トピックス(役立つ医学情報-No.38)】
公開日2011.04.10 更新日2011.07.10  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
 このページは、当院が興味をもった医学情報を紹介しています。内容のレベルは医療従事者向けで、一般向けでない場合も多いのですが、できるだけわかりやすく解説するようにしました。冗長な表現を避け、「である調」にしました。情報源は、医事新報、日経メディカル、新聞、ネット配信記事などです。明らかに製薬会社の利益を優先した内容は避けました。情報は必ずしも最新のものとは限りません。また、記事の内容を保証するものではありません。あくまでも参考に留めてください。

140) 腎動脈狭窄に対する腎動脈ステント治療効果は限定的 2011.04.10記
139)人食いバクテリア、ビブリオ・バルニフィカス感染症     2011.04.10記
138)小児の心肺蘇生では人工呼吸も重要            2011.04.10記
137)ワルファリンとアスピリン(抗血小板薬)の使い分け    2011.04.10記
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     【動脈硬化症】  (140) 腎動脈狭窄に対する腎動脈ステント治療効果は限定的。

< color="#0000FF">まとめ 腎動脈ステント療法により腎動脈狭窄が改善しても、腎機能または高血圧が改善する例は少ない。 
●腎動脈狭窄症のステント治療
 腎動脈狭窄症は、高血圧、腎機能障害、心不全悪化を引き起こすことがある。根本的治療法として、カテーテル(血管内に挿入する管)使って、ステント治療(狭窄部位を金属の網で拡張する)が行われるようになってきた。しかし、大規模多施設臨床試験(ASTRAL)では、薬物療法と比較しての腎動脈ステントの高血圧への有効性は確認されなかった。 
●腎動脈狭窄症の頻度
  超音波検査では、65歳以上の6〜8%に60%以上の腎動脈狭窄を認める。腎動脈狭窄は決して稀ではない。腎臓の血流は、腎動脈の太さの自動調節により、70-80%狭窄になるまで障害を受けないとされている。
●カテーテル治療と高血圧 
  線維筋性異形成症という疾患に伴う腎動脈の狭窄による高血圧は、狭窄の改善で60-92%の高血圧が根治できる。しかし、通常の動脈硬化(粥状硬化)による腎動脈狭窄症の高血圧根治率は10%未満である。大部分が後者であるので、カテーテル治療で根治できる高血圧は稀である。
  効果が期待できる症例として(1)薬剤抵抗性高血圧、(2)急激な悪化、持続的な高血圧、(3)薬物服薬困難例、(4)臓器障害を合併する悪性高血圧、(1)片側腎動脈狭窄で対側との比較で腎サイズが1 cm以上の萎縮を認める場合などを挙げている。  なお、 心不全を合併する腎動脈狭窄は、カテーテル治療で最も効果が期待できる症候である。腎動脈狭窄の拡張のみで狭心症、心不全の改善が得られる。適応決定には、狭窄度の程度だけでなく、虚血腎に伴う症候があり、改善が見込まれるか否かがポイントとなる。高血圧を伴う腎動脈狭窄症の症例はすべて腎血管性高血圧であると判断することは誤りである。

参考資料
日本医事新報No.4508(2010年9月18日) 
腎動脈狭窄症の病態と治療-高血圧症を中心として
東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授 中村正人 
2011.04.10記  2011.11.10修正


   【感染症】
 (139)人食いバクテリア、ビブリオ・バルニフィカス感染症

まとめ:肝臓障害や免疫低下患者は、地誌的なビブリオ・パルニフィカス感染を避けるために、夏の汽水域での創部露出、生鮮魚介類のなま食には注意する必要がある。   ビブリオ・パルニフィカスは、コレラや腸炎ビブリオと同じブリオ属の細菌である。暖かく塩分濃度が低い海水(汽水域)に生息するコンマ状の形をしたグラム染色陰性桿菌である。比較的稀な感染症で医療関係者の認知度は低い。致死率が高く、発症すると70%が死亡する。1999〜2003年の調査では、年間20-30人程度が確認されている。国内における本症の発生には季節性や地域性が見られ、梅雨や台風などの降雨の影響で海水塩分濃度が低下しやすい7-9月の3ヵ月間に全体の約8割が発生し、浅く閉鎖的な汽水域である有明海を取り囲む北部九州からの報告数が約4割を占めている。
感染経路と患者特性
 感染経路は、生鮮魚介類の摂食による経口感染型と、傷口から菌が侵入する創傷感染型がある。我が国では、経口感染型が約7割である。60歳代に多く、男性が9割を占めている。患者のほとんどが肝硬変や肝癌・慢性肝炎などの肝臓疾患を有している
症状
 潜伏期間は数時間〜2日程度。初期症状は、(1)四肢の疼痛、腫脹、発赤、紫斑、水・血庖形成などの皮膚症状、および(2)悪寒、発熱、血圧低下、意識障害など。最終的に壊死性筋膜炎を呈し、敗血症を来す。入院時には、約半数がすでに血管内凝固症候群(DIC)の状態であったとの報告がある。
診断と治療
 重度の肝機能障害や免疫機能低下患者に、前述のような症状が見られ、問診上、生鮮魚介類の食歴や海水への創傷部曝露歴があり、さらに血液や水・血庖内容液等の迅速グラム染色検査でコンマ状の陰性桿菌が検出されれば本症が強く疑われる。確定診断は細菌培養や遺伝子検査によるが、結果を待つ間に病状が急激に悪化する事例も見られる。
 治療は、早期の抗菌薬投与と外科的処置、および全身管理が基本である。抗菌薬では、第3世代セフェム系あるいはカルバペネム系と、ニューキノロン系あるいはミノサイクリン系の多剤併用投与が推奨されている。また、感染巣に対し入院24時間以内に外科的手術に踏み切った例では予後が良かったという報告があり、減張切開、患肢切断等の早急な外科的処置が推奨されている。
予防
 発症ハイリスク者である肝臓疾患患者は注意する。「夏季の魚介類の生食を控える」、「加熱して食べる」、「創傷感染を防ぐために海へ入らない」など注意する。 

参考資料
ビブリオ・バルニフィカス感染症
佐賀県・天心堂志病院 大石浩隆 日本医事新報No.4508(2010年9月18日)
 
2011.04.10記 >2011.11.10修正


       【心肺蘇生】

 (138)小児の心肺蘇生では人工呼吸も重要
まとめ:市民による大人では、人工呼吸をしなくてもよいから、毎分100回程度胸骨圧迫による心臓マッサージをしっかり行う。しかし、小児では人工呼吸も大切である。 

●大人の心肺蘇生は、人工呼吸よりも胸骨圧迫が重要
  従来の心肺蘇生法では「心臓マッサージと人工呼吸を交互に行う」とされていたが、最近は「大人の心肺蘇生法では心臓マッサージのみでもよい」と遷り変っている。
 2007年に、成人の心停止患者を対象に、人工呼吸と胸骨圧迫を組み合わせた従来の心肺蘇生法と、胸骨圧迫のみの心肺蘇生法を比べた大規模観察研究の結果が発表された。その結果で、胸骨圧迫のみの心肺蘇生法は、神経学的予後で従来法と同等か、それ以上の効果があることが示された。
 国内における成人の心停止患者では、心室細動など心原性の心停止が約6割を占める。心停止後の心拍再開には、胸骨圧迫により冠灌流圧を一定以上に維持することや、毎分100回近くの速さで連続して圧迫することなどが重要であると明らかになっている。2006年の新しい日本版救急蘇生ガイドラインでは、胸骨圧迫と人工呼吸のぺ一スを15回:2回から30回:2回に変更し、胸骨圧迫を強く速く絶え間なく行うようにされている。

●小児には人工呼吸も重要
  小児では 心停止の約7割が呼吸原性など非心原性である。胸骨圧迫のみの心肺蘇生法では、当然ながら呼吸原性で心停止した小児の救命率が下がる。2005-07年に全国で院外心停止を起こした1-17歳の小児を対象にした観察研究で、従来法と胸骨圧迫のみの心肺蘇生法を比較。心原性の心停止(440人)では1ヵ月後の生存率や神経学的予後に有意差はなかったが、非心原性(1004人)では従来法が胸骨圧迫のみの心肺蘇生法よりも生存率や神経学的予後を大幅に改善することが分かった。今後、推奨される心肺蘇生法が年齢で区分される可能性がある。

日経メディカル2010.7月号 市民による心肺蘇生法のビットフォール
2011.04.10記 2011.11.10修正


   【抗凝固療法】
 (137)ワルファリンとアスピリン(抗血小板薬)の使い分け
まとめ: 抗凝固療法(ワルファリン)と抗血小板療法(アスピリンなど)の使い分けを明確にしよう。 
 血液の塊(血栓)が血管に詰まっておこる脳梗塞・心筋梗塞・肺梗塞の予防に、抗凝固薬(ワルファリン)と抗血小板薬(アスピリンなど)が用いられている。本質的に使い方が異なる薬剤であるのに、両者を血栓予防効果の強さの違いと勘違いしている医師もいる。
  両薬剤を使い分けをするためには、動脈系の血栓と静脈系の血栓対策の違いを理解しておくことが大切である。血流の速い動脈内の血栓形成には血小板の粘着と凝集により血栓が生じ、これには抗血小板薬が有効である。 一方、血流の遅い静脈系や心房内など血液のうっ滞から生じる血栓では、フィブリン血栓形成が重要であり、これには抗凝固薬は有効だが、抗血小板薬の効果は期待できない。血栓形成機序と薬物の作用特性を知れば、心房細動の患者にをアスピリンを処方することに問題があることが理解できる。
  2009年に改訂された「抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン」では、旧版にあった「高齢の心房細動患者に対するアスピリン投与を認める」記述が削除された。日本での調査研究でアスピリンの投与で脳梗塞が減らないばかりか、消化管出血などの副作用によって、返って悪化する患者さんが増加したためである。
 欧米のガイドラインでは、心房細動などでワルファリンを使用すべき場合でも脳塞栓のリスクが低い場合であればアスピリンによる代用を可としているものがある。欧米では頸動脈硬化病変に血栓ができて、流れて脳血管に詰まる脳梗塞が日本人よりも高頻度である。そのために同時に存在する動脈血栓症のリスクを抑制するアスピリンも有用と考えられる。
  バイアスピリンなどの抗血小板薬は、静脈系の血栓症の予防は期待できないことを知っておくべきである。 

参考資料
抗凝固・抗血小板療法の心ガイドラインがあきらかに
新たなエビデンスをふまえつつ、より実地診療に即した指針へ 2010年
堀 正一 大阪府立成人病センター総長

2011.04.10記  2011.11.10修正