質問 Q&A NO.2】 公開日2002.12.03 更新日 2005.02.14  HOMEへ  メニューを隠す
このページは、診療中やメールでの患者さんからの質問の返答に説明を追加補充したものです。とくに、よくある質問に対して、参考となる資料が見つかった場合にはできるだけ紹介しています。

50)【くすり】授乳中はどんな薬を飲んではいけないのですか? 2004.4.20記
49)【高血圧】運動で高血圧が治りますか(高血圧の運動療法) 2004.03.27記
48)【高脂血症】女性はコレステロールが高くても心筋梗塞になりにくいというのは本当ですか?  2004.02.20記
47)【高脂血症】食事と運動でどれだけコレステロールが下がりますか?  2004.02.20記
46)【糖尿病】糖尿病の人はどれくらい心筋梗塞になりやすいのですか?  2003.10.7記


45)【くすり】睡眠薬と安定剤(精神安定剤)はどう違うのですか?  2003.9.04記
44)【くすり】睡眠薬をずっと飲み続けても大丈夫ですか?   2003.9.04記
43)【高血圧】一度高血圧の薬を飲み始めたら一生続けなくてはならないのですか? 2003.9.04記
42)【たばこ】たばこを吸う医師も少なくないし、少しならストレス解消になるので身体にもよいのでは? 2003.9.04記
41)【たばこ】たばこを吸う人は外国に比べて多いのでしょうか? 2003.9.04記
40)【慢性関節リウマチ】「慢性関節リウマチ」の最新治療は?  2003.9.01記
39)【くすり】動悸発作で「胸がきつく」なったので「ニトログリセリン」を使ってよいでしょうか?  2003.9.01記
38)【食事】「心臓病の人は納豆を食べるとよくない」は本当ですか? 2003.9.01記
37)【喫煙】禁煙を勧められるが、なかなかできない。とりあえず、「軽いたばこ」にするつもりです。  2003.9.01記
36)【痛風】尿酸値はどれくらいになればよいのですか?  2003.9.01記
35)【予防】今度の冬にSARSが再流行するかもしれないと言うことですが、対策は?  2003.9.01記 03.9.18追記
34)【検査】今日は食事の後なので、今度朝食抜きで血液検査したい。 2003.9.01記
33)【病気一般】爪で病気がわかると聞いたのですが? 2003.9.01記

 

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【くすり】                       目次へ  前へ戻る

Q50:授乳中はどんな薬を飲んではいけないのですか?  (内容の難易度高く、医療関係者向け)

A:乳児で安全かどうか研究することが倫理的に困難なために、ほとんどの薬の安全性が証明されていません。ただし、「アセトアミノフェン(解熱剤)は安全、抗生剤でもペニシリン系、マクロライド系は授乳中でも差し支えない」との薬剤の専門家の意見がありました。
 
 ほとんどの薬剤の説明書(添付書類)には、授乳中の服用を控えるようにと書かれている。どの薬が安全で、逆にどの薬が危険なのか、明確な一覧表というものは存在しない。このため臨床の現場において、医師はほとんどの薬物が使えなくて困っている。今回、この問題に対して参考となる記事があったので紹介する。内容は正確に伝えないと誤解を生じやすいので、できるだけ原文に近い表現でまとめた。そのため専門用語も残り、一般の人にはやや難解で微妙な表現があるが、ご了承下さい。

 授乳中の投与がいけない理由の多くに、「動物(80%はラット)やヒトの乳汁中に移行するため」と記載がある。乳児への害があるとされたわけではない。また、ラット乳汁はヒト母乳に比較して、脂肪やタンパク質の比率が高く、ラットの結果をヒトに置き換えることは困難である。母乳中に薬剤がどの程度移行するかを示す一つの指標として、母乳中濃度/母親血中濃度比(M/P比)がある。M/P比が低い薬剤を選べば、母乳に移行しにくい。M/P比は「薬物の乳汁移行一覧表」として報告されている。
 しかし、 M/P比だけで授乳の危険性が決定されるわけではなく、M/P比が低ければ安全で、高ければ危険と断言はできない。また、日本と海外での授乳中の投与禁忌の評価が異なることも重要である。
  授乳中に有害反応を起こした薬剤は約80種類あり、日本ではこれらはほとんど授乳婦に禁忌とされている。しかし、海外では「重篤な有害反応」を起こした場合にのみ授乳婦に禁忌とされている。これからすると授乳婦への禁忌薬は、炭酸リチウム(躁病治療薬)、アスピリン(バファリンなど)、ブロモクリプチン(パーロデルなど:パーキンソン症候群の治療薬)、エルゴタミン(ジヒデルゴットなど:偏頭痛、起立性低血圧の治療薬)、チアマゾール(メルカゾール:甲状腺機能亢進症治療薬)、抗癌剤、放射性医薬品、抗凝血剤、免疫抑制剤、抗菌剤の一部などに限られる。これらの薬剤を服用中止できないときは、授乳を中止させるほうがよい。
---以下原文のまま引用---
これらの薬剤以外は、服用可と考えてよい。
  かぜの場合でも、アスピリンは問題があっても、アセトアミノフェンのように安全な薬剤もあり、抗菌剤もアミノグリコシド系やテトラサイクリン系を除き、ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系は安全であり、授乳中でも投与して差し支えないと考える。

当院の意見:
 いままで、「授乳中の患者さんに授乳中に薬を飲んでいいですか」や「何日、何時間あけたら授乳してもよいでしょうか」と聞かれたとき、私も含めてほとんどの医師は「できれば授乳しない方がよい」、「授乳時の安全性が完全に証明できた薬剤はない」、「服薬と授乳までの細かに時間に関する情報が少ない」などと説明するが、薬の安全性を心配する人が多く、対応に困っていた。上記のように「はっきりと使ってはいけない薬」と「おそらく問題ないだろうという薬」を示していただいたことは、患者さんに説明するときに大変助かる。それでも授乳中はできるだけ薬を処方しないという原則には変更はない。

 日本医事新報No4173 2004.4.17号 p93-94 「質疑応答:授乳中の薬剤服用」弘前大付属病院 薬剤部教授 菅原和信
2004.4.20記


【高血圧症】                       目次へ  前へ戻る

Q49:運動で高血圧が治りますか(高血圧の運動療法)?

A:糖尿病における運動療法の効果に比べると、高血圧の運動療法の効果は高くない。
 
 薬物以外の高血圧治療法(非薬物療法)として、体重減量、減塩、節酒、禁煙、カリウム摂取、運動などが知られている。 
 複数の論文を解析した報告(メタアナリシス)によれば、長期的な運動は、収縮期圧を3.84mmHg、拡張期圧を2.58mmHg低下させたとある(対象者2419人)。運動期間は平均12週間で、高血圧症、正常血圧者、肥満者、正常体重のいずれも運動量に関連して血圧が低下した。
  降圧機序としては、交感神経活性の低下、循環血漿量の低下、血管拡張作用が考えられている。
 運動の種類としては、歩行、ジョギング、水泳、サイクリングなどを軽度の運動強度で行うことが勧められている。軽度の※等張性運動中の血圧上昇はわずかである。他方、強い運動では運動中の血圧上昇が著しく、好ましくない。運動1回あたりは、ウォーミングアップ、20-30分の主運動、クールダウンを含めて、計1時間程度がよいと考えられている。一日一万歩の歩行運動を3ヶ月続けたところ、降圧効果が認められたとの報告があり、軽症高血圧症には一日一万歩の歩行を勧めている。

  高血圧症の人が運動療法を開始する時には、事前に医学的な検診(medical ckeck)をおこなう必要がある。検査項目としては、血圧、脈拍、検尿、血液検査、心電図、胸部レントゲン、運動負荷心電図、心エコー検査などがある。特に、運動負荷試験は運動中の身体の反応を知ることができるのでとても有用である。高血圧合併症として、中等度以上の血管・心臓・腎臓などの臓器障害がある場合には、運動によるトラブルの危険性が高く、運動療法は勧められない。運動療法の適応となるのは、心臓・血管系などの臓器障害のない軽症高血圧である。

※等張性運動と等尺性運動
 ウォーキングや軽いスイミングなどは、あまり力まないで、筋肉を収縮・弛緩させる等張性運動が主体となる。これに対して、綱引きなどは等尺性運動が主体となる。簡単に言えば、力む運動は高血圧の人には向かない。
 参考資料
  日本臨床内科医会会誌 2004年3月 p475 「高血圧の運動療法」有田幹雄 和歌山県医師会内科医会 学術部循環器斑

2004.04.01記


【高脂血症】                       目次へ  前へ戻る

Q48:女性はコレステロールが高くても心筋梗塞になりにくいというのは本当ですか? 

A:本当です。特に閉経前の女性は女性ホルモンの抗動脈硬化作用により、重症の家族性高脂血症以外は滅多に心筋梗塞になりません。
 
 日本には、信頼できる大規模な心筋梗塞の疫学資料がない。そこで、米国のフラミンガム・スタディから導き出された「冠動脈10年リスク予測ツール」(10-year Risk Assessment Tool)を使って、総コレステロール(TC)以外に危険因子のない場合を想定して、グラフを描いてみた(下図)。
  TC=220mg/dlの正常50歳男性の冠動脈10年リスクは5%、一方、TC=280mg/dlと中等度高コレステロール血症の70歳女性の冠動脈リスクも約5%である。TC=220mg/dlの70歳女性の冠動脈リスクは約4%である。このため、総コレステロール以外に危険因子のないTC=280mg/dlと中等度上昇を認める70歳女性のTCレベルを改善したとしてもわずか1%/10年の違いしかない。しかも、日本の心筋梗塞の発生率が米国の1/4であることを考慮するとその1/4の0.25%/10年とさらにその差はわずかになる。70歳未満の女性では血液中の総コレステロールレベルの差による冠動脈リスクの差はさらに小さくなる。
  これからすると、総コレステロールと年齢以外に冠動脈危険因子がない総コレステロール280mg/dlぐらいの女性に薬物療法を行うことは疑問となる。 実際、「ハイリスクでない高脂血症群を薬物治療して、冠動脈疾患が減少した」とする研究報告はまだない。
  なお、日本の動脈硬化診療ガイドラインの資料には、動脈硬化が大変起こりやすい「家族性高脂血症」が含まれているので、これらを除いた集団での高脂血症治療効果は日本で一般に考えられているより小さいと考えられることも念頭に置いておく必要がある。

冠動脈10年リスク(%/10年):10年間で重症冠動脈疾患(心筋梗塞、冠動脈疾患による突然死)になる頻度
- 喫煙習慣なし、糖尿病なし、収縮期血圧125mmHg、HDL-C=50mg/dl、
動脈硬化性疾患の家族歴なし、若年性冠動脈疾患の家族歴なし、家族性高脂血症ではない-

30歳
40歳
50歳
60歳
70歳
男性(/10年)
TC=220mg/dl
0.28 %
1.71 %
5.0%
9.55 %
14.12%
TC=240mg/dl
0.40%
2.22 %
5.92 %
10.51 %
14.64%
TC=260mg/dl
0.57 %
2.82 %
6.91 %
11.48 %
15.14 %
TC=280mg/dl
0.78 %
3.52 %
7.97 %
12.44 %
15.61 %
女性(/10年)
TC=220mg/dl
0.10 %
0.35 %
0.94 %
2.12 %
4.17 %
TC=240mg/dl
0.15 %
0.49 %
1.19 %
2.46 %
4.52 %
TC=260mg/dl
0.23 %
0.66 %
1.47 %
2.82 %
4.88 %
TC=280mg/dl
0.34 %
0.87 %
1.79 %
3.2 %
5.23 %
上表から作成

 


2004.02.20記


【高脂血症】                      目次へ  前へ戻る

Q47:食事と運動でどれだけコレステロールが下がりますか? 

A:年齢や運動、減量の程度によりますが、総コレステロール値で40mg/dlくらいは下がります。
 
 きちんとした資料は、現在持ち合わせていない。当院の経験でいうと、総コレステロールで、40-50mg/dlくらい下がることはよくある。
以下で、2003.12月初診の著明改善のケースを提示する。
42歳男性、筋肉質だが、身長169cm、体重83Kg、BMI 27.4
、肥満度25%、心臓病など動脈硬化性疾患の家族歴なし。運動不足、食べ過ぎであると自覚して、2ヶ月間フィトネス・クラブなどで運動に勤めた。結果、2ヶ月で体重約5Kg減少、総コレステロール、中性脂肪は著しく低下、HDLコレステロールは変化なし。AST,ALT低下(脂肪肝の改善の結果)。
 当院の経験では、食事療法と運動療法ともに、しっかり頑張ると総コレステロールで40mg/dlくらい下がることが多い。中性脂肪はもっと劇的に低下します。同時に、脂肪肝による肝機能障害AST、ALTの上昇も多くは正常化する。

体重
(身長177cm)
総コレステロール
mg/dl
中性脂肪
mg/dl
HDL-コレステロール
mg/dl
AST(GOT)
IU/L
ALT(GTP)
IU/L
初診時(12月)
83Kg
314
264
57
35
84
2ヶ月後(2月)
78.2Kg
257
107
57
21
24
変化(変化率)
-4.8Kg
-57(-18%)
-157(-59%)
0
-14
-60


2004.02.20記


【糖尿病】                      目次へ  前へ戻る

Q46:糖尿病の人はどれくらい心筋梗塞になりやすいのですか? 

A:心筋梗塞になったことのない糖尿病の人でも、一度心筋梗塞になった人(糖尿病はない)の再発率と同じくらいの頻度で心筋梗塞になっている。
 
 1998年発表のFinnish Studyで、「糖尿病のある人の心筋梗塞の初発頻度は、糖尿病のない人の心筋梗塞再発頻度とほぼ同じ(下図)」と報告されている。日本における現在進行中の軽症糖尿病を対象とした研究(Japan Diabetes Complications Study:JDCS)でも同様の結果が出ている。日本人の心筋梗塞の発症率は欧米に比べて低いと言われているが、糖尿病の患者は、とてもハイリスクと言える。日本においても糖尿病の患者さんの死亡の約40%が、虚血性心疾患(14.6%)、脳血管障害(13.5%)、腎障害(11.2%)などの血管障害によるものである。糖尿病の人は、動脈硬化による血管障害の予防をしっかり行わなければならない。
 この際、注意してほしいのは明らかな糖尿病だけでなく、軽症の糖尿病でも血管障害の危険性がかなり高いという事実である。「血糖管理状態がよい」と言われる「HbA1cが6.5未満」では、細い動脈病変は減り、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症は少ないと言われている。しかし、これよりも太い動脈硬化が原因となる心臓の動脈(冠動脈)や脳動脈・頸動脈・下肢の動脈におこる動脈硬化は高頻度に生じる。糖尿病のコントロールがよいからと言って、油断してはいけない。糖尿病以外の動脈硬化の危険因子(血圧、喫煙、高脂血症、肥満など)をしっかり管理することが大事である。

糖尿病1059人と非糖尿病1373人での心筋梗塞発生頻度
糖尿病の人は、すでに心筋梗塞になったことのある人と同じくらい心筋梗塞になりやすい。
Finnish Study(Haffner SM,et al. N Engl J Med,339:229-234,1998)

参考資料:Diabetes Tomorrow No 17 2003.9
2003.10.7記


【くすり】                      目次へ  前へ戻る

Q45:睡眠薬と安定剤(精神安定剤)はどう違うのですか? 

A:ほとんど同じ系列の薬です。作用の特色によって使い分けます。
 
 睡眠薬は、1)バルビツール酸系、2)非バルビツール酸系、3)ベンゾジアゼピン系、4)非ベンゾジアゼピン系の4つに大別されます。安全性の面から現在よく使われているのはほとんど3)と4)である。安定剤は正式には抗不安薬と呼ばれるが、ほとんどベンゾジアゼピン系である。
 ベンゾジアゼピン系薬剤は、いずれも●催眠作用 、●抗不安作用、●筋弛緩作用、●抗けいれん作用の4つの作用がある。個々の薬剤によってこれらの作用に強弱がある。催眠作用が強いものを睡眠薬として使用し、催眠作用が弱く、かつ抗不安作用が強く、作用時間が長いものを安定剤として使う。しかし、これらの薬の効き方には個人差がある。そのため、たとえば、デパス(エチゾラム)は安定剤として使われることが多いが、人によっては睡眠薬として使われることがある。非ベンゾジアゼピン系の薬剤は抗不安作用がないため、安定剤として使われることはない。
  なお、ベンゾジアゼピン系および非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、強弱でなく、作用時間の長さによって分類されてるので、強い睡眠薬と弱い睡眠薬というような分類はない。強くしたい場合は服薬量を増やすか、2種類を併用する。
薬物作用時間の長さで、●超短時間作用型、●短時間作用型、●中間作用型、●長時間作用型の4つの睡眠薬がある。寝付きが悪い人には、 ●超短時間作用型または●短時間作用型が使用される。これらは主に入眠目的で使われるので、睡眠導入剤と呼ばれることもある。

2003.9.05記

【くすり】                      目次へ  前へ戻る

Q44:睡眠薬をずっと飲み続けても大丈夫ですか? 

A:長期使用でも安全です。休薬や中止の際は、医師の指導を受けて下さい。
 
 現在使われている睡眠薬のほとんどが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬である。これらは、適正な用量・用法であれば、重篤な副作用は少なく、安全な薬である。長期の使用でも心配いらない。長期に使用していると効果が薄れて、効かなくなる(耐性という)と心配する人がいるが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬はこのようなことは起こりにくいとされている。
 睡眠薬の使用により睡眠が改善されたら、睡眠薬の減量や中止を試すことをお勧めする。ただし、いきなり中止すると反動で不眠が以前よりも強くなることがある(反跳性不眠)。長時間作用(短時間ではない)の睡眠薬に変更したり、薬を半分に減量したり、長時間作用型を2日に一度使用するなど、徐々に減らすとよい。睡眠薬の減量中止に関しては、医師のアドバイスを受けることを勧める。

2003.9.05記


【高血圧】                      目次へ  前へ戻る

Q43:一度高血圧の薬を飲み始めたら一生続けなくてはならないのですか? 

A:大部分の高血圧の人は降圧剤を続けなくてはなりませんが、一時的な休薬や薬量減はよくあります。
 
 降圧剤の服薬を開始した人が、その後血圧が正常化したからといって、勝手に服薬を中止することは勧められない。しかし、自宅血圧で110mmHg未満や外来血圧で120mmHg未満では、合併症(心臓病・腎機能障害・糖尿病・大動脈瘤など)がない場合には、当院では降圧剤の減量、中止を試みている。その結果、2003年の7〜9月中に降圧剤が減量(8人)または中止(2人)できた方がた。これらの方は、自宅測定血圧も低下していた。
 一般的に初めて降圧剤を開始した人が、休薬または投薬中止になる割合は、10〜20%と報告されている。私のところでは、合併症のない軽症の高血圧では、降圧剤を開始する前に、まず減塩指導をしっかり行い、多量の飲酒があれば之を是正することを強く勧める。また、治療開始初期には、ほとんどの方で自宅血圧測定値を当院作成の記録表に書いてもらい、白衣高血圧でないことを確認する。このような状況で、当院で降圧剤を開始した人が降圧剤がいらなくなる割合は数%である。服薬不要となった方のほとんどが、飲酒、減塩、体重の是正ができた方でした。
 つまり、降圧剤がいらなくなる人は生活習慣の改善ができた人の一部である。 飲酒量が多い、塩分摂取過多、肥満などある方は、努力すれば降圧剤を減らすことができることが少なくない。しかし、生活習慣の改善を行わずに、ただ薬を飲んでいるだけでは、なかなか薬を減らすことはできない。 

参考解説 「生活習慣病」-「高血圧」-Q24:高血圧の薬は一度飲み始めるとやめることができないのでしょうか?

2003.9.05記


【たばこ】                      目次へ  前へ戻る

Q42:たばこを吸う医師も少なくないし、少しならストレス解消になるので、身体にもよいのでは? 

A:日本の医師の喫煙率は一般人よりも低いが、先進諸国に比べるとずっと高い。「海外ではたばこを吸う医師は信用されない」ことを日本の医師は反省するべきです。
 
 日本の医師の喫煙率は男性27.1%、女性6.8%で、一般国民の約半分です。それでも英国や米国の医師の喫煙率(約5%)よりはるかに高い。
  一方、女性看護士の喫煙率は24.5%と一般女性の約2倍と高い。
  日本におけるたばこによる死亡者増加数は、年間10万人以上と推測されている。本人だけでなく、周囲の人にも悪影響があるとわかっているのに、指導すべき医療従事者が喫煙を続けることは大きな問題である。医師がたばこを吸っていると、「医者だって、たばこを吸っているじゃないか。たばこを吸っても大して悪くないんだ」と人々にたばこの有害性を過小評価させることになるからである。また、喫煙している医師は、禁煙指導に積極的でないと言われている。「喫煙を続ける医療従事者は、社会の健康を増進するという医療従事者としての役割の自覚が足りない」と言われても仕方がない。
  遅ればせながら、日本呼吸器学会は「禁煙宣言」、日本医師会は「禁煙推進に関する日本医師会宣言」を2003年3月に発表した。
一方、政府の喫煙問題対策に関しては、「税収を求める」財務省と「健康や医療費を考える」厚生労働省の両方の利害が反目し、政府として明確なたばこ政策を打ち出しにくいのが実状である。いつも後手に回る日本政府の政策の犠牲者にあなたがならないように、現在たばこを吸っている人には是非禁煙することを勧める。

診療科目
呼吸器科
循環器科
・・
・・
・・
泌尿器科
男性医師喫煙率
18.9%
20.0%
・・・・・・・・・・・
38.7%

日本呼吸器学会の「禁煙宣言」の基本方針
1)会員のすべてが非喫煙者であることを目指す。
2)あらゆる場所での禁煙を推進する。
3)市民の禁煙を支援する。
4)広く保健医療従事者への禁煙を促す。
5)医療従事者を目指す学生への喫煙問題についての教育を求める。
6)社会全体の禁煙推進をはかる。

禁煙推進に関する日本医師会宣言(禁煙日医宣言)
喫煙は、癌・心臓病・肺気腫等の疾病の原因となるなど健康に悪影響を与えることが医学的にわかっている。また、受動喫煙についても健康被害があるとの研究結果が報告されている。
  日本医師会は、国民の健康を守るために、喫煙大国からの脱却をめざして、今後とも禁煙推進に向けて積極的に取り組んでいくこととし、ここに禁煙日医宣言を行う。
1)我々は、医師及び医療関係者の禁煙を推進する。
2)我々は、全国の病院・診療所及び医師会館の全館禁煙を推進する。
3)我々は、医学生に対するたばこと健康についての教育をより一層充実させる。
4)我々は、たばこの健康に及ぼす悪影響について、正しい知識を国民に普及啓発する。
  特に、妊婦、未成年者に対しての喫煙防止を推進する。
5)我々は、あらゆる受動喫煙による健康被害から非喫煙者を守る。
6)我々は、たばこに依存性があることを踏まえて、禁煙希望者に対する医学的支援のより一層の充実を図る。
7)我々は、禁煙を推進するための諸施策について、政府関係各方面への働きかけを行う。
 

参考資料:成人病と生活習慣病  33巻7号 東京医学社2003/07/15発行 
2003.9.05記


【たばこ】                      目次へ  前へ戻る

Q41:たばこを吸う人は外国に比べて多いのでしょうか? 

A:先進諸国に比べて日本の男性の喫煙率は著しく高い。たばこ流行のモデルでいうと、日本は一段階遅れている。「今後、たばこによって起こる疾患死亡数は日本では急増する」ことが予想されています。禁煙指導は、医師として極めて大事な問題と考えます。
 
 日本の成人喫煙率は、ロシア連邦を除くG8諸国のなかで、男性は著しく高く、女性ではかなり低い。
年齢別では、 日本における喫煙率は中高生で急速に高まり、男性では30歳代で頂点に達する。女性では20歳代で頂点に達する。以後は次第に低下する。
現在、日本における喫煙率はいずれの年齢でもゆっくり低下傾向にある。

MacKay J,Eriksen M:The Tabacco Atlas,WHO,Geneva,2002(日本語訳:たばこアトラス、日本公衆衛生協会,2003)の資料よりグラフを作成

喫煙流行モデルとして、4段階モデルが知られている。このモデルを日本に当てはめてみると、現在の日本は第三段階と考えられる。
第三段階の特徴
 この段階の末期には男性の喫煙率は40%にまで減少すると言われている。女性の喫煙率は上昇し続けるが、たばこの健康障害が知られるようになるので、男性ほど上昇しないと言われている。
  第三段階の特色は男性の喫煙関連疾患死亡率が急速に上昇することである。女性の喫煙関連疾患死亡率はまだ低いが、上昇傾向を示す。
第四段階の特徴
 この段階では、喫煙率は男女ともに低下し続けるが、女性では遅いため、男女の喫煙率が近づく。この段階の初期では男性の喫煙関連疾患死亡率は、総死亡率の30〜35%くらいで頂点に達する。女性の喫煙関連疾患死亡率は急上昇を示す。

【総括】
 以上から日本の喫煙と喫煙関連疾患の状態を考えると、現在はたばこによる健康障害の知識が広まり、喫煙率は低下傾向にあるが、煙草による死亡率の増加は、喫煙率の増加よりも遅れるために、「日本ではたばこによって起こる疾患死亡数が、これからも増加する」と予想される。社会全体の問題として、禁煙を勧めることが極めて大事と考える。

喫煙流行モデル
喫煙率
喫煙による死亡
第一段階 男性の喫煙率が上昇し始める。 喫煙関連疾患死亡率による死亡はまだ目立たない。
第二段階 男性の喫煙率は頂点に近づき、女性の喫煙率が上昇し始める。 喫煙関連疾患死亡率が大きくなる。
第三段階 男性の喫煙率は低下し始める。女性では喫煙率が頂点に達する。 喫煙関連疾患死亡率が上昇し続ける。
第四段階 喫煙率は男女ともほぼ並行して低下し続けるが、女性喫煙率の低下は遅い。 喫煙関連疾患死亡率は、総死亡の30〜35%に達する。女性の喫煙関連疾患死亡率は急上昇を続ける。
成人病と生活習慣病  33巻7号 東京医学社 2003.7月発行より


参考資料:成人病と生活習慣病  33巻7号 東京医学社2003/07/15発行

2003.9.05記


【慢性関節リウマチ】                      目次へ  前へ戻る

Q40:「慢性関節リウマチ」の最新治療の特徴は? 

A:まだ関節の変形などが起こっていない「関節リウマチ」の早い段階から、強い薬を使うことを積極的に勧めるように変わった。
 
 日本国内の慢性関節リウマチ患者数は約70万人と推定されている。この病気は自分自身の正常な組織を、「異常(非自己:正常な自分自身のものではない)」と勘違いし、攻撃する「自己免疫疾患」とされている。しかし、なぜ「異常」と誤認されるのか詳しい原因は、まだよく分かっていない。そのため、診断方法も根本的な治療法も手探り状態である。
  関節リウマチの標準的な治療法を検討してきた厚生労働省の慢性関節リウマチ研究班は、2003年8月に今までの治療指針を転換を促す勧告を行った。いままでは、初期の関節リウマチに対して、比較的副作用の少ない「抗炎症剤」などの効果の穏やかな薬を優先し、効果が不十分なら強い薬に変えていく治療が主流だった。
  しかし、今回からは早い段階から免疫の異常を抑える効果の強い薬「抗リウマチ薬」を積極的に使うことを勧めるようになった。この治療方針は、米国では何年も前から推奨されているものである。従来の治療では、関節の破壊が進んでいくのを予防できない。新しい指針では関節障害の進行を積極的に抑制することを目指している。
 治療指針の変更の理由は、「抗リウマチ薬」を早く使った方が、関節への障害を遅らせて生活の質を保つ効果が高いことが複数の臨床試験で分かってきたからである。 具体的には、「メトトレキセート」といった抗リウマチ薬をできるだけ早く使うことを勧めている。 抗リウマチ薬を「診断から3カ月以内に始めるべきだ」としている。 ただし、メトトレキセートを含めて、「抗リウマチ薬」は重篤な副作用を起こすこともあり、定期的な血液検査・検尿・その他の検査、自覚症状による副作用の早期発見が重要である。これらのチェックを行いながら、慣れた医師が治療をすれば、副作用をそれほど恐れる必要はないが、まともな診察なしで薬を出すばかりの医師には気をつけた方がよい。

 当院のコメント:当院では5年前の開業当初より(勤務医時代も含めると10年以上前から)「メトトレキセート」を早期リウマチの第一選択として使用している。しかし、この薬剤は重篤な血液・肝臓・肺・腎臓の障害を引き起こすことが時にあるので、十分な管理のもとで服用する必要がある。2005.02.13の読売新聞にこの薬剤による死亡例があることが報道されていた。

参考資料 2003/08/31朝日新聞記事、2005/02/13 読売新聞記事

2003.9.01記 2005.02.13記 


【くすり】                     目次へ  前へ戻る

Q39:動悸発作で「胸がきつく」なったので「ニトログリセリン」を使ってよいでしょうか?  

A:頻拍発作の時は、ニトログリセリン製剤は勧められません。

  まず、●頻拍発作は「不整脈発作」や「精神的な脈拍増加」の可能性が強く、狭心症ではないことが多い。当然、ニトログリセリンは無効である。次に●ニトログリセリンは急激な血管拡張作用(特に静脈拡張作用)により、急激な血圧低下を起こす。頻拍性不整脈の時は、心臓を血液で充填する時間が短くなっており、この状態で強く静脈を拡張するニトログリセリンを服用すると静脈に血液が停留して、心臓に戻って来なくなり、心臓が空打ち状態になる。そのために血圧が60-70mmHgに急下降することもある。特に汗をかいたような後などの脱水状態では血圧下降が強くでる。
 こうした高度の低血圧では脳血流が低下し、一瞬の意識障害をおこすことがある。立った状態では倒れて大怪我をすることがある。
  「心臓の発作にはニトログリセリン」 という安易な発想は、時として危険であるので注意がいる。しっかりとした医師の指導のもと使用下さい。

2003.09.02記


【食事】                     目次へ  前へ戻る

Q38:「心臓病の人は納豆を食べるとよくない」は本当ですか? 

A:納豆を食べてはいけないのは、ワーファリンを内服中の人だけです。それ以外の心臓病の方は関係ありません。

  ワーファリン(ワルファリンとも言う)はビタミンKの作用を抑制することで、その効果を発揮する。納豆は、納豆菌による発酵により、多量のビタミンKを産生する。週に1回の納豆の摂取でも、ワーファリンの効果がなくなる。ビタミンKは、ケール(青汁)、パセリ、シソ、アシタバ、春菊、ブロッコリー、レタス、ホウレンソウなど多くの緑色野菜に含まれている。ただし、一回の食事で摂取する量が少ないために、普通の食事量や回数では、これらの野菜が問題になることはほとんどない。ただし、毎日これらを野菜ジュースにして飲む、「市販の青汁」を飲む、などは影響が大きいと考えられる。
現在、当院でのワーファリンを内服中の人の禁止食品は、「納豆」、「青汁」、「クロレラ」のみである。 ホウレンソウ、キャベツ、レタスなどは普通の量なら構わないと指導している。

2003.06.02記


【喫煙】                    目次へ  前へ戻る

Q37:禁煙を勧められるが、なかなかできない。とりあえず、「軽いたばこ」にするつもりです。 

A:「軽いたばこは害が少ない」は誤解です。

  低タール、低ニコチンと言われているたぱこは、いかにも害が少ないような印象を与える。しかし、実際に喫煙の実験・調査を行うとこれがまやかしであることがわかった。また、タバコによる血管障害の主因として、一酸化炭素なども重要である。一酸化炭素の量は、ニコチンやタールの量とは関係ない。現在までに「軽いタバコなら健康被害が減る」といった報告はされていない。以下は2002.3.9の朝日新聞の引用記事である。

---------------------------------  引用文  ----------------------------------

低タール、低ニコチンを売り物にしたたぱこでも、銘柄によってタールは表示の約7倍、ニコチンも約5倍の量を吸い込む可能性が大きいことが、厚生労働省の分析でわかった。同省は『販売に影響を与えるおそれがある』と銘柄を明らかにしていない。
   
     厚労省が調査
---- 販売に配慮銘柄明かさず ------
 売り上げが多い中から7銘柄を選び、カナダの検査機関に2千万円で分析を委託。煙に含まれるタール、ニコチンなどの発がん物質を含む約30項目を測った。
 たばこの成分は、1本を消費したときに吸い込むと想定される量で示される。分析の前提とした吸い方は
(1)65年当時の吸い方に基づく国際基準で、メーカーが現行の表示に採用しているもの
(2)今の現実の吸い方に近くて米国やカナダ保健省で採用されているもの----の二つ。

表示と最もかけ離れていたのは「タール1mgグラム、ニコチン0.1mgグラム」という銘柄。
(2)の吸い方では、タールは表示の6.7倍、ニコチンは4.8倍だった。
  差が最小の銘柄でも、同じ吸い方ではいずれも2.2倍だった。有害物質量が少なく表示された銘柄ほど(2)との食い違いが大きかった。ベンゾピレンやベンゼンといった発がん物質も「軽い」銘柄の方が「重い」銘柄より多い場合があった。

 国立公衆衛生院の望月友美子主任研究官は「たばこが軽くなるにつれ、喫煙者はニコチンを求めて強く頻繁に吸い込むようになってきた」と食い違いの背景を説明する。メーカーの表示は、これに目をつぶった形だ。
 フィルター側面にあけた通気孔から吸い込む空気で煙を薄め、基準上の数値を低くしている銘柄も多い。しかし、「吸う際に指や唇で通気孔がふさがれ、効果が薄れる」との指摘もある。JTは「今回の報告書は最終的に固まったものではなく、現段階ではコメントできない」としている。
 渡辺文学・たばこ問題情報センター代表の話
喫煙のリスクをきちんと伝えるのが厚労省の仕事。税金で調べておいて、たばこの売り上げを心配して公表しないとは言語道断だ。

---------------------------------  引用文  ----------------------------------

2003.09.02記


【痛風】                     目次へ  前へ戻る

Q36:尿酸値はどれくらいになればよいのですか? 

A:6-7-8のルールと呼ばれるものがある。この数字を参考にしてください。
【6-7-8のルール】
- 尿酸の値:6mg/dl以下=目標値、7mg/dl以下=正常値、8mg/dl以上=治療開始値 -

 血清尿酸値を4.6〜6.6mg/dlにコントロールしたときが、もっとも痛風関節炎の発症が少なくなると報告されている。痛風発作を予防するだけでなく、尿酸沈着による腎臓障害(痛風腎)や尿路結石を予防することは重要である。 尿酸が溶解できる濃度の上限は、年齢・性別の差なく、7.0mg/dlである。また、尿酸降下療法は8.0mg/dl以上で考慮し、合併症や病態に応じて開始する。尿酸降下療法の目標値は6.0mg/dl以下とする。このとき急速に下げると、逆に痛風発作を誘発することがあるので、ゆっくりと下げるようにする。.もっと詳しく解説すると以下の通りになる(本サイトの痛風の解説内容です)。

  【高尿酸血症の治療方針】
●痛風発作あり
  血清尿酸値7mg/dl以上 → 薬物治療
●痛風発作なし
  ○合併症あり(腎障害・尿路結石・高血圧・高脂血症・虚血性心疾患・耐糖能異常など)
  血清尿酸値8mg/dl以上 → 薬物治療
  血清尿酸値8mg/dl未満 → 生活指導
  ○合併症なし
  血清尿酸値9mg/dl以上 → 薬物治療
  血清尿酸値9mg/dl未満 → 生活指導
1)痛風関節炎が沈静化したのちに、尿酸降下薬を少量より開始する。
2)尿酸値や尿中尿酸値を測定しながら、徐々に尿酸降下薬を増量し、3-6ヶ月かけて維持量を決定する。
   この間は痛風が再発しやすい。痛風関節炎が発症したら、関節炎が治るまでは尿酸降下薬の量は変更しない。 
3)高尿酸血症の治療の目的は、痛風発作予防、尿路結石予防、腎臓障害予防です。高尿酸血症の改善だけでなく、尿路結石を起こさないために尿量を十分に増やす、尿のアルカリ化などの尿路管理も行われる。
4)高尿酸血症は高脂血症、高血圧、糖尿病、肥満などの生活習慣病が合併することが多いので、これらの治療も同時に行う。

痛風治療の解説へ

2003.09.02記


【予防】                    目次へ  前へ戻る

Q35:2004年冬にSARSが再流行するかもしれないということですが、対策は? 

A:国や医療機関としての対策は、残念ながら決め手がありません。

  SARSウイルスは、コロナウイルスの一種である。コロナウイルスはいままで、軽症の呼吸器感染をおこす風邪ウイルスと軽く考えられていた。同じコロナウイルスなので、冬場は流行しやすいと考えられる。さらに、SARSの初期症状は、インフルエンザに似ているため、インフルエンザとSARSがともに流行した場合には、医療機関でも混乱は必至である。
  このため、厚生労働省は今期(2003-2004年)のインフルエンザワクチン製造量を増やし、インフルエンザの予防接種をすすめた。
 しかし、肝心のSARS診断・検査は特殊な研究施設でしかできない。また、特に有効な治療法もないことから、SARSが冬季に再流行した時の騒ぎは2003年4月よりも格段に深刻な状況になると考えられる。
  個人的な対策は、流行地域に近づかない、うがいする、手洗いする、マスクする(効果不明)など、インフルエンザ対策とほぼ同じである。

 中国をはじめとする各国の保健当局は、早ければ11月の再SARS流行に警戒を強めている。今度も中国が最前線となる可能性が強い。中国ではSARSウイルスの発生源とみられる野生動物市場の規制が、それほどうまくいっていないからである。

 SARS予防ワクチン開発が始まっているが、実用化は2005年以降になるという。しかし、将来はより凶悪な新型のSARSウイルスの出現の可能性すらあり、油断できない。

20030.9.02記 2003.09.18追記

追記の参考:Newsweek (日本語版) 2003.9.24


【検査】                    目次へ  前へ戻る

Q34:今日は食事の後なので、今度朝食抜きで血液検査してください? 

A:血液検査には、直前の食事の影響を強く受けるものがある。血糖値と中性脂肪値がその代表である。逆に、軽症糖尿病を早期に見つける目的で、食前よりも食後1〜2時間後の血糖値を検査することがある。

糖尿病発見には、感度高い食後血糖値での診断が有利
 現在の診断基準では、空腹時血糖値が126mg/dl以上なら糖尿病型である。しかし、最近の調査の結果、「空腹時血糖値が126mg/dl以上なら糖尿病とする基準」よりも「ブドウ糖液を飲んで、2時間後の血糖値が200mg/dl(検査名:OGTT)以上を糖尿病とする基準」の方が、2.5倍も診断感度が高くなることがわかっている。
 たとえ「軽症糖尿病、糖尿病予備軍」、または「空腹時血糖値が正常範囲の食後の高血糖」であっても、心筋梗塞の危険因子になり、OGTT2時間血糖値が高くなればなるほど死亡率が高くなることがわかっている。
 食事1、2時間後の血糖検査は空腹時血糖検査よりも早期に糖尿病を見つけやすいこと、また、食後の高血糖は血管障害を起こすので、食後血糖検査は重要である。HbA1cが6.5%未満(70歳以上では7.0%未満)だけでなく、食後血糖値が200mg/dlを越えないことが、血糖コントロールの目標とされている。

2003.09.02記


【病気一般】                     目次へ  

Q33:爪で病気がわかると聞いたのですが? 

A:たしかに爪に特徴的な変化がでることがありますが、あまり当てにできない。

  日常診察で爪をチェックするときの注意点は色々あるが、実際よく見るポイントは、●チアノーゼ、●バチ状指、●足の爪白癬などです。チアノーゼ(爪の下の皮膚が紫色になる)は血液中の酸素が少ない状態を示す。バチ状指は爪の付け根と皮膚の角度が180度より大きくなる所見である。血液中の酸素が少なく状態が長く続いた先天性心疾患や肺疾患でおこりる。時に血液中の酸素が低下していない肺癌でも認める。足の爪が白く濁り、厚くなり、変形するのは水虫の原因となるカビ(白癬菌)が爪にはびこったためである。慢性的な高度の貧血などでも爪の変形がおこるが、多くはそれ以前に血液検査の異常で見つかる。
 むしろ、爪の所見にばかりに頼ると見逃す病気が多い。日本では、血液検査がどこの医療機関でも簡単にできるので、「爪の視診」の有用性は限定的である。

2003.09.02記


 

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