トピックス(役立つ医学情報-No.29)】
公開日2008.05.17 更新日2008.05.17  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報を患者さん、又は医療関係者向けに紹介します。情報源は、医事新報、日経メディカル、medical practice、一般新聞、Medical Tribuneなどです。なお、Medical Tribune誌は製薬会社の利益を擁護する発表に片寄った記事が多いと判断し、2007年からは参考資料から外しました。情報は必ずしも最新のものとは限りません。また、記事の内容を保証するものでもありません。あくまでも参考に留めてください。
118)【循環器】高血圧治療薬の配合剤開発がブームになっている  2008.05.17記  専門的内容です。
117)【薬剤】高齢者に処方すべきでない薬の一覧表 2008.05.17記  専門的内容です。

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     【循環器】
118)高血圧治療薬の配合剤開発がブームになっている 

 アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)以降、近年は高血圧や動脈硬化性疾患の画期的な新薬は見あたらない。その一方で、既存の降圧剤を組み合わせた配合薬の申請が複数の製薬会社で進められている。2剤が1剤になり服用しやすくなり、患者さんが指示通り服薬してくれることが期待できるからである。まもなく発売される可能性が高いという。
 ARB先発薬のロサルタン50mgとサイアザイド系降圧利尿薬のヒドロクロロチアジド12.5mgの合剤である「プレミネント」が2006年に発売された。
  ロサルタンの売れ行きは伸び悩んでいる。ロサルタンよりも後に登場したARBの方が降圧効果が高いためである。
 一方、 降圧利尿剤は、安価で、降圧効果も十分に強いが、低カリウム血症、高尿酸血症、それに伴う糖尿病の悪化、または痛風発作の誘発などの副作用が懸念され、少なくとも日本では使用頻度が減っていた。
 プレミネントのようにレニン・アンギオテンシン系の活性を高める利尿薬とそれを抑制するARBまたはACE阻害薬との相性は抜群によく、相乗効果が期待できる。そのため、併用する降圧利尿剤は、従来の用量の半分でも十分に効果がある。事実、当院では少量の類サイアザイド(ナトリック1mg)と種々のARBとの併用療法がARBの基本的な使い方である。
  また、浮腫を誘発することの多いカルシウム拮抗薬と浮腫を減らす降圧利尿剤との相性もよい。
  このような医学的な背景に加えて、従来からの配合薬の承認条件が、最近緩和されたことが配合薬開発ラッシュの根底にあるという。海外では広く使用されている配合剤でも、日本では承認されにくいことが指摘され、2005年から厚労省は規制緩和に踏み切った。
  従来の配合剤の承認条件は1)または2)であったが、3)4)が追加されて4つの条件のどれかに合えば承認の対象となった。
1)その都度の調製が難しい輸液
2)副作用軽減・効果の増強の相乗効果があるものの。
3)患者の利便性向上に役立つ
4)配合意義に科学的合理性が認められる
申請中および開発中の主な高血圧治療用配合剤
製薬メーカー
配合薬の組み合わせ
開発の進行状況
注釈
第一三共 オルメサルタン+アセルニジピン
第3相
ARB+Ca拮抗剤
オルメサルタン+ヒドロクロロチアジド
第2相
ARB+降圧利尿剤
武田薬品工業 カンデサルタン+ヒドロクロロチアジド 
申請中
ARB+降圧利尿剤
日本べ一リンガー
インゲルハイム
テルミサルタン+ヒドロクロロチアジド
申請中
ARB+降圧利尿剤
ノバルティスファーマ バルサルタン+ヒドロクロロチアジド
申請中
ARB+降圧利尿剤
バルサルタン+アムロジピン
第3相
ARB+Ca拮抗剤
フアイザ- アムロジピン+アトルバスタテン
申請中
Ca拮抗剤+高脂血症治療薬

 また、昨今のOD錠(口腔内崩壊錠)の流行にみられるように、将来の特許切れに伴う後発品対抗策として、配合薬を利用する製薬会社の狙いもあるように個人的には推測している。
  話はそれるが、OD錠の場合は「水なしで飲めるので飲みやすい」がセールスポイントだが、実際は口腔内で溶けると違和感があり、とても使いにくい、飲みにくい。また、複数の薬剤を服用する者にとって、一種類のみがOD錠になることは意味がない。OD錠を処方する医師は、実際自分で試すべきである。多くの医師が『便利で飲みやすい』という宣伝イメージだけで、OD錠を処方している。
  配合薬で最も期待できることは、指示通りに服薬が守られること(コンプライアンス)の向上である。 
降圧薬が1種類と2種類では、服薬の順守度はほとんど変化しないが、3種類になると不良群の割合が約2倍に増加するという。
 なお、利尿剤は副作用の頻度が高いので、この点は十分に熟知する必要がある。高尿酸血症は高頻度に起こり、しばしば尿酸低下薬の併用が必要となる。低カリウム血症のため、カリウム保持性利尿剤やカリウム製剤の併用が必要となる場合もある。カリウム喪失によりインスリンの分泌低下がおこるため、糖尿病の増加を懸念する医師もいる。溶血により血清カリウムはしばしば上昇することが多いので、採血した検体の扱いには注意が必要だが、低カリウム血症は血液検査で簡単にチャックできるので、この点をよく理解した上なら、糖尿病悪化の可能性は小さいと考える。 
 ほかの注意点として、ARB+利尿剤は急激な血圧低下の懸念があるため、治療初期からいきなり配合剤を使うことはしない方がよい。
【参考資料】
日経メディカル2008.5月号ほか
2008.05.17記 2008.05.17修正


     【循環器】
117)高齢者に処方すべきでない薬

 日経メディカル5月号に「高齢者に処方すべきでない薬」というややセンセーショナルな見出しがあった。内容をよく見ると、避けることが望ましい薬、投与量を少な目にすべき薬などもっと弱い表現でした。日経BPnetオンラインの医療関連記事では「老人への使用が望ましくない薬」と少しトークダウンした表現でした。言い過ぎとも感じる表現には、賛成しないが高齢者に投与する場合は注意すべきであるという点では参考となる薬剤一覧表であった。
---------------以下日経メディカル5月号の引用---------------
 国立保健医療科学院疫学部部長の今井博久氏らは、65歳以上の高齢者への使用を避けることが望ましい薬剤のリストを作成、このほど公開した。疾患や病態に関係なく一般に使用を避けることが望ましい薬剤46種類と、特定の疾患・病態において使用を避けることが望ましい薬剤25項目をリストアップ。
 これは、米国で用いられている高齢患者の薬剤処方の基準「Beers Criteria」の日本版に相当するものだと今井氏は説明する。リストは、「臨床経験が豊富で老年医学や薬物治療などに詳しい」として選出した9人の医師と薬剤師が作成。副作用などの投与時のリスクが効果を上回ると考えられ、ほかに安全と考えられる代替薬がある薬剤を中心に掲載した。リスト作成の手順としては、まず、対象となる薬剤の候補を、
(1)2003年に発表されたBeers Criteriaの改訂版から日本未発売の薬剤を除外したもの
(2) 2003年以降の論文から、高齢者への使用を避けるべき薬剤の候補になり得ると判断できるもの
(3) それ以外に委員が「不適切な薬剤」と考えたもの
 --の3通りでリストアップ。各薬剤について、メンバーが「高齢者への使用が不適切かどうか」を5段階のスケールで判断し、その集計結果をフィードバックしながらアンケートを繰り返す「改良デルファイ法」で意見を集約した。
 今井氏は、「リストに記載のある薬剤を高齢者に使っている場合は、できるだけ代替薬に変更してほしい」と話す。例えば、長期作用型ベンゾジアゼピン系薬は、高齢者が服用すると半減期が延長しがちで、転倒・骨折の原因になりやすいため、中-短期作用型ベンゾジアゼピン系薬を一定の用量以内で使用するべき、といった具合だ。リスト中の薬を使わざるを得ない場合の対応について、今井氏は、「患者への説明やモニタリングをいつも以上に慎重に行うように心がけてほしい」と話している。

---------------以下日経BPnetオンラインの引用---------------
 同リストの最大の特徴は、ランダム化試験などのエビデンスを基準にしたものではなく、専門家のコンセンサスを基準としている点。「リストは専門家の知識と経験を結集したものと考えてほしい」と今井氏は語っています。
-------------引用終わり。
 「高齢者に置いて疾患・病態によらず一般に使用を避けることが望ましい薬剤」の一覧は国立保健医療科学院疫学部の以下のサイト上で公開している。
http://www.niph.go.jp/soshiki/ekigaku/BeersCriteriaJapan.pdf
【当院の意見】
  高齢者に限らず、腎臓機能障害(慢性腎臓病)、心不全、中等度以上の肝臓機能障害などの疾患のあるかたも、同様な観点からここに挙げられた薬剤は注意して処方する必要があると考える。注意すべき薬剤の一覧として有用と考える。しかし、『使ってはいけない』という強い表現は適切ではない薬剤も含まれるような気がする。
【参考資料】
日経メディカル2008.5月号ほか
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/200804/506113.html
2008.05.17記  2008.05.17修正