トピックス(役立つ医学情報-No.28)】
公開日2008.05.01 更新日2008.05.01  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報を患者さん、又は医療関係者向けに紹介します。情報源は、医事新報、日経メディカル、medical practice、一般新聞、Medical Tribuneなどです。なお、Medical Tribune誌は製薬会社の利益を擁護する発表に片寄った記事が多いと判断し、2007年からは参考資料から外しました。情報は必ずしも最新のものとは限りません。また、記事の内容を保証するものでもありません。あくまでも参考に留めてください。
116)【循環器】画像診断装置:2007年循環器学のまとめ   2008.05.01記  極めて専門的内容です。
115)【循環器】弁膜症:2007年循環器学のまとめ      2008.05.01記  極めて専門的内容です。
114)【循環器】心不全:2007年循環器学のまとめ      2008.05.01記  極めて専門的内容です。
113)【循環器】虚血性心疾患:2007年循環器学のまとめ   2008.05.01記  極めて専門的内容です。

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     【循環器】
116)画像診断装置:2007年循環器の臨床医学のまとめ

●ペースメーカやICDなど医療用器具を有する患者へのMRI検査の安全性に関する勧告が行われた。種々の医療用器具が、いかなるMRI検査でも危険性が認められない"MR safe"、特定のMRI検査で危険性がない"MR conditional"、あらゆるMRI検査で危険性がある"MR unsafe"に分類された。
 ほとんどの冠動脈ステントはMR safe、Zenith AAAグラフトステント以外の大動脈ステントもMR safeとされた。多くの人工弁はMR safeまたはMR conditionalであり、最近の人工弁はMRI検査の障害とならない。
  ペースメーカやICDはMRI検査の相対的禁忌であり、特に強い必要性がある場合には設定を非同期モードとして感知機能を停止させ、これらの医療器具の設定に豊富な経験を持つ施設でのみMRI検査が可能とされている。
●マルチデテクターCT(MDCT)による冠動脈狭窄の診断は、特に日本では急速に普及している。短時間でより解像度の高い画像を得るために、さらに装置の改良が行われている。


     【循環器】
115)弁膜症:2007年循環器の臨床医学のまとめ

●パーキンソン病などに広く使用されている麦角アルカロイド系ドーパ一ミンアゴニストによる薬剤性弁膜症が大きく取り上げられた。パーキンソン病治療薬bromocriptine,pergolide,cabergolineによる薬剤性弁膜症が報告された。
Schadeらは、新規に弁膜症を発症する相対危険度がpergolineの服用で7.1倍、cabergolineの服用で4.9倍になることを示した。 
 日本人では、pergoline投与の29%、cabergoline投与の69%に心エコー検査で中等度以上の逆流が認められた。これらの薬剤をパーキンソン病に対する第一選択薬として使用しないこと、弁膜症発症について患者へ十分に説明すること、心エコー検査などによる慎重な経過観察が要求されている。
●弁膜症治療のガイドラインでは、左室収縮機能障害例にみられる虚血性心疾患に合併する2次性僧帽弁閉鎖不全症の手術適応を、左室駆出率が30%未満で、NYHA機能分類でIII度以上の心不全症状を持つ高度逆流の症例のみをclass IIbの適応としている。術後1カ月の短期でも10年でも僧帽弁形成術のほうが生存率が高かったため、2次性僧帽弁閉鎖不全症には僧帽弁形成術が勧められている。


     【循環器】
114)心不全:2007年循環器の臨床医学のまとめ

(1)心不全の急性増悪期の治療
● ADHERE(Acute Decompensated Heart Failue National Registry)試験で、強心薬の使用が予後悪化に寄与することが再確認された。カテコラミン製剤はフォスフォジエステラーゼ阻害薬よりもより強く予後悪化させた。
●ナトリウム利尿ペプチド製剤の有用性が報告された。重症心不全患者を対象としたネシリチドの外来での間欠投与の効果をみたFUSIONII (Follw-up Serial Infusion of Nesiritide in Advanced Heart Failure)試験では、死亡、入院などの有害事象発生件数にプラセボと差はなかったが、血清クレアチニン値の上昇頻度がネシリチド投与群で少なかった。ただし、わが国での心房利尿ホルモン製剤の心不全患者におけるエビデンスにまだ乏しい。
●純粋な水利尿を促進する治療薬としてバソプレッシン拮抗薬の心不全患者を対象とした長期投与効果についての臨床試験では、左室拡張末期容積の変化はトルバブタン投与群とプラセボ投与群で差はなかった。死亡あるいは心不全増悪による入院件数は、トルバブタン投与群で少なかった。さらに大規模な臨床試験EVEREST(Effects of Vasopressin Antagonism with Decompensatory Heart Failure)が行われたが、生命予後改善効果はなかった。

(2) 慢性心不全の薬物治療
●慢性心不全に対する薬物治療としては、β遮断薬はACE阻害薬と同等と考えられるようになった。少なくとも、収縮機能障害が顕著な心不全例においては、β遮断薬の使用が優先されるべきとの見解あり。
●抗アルドステロン薬スピロノラクトンが、慢性心不全に有効とのエビデンスを受けて多用されるようになった。 
●Mayoクリニックの報告では、47%が拡張機能障害による心不全であった。女性、肥満者、貧血、高血圧、心房細動などが収縮機能の保たれた心不全が多かった。70歳以上の慢性心不全患者を対象とした臨床試験において、左室駆出率40%以上の症例ではβ1選択性遮断薬ネビボロールの有効性は認められなかった。 

(3)慢性心不全の非薬物治療
●心室内伝導障害の合併によって不均一な心収縮を呈する場合、両心室ページングによる心臓再同期治療(CRT)が有効である。2005年の日本循環器学会のガイドラインで、1)中等症あるいは重症の慢性心不全、2)左室駆出率35%未満、3)QRS幅1130msec以上がこのような治療の対象となると記載されている。
 心室同期不全の有無は心電図上のQRS幅によって便宜上判定しているが、QRS幅のみでは判定不能であり、他の方法も試みられている。しかし、CRT有効例の予測の上で、組織ドブラ検査の有用性は否定され、より簡便なQRS幅のほうが有用であるということになっている。


     【循環器】
113)虚血性心疾患:2007年循環器の臨床医学のまとめ

 虚血性心疾患とは狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患のことです。
(1)虚血性心疾患の予防
 急性冠症候群(ACS:急性心筋梗塞や不安定狭心症などアテローム動脈硬化の部位の表面が破れて、その傷口に血栓が急速にでき、血管閉塞がおこる病態の総称)の病態においては、全身性の炎症反応亢進に伴う冠動脈硬化粥腫(=アテローム)の不安定化が重要な位置を占めることが明らかとなった。その背景として、食後血糖値、慢性腎臓病も注目された。
 ●CASE-Jトライアル(ハイリスク高血圧患者を対象)のサブ解析の結果では、糖尿病とともに腎疾患関連危険因子(血清クレアチニン値1.3mg/dl以上あるいは尿蛋白1+以上)が心血管イベントの予測因子として重要であることが示された。糸球体濾過量が60ml/分/1.73m2未満より低下するにつれ、心血管イベントは指数関数的に増加した。
 ●JIKEI Heart Studyでは、カルシウム拮抗薬やACE阻害薬などの従来治療を受けている虚血性心疾患または心不全を伴う高血圧患者にARB(バルサルタン)の追加投与すると、狭心症、脳卒中、心不全、大動脈解離の発生が抑制された。最終血圧値に2群間で差を認めなかったためARBの降圧効果を超えた臓器保護作用が示唆された。
 ●動脈硬化性疾患予防ガイドラインが2007年4月に改訂された。従来、総コレステロール値によって判定していた高脂血症の項目が削除された。また、高脂血症から『脂質異常症』と呼び名が変わった。
 ●慢性腎臓病(CKD)診療ガイドが日本腎臓学会より2007年に発行された。日本人のデータに基づいた推算糸球体濾過量(eGFR)の式の臨床応用が提唱された。その背景には、高齢化に伴い世界中で透析患者が増加している。また、従来の血清クレアチニン値を用いた腎機能障害評価では過小評価される傾向にあり、腎機能障害末期患者の減少のためには早期からの治療が必要と考えられるようになったからである。さらに、腎機能障害患者は心血管疾患による死亡が多いとの理由もある。

(2)急性冠症候群の急性期治療
 ●J-WIND-ANP試験(対象はST上昇型心筋梗塞患者1,114例)で、本邦における急性冠症候群に対する急性期冠血行再建術の補助療法として、hHANPの有用性が報告された。hHANPによって梗塞サイズ(総CK)が減少し、再雇流障害の発生が抑制され、心臓死あるいは心不全による再入院を73.3%減少させた。hHANPによる治療効果はCKDの症例でより顕著であった。hHANPは、ナトリウム利尿作用のほか、血管拡張作用、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系抑制作用、抗炎症作用などを有している。

(3)冠動脈インターベンション
 ●急性冠症候群の患者ではPCIが予後改善に果たす役割は明らかである。安定狭心症の患者に対するPCIは症状の改善には有効であるが、予後の改善では必ずしも効果的ではない。患者の年齢、既往症、出血性疾患の有無、ライフスタイル、運動能力、薬剤コンプライアンスなどを考慮して、治療法を選択すべきである。
 ●本邦においては薬剤溶出性ステント(DES)としてシロリムス溶出性ステントに加えてパクリタキセル溶出性ステントが使用されるようになった。 
 ●10月には、PCIが適用されるACSに対する抗血小板薬として新たにクロピドグレルが承認された。
 ●DESに関してはステントを留置後1カ月以上経過した後に生じる遅発性ステント血栓症が問題とされた。DESの留置後1年以降のステント血栓症の発生率は、欧米では年間0.5-0.5%程度だが、本邦では年間0.2%と低率であった。日本でDES留置後の遅発性ステント血栓症の頻度が低い理由として、米国では貧困のため内服薬を自己中断するケースが多いこと、人種間の違い、PCIの手技上の差異などが考えられている。DESの有効性と安全性が確立されるには、より長期にわたる観察を待たねばならない。
 
参考資料
日本医事新報No.4376(2008年3月8日)
循環器病学臨床医学の展望の一部を取り上げました。詳細の情報がほしいかたは、読んでください。

2008.05.01記 2008.05.01修正