トピックス(役立つ医学情報-No.30)】
公開日2008.05.22 更新日2008.07.25  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報を患者さん、又は医療関係者向けに紹介します。情報源は、医事新報、日経メディカル、medical practice、一般新聞、Medical Tribuneなどです。なお、Medical Tribune誌は製薬会社の利益を擁護する発表に片寄った記事が多いと判断し、2007年からは参考資料から外しました。情報は必ずしも最新のものとは限りません。また、記事の内容を保証するものでもありません。あくまでも参考に留めてください。
120)【循環器】ARBは男性よりも女性で効果が高い。 2008.06.28記  専門的内容です。

119)【循環器】脳卒中、心筋梗塞予防にACE阻害薬、ARB、両者の併用のどれが最も有効なのか 2008.05.22記  専門的内容です。

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     【循環器】
120)「ARBはは男性よりも女性によく効く」ようだ。 

2008年6月の欧州高血圧学会で、「ARBは男性より女性によく効く」とスペインの研究グループ発表した。
 J.A.Garcia-Donaire氏らは、高血圧治療薬への反応性が男女によって異なるかどうかを降圧薬のクラスごとに調べた。その結果、特にARBに関しては、男性より女性に効きやすいと発表した。
 調査対象は1,046人の高血圧患者(男性534人、女性512人、平均年齢は56.1±14.4(18〜90歳)、平均BMIは29.4±5.1)である。2年間追跡し、登録時と2年後の収縮時血圧の差(▲SBP)を求めた。患者に投与した降圧薬の分類はCa拮抗薬(104人)、ACE阻害薬(94人)、ARB(98人)、β阻害薬(62人)、利尿薬(95人)の5つである。
 すべての分類の薬剤に関して、▲SBPは男性より女性が大きかった。年齢、BMI、他の降圧剤の影響を調整すると、男性と女性の▲SBPの違いは、カルシウム拮抗薬は5.80mmHg(p=0.118)、ACE阻害薬1.20mmHg(p=0.749)、ARB6.82mmHg(0.31−13.34、p=0.040)、β遮断薬5.66mmHg(p=0.194)、利尿薬1.75mmHg(p=0.605)となり、ARBのみが有意な男女差を示した。
 拡張期血圧については、統計的に有意な差はどの降圧薬でも確認できなかった。
 報告者らは「降圧薬のクラスによる男女の反応性の違いがあり、特にARBは男女差が大きかった」と結論している。

【参考資料】
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/esh2008/200806/506951.html
日経メディカル :第18回欧州高血圧学会&第22回国際高血圧学会ダイジェスト(2008年6月14日〜6月19日 Berlin)
2008.06.26記  2008.07.25修正


     【循環器】
119)脳卒中、心筋梗塞予防にACE阻害薬、ARB、両者の併用のどれが最も有効なのか 

 ACE阻害薬とARBの脳卒中、心筋梗塞、心不全の予防効果を比較した大規模な臨床研究の報告(ONTARGET試験:ONgoing Telmisartan Alone and in Combination with Ramipril Global End-point Trial)が2008年3月31日に第57回米国心臓病学会ACC 2008であった。結果、1)ACE阻害薬とARBの有効性は同等、2)両剤併用の優位性はなかった。
 ARBとACE阻害薬の比較試験はこれまでにも何度か行われてきたが、ARBの優位性は証明されていない。ONTARGET試験は、患者数2万5620人(40ヶ国、アジア人種が13.7%)、平均年齢は66.4歳、男性の割合は73.3%、追跡期間は中央値で56ヵ月(4.7年)で、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)のテルミサルタン(商品名:ミカルディス)の有効性と代表的なACE阻害薬のラミプリル(国内未承認)と比べた無作為化比較試験である。試験の目的は、1)テルミサルタンとラミプリルの有効性の比較、2)両剤の併用投与は単独投与よりも優位なのか、の2点である。この種の試験では、今までで最大規模である。
 ラミプリルはACE阻害薬の中でも死亡率や心血管疾患の発症率を減少させる効果が高いことが多くの試験で証明されており、欧米で最もよく使われているACE阻害薬である。 
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 ONTARGET試験の概要
【実施要領】
○対象患者:55歳以上、心不全がない血管疾患患者またはハイリスク糖尿病患者
○登録した患者を無作為以下の3群に振り分けた。
 1)テルミサルタン(80mg/日)単独投与 8,542例
 2)ラミプリル(10mg/日)単独投与 8,576例
 3)テルミサルタン(80mg/日)+ラミプリル(10mg/日)併用投与 8,502例
○エンドポイント
  主要1次エンドポイントは心血管死、心筋梗塞や脳卒中、うっ血性心不全の入院の発生率。
  主要2次エンドポイントは血行再建術、新規糖尿病、新規心房細動、腎障害などの発生率。
【結果】
●平均血圧降下度はラミプリル単独投与群に比べて、両剤併用投与群で2.4mmHg/1.4mmHg 、テルミサルタン単独投与群で0.9mmHg/0.6mmH上回った。
●心血管死、心筋梗塞、脳卒中、入院の発生率は、3群でほとんどほとんど差がなかった。
● 新規糖尿病発生率はテルミサルタン7.5%、ラミプリル6.7%で両群でほぼ同等であった。
●心房細動の新規発生率はテルミサルタンで6.7%、ラミプリルで6.9%でほぼ同等だった。
●両剤併用群では、腎障害の発生率がラミプリル群より33%高かった。
 投薬中止例は、テルミサルタン群では1,962例、ラミプリル群では2,099例、両剤併用群では2,495例であった。
  テルミサルタン群はラミプリル群に比べ、低血圧症状によるものが1.54倍多かった。逆に、咳によるものは4分の1程度、血管性浮腫によるものは4割程度と少なかった。また、両剤併用群はラミプリル群に比べ、低血圧症状によるもの2.75倍、下痢によるもの3.28倍、腎障害によるもの1.58倍と多かった。
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【総括(当院の意見)】
 この結果を今後の高血圧治療にどう生かすのかが大切である。最近の日本での高血圧治療薬の使用頻度は、首位がARB、2位がカルシウム拮抗薬である。
1)ACE阻害薬とARBでは、心不全、心筋梗塞、糖尿病新規発症、心房細動などの発生率が同等である。心血管保護作用 が同等である。
2)ACE阻害薬とARBの併用は勧められない。
3)ARBは咳の副作用は少ない。ACE阻害薬の価格は先発品でもARBの約1/2倍である。後発品ならさらに安い。
 以上を参考にして薬剤の選択をしていただきたい。個人的意見としては、一般医はARB一辺倒ではなく、カルシウム拮抗剤、ACE阻害薬をうまく使い分けて、使う機会を増やした方がよいと思っている。また、1)降圧の相乗効果からARB、ACE阻害薬と少量のサイアザイドまたは類サイアザイドとの併用を、2)浮腫改善効果、降圧の相加効果からカルシウム拮抗剤との併用を考慮する機会を増やした方がよいと考えている。
【参考資料】
日本医事新報 No.4386(2008年5月17日)
2008.05.22記  2008.05.22修正