トピックス(役立つ医学情報-No.32)】
公開日2008.09.03 更新日2008.09.17  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報を患者さん、又は医療関係者向けに紹介します。内容は一般向けではないものが多いのですが、一般の方でも読みやすいように、なるべく専門用語は使わずに平易な言葉で表現するようにしました。冗長な文章になることを避けるために、「ですます調」ではなく「である調」としました。情報源は、医事新報、日経メディカル、medical practice、一般新聞などです。製薬会社の利益を優先した情報誌や内容はできるだけ避けるようにしました。情報は必ずしも最新のものとは限りません。また、記事の内容を保証するものでもありません。あくまでも参考に留めてください。
123)【脂質異常症】高コレステロール血症の基準値を巡る攻防   2008.09.17記  専門的内容
122)【てんかん】抗てんかん薬のやめ方   2008.09.03記  専門的内容
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       【脂質異常症】 専門的内容

 (123)高コレステロールの診断基準値の妥当性を巡る論争

まとめ:以前より、当院サイトでも日本の高脂血症治療ガイドラインはリスクの極めて低い人(特に、合併症のない女性)にさえも薬物投与を勧めるひどい指針であると常々述べてきた。今回、高コレステロール血症の診断、または目標基準値をできるだけ低くして、高脂血症治療の対象者を増やしたい製薬会社の意向を支える動脈硬化学会代表と製薬会社とは無縁の疫学研究者との議論対決があったというニュースが流れてきたので紹介する。
以下-ケアネット-より引用
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2008/09/15(月)No.M004856
コレステロール基準値巡り論争
 高コレステロールの診断基準値の妥当性などについて、日本脂質栄養学会でシンポジウムが開かれ、診断基準の作成にあたった専門医と、基準に疑問を持つ研究者の間で、論争が繰り広げられた。
 コレステロールに関する日本動脈硬化学会の診断基準をまとめた寺本民生(たみお)・帝京大教授は、コレステロール値が高いほど心筋梗塞(こうそく)などの心臓病が増えると指摘。海外の多くの研究で、コレステロールを下げる治療により、死亡率が低下することが明らかになった、と強調した。
LDLコレステロール値140以上の場合を脂質異常症とした診断基準について、大櫛(おおぐし)陽一・東海大教授(医学情報学)は、全国70万人の健診データなどをもとに「心臓病が増えるのは、数値が190以上の場合であり、基準には根拠がない」と批判した。
 これに対し、寺本教授は「LDLがそれほど高くなくても、糖尿病などを併せ持つ場合は心臓病の危険が高まる。そうした人を見つけ出すための基準値」と説明した。大櫛教授は「糖尿病を併発する場合でも、LDL値140以上で心臓病の危険が高まるというデータはない」と反論した。
(記事提供:読売新聞)
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以上引用。
【当院の感想】
 上の記事でもわかるように、学会幹部もLDLコレステロール140mg/dlより少々高くても心筋梗塞リスクは高くならないことを認めている。しかし、多くの一般臨床医や国民は、140以下にすることが必要と伝えられている。ガイドラインが140という数字の扱い方を正確に伝えていないせいである。私が聞いた製薬会社が後援する数々の講演会の演者も、いずれも年齢や性別に限らず、LDLコレステロール140mg/dl以下を目標に治療しなければならない。さらに、糖尿病などの上乗せリスクがあれば、もっと厳しい目標値にすべきだという主張を何度も聞いた。
  以前より当院サイトでは、日本の高脂血症治療は、極めて異常な薬物漬け状態であることを伝えてきた。心筋梗塞の発症率からみると欧米の約7倍の処方数となっていることからも明らかである。
動脈硬化学会や講演者は、心筋梗塞発症リスクの極めて低い人にも厳しいコレステロール目標値を勧めており、薬剤の売り上げに大きく貢献している。彼らは、まるで製薬会社の営業宣伝部長のように活動している。その見返りに、個人的(講演料、資料作成費など)、集団的(学会運営、研究費)に、多額の経済的援助を製薬会社から受けている。つまり、背後に産学の癒着構造がある。少し辛辣な言い方をすれば、彼らが作り上げた「コレステロールは怖いぞ」教団(学会)のバイブルが、「動脈硬化診療ガイドライン」であると言ってもよい。
 今回、「動脈硬化診療ガイドライン」に記された高脂血症の診断と治療の基準値を巡って、学会幹部と製薬会社とは無縁の疫学研究者との対決があった。学会幹部の発言は、政治家の言い訳に似たものとしか聞こえない。科学的な根拠がないまま、重要な結論を出している。明らかに、お金によって動いている。
 学会のトップは襟を正して欲しい。しかし、すでに金銭に染まった人達に、自浄化を期待するのは困難だと予想される。すでにその徴候はいろいろな学会でみられる。
かといって放置すると、医療側の経済的理由を優先する治療方針が蔓延すると、医療不信をさらに進めることになる。政治家が賄賂や汚職により信頼されなくなったように、「医師も診療よりも金儲けが好き」と思われるようになれば、日本の医療崩壊はますます加速する。これらの行為は日本の医療を本当にだめにすると真に危惧している。
  多額の経済的な援助を受けておきながら、「お金をもらっても製薬会社に都合のよいようなガイドラインにはしません」と言ってもだれも信用しない。会社組織は特にならないことはしないのだから。
そのためにも診療ガイドライン作製委員の2/3は、製薬会社などの利益が関係した団体からの資金援助を受けていない人を選ぶべきであると思っている。
参考&引用
 2008.9.15 carenet.comより http://www.carenet.com/news/det.php?nws_c=5741
2008.09.17記   2008.10.19修正  


       【てんかん】 専門的内容

 (122)抗てんかん薬のやめ方

まとめ:脳卒中の後遺症として、てんかん発作を生じる患者さんを時々見かける。全身管理の一貫として、てんかんの専門的知識の少ない我々非専門医が診る機会も少なくない。一度処方開始した抗てんかん薬は、中止できるかどうかの判断が難しく、漫然と続られることが多い。今回、抗てんかん薬(特にデパケン)がどのような場合に中止できる可能性があるのか、またどんな点に注意すべきなのか記した解説があった。非専門家には大変役立つ内容だったので、まとめた。なお、同じてんかんでも、小児の場合は事情が随分異なるので別扱いすべきである。あくまで、非専門医師がまとめた「脳卒中などの後遺症としてのてんかん」として読んでください。

●「てんかん」とは
 てんかん発作は、脳に小さな傷があり、傷ついた脳細胞が、時々高い電気を発射するためにおこる。脳の傷の原因は、脳の発達障害、脳の外傷、感染症、脳卒中などいろいろである。典型的なてんかん発作は、「数分間の全身けいれん発作」であるが、大人では側頭葉の障害による側頭葉てんかんが多く見られる。これによる症状はいろいろで、複雑である。「数十秒から数十分間、意識がうつろになる」、「服のボタンをいじったりなど無目的な動作をする」など。

●漫然と抗てんかん薬を続けない
  脳梗塞後などに生じるてんかんに対して、抗けいれん薬(バルブロ酸ナトリウム(デパケン)など)が使われている。「2年間以上発作がなく、正常脳波が2回以上確認される」という中止基準があるが、現実は、この通りにはなっていない。個々の患者さんごとに、主治医が試行錯誤できめている。微細な異常脳波でも薬を続けることもあれば、てんかん波が頻発していても投薬をやめることもあるという。中止する明確な基準がないため、高齢者では漫然と投与される場合も少ないない。    

●抗てんかん薬は「てんかんを治してしまう薬」ではない、「てんかんの症状を抑える薬」である。 
 抗てんかん薬には、てんかんそのものを消滅させる効果はない。あくまで発作を抑えているだけである(対症療法)。この点では、痛み止めと同じである。痛み止めは痛みを緩和させるが、キズを治す薬ではない。
 したがって、ある期間服薬して発作が消失し、薬なしでも発作が出なくなった場合でも、自然に治癒したのであって、薬の力で発作が消えたわけではない。
 抗てんかん薬は血中濃度を測定し、投与量を調節することは重要だが、「血中の薬の濃度が基準値の範囲(治療域)に入っているから、服薬量が適切であると判断する」ことは正しくない。バルプロ酸の血中濃度の基準値は50-100μg/mlである。血中濃度が60μg/mlで、それでも発作が完全にコントロールされていない場合に「バルプロ酸は無効である」と判断することはできない。服用量を増やすことを試すべきである。逆に、基準値以下でも発作が予防できることがある。基準値は、「この範囲の濃度で治療されるのが一般的ですよ」という程度の治療の目安でしかない。
 
●抗てんかん薬の副作用
  抗てんかん薬は適量でも眠気が生じやすい。さらに量が多すぎると、強い眠気、ふらつき、複視(目の焦点が合わなかったり、物が二つに見えたりする)などの中毒症状が出現することがある。

●抗てんかん薬は、いつまで薬を飲み続けなければならないか
  日本てんかん学会ガイドラインによると、薬物治療の継続により1年以上発作がない場合は、その次の年に発作が再発する危険性は20%である。さらに、薬物治療によって4〜5年間発作が認められなかった場合の再発率は10%に低下し、その後の再発の危険率はほとんど変化しないとしている。つまり、2〜5年の発作消失期間後と、さらに待って抗てんかん薬の減量あるいは中止を行うの再発率には差がない。安全率を考えれば、5年の無発作期間後が減量や中止を考える際の一つの目安となる。
  脳梗塞に伴うてんかんは、発症2週間までの早期てんかんと、2週間以後の遅発性てんかんに分けられる。早期てんかんは必ずしも再発するわけではないので、抗痙攣薬の長期投与は必須ではない。
 他方、脳梗塞後の遅発性てんかん、脳出血後、くも膜下出血後、脳外科手術や頭部外傷後などの症候性てんかんは、多くの場合、損傷部位にグリオーシス(身体のキズが治る時の瘢痕みたいなもので、脳の瘢痕組織)が生じ、その周辺に異常な神経回路が形成され、てんかん発生源となる。この場合、内服により、でんかん発作がよくコントロールされていても、内服を中止するとすぐに発作が出現することが多い。服薬の中止には慎重におこなう。発作自体は抑制されていても脳波異常が認められる場合も、減量や中止は慎重におこなう。
  また、日本神経学会治療ガイドラインによると、16歳以上、全般性強直性間代性発作やミオクローヌス(突然に起こる筋あるいは筋群の極めて瞬間的な収縮)発作、複数の抗けいれん薬の服用、治療後にも発作のあった例、中止する前年に脳波異常のみられる例、部分発作で全般化したことのない例は発作再発が起こりやすいとされている。
 また、医学的な判断だけでなく、社会的活動面からの考慮も必要である。成人発症の症候性てんかんで社会的活動がある場合は、原則として内服を続ける。社会的信頼を失うことになりやすいからである。
  長年の服用による副作用を心配する人もいるが、長年服用して副作用なければ、今後も副作用が問題となることは少ない。もし眠気の副作用が強く、発作が長年出ていないのであれば、定年後には内服の中止を検討してもよい。「もう運転はしないので、内服を止めたい」という場合は、脳波所見を参考にしながら少しずつ減量していくなど、かなり慎重に行う。
 以上の点を参考に、後は個人の希望を取り入れながら減量を考慮する。できれば、本人以外の家族にも十分な了解を取っておいたほうがよい。
---------------以上は参考文のまとめである。
【当院の感想】私の本当に少ない経験ですが、、、
 バルブロ酸ナトリウム(デパケン)の血中濃度は投与量決定に利用されているが、その治療域は必ずしも維持されないといけない基準とは思えない。ジゴキシンの血中濃度のように、「多くの例がこの範囲に収まる」参考値と考えてよいのではないか。治療域からすこし低い値で、十分効いている例が2例ある。
  一人は80余歳の女性、1年に一度、意識がなくなり、いままで数回、脳卒中の疑いで救急車で搬送されている。病院ではまもなく回復、原因は不明とされていた。最近、頻度が増え、自宅でしばしば意識障害がおこるようになった。デパケンR服薬開始で発作が全く消失した。血中濃度は治療域よりやや低い程度であった。
  もう一例は脳梗塞後の痙攣発作で、3ヶ月前よりデパケンRを処方されていた。血中濃度は基準域であった。眠気が強いので、投薬の減量を希望、減量したが発作は起こらなかった。今後中止を含めて、さらなる減量を考慮中である。
 診療では、デパケンによる日中の眠気に注意する必要がある。心房細動+アルコール性心筋症による心不全で、当院を受診した患者さんがいる。数年前に、脳梗塞で入院し、その時からデパケンRを処方されていた。しかし、実際には眠気が強いので、1年以上服薬していないという。主治医はこのことを知らないと言う(血中濃度を測定していればすぐにわかるはずなのですが、、)。
 以上のように、 デパケン投与は減量または中止を試みてもよい例がある。

参考&引用
  日本医事新報 No.4399(2008年8月16日)「脳梗塞後てんかんに対する抗痙攣薬使用期間」 済全会横浜市東部病院脳神経センター・センター長 国本雅也 
2008.09.03記   2008.09.12修正