【トピックス(役立つ医学情報-循環器以外編No.20)】 
公開日2006.05.24 更新日2006.05.24  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
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91)【サプリメント】癌に関する健康補助食品の一般向け手引き書が厚生労働省研究班から発表された。  2006.05.24記
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   【サプリメント】
(91)癌に関する健康補助食品の一般向け手引き書が厚生労働省研究班から発表された。

まとめ:健康補助食品、その中でも「癌に効く」というふれこみの高額の商品を、癌になった人、癌を恐れる人または家族に、その心理的な弱みにつけ込んで、売り込む商法が氾濫している。これに対して、法的な規制がないのが現状である。今回、厚労省研究班が「癌に関する健康補助食品に関する一般向けの参考資料」をWeb上で公開した。その内容は、「これらのものは、ほとんど科学的な根拠がない」と言うことである。
--以下は「朝日新聞記事2006年(平成18年)5月4日木曜日」から--
【癌に効く】とされる健康補助食品に対する厚労省研究班の手引書
使用頻度の高い健康補助食品の科学的検証について(厚労省研究班大手引きによる)
健康補助食品名 ヒトヘの科学的検証の文献を調べた結果
アガリスク
(キノコ類)
子宮癌と卵巣癌で、抗癌剤の副作用(脱毛と脱力感など)の軽減に有効との臨床試験が1件。今後、複数の試験で検証が必要。
プロポリス
(ミツバチが作る固形天然物)
直接的な治療効果(がんの縮小や延命)や、抗癌剤や放射線療法治療の副作用軽減効果を臨床試験で検証した報告はない。
AHCC
(キノコ類から得た活性化糖質混合物)
肝細胞癌で、手術後の再発予防や生存率の延長効果を認めたとする臨床試験が1件。
サメ軟骨 臨床試験は3件あるが、有効性は明白ではない。
メシマコブ(キノコ類) 臨床試験はない。症例報告は2件あるが、結果の解釈は冷静な判断が必要。

 近年、がん患者がキノコなどの健康補助食品に効果を期待する動きが広がるなか、公的機関の厚生労働省研究班が、一般向けの手引をまとめた。ヒトで科学的な検証がなされているかを調べた。
  手引では、代表的な健康補助食品全体への見解として「がんの縮小や延命効果など、多くの患者が期待する直接的な治療効果を証明する報告はほとんどなかった」とまとめている。
 研究班は、補完代替医療の実態に関する過去の調査で特に使用頻度が高かった五つの健康補助食品について、国内外の医学や科学の学会誌などに公表された科学論文を検索。科学的根拠として臨床試験の有無などを調べた。
  補完代替医療には健康補助食品のほか、はり・きゅうや民間療法なども含まれる。手引では、こうした補完代替医療を利用するにあたり確認や注意すべき点について、約30項自のリストに示した。
(1) がんの進行に伴う症状を軽減できるか (2)現在受けている治療に影響があるか (3)その補完代替医療の専門家は主治医と一緒に治療に取り組んでくれるか、といった点で、主治医や看護師らに相談することを勧めている。
研究斑は「補完代替医療にどう向き合い、どう利用すればいいのかを考えるための手引にしてほしい」としている。
手引「がんの補完代替医療ガイドブック」は四国がんセンターのホームページ(http://ky.ws5.arena.ne.jp/NSCC_HP/top_page/)で公開している。http://ky.ws5.arena.ne.jp/NSCC_HP/shinryo_info/gan_no_hokan_guidbook/gan_no_hokan_guidbook.pdf
希望する病院への配布も検討されている。


---- 以下は手引き書から ----
ヒトにおける治療法の効果を評価するための研究方法の信頼度
ヒトにおける治療法の効果を評価するための研究方法の信頼度
研究方法
研究の実施
結果の信頼度

研究の方法によって、あやふやなものから確かなものまで混在しています。研究方法によって科学的根拠の信頼度を知ることができます。
 信頼度の高い研究には多額の研究費と長い年月が必要です。

ランダム化比較試験
非ランダム化比較試験
コホート研究
患者対照象研究
症例報告
実験室の研究
経験談・経験者の意見
●ランダム化(無作為化)比較試験
 対象者をランダム(無作為)に2群に分け、一方には実薬(本物)、他方には偽薬(プラセボ)を投与し、治療の効果を比べる方法です。対象者をランダム(無作為)に振り分けることによって、その治療法の効果を純粋に検証することができます。そのため、研究結果の信頼性は一番高いとされています。しかし、研究の実施には多額の費用と長い観察期間が必要なため、このデザインの研究を行うのは簡単ではありません。また、補完代替医療の領域においては、偽薬(プラセボ)の設定が困難な場合が多く、(例;鍼灸・整骨療法・マッサージなど)補完代替医療の科学的検証の際の問題点とされています。<<資料編一5>>
●非ランダム化(非無作為化)比較試験
 ランダム化(無作為化)比較試験と異なり、対象者を振り分けるときにランダム化(無作為化)を行いません。そのため、結果の信頼性は、ランダム化(無作為化)比較試験に比べてやや劣るとされています。
●コホート研究
 ある集団に対して、数年から十数年の追跡調査を行って病気の発生を確認し、病気の原因となる可能性のある要因(喫煙・飾酉などの生活習慣、食生活、血液データなど)との関連性を調べます。病気の原因となる可能性のある要因を最初に調査しておいて、その後の追跡調査で病気の発生との関連性を調べる「前向きコホート研究」と、要因を過去にさかのぼって事後的(後ろ向き)に調査して、その後の追跡調査で病気の発生との関連性を調べる「後ろ向きコホート研究」の二種類があります。
●症例対照研究
 すでに病気になった人(症例)と年齢や性別などの因子をそろえた人(対照)を選び、病気の原因と考えられる要因を過去にさかのぼって調査し、両者を比較する方法です。結果が早くわかるという利点がありますが、適切な対照(健康な人など)の設定が難しく、また、過去のことを思い出してもらうため研究結果に色々な偏りが入り込む可能性があります。
●症例報告
 病気に対してある治療法や予防法が有効であった、ひとりもしくは複数の症例をまとめて報告したものです。
●実験室の研究
 動物(マウス・ラット)や培養細胞をつかった実験です。この研究方法による結果が、ヒトでそのまま当てはまるわけではないという点に注意しなければなりません。このような理由から、資料編7ぺ一ジからの「ii)サプリメントを検証する,では、実験室の研究は、参考資料として取り上げていません。
●経験談・権威者の意見
 データの裏付けのない、主観に基づく意見になります。これらは結果の信頼性が一番低いのですが、普段、皆さんが耳にしたり目にしたりする機会が多いのが、この経験談や権威者の意見になるかと思います。このタイプの話題は、具体的で説得力があるように感じるかもしれませんが、実際には科学的根拠に基づかない主観的な意見のことが多いので、冷静に対応する必要があります。具体的には、経験談や権威者の意見が、どのような研究方法によって導き出された結果に基づいたものなのかを見極める必要があります。
サプリメントを検証する
 わが国のがん患者において利用頻度の高かった健康補助食品・サプリメントについて科学的検証が、どこまで行われているか文献調査しました。
今回、「PubMed,という米国国立衛生研究所(NIH)の国立医学図書館(National Library of Medicine)が提供しているデータベースを用いて文献検索を行いました。なお今回利用した「PubMed」は、掲載情報はすべて英語ですが、以下のURLから、どなたでも無料でアクセスできます。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=PubMed)また、文献検索にあたっては、前述の科学的検証方法のうち、ヒトを対象にしたもののみを取り上げました。おもにランダム化(無作為化)比較試験などの臨床(介入)試験や、コホート研究などの観察試験を中心に検索を行いました。比較試験やコホート研究が行われていない健康補助食品・サプリメントこ関しては、症例報告なども参考として取り上げました。なお、文献検索は、2005年9月に行いました。
【アガリクス】
 アガリクス茸は、学名をアガリクス・ブラゼイ・ムリル(Agaricus blazei Murill,、和名はガワリハラタケ(慣用名;アガリクスまたはヒメマツタケ)という担子菌類ハラタケ科のキノコです。原産地は、ブラジルとされていますが、北米(南カロライナ-フロリダ州)の海岸草地にも自生しています。日本には、1965年に食用キノコとして持ち込まれましたが、ほかのキノコに比べ粗タンパク質が43%と多く(その他、多糖類、ビタミンB2、ビタミンD、マグネシウム、カリウムなども多く含みます)腐敗が早いため、食用キノコとして普及しませんでした。しかし、1980年に三重大学医学部の伊藤均らがヒメマツタケ(アガリクス)の抗腫瘍活性を報告してから抗がん効果に期待が寄せられ、わが国において精力的に研究が進められています。アガリクス茸の抗がん効果(抗腫瘍活性、免疫賦活作用)の有効成分として、β-グルカンや低分子分画のAMBK-22などが知られています。また具体的な免疫賦活作用としてはマクロファージ・NK細胞の活性化、樹状細胞の活性化および成熟化誘導等が報告されていますが、いずれも培養細胞・実験動物での研究報告です。
 では、ヒトでの科学的検証は、どうなのでしようか。検索の結果、ひとつのランダム化(無作為化)比較試験(アガリクスV.S.プラセボ)が、行われていました。子宮がん、卵巣がんの患者を対象にした調査で、化学療法中の副作用(食欲、脱毛、情動安定性、全身脱力感)を軽減する効果について有効性を認めたと報告されていますが、今後、複数の試験による検証が必要です。
◆検索キーワード;Agaricus blazei Murill、Human
◆検索結果;全4件 内訳;臨床試験1件、症例報告0件、実験室の研究など3件
【プロポリス】
 日本プロポリス協議会ではプロポリスを次のように定義しています。「プロポリスとは、ミツバチが樹木の特定部位、主として新芽や蕾および樹皮から採集したガム質、樹液、植物色素系の物質および香油などの集合体に、ミツバチ自身の分泌物、蜂ろうなどを混合してつくられた暗緑色や褐色から暗褐色を呈した粘着性のある樹脂状の固形天然物である」従って、プロポリスは、植物由来の複合物であるため地域ごとに起源植物が異なることから、その産地によってプロポリスの成分内容の比率が異なっていることが指摘されています。さらに、含有成分に関しても報告例だけで300種類以上あるといわれています。また、プロポリスの作用に関しては機能性食品素材便覧によると、プロポリスは「薬として用いられた歴史は古く紀元前350年にさかのぼる。ギリシャ人は膿瘍に、アッシリア人は傷や腫瘍の治癒にプロポリスを用いていた。現在でも外用では、消毒や抗菌をおもな目的に、経口では、結核などの各種感染症、十二指腸潰瘍などの消化器疾患に対して用いられ、免疫賦活効果も期待されている。しかし、外用以外の効果については科学的実証が十分ではない,と記載されています。では、ヒトでの科学的検証は、どうなのでしようか。検索の結果、プロポリスのがんへの直接的治療効果(がんの縮小や延命効果)、抗がん剤や放射線治療の副作用軽減効果などを臨床試験で検証した報告はありませんでした
◆検索キーワード;propolis、cancer、Human
◆検索結果;全34件 内訳;臨床試験0件、症例報告0件、実験室の研究など31件(※内容が日本語、英語以外の言語で記載されていたため詳細の不明なものが、3件ありました)
【AHCC(エー・イチ・シー・シー)】
 AHCC(Active Hexose Correlated Compound)は、「担子菌類の菌糸体を液体タンクで培養し、各種酵素処理、熱水抽出して得られた活性化糖類混合物の総称,とされています。有効とされている成分は、β一グルカンとアセチル化α一グルカンとされていて、免疫賦活作用、抗腫瘍作用等が培養細胞実験、動物実験にて確認されています。
 では、ヒトでの科学的検証は、どうなのでしようか。検索の結果、根治手術後の肝細胞がん患者を対象とした非ランダム化(非無作為化)比較試験が、ひとつ報告されていました。その研究報告では、AHCC摂取によって手術後の再発予防効果・生存率の延長効果を認めたとされています。今後、さらに複数の臨床試験による検証が求められます。
◆検索キーワード;Active Hexose Correlated Compound、Human
◆検索結果;全2件内訳;臨床試験1件、症例報告0件、実験室の研究など1件
【サメ軟骨】
 サメ軟骨は、創傷治癒促進のため、そして非腫瘍性の慢性炎症性疾患の治療のため、1950年代から使われてきました。抗腫瘍活性としては動物実験や前臨床試験などから、直接の細胞傷害作用、免疫系の賦活作用、血管新生の阻害作用の3つが考えられています。サメ軟骨は、米国において複数のヒト臨床試験が行われている(進行中も含む)素材です。では、ヒトでの科学的検証は、どうなのでしようか。検索の結果、3件の臨床試験の報告がありました。ひとつは、進行がんの治療におけるサメ軟骨の安全性と有効性を調べるために60人の進行がん患者(脳腫瘍;1名、乳がん;18名、大腸がん;16名、肺がん;14名、リンフオーマ;3名、前立腺がん;8名)を対象に行われたものでした。有効性に関しては、評価可能な症例50御中10例に12週間以上の病状安定を認めましたが、腫瘍が小さくなったり消失したりした症例は1例もありませんでした。安全性に関しては、有害事象が21件認められ、そのうち14件が消化器症状(悪心、嘔吐、便秘など)でした。その論文の著者らは、「サメ軟骨は単独で使用した場合、抗腫瘍効果は認められず、生活の質(QOL)に関してもプラスにならない」と結論づけています。
 もう一つは、腎細胞がん患者22名を対象に、60ml/日投与群と240ml/日投与群で生存率の比較検討を行っています。その結果、240ml/日投与群の方が生存期間が延長されました。その論文の著者らは、「サメ軟骨(Neovastat)は、腎細胞がん患者において、高用量(240ml/day)内服によって、生存予後に関して利益をもたらす可能性がある」と結論づけています。もう一つは、乳がん、大腸がんの患者を対象に行われたランダム化(無作為化)比較試験です。抗がん剤などの標準治療を行う際に、サメ軟骨併用群(42名)とプラセボ併用群(41名)に無作為に振り分け、生存率と生活の質(QOL)の比較検討を行いました。その結果、サメ軟骨(Benefin)の有効性を認めるような結果を得ることはできませんでした。その論文の著者らは、「サメ軟骨(Benefin)は、進行がん(乳がん・大腸がん)患者において有効性は示唆されなかった」と結論づけています。
 サメ軟骨は、ほかの健康補助食品・サプリメントと比べて臨床試験が比較的数多く実施されています。しかし、がん患者への有効性は明白でなく、現時点では科学的根拠(エビデンス=臨床試験による結果)の集積段階といえます。
◆検索キーワード;shark cartigo、cancer、clinical trial、Human
◆検索結果;全4件 内訳;臨床試験3件、その他1件
【メシマコブ】
 メシマコブは桑の木に寄生するキノコで、栽培が困難であるため天然の姿品(キノコ)を確保することは、難しいとされています。しかし、近年、韓国でメシマコブの菌糸培養が成功し、その多糖類成分の免疫増強効果の研究が精力的に行われるようになりました。1993年にはメシマコブ菌糸体は、免疫機能増強剤として韓国で医薬品として認可されています。その韓国において医薬品としての副作用の報告例はありませんが、医薬品の注意事項に「ごくまれに吐き気、食欲不振、下痢、胃部不快感などの症状が表れることがある」と記載があります。では、ヒトでの科学的検証は、どうなのでしようか。検索の結果、症例報告が、2件(肝細胞がん;1症例、前立腺がん;1症例)ありました。それら内容は、メシマコブの抗腫瘍効果の可能性について言及されているものの、前述したとおり症例報告は結果の信頼性が低く、この報告結果の解釈には冷静な判断が必要と思われます。
◆検索キーワード;Phellinus Linteus、Human
◆検索結果;全9井 内訳;臨床試験O件、症例報告2件、実験室の研究など7件
【まとめ】
 近年、医療界に広まっている科学的根拠に基づく医療(エビデンス・ベイスド・メディシン;EBM)に応じるかたちで、がん患者が利用している代表的な健康補助食品・サプリメントについて、限6れた条件のもとではありますが文献検索を行いました。その結果、多くのがん患者が補完代替医療に期待していたがんに対する直接的な治療効果(がんの縮小、延命効果など)を証明するような報告はほとんどありませんでした。今後、よく計画されたヒト臨床試験によるエビデンス(科学的根拠)が蓄積され、多くの不確かなことが補完代替医療の名のもと、漫然と継続されることなく、順次、有効・無効、有害・無害が明らかにされていくことと思われます。
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【引用資料】
1)朝日新聞記事「がんに効く」に見解:厚生省研究班が手引 2006年(平成18年)5月4日木曜日
2)「がんの補完代替医療ガイドブック」:編集;厚生労働省がん研究助成金、「がんの代替療法の科学的根拠と臨床応用に関する研究」班、監修;日本補完代替医療学会
2006.05.24記  2006.06.05修正