トピックス(役立つ医学情報-No.27)】
公開日2008.05.01 更新日2008.05.01  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報を患者さん、又は医療関係者向けに紹介します。情報源は、医事新報、日経メディカル、medical practice、一般新聞、Medical Tribuneなどです。なお、Medical Tribune誌は製薬会社の利益を擁護する発表に片寄った記事が多いと判断し、2007年からは参考資料から外しました。情報は必ずしも最新のものとは限りません。また、記事の内容を保証するものでもありません。あくまでも参考に留めてください。
112)【メタボ】日本の最新の調査では、メタボ該当者の死亡リスクは高くない。 2008.05.01記

目次へ   次へ  前へ    


     【メタボリック症候群】
(112)日本の調査では、メタボ該当者の死亡リスクは高くない。

  まとめ:2008年6月から特定健診(メタボ健診)が始まる。しかし、この健診の医学的根拠は極めて貧弱である。そんな状況下で、2007年にメタボ該当者と非該当者で死亡リスクに差がないとのコホート研究(前向き研究)※が発表された。
メタボリックシンドローム診断基準(関連8学会検討委員会平成17年)
1.ウエスト周囲径
○男は85cm以上、女は90cm以上
2.以下のうち2項目以上
 1)血清脂質異常トリグリセリド=150mg/dl以上
  または/かつ
  HDLコレステロール=40mg/dl未満
 2)血圧収縮期=130@Hg以上
  または/かつ
  拡張期=85mmHg以上
 3)血糖
  空腹時血糖=110mg/dl以上
  メタボ該当者は本当にハイリスク群なのか? 

 厚労省は19年4月に「標準的な健診・保健指導に関するプログラム(確定版)」を策定した。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/info02a.html
 メタボリックシンドローム(以下メタボと略す)に着目した特定健診・保健指導(メタボ健診)の目的は、生活習慣病の有病者・予備群を減らすことで医療費を抑制することにある。しかし、メタボの診断基準の発表当時は、「メタボを是正すれば病気や死亡率が減る」ことを証明した研究報告は国内にはない。むしろ、否定的な報告が多い。海外でもメタボは重要視されていない。単なる危険因子の重積の一型として、この組み合わせに特別な医療効果があるとは考えられていない。メタボ健診は根拠の薄い実験的な試みと見なされている。

 『メタボ該当者は非該当者と死亡率では有意差なし』との報告 

●まとめ
 2007年11月に日本疫学会の学会誌『Journal of Epidermiology』にある研究報告が発表された。自治医大による一般住民を対象にした前向き調査(「自治医大スタディ」の一つ)では、メタボ該当者は非該当者と比べても、死亡率に差はなかったという。
●調査結果の詳細
  平成4〜7年にかけて腹囲も調べた住民健診対象者(合計2176人:男914人、女1262人)を14年末まで追跡調査し、心血管疾患の危険因子を調べた。住民健診を受けた対象者のうち、メタボ該当者は、男で9.0%、女で1.7%であった。該当者と非該当者で大きな差があるのはBMI、腹囲、血圧、血糖値、中性脂肪などであった。問診では糖尿病や高血圧患者がメタボ該当者に多かった。
 平均12.5年(lSD:±2.3年)の追跡期間で、死亡者数は男が141人、女が79人。メタボ該当者の男は82人中5人が死亡、女は22人中1人が死亡した。
 年齢や喫煙、飲酒習慣などの影響を調整すると、メタボの該当者の死亡率は、男の場合で非該当者の1.13倍(95%信頼区間は0.64-1.98)、女は1.31倍(同0.41〜4.18)であった。分散が大きく、有意差はない。
 しかも女では、国際糖尿病連盟が提唱しているように腹囲のカットオフ値を80cmとした場合には、死亡リスクは0.52倍(同0.19-1.43)と逆に減少した。
●考察
○なお、この研究についての留意点として、以下を挙げている。
  1)日本ではがんによる死亡が多く、心血管疾患の死亡がこれに埋もれる可能性がある。
  2)対象地域がいずれも農村部であり、都市部では違った結果になる可能性がある。
しかし、以上を考慮してもメタボによる「該当者は非該当者の数倍の発症リスクがある」という従来の結果は疑問である。従来の報告ではメタボ該当者の中に、糖尿病や高血圧の患者が含まれている可能性が高く、「糖尿病や高血圧患者を除いたメタボだけで本当にリスクが高くなるのか」というのである。

●欧米の糖尿病学会の推奨内容:『メタボのレッテル張りをしないように』
 米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)は2005年(平成17年)9月、共同声明を発表した。そこでは、メタボリックシンドロームの診断基準はいずれも「暖昧で不完全」であると結論づけ、患者に「メタボリックシンドローム」というレッテル張りをしないよう求めている。共同声明では、心血管疾患の危険因子(糖尿病、高血圧、高脂血症など)は、それぞれ独立した危険因子であり、メタボに該当したからといって、そのリスクが相乗的に増大するわけではないと主張している。 
 

米国糖尿病学会と欧州糖尿病学会の共同声明(医師への推奨)
1)心血管疾患の主要な危険因子を持つ成人には、他の危険因子もあることを検討すべきである。
2)心血管疾患の危険因子が基準値を超えている患者には、生活習慣を改善する指導を行うべきである。また、明らかに病気の値を示している場合(例えば血圧が140/90@Hgを超えている、空腹時血糖が126mg/dl以上)の場合は、確立されたガイドラインに沿って治療すべきである。
3)医療提供者は患者に対して、「メタボリックシンドローム」という用語でレッテル張りをすべきではない。メタボリックシンドロームは、それを構成する要素よりも大きいリスクであるとか、他の危険因子よりもより深刻であるという印象を与えかねないからである。また、基礎となる病態生理学が明確なものであるという印象も与えるおそれがあるからである。
4)心血管疾患の危険因子はすべて個別的かつ積極的に治療されるべきである。
5)無作為化比較試験が完了するまでは、メタボリックシンドロームに対する適切な薬理学的療法は存在しないし、メタボリックシンドロームに該当する患者にインスリン抵抗性を減少させる薬理学的療法が有益だろうと決めてかかるべきではない。
 「メタボ」は、『好ましくない健康状態』を指すのであり、『新しい病気』ではないことを銘記すべきであるということだと、、、。

※ 【コホート研究】
  メタボ集団(コホート)と非メタボ集団の 2つの患者集団に分け、通常その後の観察期間中(前向き追跡研究)の疾患発症や死亡率などを追跡する研究様式である。 メタボ集団が非メタボ集団に比べて、将来どのような病気に罹患するか、死亡率はどうなのか、その危険率を研究するのに一番良い方法とされてる。

【参考・引用資料】
 ここの記事は以下の資料の内容をまとめたものです。
メタボと死亡リスクの関係は?蓄積され始めた日本の疫学研究
日本医事新報 No.4375(2008年3月1日)
2008.05.01記 2008.05.01修正