トピックス(役立つ医学情報-循環器編No.15)】
公開日2006.03.14 更新日2006.04.08  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  トピックスの目次へ 
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81)【循環器】高齢者ではHDL-C値が高い場合にはコレステロール低下薬(スタチン)は効果が期待できない 2006.03.14記
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     【循環器】

(81)高齢者ではHDL-C値が高い場合にはコレステロール低下薬(スタチン)の効果は期待できない

まとめ:高齢者においては、「高コレステロール血症は心筋梗塞のリスクにならない」との報告が有名な医学誌で発表された。高齢者の高LDL-C血症はスタチン投与の価値がない。むしろ、低HDL-C血症患者へのスタチン投与が有用であった。
低HDL-C値の高齢患者にスタチン(スタテン)が有効
「LDL-C(悪玉)コレステロール値が高いと心筋梗塞の危険性が増し、これをを低下させるスタチン系薬剤を使うと心筋梗塞が減少する」と一般的に信じられていた。しかし、最近の報告では、それほど単純ではないとの報告が多い。グラスゴー大学(英グラスゴー)血管生化学のChristopherJ.Packard教授らは、「高齢者ではLDL-C(悪玉)コレステロール値は心疾患の危険度と無関係で、スタチンの内服も効果が期待できない。他方、LDL-C(悪玉)コレステロール値とは無関係に、HDL-C(善玉)コレステロール値が低いひとにスタチンを内服させると心臓病が減る」という内容の研究結果をCirculation (2005;l12:3058-3065) に発表した。つまり、高齢者ではスタチン治療効果の予測には、LDL-C値よりもHDL-C値のほうが適切であると言っている。
【対象と方法】
 PROSPER研究調査※2に登録した70-82歳の男女5,804例について、LDL-CおよびHDL-C値と冠動脈リスクとの関係を調べた。全例とも心疾患、脳卒中などの血管性疾患の既往があるか、高血圧、喫煙習慣、糖尿病、高齢などにより冠動脈疾患リスクが高かった。被験者は無作為にプラバスタチン40mg/旧群とプラセボ服用群に割り付けられた。
【結果】
  試験開始時、両群の平均HDL-C値は50mg/dL、平均LDL-C値は147mg/dLで、平均総コレステロール値は221mg/dLであった。3.2年後の経過中に、スタチン群にもプラセボ群にも治療前LDL-C値と冠動脈イベントリスクに何の関係も見出せなかった
 一方、初期HDL-C値が45mg/dL以下でスタチン系薬を投与された者は、非致死性心筋梗塞または心疾患死の確率が3分の1低かった。しかし、HDL-C値が高い男女では、スタチンの有効性は見い出されなかった
【まとめ】
1)少なくとも高齢者においては、HDL-C値によりスタチンの効果が変わる。
2)高齢者では 若年層でのスタチン試験とは異なり、LDL-C値は冠動脈リスクと実質的に何の関係もない。
3)スタチン療法を、最も効果の期待できる低HDL-C値の高齢者に絞れば、より効率的な治療となる。
4)スタチンがどのようにして高齢者のリスクを軽減させているのかを解明することが、今後の研究課題である
今回はプラバスタチンしか検討していないが、この結果はすべてのスタチンに当てはまる、と同教授は推測している。
参考
「低HDL-C値の高齢患者にスタテンが有効」 medical tribune2006.2.16号
※1:最も権威のある循環器系の学術雑誌
※2:2002年に発表された冠動脈リスクのある高齢者におけるプラバスタチン前向き試験(PROSPER)のデータでは、プラバスタチン(スタチンの一種)治療は高齢者の冠動脈性心疾患のリスクを19-24%低下させたと報告している。
2006.03.14記   2006.04.08修正