質問 Q&A NO.3】 公開日2004.06.15 更新日 2005.01.20  HOMEへ  メニューを隠す
このページは、診療中やメールでの患者さんからの質問の返答に説明を追加補充したものです。とくに、よくある質問に対して、参考となる資料が見つかった場合には紹介するようにしています。

  このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。
54)【入浴】高齢者、心臓病患者、高血圧患者の入浴時の注意点は?  2005.01.20記
53)【心筋梗塞】急性心筋梗塞の死亡率は最近ではどれくらいですか? 2004.11.10記
52)【血圧測定】血圧はなぜ右腕で測るのですか、左右で違いますか、違う場合はどんな病気が考えられますか? 2004.6.15記
51)【検査】診療所でもできる簡単に動脈硬化を測る新しい器械があると聞いたのですが? 2004.6.15記

前の質問へ【Q01】〜【Q32】
前の質問へ【Q33】〜【Q50】
次の質問
55)【動脈硬化】テレビでよくみる「血液サラサラ」の検査はできますか?   2006.03.16記


【入浴】                       目次へ  前へ戻る

Q54:高齢者、心臓病患者、高血圧患者の入浴時の注意点は?


A:日本式の入浴習慣では、脳出血や心臓発作が増えるので注意が必要。特に入浴温度を高くしないことが大事。

日本式の入浴方法は突然死が多い

 入浴中は心臓発作や脳卒中を引き起こすことがあり、特に寒い時期には夏場の約7倍もお風呂場での突然死が日本では増加する。入浴急死例は年間1万にに達すると推定されている。脳出血と虚血性心疾患が最も多いが、湯槽内の溺死もある。東京都の調査では死亡場所は浴槽内84.3%、洗い場9.8%、脱衣所1.2%が次ぎ、浴槽内が大半を占める。
 日本人では入浴中の突然死が突然死全体の約10%と多いが、欧米人ではほとんどないという。日本人は高温の湯(摂氏42℃以上)を好み、肩までつかる全身浴を行う。欧米人はぬるめの湯を好み、浴槽が浅く半身浴になる。このことが大きな違いを生じさせている。
 入浴時の事故は高齢者、高血圧患者、心臓病患者、飲酒後の入浴に多い。 入浴時の突然死を減らす対策を考えてみたい。

【入浴時の血圧、心拍数の変化】
 
入浴前(立位)、入浴中(座位)、入浴直後直後(立位)の血圧、心拍数、心電図を検討した研究の報告をみると、入浴前に比べて、入浴中は心拍数と血圧はともに上昇した。浴槽からでた直後(立位)では、心拍数は上昇したままだが、血圧は低下した。高温浴(42度以上)は適温浴(41度以下)に比べてその変化が著しかった。

【虚血性心疾患】
 狭心症60人の入浴時の心電図記録では、入浴中に労作性狭心症の7%に虚血性ST変化または著明な不整脈が出現した。安静時狭心症では37%、労作・安静時狭心症では81%と高率であった。安静時狭心症はすべてが入浴直後の立位で出現していた。労作・安静時狭心症ではすべて入浴中で出現していた。安静時狭心症では浴槽からあがった立位時に、急激な血圧低下、心拍数増加と自律神経の関与によって冠動脈の攣縮(れんしゅく)が誘発されると考えられる。浴槽入浴中は水圧による前負荷増大、血圧上昇、心拍数増加をきたし、高温浴で一層著明になる。
※ 冠動脈攣縮:たいした動脈硬化がないのに、心臓の筋肉に血液を送る動脈(冠動脈)が、主に安静時に冠動脈の血管壁内の筋肉の痙攣によって、血管の内腔が閉鎖してしまう。欧米に少なく、日本人に多いとされる。

【脳出血
 高温浴中は急激な血圧上昇を来たし、脳出血の危険性が高まる。また、高温浴からあがった直後に起こる急激な血圧低下は、自己調節機能の低下した高齢者や降圧剤内服中の高血圧患者で血圧の過剰降下をきたして、脳血流が減り、失神をきたす危険性がある。

【溺死】
 心臓発作や脳卒中の発作とは別に意識を失い、浴槽の中に沈み込むことも多い。飲酒後は特に危険性が高まる。

高齢者や循環器疾患のある患者さんの入浴上の注意点は

○一番風呂を避ける。風呂場を予め暖かくしておく。
  高齢者は一番風呂を避けるか、入浴前にお風呂の蓋をとって、蒸気で洗い場の温度を20度程度にまで上げてから入るのが好ましい。

○かけ湯を行う。急に熱い浴槽に入らない。高温浴を控える。急激な立位には注意する。
  高温刺激による急激な血圧上昇を防ぐため、上半身、下半身にかけ湯を行う。特に、高血圧症の人は必ず実行する。高血圧だけでなく、労作性、安静時問わず狭心症の人も高温浴は避ける。 安静時狭心症では、高温浴を控え、急激な立位による血圧低下に注意がする。湯温は40-41度が望ましく、42度以上の高温浴は避け、40度以下が望ましい。

○全身浴よりも半身浴、長い風呂は避ける。
  全身浴よりも腰湯または寝湯は肺や心臓への負担が少ない。特に、少し熱めの湯に入りたいなら、半身浴がよい。肩からタオルをかけてかけ湯をしながら入浴すれば、十分温まる。
○水分補給
 脱水状態は血圧低下を生じやすくする。脳梗塞・心筋梗塞の発症や湯あたりを防ぐため、入浴後だけでなく、入浴前にもコップ1杯の水分を補給しておく。
○食後30分以上後で入浴。入浴前の飲酒は避ける。
  食後に入浴する際は、30分ほど休息を取ってからにする。多量のアルコールを飲んだ後の入浴は厳禁である。酒は入浴後にする。
○出浴時は浴槽縁を支えにしてでる。
  浴槽から出た直後に血圧が急低下するので、転倒しやすいので注意がいる。強く時に立ちくらみが強ければすぐに横になる。 入浴後は血圧が下がるので、15分以上安静する。
○時々家族が声を掛ける

  循環器疾患を持つ高齢者の入浴では、時々家族が声を掛けることも大事である。

1)日経メディカル2005.1月号 循環器疾患患者の入浴、五十嵐 丈記(北海道社会保険病院健康管理センター名誉院長・顧問)
2)日経ビジネス2005年1月17日号
3)その他:一部出典不明。
2005.01.20記 2005.02.01修正


【心筋梗塞】                       目次へ  前へ戻る

Q53:急性心筋梗塞の死亡率は最近ではどれくらいですか?


A:CCU※普及前は死亡率30-40%、普及後に15-20%、さらに再灌流療法が一般化すると7-10%に減少した。ただし、これらは大病院へ移送されてからの成績であり、移送までに時間がかかるとその死亡率は非常に高いことには変化がない。
 
 我が国の死亡原因となっている3大疾患は、第1位悪性腫瘍(ガン)、第2位心臓病、第3位脳血管疾患である。悪性腫瘍はいろいろな部位に生じる悪性腫瘍の合計となるため、単一臓器の疾患としては、脳卒中よりわずかに多く、心臓病が一番である。
  2000年の心疾患による死亡数は約14万7千人であり、全死因の約15%を占めている。また、2000年の冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症、心臓突然死など)の死亡率は、人口10万人あたり55.9人である。経年変化についてみると、冠動脈疾患の死亡率は近年徐々に増加しながら、やや横ばいになってきているようである。これは高齢化による増加と治療による死亡率の減少があるように思われる。
 冠動脈疾患の心疾患全体に占める割合はアメリカで約67%、イギリスで約82%、日本においては約48%(2000年)である。CCU(Coronary Care Unit)が普及する前のわが国の心筋梗塞の死亡率は30-40%、CCU管理普及後は15-20%、さらに再灌流療法が一般化すると7-10%に減少した。

 ただし、これらは大病院へ移送されてからの成績であり、移送までに時間がかかった場合の死亡率が非常に高いことには変化がないし、梗塞の範囲が大きい場合に生じる重症心不全の治療成績は今もって非常に悪い。


CCU※=急性心筋梗塞など急性期の重症心臓疾患を24時間体制で治療する集中治療システムまたはその特別室

2004.11.10記 2004.11.11修正


【血圧測定】                       目次へ  前へ戻る

Q52:血圧はなぜ右の上腕で測るのですか、左右の上腕で違いますか、違う場合はどんな病気が考えられますか?


●Q: 血圧はどうして右手で測るのでしょうか?
A:どこで測っても原理的に血圧は同じになると解説したホームページもあるようですが、血圧は測定部位によって異なります。血液が流れていない静止状態ならどこで測っても同じ血圧(静水圧)になりますが、実際には血液は流れているので、同じにはなりません。
 血圧測定部位は心臓から遠ざかると脈波の波形が変化するので、心臓から出たばかりの大動脈弁の直上で大動脈圧を測るのが、理想的です。実際、心臓カテーテル検査ではそこで血圧を測ります。
 それでは、大動脈弁直上の血圧にもっとも近い血圧が測れるところはどこかということになります。頸動脈は、首にマンシェットを巻くことが危険なのでできません。腹部大動脈も体幹の深いところにあり、できません。左右の上腕動脈と下肢の動脈が現実的な候補となります。このうちもっとも心臓に近いのは右上腕ということになります。上行大動脈は右から出ており、左よりも先に鎖骨下動脈が分岐するからです。
 また、心臓から離れると反射波という問題がでます。少し話が難しくなりますが、血液を流す力は常に一定ではなく、脈流(一定の圧+波状の圧)となっているために末梢では脈圧の波の反射がおこり、血流を押し戻そうとする力が働きます。実際、腹部大動脈や手足の動脈では、一時的に血流が逆方向になります。岸辺で石を水面に落とすと、岸で反射した波が本来の波と重なり、波の山と反射波の波が重なると山はもっと高くなります。逆に、谷と谷が重なると谷はもっと深くなります。岸壁にうち寄せる波を思い浮かべてください。波は引くときに水の流れが逆行します。これが、次の波と重なると波の高さは大きく、谷は深くなります。
 ちなみに反射の問題、解剖的な問題、測定部位の高さによる水柱圧補正の問題などがあって、手首血圧計は現時点で臨床に応用してはいけないとされています。

●Q:右腕と左腕ではどちらが高くでるのでしょうか?
 A:同時測定で血圧の左右差をみると右が左より収縮期血圧で約2mmHg高く、高齢者ほど差が大きくなったという。10mmHg以上の較差は20%、20mmHg以上の較差が3.5%に認められたとある1) 。 別の報告でも右が左より高いとされ、拡張期圧で右が左より3.7mmHg高いという。10mmHg以上の較差を有する者が40%あり、20mmHg以上の較差も23%に認められたとの報告もある2)。 なお、以前は血圧測定は右上腕で測定と明記されていましたが、最近はあまり言わなくなったようです。家庭血圧測定のイラストをみても左上腕で測定しているものがあります。これは、自動血圧計の普及に伴い、右利きの人にとって左上腕で測定する方が簡単なためと思われます。
  右腕での血圧測定は左右差があまりないことを前提にしています。もし、血圧に明らかな左右差があれば、高い方で測定してください。低い方は血管の狭窄などにより、過小評価している可能性があります。

●Q:左右差があるとどういう病気が考えられるのでしょうか?
 A:
10mmHg以下は測定誤差と変動の範囲内、10-20mmHgは灰色ゾーン、20mmHg以上は異常と考えるのが、一応の目安かもしれません。血管に狭窄や閉塞があるとその部位に圧較差が生じます。多くの場合、低い方の血管と心臓の間に血管狭窄があると言うことになります。具体的な病名としては、動脈硬化や大動脈炎による鎖骨下動脈閉塞、先天性の大動脈縮窄症、心房細動に合併した血栓による動脈塞栓症、昔行った心臓カテーテル検査(特にソーンズ法)による上腕動脈の狭窄など、原因が何であれ、動脈や大動脈に狭窄が生じる病態です。

参考資料
http://www.lifescience.jp/ebm/sa/2003/0303/honbun9.htm

1) Lane D, et al. J Hypertens 2002;20:1089-95.
2)Cassidy P, Jones K. J Hum Hypertens 2001;15:519-22.

2004.06.15記 2004.06.24校正


【検査】                       目次へ  前へ戻る

Q51:診療所でもできる簡単に動脈硬化を測る新しい器械があると聞いたのですが?

A:器械の原理そのものは古く、測定時の変動が大きく、個々の患者の動脈硬化を評価する方法としては不向きです。足の血管が閉塞する閉塞性動脈硬化症の診断には役立ちます。
 
 ●脈波伝達速度(PWV)による動脈硬化の評価法の意義について
 動脈血圧波の伝わる速度が脈波伝達速度です。物理的に動脈が硬いほど脈波伝達速度は大きくなるために、動脈の物理的な硬さの指標になります。その原理は約200年前に指摘されています。1992年にBramwellとHillらは、脈波伝達速度が年齢とともに大きくなることを発見し、動脈硬化の客観的に評価しようとしました。以前には臨床の場で研究されていましたが、検査手法が煩わしく、検査するたびに測定値が変化しやすい欠点がありました。臨床的利用価値が低いため、ほとんど臨床の場から消えた検査でした。
  近年、精度や再現性、そして全自動による簡便性などが大幅に改善されました。最近普及した血圧脈波検査装置は、上腕-足関節間の脈波伝達速度が全自動で測定できます。『動脈硬化が15分で簡単わかる』と機械製造メーカーが精力的に営業努力したおかげで、開業医で利用されることが多くなりました。
 ただし、PWVは血管壁の硬さだけでなく、壁が厚さ、血管径、血液粘度、血圧値で変化します。また、ちょっとした精神的な緊張でも変動するので、静かな場所での測定が必要です。測定時の血圧の影響も無視できません。
  そのため脈波伝達速度を動脈硬化の指標として、疾患群間で比較したり、個人の経時的変化を観察することには注意が必要です。薬の抗動脈硬化作用を評価する指標としてPWVを利用した論文がいくつかありますが、細かい数値の変動にどの程度の意味があるかは、大変疑問です。
  現在時点でのPWV測定は、動脈硬化を早期に発見したり薬効評価の指標として利用するというよりも、危険因子を有した人で、PWVが2,000cm/sec以上では全身の動脈硬化病変の検索が必要であり、1,000cm/sec以下では下肢の閉塞性病変が疑われるなど、動脈硬化のおおまかな評価方法と考えるべきのようです。
  「簡単に検査できて、投資の元がとれればよい。患者の評判になればよい。」と打算で購入した開業医が少なくありません。山口県では、あまりに安易に検査が行われたために、「血圧脈波検査の臨床的な意義の少ない患者に安易に検査を行わないように」と異例の通知がでたほどです。

参考資料
  日本臨床内科医会会誌 2004年3月 p475 「高血圧の運動療法」有田幹雄 和歌山県医師会内科医会 学術部循環器斑

2004.06.15記 2004.06.21追記