トピックス(役立つ医学情報-循環器編No.14)】
公開日2006.03.12 更新日2006.04.12  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す 
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報(必ずしも最新ではありません)を紹介します。
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80)【循環器】出血性合併症回避のための抗血小板薬の一時中止は必要か  2006.03.12記
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     【循環器】


(80)出血性合併症回避のための抗血小板薬の一時中止は必要か

まとめ:出血性合併症の危険性のある医療処置において、抗血小板薬はかならず休止しなければならないというわけではない。その時々に応じた対応が必要である。
 脳梗塞、心臓病(人工弁、心房細動、冠動脈疾患)、閉塞性動脈硬化症(おもに下肢への動脈の閉塞が生じる)など血栓(血管内や心臓内の血の塊)による疾患の予防のために、血液が凝固しにくくなる薬(抗血小板と抗凝固薬)がよく使用されている。
 しかし、抜歯、胃カメラ検査(胃生検)、前立腺生検、など出血性の合併症を起こす危険性がある場合に、抗血小板や抗凝固薬を一時中止するかどうかがいつも問題となる。具体的な薬剤としては、抗凝固薬のワルファリンカリウム(商品名ワーファリン別解説)やチクロピジン(商品名パナルジン)、アスピリン(商品名バイアスピリン)、シロスタゾール(商品名プレタール)、ベラプロストナトリウム(商品名ドルナー)などがある。
ほかにも、ケタスや酒石酸イフェンプロジル(セロクラール)など、さらに弱い血小板凝集抑制薬もある。
 脳梗塞または一過性脳虚血発作※1の既往があり、アスピリンを服用していた患者が、アスピリンを4週間くらい中止した場合に脳梗塞あるいは一過性脳虚血発作をきたす危険性は約3倍とする報告がある。特に冠動脈疾患(狭心症+心筋梗塞+無症状の冠動脈疾患)も合併している患者で、アスピリン中断後の脳梗塞あるいは一過性脳虚血発作の再発が多くみられたという。ただし、危険率は3.25倍になるが、絶対値としての頻度は小さい。
  脳梗塞のみでなく、虚血性心疾患でアスピリン服用中の患者が服用を中断すると、虚血性心疾患を再発するリスクが高まることも報告されている。これらは、中断の四週間以内に起こるとされている。チクロピジンの中断による再発率についての正確な報告はない。
 生検、手術などの際には、抗血小板薬の休薬はやむをえない処置と考えられるが、患者へのリスクについての十分な説明が必要となる。
わが国では、アスピリン、チクロピジンとともにシロスタソール(プレタール)が脳梗塞再発予防に認可されている。シロスタソールの場合は薬の効果が早く減衰するので休薬期間は3日と短くてすむが、休薬期間中の再発についての十分がデータはない。なお、抜歯程度では、出血性の合併症よりは、脳梗塞の危険性のほうが問題なので、最近は抗血小板薬の休薬は行わないのが通常となっている。
 本邦で使用されている脳循環代謝改善薬、酒石酸イフェンプロジル(セロクラール)、ニセルコリン(サアミオン)、イブジラスト(ケタス)がなどにも抗血小板作用がある。しかし、アスピリン、チクロピジンなどと比較すると、その血小板凝集能抑制効果は弱い。

【当院の意見】
 当院ではどうしているかというと、抜歯の場合アスピリンやパナルジンは必ずしも中止の必要はないが、以前に止血困難であったとか、出血に歯科医や患者さんが神経質になっているとかあれば、4-7日間なら中止してもそれほどリスクが高くはならないと考え、一時休薬している。胃カメラなどの生検時には、抜歯に比べて、しけつが困難なので必ず中止している。血小板の寿命は14日程度なので、7日間も中止すれば半分は薬物に暴露されていない血小板とな、半分の血小板は清浄機能となる。このため、多くは7日間の中止を目安にしている。
 一方、ワーファリンに関しては、血栓による疾患発症のリスクが高いので、できれば休薬しないことを原則に、慎重に対応している。しかし、実際は歯科医や患者さんの不安が大きく、3-4日間休薬することが多い。この場合でも、処置後に直ぐに、出血が多くないことを確認し、ワーファリンの再開する。入院中なら出血の危険性がなくなれば、一回ヘパリン静注して、ワーファリンの効果が出るまでのつなぎとすることも考慮するとよい。
※1一過性脳虚血発作:
  脳血管が非常に短い時間のみ詰まって、直ぐに血流が再疎通した場合におこる。手足の麻痺や言語障害などの一過性の脳神経症状がでるが,24時間以内に症状が完全に消失し、後遺症を残さない。
典型例では2−5分で症状が完成し,2−15分で消失する.脳梗塞の前駆症状として重視される。
「抗血小板薬の休薬」埼玉医大内科学(神経内科部門)教授 棚橋紀夫、日本医事新報2005年12月10日号

2006.03.12記   2006.05.19修正