トピックス(役立つ医学情報-循環器編No.11)】
公開日2005.12.14 更新日 2006.02.15  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このページは、当院が興味を惹かれた医学情報(必ずしも最新ではありません)を紹介します。
このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。
69)【心臓】X線CT検査で心臓ペ一スメーカーが誤作動することがある 2006.01.12記 2006.02.15誤字修正
68)【心臓】抜歯時のワルファリン療法は一時中断すべきか 2006.01.12記

67)【心臓】心臓病や血管病の予防に運動と減量のどちらが重要か 2005.12.14記

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     【循環器】


(69)X線CT検査で心臓ペ一スメーカーが誤作動することがある。

まとめ: CT検査で、植込み型心臓ぺースメーカーや植込み型除細動器の本体に連続的にX線を当てると器械の設定がリセットされたり、一時的に器械の働きが止まる可能性があることが報告された。
 植込み型心臓ペースメーカー(メドトロニクス社製「セラ」シリーズ)で、X線CT装置によるX線照射により部分的に電気的リセットが発生すると報告された。また、他社の心臓ペースメーカー等においても、本体にX線照射を連続的に照射しているときにオーバーセンシング(心臓が自発的に動いたとペースメーカーが勘違いすること)により、一時的にペースメーカーの働きが抑制された。連続的なX線照射が本体内部のC-MOS回路に影響を与えること等がその原因と考えられる。

 対策として、
(1)「セラ」シリーズはリセットを引き起こす可能性があることから、刺激閾値が3.5V以上の患者又は刺激閾値が不明の患者に対する「セラ」シリーズの植込み部位へのX線CT装置等によるX線照射は原則行わない。
(2)本体にX線束を5秒以上照射しないようにする。
(3)やむを得ず、本体植込み部位にX線束を5秒以上連続して照射する検査を実施する場合には、患者に「両腕挙上をさせる等してペースメーカー位置を照射部分からずらすことができないか検討する。 それでも本体植込み部位にX線束を5秒以上連続的に照射することがさけられない場合には、検査中、競合べ一シングをしない状態で固定ぺ一シングモードに設定するとともに、脈拍をモニターすること。また、 体外ぺーシングの準備を行い、使用すること。
 なお、植込み型除細動器についても同様の誤作動がありえるので、同様に注意が必要。本体植込み部位にX線束を照射する場合には、検査中、頻拍検出機能をオフにした後、脈拍をモニターすること。または一時的体外除細動器や一時的体外べ一シングの準備を行い、使用すること。などの注意がいる。

【当院の意見】
 ペースメーカーは小さなコンピューターなので、電磁波の影響を受けやすい。 多くの場合は一時的であり、安全性はかなり高いが、場合によっては生命の危険が生じる事故にも繋がるので注意がいる。

参考資料 
2005.11.25 厚生労働省通達(平成17年3月31日付け薬食安発第0331007号通知 )より。
2006.01.12記   2006.02.15修正



               【心臓】          トピックスの目次へ   次へ  前へ 


(68)抜歯時のワルファリン療法は一時中断すべきか

まとめ: 抜歯時のワルファリンは必ずしも中止の必要はなく、むしろ中止による脳梗塞の増加が問題となっている。
  ワルファリン(=ワーファリン)は強い血栓(心臓や血管内で血の塊ができること)予防効果があり、心房細動患者の脳梗塞の予防のほか、人工心臓弁、肺塞栓症、静脈性血栓症などの血栓予防に広く使われている。本邦でのワルファリン処方患者数は100万人に達するという。しかし、薬物の相互作用や食事の影響など、細心の注意と患者指導が必要な薬剤である。
 開腹・開胸手術など出血が問題となる大手術では、ワルファリン療法は原則的に一時中止する。しかし、抜歯、眼科の小手術など出血性合併症のリスクが低い場合には、ワルファリン療法は継続した方がよいと欧米では言われている。
 本邦においては、抜歯時のワルファリン療法の中断または継続に関する対応は、中止、減量、継続と医療機関によってさまざまである。ただ、日本でも中止の必要はないとの報告が多く、中止すべきだとの報告はないようである。にもかかわらず、ワルファリンのみならずそれよりも効果の弱いアスピリンでさえ、継続したままでの抜歯を受け入れない歯科医も少なくないという。止血困難が発生した場合に、歯科医ではその対応が難しいことが、ワルファリンに対する過剰な反応を増幅させている。
ワルファリンを中止しなくても重篤な出血性合併症はおこらない。むしろ、短期間の中止でも脳梗塞が増加する。
  矢坂正弘氏(国立病院機構九州医療センター、脳血管センター脳血管内科)の検討では、脳梗塞急性期(412例)のうち、ワルファリン療法中の発症は23例(5.6%)であったが、そのうち8例がワルファリン中止例であったという。8例とも心房細動などの心原性塞栓症であり、重症が多かった。中止の理由の半数が抜歯に際しての休止であった。
 海外では、1998年Wahl氏が抜歯時のワルファリン中止例での血栓・塞栓発症状況を文献的に修正した解析を行い、493例542回の抜歯件数中、5例(0.9%)に塞栓症を起こしたと報告している。ほんの1%だが、ここでも全例重症で、4例が死亡とある。以上から矢坂氏は「ワルファリンを中止して100人に抜歯を行っても、99人は塞栓症は起こらないとも解釈できるが、1人が重度の脳梗塞を起こす事実を重く受け止めるべきだ。また、国立循環器病センターで確認された病型がすべて心原性脳塞栓症だったことからも、一時的であってもワルファリンの中止は避けることを強調したい」と述べている。 まだ、確立してはいないが、「ワルファリンを突然中止すると凝固能が著しく亢進するリバウンド」が起こる可能性もある。
 2002年EvansらはINR 2.0〜4.0のレベルで管理中の患者109例でワルファリン中止群と非中止群に無作為に分けて抜歯直後の局所出血、遷延性出血の発生を調べた。結果、軽度の後出血はワルファリン継続でみられる傾向にあったが、統計的に有意差はなかった。重篤な出血性合併症は両群ともになかった。
  2002年、国立循環器病センターでの57人合計65回の抜歯をワルファリンおよび抗血小板薬の継続下で行ったが、3例に軽度の出血を認めたのみであった。しかも、その原因は膿瘍や歯周炎などの局所炎症の影響が大きいと指摘された。
  大阪第二警察病院歯科口腔外科牧浦倫子氏は「過去の文献をみてもワルファリンを継続して抜歯したために、輸血を要するような重篤な出血性合併症を認めたという報告は見あたらず、自験例でも出血の程度はガーゼの圧迫や縫合で十分止血が可能なものばかり。また、抜歯前に口腔ケアを行うことで出血のリスクを軽減することもできる。逆にワルファリンを中止して抜歯した後に脳塞栓症を発症した症例を持つ歯科医は私の周辺にもいる」と述べた。
●PT-INR 3.0未満であれば止血可能
 牧浦氏は、今までの経験からPT-INR3.0以上は経験数が少なく結論が出せないが、PT-INR3.0未満であれば、重篤な出血もなく、止血に困ることもなく、ワルファリン継続下での抜歯は問題ないという。
以下、牧浦氏の抜歯後の止血処理方法を付け加える。
・全例で縫合を行い、ガーゼによる圧迫止血を行う。
・一度に複数の抜歯を行う場合は、止血シーネを作成する
 
ただし、一般に欧米人は血液が凝固しやすいといわれているので日本人も全く同じとは考えない方がよい。
【当院の意見】
  PT-INR2.0未満は脳梗塞の危険性が増す。通常PT-INR2.0-3.0が治療目標値となっており、PT-INR3.0未満なら抜歯時にワルファリンを中止する必要がないとなると、ワルファリンの効き過ぎさえなければ、抜歯時に中止する必要がなくなる。
 ただし、 ワルファリン中止に対する擁護的な発言をするならば、INR2.5ぐらいの人が、2日程度ワルファリンを中止しても2.0未満になる日数は1日ぐらいと思われる。新規に心房細動になった患者が脳梗塞を発症するのは通常3日目以降である。つまり、すでにある程度の血栓が生じている場合はともかく、全く血栓がない状態から新たに血栓が生じるまでは数日かかると思われる。中止前にワルファリンがしっかり効いているなら、1-2日程度のワルファリン中止で直ぐに脳梗塞になるとは考えにくい。
  また、患者や歯科医はワルファリン継続下での抜歯を極端に警戒することが実際に多く、妥協案として当院では今のところ「2日前、前日、当日朝とワルファリン中止し、抜歯が終わったらその日のうちにワルファリンを再開しなさい」としている。
参考資料 
この内容は、某製薬メーカー後援ののネット配信資料を参考にしたものです。
Medical tribune p78-802005年6月23日号
2006.01.12記   2006.02.15修正


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(67)心臓病や血管病の予防に運動と減量のどちらが重要か?

まとめ: 「若年成人では運動するよりも体重を減らすほうが循環器疾患の予防効果が高い」という研究結果が、米国心臓協会学術集会2005.11.22(AHA 2005)で発表された。
減量と運動のどっちが優れているか?
  「若年成人では運動するよりも体重を減らすほうが循環器疾患を減らすには良い」という研究結果を、米国心臓協会学術集会2005(AHA 2005)においてロードアイランド州のグループが発表した。つまり、「太っていて運動するよりも正常体重でいるほうがよい(ブラウン大学医学部の家庭医学科教授Charles Eaton, MDがMedscape)」という。

【方法と対象】
  この研究では、全米健康栄養調査(NHANES)の横断的データを用いて、運動量がさまざまな20歳から49歳までの若年成人2,178例を対象にした。被験者の血液検査では、総コレステロール(TC)、HDLコレステロール(HDL-C)、血糖、インスリン、フィブリノーゲン、ホモシステインの濃度を調べた。血圧、身長、体重は標準的な方法で測定した。運動量は、年齢と性別での標準に合わせて、循環器系運動を「少ない」、「中程度」、「多い」に分類した。BMIを測定し、「正常(< 25 kg/m2)」「体重超過(25-30 kg/m2)」「肥満(> 30 kg/m2)」に分類した。
 研究者らはBMIと循環器系運動との関係を調べて、「太っていて運動する」のと「痩せていて運動しない」とのどちらがより優れているかを検証した。
【結果】
  冠動脈性心疾患のリスク因子像がもっとも優れているのは、肥満がなく、かつ多く運動する人であり、もっとも悪かったのは肥満で運動量が少ない人だった。しかし、体重が正常で運動量が少ない被験者の、冠動脈性心疾患リスク像は、多く運動するが体重超過または肥満の被験者よりも優れていた
 肥満で運動する群と痩せで運動しない群とを比較すると、TC/HDL-C比に有意差が見られ、同様にHDL-C、TC、非HDL-Cにも有意差が見られた。
 また、収縮期血圧と白血球数にも肥満/運動群と痩せ/非運動群との間に差がある傾向が見られたが、その差は有意に達しなかった。
 インスリン抵抗性マーカーであるホメオスタシスモデル評価(HOMA)指数と、ホモシステイン、拡張期血圧については両群間で有意差がなかった。
【議論】
  「今回の研究はある一時点のリスク因子を測定する横断研究ではあるが、ほとんどのマーカーにおいて、痩せで運動するほうが太って運動しないよりも優れていることが結果で示された」とEaton博士は語る。ただし、今回のデータは予備的なものであり、さらなる縦断研究が必要であるともいっている。
もし体重が超過しているなら、体重超過のままで運動するよりも正常体重にまで減量したほうがよい」。
米国心臓協会長のRobert Eckel氏は、「今回の研究は、太って運動することは果たして良いことなのかどうかという重要な問題を提起している」と語った。
参考資料 
この内容は、某製薬メーカー後援ののネット配信資料を一部省略変更したものです。もととなった発表を以下に示します。
AHA 2005 Scientific Sessions: Abstract 3611. Presented Nov. 13, 2005.
2006.01.12記  2006.02.15修正