トピックス(役立つ医学情報-循環器編No.5)】 
公開日2004.11.10 更新日 2004.12.24  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報(必ずしも最新ではありません)を紹介します。
このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。
37)【心臓】高感度CRP値による冠動脈疾患リスク評価 2004.12.24記
35)【心臓】長時間作用型硝酸薬の現在の日本での使われ方は好ましくない 2004.11.08記

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(37)高感度CRP値による冠動脈疾患リスク評価

まとめ:血液中のCRP濃度は炎症の程度を示す非特異的な検査である。最近、動脈硬化巣(プラーク)が損傷されるとCRPが上昇することがわかってきた。そのため、他の炎症性疾患が否定できる場合にはCRPの軽度の上昇がプラークの破綻を予測する手段として有用であると考えられるようになってきた。

●動脈硬化と局所血管炎症●
 最近、動脈硬化は局所の血管炎症の結果と考えられるようになってきた。それを裏付けるように炎症の程度を表すCRP(C反応性タンパク)や他の炎症マーカーは、冠状動脈の血管損傷(プラーク破綻)を起こしている例で上昇しているという。ただし、血管炎症の範囲が小さいのでその上昇は軽度である。また、CRPの検査は他の炎症マーカーよりも安価である。このためわずかなCRPの上昇を感知できるような検査(high sensitivity CRP : hs-CRP : 高感度CRP)が注目されるようになった。

●hs-CRPの基準値●
 通常のCRP測定値の下限は1mg/L(通常のCRPの単位はmg/dl)であるが、hs-CRPは0.2mg/Lまで測定が可能である。日本人の基準値の上限は2.0mg/Lで、男女間で大差なく、加齢とともに上昇する。明らかに肥満者で高値である。また1日20本以上の喫煙で軽度上昇を示し、アルコール摂取との関係ではU字型を呈している。つまり、少量なら低下し、多くなると高値となる。なお、hs-CRP測定は再現性は高いが、2週間ほど間を置いての2回の測定が提唱されている。 高血圧なく、BMI25未満、喫煙量1日20本以内、明らかな感染がない3,515例の集団での測定で、2.0mg/Lがほぼ基準値の上限と考えられた。

●hs-CRPによる虚血性心疾患リスク評価●
 1997年Ridker P.M.らA1)は「CRPが高値であることが虚血性心疾患の独立した危険因子になりうる」と報告した。「アスピリンやスタチン投与によってhs-CRP高値群のhs-CRP低下が顕著におこる」ことも報告されている。 フラミンガム10年リスク評価とhs-CRP濃度のがよく相関し、中等度リスクのみでなく全例で有用としているA2)。hs-CRPが高値であることは、プラークが不安定性であることを示唆しているという。ただし、炎症反応は動脈硬化性疾患に特異的ではないので、この解釈は他に炎症性疾患がない状態に限られる。
  BurkeらA3)は病理解剖例のプラーク(動脈硬化巣)の状態を検討し、hs-CRP値はプラーク破綻例3.2mg/L、プラーク安定例2.5mg/L、対照例1.4mg/Lとプラーク破綻例で上昇していたと報告している。


●日本人の追跡結果による冠イベント予測B)●
 9,087名についてhs-CRP値と冠動脈事象(冠動脈イベント)との関係を約2年追跡した。5名の男性が急性冠症候群を発症した。年令は48〜57才であった。急性冠症候群5例でのhs-CRP値は観察開始時には1.0mg/L(85%値)を越えていた。40才以上の男性の場合、hs-CRP1.0mg/L以上からの発症率は5.35/1000人年であり、hs-CRP値1.0mg/L未満例での発症率はなかった。今後引き続き追跡調査を実施して行くという。
 

●AHA/CADによるガイドラインのhs-CRPによる冠動脈疾患リスク評価見解●
以下1から)の日本語訳を引用(一部修正)
----引用開始------
1)全成人を対象とする冠血管疾患のリスク予測のためのスクリーニングに用いるべきではない。
2)中等度リスク患者(10年間に冠動脈疾患を発症する確率が10-20%)のhs-CRP測定は独立したリスク評価の指標となる。
3)hs-CRP>10mg/L を繰り返す症例では炎症などの冠動脈疾患以外の原因を考慮すべきである。 <4)安定狭心症や急性冠症候群の症例の再発作を予測するのに、hs-CRP測定は有用である。
5) 測定はできれば2週間あけて2回測定する。単位はmg/lのみ用いる。
6) 相対的リスク分類ーと平均hs-CRP濃度は以下の通りである。
   低リスク    <1.0mg/L
  平均的リスク   1.0-3.0 mg/L
  高リスク    >3.0 mg/L
7)リスク評価のためにサイトカインなどの他の炎症マーカー測定をhs-CRPに追加するべきではない。

-----引用終了----------
当院の意見:
 CRP値は非特異的な炎症反応の強さを反映する指標である。炎症性疾患は、細菌・ウイルス・真菌(カビ)の感染症を含めて、多くの疾患がある。CRPが高値の個々の症例では、血管の炎症によるものかどうか解釈に迷うことが多いと思われる。虚血性心疾患の頻度が米国の1/4の日本においては確率的になおさらである。今はまだ保健適応がないので、これからの検査である。
不安定狭心症の疑いがある場合に、よい適応とるかもしれない。

主な参考資料:
A)Medical Practice 2004.12月号 
 國本 聡(日本大学医学部内科学講座循環器内科部門)・斎藤 穎(日本大学医学部先端医学講座)著
文献)
 A1) Ridker,P.M. et al.:N Engl J Med 336:973-979,1997
 A2) Ridker,P.M. et al.:Circulation 109:2818-2825,2004
 A3) Burke,A.P. et al.:Circulation 105:2019-22023,2002
 
  B)第34回日本動脈硬化学会総会 : 「C-反応性蛋白(CRP)の動脈硬化性疾患における意義」 : 中村治雄
  http://jasmeet.umin.ac.jp/search/a01.html
 
2004.12.18記 2004.12.24修正


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(35)長時間作用型硝酸薬の現在の日本での使われ方は好ましくない。

まとめ:もう10年以上も前から、長時間作用型硝酸薬(内服薬、貼付薬)は安定した狭心症や慢性期の心筋梗塞に投与しても、再発予防の効果がないばかりか、むしろ再発率が高くなるとの発表さえある。にも関わらず、現在まで漫然と使われ続けてきた。2004年の日本循環器学会では、この問題が正面から議論された。

【長時間作用型硝酸薬の使用現状】
 長期作用型硝酸製剤には内服薬と貼付薬がある。狭心症や心筋梗塞の患者さんで、よく使われている貼り薬はこの薬である。
1879年にニトログリセリンが狭心症の発作緩解に有効であることが証明され、1953年に日本でも発売されるようになった。
●短期効果●
 急性心筋梗塞治療における早期の硝酸薬療法は短期死亡を減らすと報告されている(Lancet 345:669-685,1995) 。
●長期効果●
 しかし、状態の落ち着いている慢性期の心筋梗塞患者に対する長期投与は無効で、かえって有害であるとの国内での報告すらある。つまり、長期作用型硝酸薬は長期投与の有効性は証明されていないのである。

当院の意見:
 上記の見解から、安定した狭心症や慢性期の心筋梗塞患者さんに漫然と長期作用型硝酸薬を使わないことを基本にすべきと考えている。米国のガイドラインでも同様な警告をしている。しかし、日本では循環器専門医でさえ、これらの薬剤を漫然と使い続けていることが少なくない。貼付薬タイプの硝酸薬を狭心症の標準薬と考え、多くの狭心症や心筋梗塞患者に処方し、それを漫然と続けている医師はまれではない。長期作用型硝酸薬はあまりにも安易に使われすぎている。

  私自身は10年前に、これらを処方を一人一人注意深く中止していったが、症状が悪化したり、急性心筋梗塞になった患者さんは一人もいなかった。逆に、出血性胃潰瘍のため抗狭心薬の内服が困難になり、貼付薬に切り替えたところ、1週間以内に急性心筋梗塞になった患者さんが2人いた。このような経験からも、硝酸貼付製剤の発作予防効果は弱いと考えている。

  こんなことを言うと、高脂血症治療薬に続き、製薬会社から注意人物扱いされるかもしれない。しかし、過去の薬剤処方の歴史を見ても、無効な薬が有効と勘違いされ多量に使用されたことはまれではない。
  10年以上前に脳卒中治療薬(脳血管拡張剤、脳代謝賦活)が、日本で非常に多くの患者さんに使われていた。しかし、薬剤効果の再評価で、これらのほとんどの薬剤が無効とされて使用頻度が激減した。
  また、最近では白内障の目薬が、「効果があるか不明」(このような場合は無効か、効果が弱いと考えられる。何年か後に無効とされることが多い。)とされた。しかし、他に変わる薬剤がないために、これらの報告を患者さんに説明せずに目薬を処方し続けている眼科医は多いと聞く。 白内障は眼の中のレンズの混濁によって生じる。その外にある角膜の表面に目薬として滴下しても、薬は角膜に届かない理屈から、なぜ効くのか理解できないでいた。やはり効果がないのかと思った。
 なぜこのように評価が変わるのか、これには薬の有効性を調べるのに、以前は主観(特に医師)が入り易い評価方法がとられていたからである。患者さんの症状は、医師の言葉に誘導されやすく、また患者さん自身が、新薬ならよく効くはずだと思いこみやすい。私自身は、自分の患者さんに使って、有効かどうか注意深く観察していれば、よく効く薬と全く効かない薬は、大規模研究でなくてもかなり判断できると思っている。
 しかし、自分の経験を裏付ける大規模研究やほかの臨床医の同様な見解を聞くとなお確信できるし、そのような調査を希望する。それでも、この結果ですら全く信頼性してよいと言うわけではない。薬剤の効果をみる大規模調査研究には多大の研究費用と時間が必要となり、一研究施設の研究費ではとうていできなくなっている。従って、資本力のある薬剤メーカーが資金援助をすることが多い。この時、薬剤メーカーにとって都合の悪い研究結果は発表されないか、または調査研究支援が途中で中止される現実がある。
 2004年の秋、米国では製薬メーカーに都合の悪い調査結果もすべてインターネットで公開するように規定した法律ができたが、日本ではこのような法律も協定もない。最近あった2つの高血圧治療薬の効果を比較する研究(VALUE試験)では、同一の研究結果から、それぞれが都合のよい理屈を並べて、自社の薬剤の優位性を主張している。その一方の内容を読むと、結論を自社に有利にするために解析技法を駆使し、怒りすら覚えるところもある。さらに一企業販売活動に加担する研究者のモラルにも疑問を抱く。これらの人のほとんどは、金銭的にたくさん支援を受けていると考えている。血液製剤によるエイズ感染事件と同様に、金銭がらみのこれらの行動は、医師や学会への信頼性を失墜させる大変憂慮すべき現象と考えるが、このような状況は当分続くのではないかと悲観している。

主な参考資料:
1)Medial News 別冊 2004.5.25 「第68回日本循環器学会総会・学術集会が開催される」より
2004.11.10記 2004.11.11修正