による心筋梗塞と診断された。ただし、左冠動脈(前下行枝から)中等度の側副血行がみられた。
 側副血行とは、本来の血管以外の血管から流れてくる血流です。高度の狭窄が長期間続き、その血流の不足分を補うために、別の血管とつながった(吻合)細い血管が次第に大きくなったものと考えられます。

●治療後の冠動脈造影(動画)

 閉塞部分を風船で膨らませると血流が再開し、末梢が造影されました。その直後に心拍数が極端に減少し、血圧も低下しましたが、薬物で戻りました。風船で単純に膨らませただけでは、まだかなりの狭窄が残りました。太い内腔の血管から血栓により急に閉塞したのではなく、もともと高度の狭窄があって、完全に閉塞してしまったものと考えられます。 このままでは再び閉塞することもあるので、引き続き冠動脈内ステントを留置し、冠動脈は十分に拡がりました。

 急性心筋梗塞は、コレステロールが変性した柔らかな粥腫(じゅくしゅ:アテローム)が破綻したために、血管内に血液の塊(血栓)が形成されて血管が閉塞しておこる病気です。急性心筋梗塞の冠動脈内の血栓排除には、風船による破砕がよく行われます。以前は薬物による血栓溶解がよく行われていましたが、最近は風船による治療が主体です。また、風船による拡張だけでは十分な拡張が得られない、再閉塞が多いという理由で、風船による拡張の後に金属のステント留置を行うことが多くなりました。