【トピックス(役立つ医学情報-No.39)】
  公開日2011.04.10 更新日2011.07.10  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
    このページは、当院が興味をもった医学情報を紹介しています。平均的な内容のレベルは医療従事者向けです。やや難解なものもありますが、できるだけわかりやすく解説するようにしました。冗長な表現を避け、「である調」にしました。情報源は、医事新報、日経メディカル、新聞、ネット配信記事などです。明らかに製薬会社の利益を優先した内容は避けました。情報は必ずしも最新のものとは限りません。また、記事の内容を保証するものではありません。あくまでも参考に留めてください。
144)在宅酸素療法の酸素投与量の設定  2011.04.10記 
  143)破傷風トキソイドとグロブリンの使い分け 2011.04.101記 
  142)睡眠薬の使い分け  2011.04.10記 
  141)アセトアルデヒドと食道癌の発癌リスク 2011.04.10記 
  
 まとめ:在宅酸素療法の動脈血酸素飽和度SpaO2の投与目標値、酸素投与量は病態によって異なる。
  
   在宅酸素療法の導入基準は、安静時PaO2(動脈血酸素分圧)<55Torr(動脈血酸素飽和度SpaO2<88%)、運動時や睡眠時にそれが低下する場合はPaO2<60Torrである。一方、目標値は病態によって異なる。
   
  【1】在宅酸素療法中の至適SpaO2設定の注意点
  1)慢性呼吸不全(PaCO2>45Torr)の場合
 慢性的に高二酸化酸素(CO2)血症の患者では、低酸素血症によって換気の刺激が成り立っていることがある。この場合、動脈血中の酸素を増加させるとCO2の蓄積が進んで、呼吸抑制が生じることがある(CO2ナルコーシス)。慢性呼吸不全患者では、O2吸入開始1時間前後の血液ガスでPaCO2を必ずチェックして、酸素投与量を設定する。PaO2を60-70Torr程度(SpaO2は90-93%あたり)で、通常よりは低い値に設定することが多い。
2)労作時・睡眠時の酸素飽和度低下
   日常の生活でも運動や睡眠時には動脈血中の酸素が減少する。特に、間質性肺炎(肺線維症)などの拘束性肺機能障害では、運動によって低酸素血症をおこしやすい。また、肺結核後遺症や高度の後側湾症などによる胸郭の変形した患者では、睡眠中に低酸素血症悪化を来しやすい。睡眠中の低酸素血症には、通常よりやや高いSpaO2(95%くらい)を目標に設定する。または、安静時の酸素流量より1.0L/分増やす。睡眠中のみ鼻マスクによる人工呼吸療法(NPPV)を、併用したほうが良い予後が得られるとの報告もある。
   一方、運動中のSpO2の目標値については、患者ごとに運動時(6分間歩行試験など)にSPO2の経過を確認する。労作終了後3分以内でSpO2>90%にできるO2流量が望ましいと言う。
  
【2】吸入O2流量の設定
   一日中酸素吸入療法を行っている患者では、安静時、運動時、睡眠時と分けては酸素流量を指示するのが、一般的である。
  アンケート調査では、安静時(0.5-1.0L/分)、労作時(1.0-2.0L/分)、睡眠時では安静時よりさらに低い流量に偏っている。流量を変える操作に、高齢者は十分対応できないことが多い。そのため、日常生活の活動で最も長い時間を対象に設定することになったり、あるいは低酸素を避け、労作中を基準としてやや高い流量で設定することもある。
   坪井らは、在宅酸素療法患者について労作時にSpO2>90%まを保つのに必要なO2流量を疾患ごとに測定し、肺線維症:平均3・7L/分、COPD:2・2L/分、肺結核後遺症:1・0L/分であったとしている。これを参考にしてよい。
  在宅酸素療法のSpaO2の投与目標値
  日本医事新報 
  No.4505(2010年8月28日)聖路加国際病院呼吸器内科部長 蝶名林 直彦
  2011.04.10記   2011.07.10修正 
 まとめ: 破傷風トキソイドとグロブリンの使い分け 
   破傷風は、破傷風菌により発症する。破傷風菌は広く土壌中に常在し、家畜の腸内や糞便中にも生息する。動物咬傷時の創の大小にかかわらず破傷風菌が侵入するおそれがある。破傷風菌は嫌気性のグラム染色陽性の桿菌で端在性芽胞を持ち、芽胞は熱や酸素だけではなく、消毒薬を含む化学物質に耐性がある。
  
   潜伏期は一般的に3-21日である。2008年の日本での発生頻度は年間100万人に1人であるが、致死率が高く、20-50%と報告されている。多くは破傷風トキソイドの追加接種を受けていない高齢者である。その死因の多くは、全身性痙攣による呼吸不全から、急性循環不全や急激な心停止(死因の40%)となっている。
   破傷風の免疫に関して、40代を境に陽性率は大きく低下する。感染症発生動向調査における報告患者の年齢は45歳以上が90%以上である。
   破傷風の治療薬であるグロブリン製剤に関しては、破傷風トキソイドによる予防接種歴が不明または3回未満で小さい些細な傷やきれいな小さい傷以外は投与を考慮したほうがよいと思われる。
 
破傷風の予防方法  
           | 
  ||
| 破傷風予防接種歴 | きれいな傷,小さい傷  | 
     他のすべての傷  | 
  
| 不明または3回未満 | 破傷風トキソイド  | 
     破傷風トキソイドとグロブリン併用  | 
  
| 3回以上で最後の接種が5年以下 | (-)   | 
    (-)   | 
  
| 3回以上で最後の接種が6-10年 | (-)   | 
    破傷風トキソイド  | 
  
| 3回以上で最後の接種より10年超 | 破傷風トキソイド  | 
    破傷風トキソイド  | 
  
  日本医事新報2010年9月11日
  福井県立病院救命救急センター・前田重信区長 
  2011.04.10記   2011.07.10修正 
 まとめ:基本は超短時間作用型、短時間作用型。 
  
   一般的に睡眠薬は、不眠のタイプや患者の年齢・全身状態を参考に使い分ける。より具体的には神経症や肩こりの有無、腎臓や肝臓の機能障害の有無を参考とする。
   最も一般的な入眠障害に対しては超短時間型や短時間型が推奨されている。作用の短いの睡眠薬は朝まで鎮静作用が残らないので、目覚めが良い。超短時間・短時間型でも朝まで眠気が残る方には、最近発売となったロラメット(商品名ロゼレム)で朝の眠気がなくなることがある。
  
  【不眠症のタイプによる睡眠薬・抗不安薬の選び方】
   主な薬剤(商品名)
  入眠障害(超短時間型、短時間型)、中途覚醒、早朝覚醒(中間型、長時間型)
  (1)神経症的傾向(肩こりなど)が強い場合(抗不安作用・筋弛緩作用をある薬剤)
     入眠障害(超短時間型、短時間型)  ハルシオン、レンドルミン、デパスなど
     中途覚醒、早朝覚醒(中間型、長時間型) ロヒプノール、サイレース、エーロジンなど
  (2)神経症的傾向が弱い場合、脱力・ふらつきが出やすい場合(抗不安作用・筋弛緩作用が弱い薬剤)
     入眠障害(超短時間型、短時間型)  マイスリー*、アモバン*など
     中途覚醒、早朝覚醒(中間型、長時間型) ドラールなど
  
  (3)腎機能障害、肝機能障害がある場合(代謝産物が活性を持たない薬剤)
     入眠障害(超短時間型、短時間型) エバミール・ロラメット*
     中途覚醒、早朝覚醒(中間型、長時間型) ワイパックス
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  非ベンゾジアゼピン薬*
  日本医事新報 2010.9.11 広告記事より(ファイザー製薬)
  20104.10記  2011.07.10修正 
 まとめ:飲酒により発生するアセトアルデヒドは、食道や頭頚部の組織に対して、強い発がん性がある。 
  
  ●飲酒が原因となる十分な証拠がある癌
 
    2009年10月にWHOの国際がん研究機関(IARC)が"飲酒に関連したアセトアルデヒド"を食道癌や頭頸部癌に強い発がん性があると認定した。
  口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、大腸、女性の乳房の癌であると評価した。これらの癌は飲酒量の増加とともにリスクが上昇する。厚生労働省多目的コホート研究では、3合以上飲酒する男性は、時々飲酒する人と比べ、口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓の癌罹患リスクは6.1倍であり、大腸癌では2合以上飲酒する男性は非飲酒者と比べ2.1倍の罹患リスクであった。
 疫学研究では、アルコール飲料の種類と飲酒関連癌のリスクとは関連しない。濃度との関連では飲料の種類だけでなく飲み方も同時に評価する必要があり、"濃いアルコール飲料をストレートで飲む習慣"が食道と口腔・咽頭癌の飲酒量とは独立した危険因子であると報告されている。焼酎やウイスキーをストレート薄めずに飲むと発がんリスクが高くなる。
●アセトアルデヒドの発癌のメカニズム
 
  アセトアルデヒドはラットやハムスターの吸入実験で上咽頭や喉頭に癌を発生させ、DNAやタンパク質と結合して、染色体異常を誘発し、DNA修復を阻害する。食道・頭頸部では、粘膜内で高濃度のエタノールからアセトアルデヒドを産生するが、多臓器に比べてアセトアルデヒド分解酵素(ALDH2)がわずかしかない。このためアセトアルデヒドの高濃度となり、食道・頭頸部の発癌の原因となる。
  ●日本人はアセトアルデヒド分解酵素が少ない
 アルコール(エタノール)は主に肝臓のアルコール脱水素(alchol dehydraogenase:ADH)でアセトアルデヒドに酸化され、次いでアルデヒド脱水素酵素(aldehyde 
  dehydrogenase:ALDH)の働きで酢酸になる。
   ALDH2はアセトアルデヒドの主たる分解酵素であり、遺伝子多型でホモ欠損型のヒト(日本人の10%弱)は少量飲酒で顔面紅潮や嘔気や動悸などの反応を起こす下戸であるため、飲酒しない。一方、ALDH2ヘテロ欠損型(日本人の30-40%)の場合、ホモ活性型(50%強)と比べ、日本酒換算3合/日以上の飲酒家では、食道癌発癌のオッズ比は7.1倍、頭頸部癌発癌のオッズ比は3.6倍となる。ヘテロ欠損型は食道・頭頸部の多発重複癌のリスクも高める。
  ●アルコールそのものにもアセトアルデヒドが含まれる
   食道と頭頸部はアルコール飲料に直接曝露されるが、アルコール飲料自体が高濃度のアセトアルデヒドを含有する。唾液中のエタノールは、口腔内細菌のはたらきによって、高濃度のアセトアルデヒドに変化する。ヘテロ欠損者の唾液アセトアルデヒドは発がん性を生じる濃度となる。
   たばこ煙もアセトアルデヒドを含有し、喫煙中の唾液から高い濃度のアセトアルデヒドが検出される。
  
  参考資料
   国立病院機構久里浜アルコール病センター臨床研究部長 横山 顕
  日本医事新報 2010.9.11
  2011.04.10記  2011.04.10修正