トピックス(役立つ医学情報-循環器以外編)】 
公開日2004.12.18 更新日2005.02.04  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報(必ずしも最新ではありません)を紹介します。
このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。トピックスの目次へ 
45)【高脂血症】家族性高脂血症に対する食事療法の考え方 2005.02.04記
44)【医療】インフルエンザによる学級閉鎖期間 2005.02.04記
43)【医療】主要疾患の死亡率、外来患者数の動向 2005.02.04記
40)【医療】2005年5月より個人情報保護法が施行される 2005.01.30記  
38)【医療】高脂血症の薬物使用に対する警鐘 2004.12.18記
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               【医療】         

(45)家族性高脂血症に対する食事療法の考え方

まとめ:遺伝的な高コレステロール血症(家族性高脂血症)であっても、できる範囲で一生食事療法を続けた方が様さそうだ。ただし、食事療法の効果が安定するまでには半年以上かかると考え、気長に取り組む。
 
 家族性高コレステロール血症は遺伝子異常による疾患なので、食事制限だけではコレステロール低下には限度がある。このような人に対する食事療法の参考資料があったので、要約した。

●コレステロールの摂取は全くなくとも問題ない。
 
人体には約100gのコレステロールが含まれている。体内コレステロール合成量は一日に500-700mg、食事から摂取量は300-400mgである。大便への排泄量は400-600mgと、食事摂取量よりも多い。一日約1gのコレステロール(総量の1%)が毎日入れ替わっていると考えられる。コレステロールは、細胞膜成分、皮脂、胆汁、ステロイドホルモン産生などに不可欠であるが、必要なコレステロールのほとんどは局所で合成され自給可能なので、コレステロールを食事から摂取する必要はない。

●血液中のコレステロール値の目標値

 ヒトも含めて低コレステロール食で飼育されている動物の血漿LDL-コレステロール濃度は例外なく40mg/dl以下である。家族性高脂血症患者の場合、食事療法単独で十分に血清総コレステロール濃度を下げることは難しく、薬物療法が必須であるが、食事療法を行うことで必要薬物量を減らすことができる。もちろん、あまりに厳格な食事療法は生活の制限が大きく勧められない。薬物で十分にコレステロールを低下させつつ、一生涯続けられる範囲で、できるだけ食事療法を粘り強く続けることが勧められる。

●食事療法の効果が出るには時間がかかる。

  人間よりも新陳代謝が早いGSハムスターの場合では、コレステロール摂取量を変えて血漿コレステロール濃度が安定するのに20-30日かかる。ヒトの場合、体内のコレステロール総量と一日の入れ替わり量の割合は、GSハムスターの10分の1である。これからするとヒトが食事療法の結果で新たな定状状態に入るためには200-300日かかると予想される。したがって、ヒトに食事療法の効果をみる場合は少なくとも半年以上経過をみなければならない。
 
【当院の意見】
 コレステロールの合成は脂肪をたくさん摂ると増加するので、単にコレステロールの摂取量制限のみならず、総カロリーや脂肪の摂取制限が大事と考える。また、HDL-コレステロール(善玉)の増加効果も合わせて、かならず運動療法も取り入れた方がよいと考える。
参考資料
日本医事新報2004.12.11 p92 家族性高コレステロール血症に対する食事療法 :青山学院保健管理センター副所長 小薗康範、慶応大学内科講師 広瀬信義
2005.02.04記


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(44)インフルエンザによる学級閉鎖期間

まとめ:学級閉鎖期間は5日以上が望ましい。7日以上では再休校はなかったとの報告がある。

 
 以下は参考資料の一部引用である。
●学級閉鎖を行う基準
 どの程度の欠席数で学級閉鎖とするかは特に決まりはないが、一般に20%の集団内欠席数を目安としている。欠席者の人数のほかにも、当日出席している児童・生徒の中に予備軍がいるかどうかの健康チェックをする必要がある。
●閉鎖期間の決め方
 何日間閉鎖するかということも判断上難しい問題である。インフルエンザの潜伏期は1-3日、通常2日と考えられる。発病後ウイルスを排泄する期間としては、最も高率に患者からウイルスが分離されるのは、3病日までであるといわれているが、5-7病日でも陽性のことがあるので、潜伏期を計算に入れると、閉鎖期間としては5日あるいはそれ以上が望ましい。閉鎖期間が十分でないと再休校を繰り返すことになる場合が多い。
表1はアジアかぜ流行期における休校日数別学校数(公立小学校、東京都)を示すものである。休校期間4日以内では再休校の率が高いことを示しているが、5-6日では再休校の例が少ない。7日以上では、再休校のケースはゼロであった。筆者らは週末を挾んで5日以上休校させることが多い。
 
アジア風邪流行期における休校日数別学校数
(公立小学校、東京都)
休校期間
学校数
再休実施校数
割合
1日
1校
0校
0%
2日
28校
10校
35.7%
3日
49校
13校
26.5
4日
76校
17校
22.4%
5日
54校
2校
3.7%
6日
47校
3校
6.4%
7日
25校
0校
0%
8日
6校
0校
0%
9日
14校
0校
0%
10日
2校
0校
0%

参考資料
日本医事新報2004.12.11 p96 インフルエンザ流行時の出席停止・学級閉鎖期間 :こころとからだの元気、プラザ女性のための障害医療センターViVi所長 木村慶子
2005.02.04記




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(43)主要疾患の死亡率、外来患者数の動向

まとめ:2004年に入手した最新の資料に基づき、主要疾患の動向を提示した。

 
 
主要死因別死亡率
脳血管疾患、心疾患、悪性新生物の3疾患が、死因の上位を占めている。
  悪性新生物による死亡率は高齢化とともに増加している。
 脳血管疾患による死亡は減少したが、1990年代から横ばいである。
 心疾患による死亡率は93年に死亡統計の方法が変更され、安易に心臓死の死亡診断名が使えなくなったために見かけ上急減している。実際は、緩やかな上昇傾向を続いている。
 
主要疾患の外来受療率
高血圧性疾患が他の疾患の4-5倍で、外来患者でもっともありふれた疾患である。また、どの疾患も1990年代後半から減少傾向にある。
 
主要疾患の総患者数
外来受診の総患者数は、高血圧性疾患や心疾患などの循環器疾患が合計1,034万人(2002年)である。今後も循環器疾患が重要な疾患であることに変化はない。

参考資料
循環器疾患ファクトノート2004疫学データをもとにしたエビデンス
2005.02.04記



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(40)2005年4月より個人情報保護法が施行される

まとめ:2005年4月施行の「個人情報保護法」は、ほとんどの医療機関で、今まで以上に厳格な個人情報管理が要求される。

 個人情報保護法が2005年4月から全面実施になる。特に、5000件以上個人情報を有する事業体(個人情報取扱業者)が対象となるが、それ以下でも順守することが望ましいとある。ほとんどの医療機関は個人情報取扱いに今まで以上に注意が必要となる。これに合わせて、厚生労働省は「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」を定め、医療関係団体等に通知した。
 医療機関等における個人情報の例として、「診療録、処方せん、手術記録、助産録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、紹介状、退院した患者に係る入院期間中の診療経過の要約、調剤録等」を挙げている。医療機関等の場合は、死者の情報についても生存個人情報と同等の安全管理措置を講ずることとしている。
個人情報の例
○診療録(カルテ) ○処方箋 ○手術記録 ○助産録 ○看護記録
○検査所見記録   ○X線写真
○紹介状      ○退院患者診療経過の要約
○調剤録
 
個人情報取扱事業者の義務規定等
1.利用目的の特定及び制限(15条、16条)
2.利用目的の通知等(18条)
3.個人情報の適正な取得、個人データ内容の正確性の確保(17条、19条)
4.安全管理措置、従業者の監督及び委託先の監督(20522条)
5.第三者提供の制限(23条)
6.本人の求めに対する公表、開示、訂正、利用停止等(24〜27条)
7.開示の求めに応じる手続及び手続料(29、30条)
8.理由の説明、苦情の処理(28、31条)

 ガイドラインでは、前記1、2に関連して、「医療・介護関係事業者の通常の業務で想定される利用目的」の例が別表でまとめられている。
医療・介護関係事業者は、これらの中から、通常の業務で想定される利用目的を特定して公表(院内掲示等)しなければならない、としている。
また、前記6、7に関連して、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示を求められたときは、本人に対して書面の交付による方法等により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならないとしている。
ただし、開示することにより、
(1)本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合、
(2)当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合、
(3)他の法令に違反することになる場合に該当する場合は

 その全部又は一部を開示しないことができるとある。
ガイドラインは同省のホームページ
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/12/s1224-11.html
参考資料
 全国保険医新聞2005.1.25
2005.01.30記


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(38)高脂血症の薬物使用に対する警鐘

まとめ:高脂血症治療薬は、現在乱用と言われても仕方がないほど処方されすぎている。高脂血症の薬物療法を推奨する意見ばかりでなく、反対の意見にも耳を傾けると今まで見えなかった真実が見えてくる。
著書紹介
「コレステロールは高いほうがいい」  
  笠本進一(週刊朝日記者)著、浜崎智仁(富山医科薬科大学教授)監修
 マキノ出版 1400円 2004年12月17日発行

●著書の概要
単にコレステロールが高いだけで、ほかに合併症がない人は心筋梗塞の危険性は低い。 」、「このような人には薬物療法は不要である。」、「製薬会社の利益のために、薬剤(スタチン)乱用に誘導されている日本の現状がある。」というのが、この本の主張である。
  ただし、コレステロールの高い人すべてが、薬物療法が不要と言っているわけではないので注意してほしい。 この著書では、「狭心症や心筋梗塞になったことがある」、「大動脈瘤や脳梗塞などの動脈硬化性疾患がすでにある」、「糖尿病や高血圧がある」、「家族に比較的若い狭心症や心筋梗塞の人がいる」、「家族性高脂血症と言われている」、以上のように冠動脈疾患になりやすい要素がない人に限って議論しているので、この点を注意して読んでほしい。


●当院の意見
 この著書で私が最も気になるのは、高脂血症について詳しくない人が「高脂血症の薬はまったく不要である」と勘違いすることである。著書の冒頭には記載されているのだが、わずか数行のみなので目立たない。この点は十分に注意してほしい。
 著書の内容には、医師が日頃入手しがたい情報や分析があり、大変勉強になる。本の主張前半はおおむね正論である。「総コレステロール値が280mg/dlあると無条件でスタチンを処方している」医師は、この著書を参考にしてほしい。後半は個人の推論、意見であり、実証できる内容ではない。
 参考までに当院では、 「総コレステロールが280mg/dl」というだけで、投薬するかどうかを決めることはない。具体的には、「60歳女性、総コレステロール値280mg/dl、HDLコレステロール60mg/dl、糖尿病なし、高血圧なし、動脈硬化性疾患なし、家族性高脂血症なし、若くして心筋梗塞になった人が血縁関係者にいない」、この場合には冠動脈疾患10年リスク(Framingam study)や冠動脈疾患6年リスク(J-LIT chart1)でみて、『極めて低リスク』なので、薬物療法を行うことはない。これらのソフトでリスク評価を行うと極めて低い危険率となり、高脂血症治療による危険率の低下は極めてわずかである。このため「家族性高脂血症なし、動脈硬化性疾患なし、糖尿病もない高脂血症の女性」へのスタチンやフィブラート系薬剤などの高脂血症治療薬の投与は多くの場合必要がないと考えられる。少し大胆にいうと、積極的な食事指導すら不要と考えられることも多い。

●最後に
 本のタイトルはやや過激だが、中身は取材された医師がチェックした質の高い内容。この本の制作に協力したものの一人として、高脂血症の診療に従事している医師に推薦します。

2004.12.18記