【医療ミスを防ぐミニ知識(2)】 
公開日2007.09.22 更新日2007.09.28  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。
内容の難易度のレベルは、一般内科医、研修医レベルです。医師以外にはかなり高度な内容です。
目次へ    前へ   次へ


 「これだけは知っておきたい医療禁忌(三宅祥三監修、長田 薫編集 羊土社3,360円)」で取り上げられた題材です。 自分自身も含めて、外来診療における啓発、忠告の意味で「日常診療でうっかりしやすいもの」を一部加筆し、簡単にまとめました。解説した項目は参考書の極一部です。興味のある方は購読してください。薬品名には一般名ではなく、代表的な商品名を使っています。

31)創傷治癒のためには傷口を乾燥させない方がよい
 外傷により、傷口からは体液(滲出液)がにじみ出てくる。傷に対して、傷口と周囲を消毒し、体液を吸収させ、乾燥させながら外部から保護するために、ガーゼを当てる治療が従来から行われてきた。
  きれいな縫合された創で、皮膚欠損がない場合は、乾燥状態にしても創の治りが障害されることはない。しかし外傷で皮膚の表面(表皮)が欠損し、深部の皮膚組織(真皮)が露出している状態の創が治るためには、周囲の健常な表皮や真皮内に存在する表皮細胞が遊走・増殖して徐々に創部の表皮を再生しなければならない。
  滲出液には創傷治癒を促進する因子や修復のための細胞の活動を支える働きがある。創にガーゼをあてると、ガーゼが滲出液を吸収するために、創面が乾燥してしまい、治癒が遅くなる。ガーゼを使った従来の治療法は、最近は最善の処置ではないとされるようになった。
皮膚欠損や縫合創縁に挫滅を認める創では被覆材を用いて被うとよい
 損傷された組織は切除し、創の汚れをしっかり洗い落とした後に、被覆剤で創面を湿潤に保つ治療法が創の最近の治療法である。被覆剤は浸出液の量や周囲健常皮膚など創の状態に応じて適宜交換する。
 被覆材としては、ポリウレタンフィルム(テガダーム)、ハイドロコロイド(デュオアクティブ)、ポリウレタンフォーム(ハイドロサイト)などがある。また出血面に対してはアルギン酸塩(カルトスタット)を貼付し、これを被うようにフィルムドレッシング材で密封して使用する方法もある。
●小さなキズ用の市販商品もある。
  すり傷や浅い切りキズ、浅い火傷などのあまり汚染されていない小さな傷には、市販の新しい救急絆創膏(ハイドロコロイド商品)として、キズパワーパッド(ジョンソン&ジョンソン)」がある。参考までにこの商品の使用上の注意点を以下に上げておく。
(1)創の中の汚れを水道水でしっかり洗い流すこと。
(2)キズパッドで密閉するときは消毒はせず、軟膏も併用しないこと。
(3)液が漏れたり密閉されなくなったら交換すること。
(4)かさぶたがあったり、筋肉や骨に至るような深い傷での使用は危険なのでやめておく。
※注:「創」はきず口があり、出血がある。 「傷」:内出血やはれがあるが、出血はしていない。
 なお、状況によっては医療機関で治療される方がよい場合もあります。自己手当するかどうかの判断は自分自身の責任において行ってください。当院は一切の責任を負いません。

32)キズ口は消毒してはならない。
 従来は、創傷は感染予防のために消毒し、ガーゼを当てるという処置が一般常識だった。しかし、消毒液は細菌のみでなく、創面の人体細胞も障害し、かえって治癒が遷延する。しかも創周囲の皮膚にいる多くの皮膚常在菌が消毒後に周囲より創面に侵入するので、外傷創面の感染予防効果がない。
外傷創に対する処置
  創内に異物の混入がない場合は、創周囲の皮膚をぬぐう程度で消毒は必要ない。創内に異物の混入を認める場合は、局所麻酔を行い、大量の流水で洗浄し、ブラッシングして異物を除去する。感染源となる壊死組織や異物などを創面から取り除くことが重要である。手術創などきれいに縫合され、皮膚欠損のない創に対して消毒は必要はない。

33)汚染された創は、重症感染症を防止のために直ぐに閉じてはいけない。
 創内で感染が発生した場合、排膿できないため感染が重症化する。したがって、動物による咬傷、銃創、汚染度の高い開放骨折、golden hour内に処置ができなかった汚染創では、一期的に創を閉鎖せず、創を開放状態とし、wet dressingとする。膿の流出や悪臭があるかを感染の有無の参考にし、感染の徴候がなければ数日後に閉創する(primary delayed closure)。
 ただし、関節や大血管、神経、骨が露出する場合は健全な周囲の組織で被覆するよう努力し、皮膚は開放としておく。
  骨折を合併している場合、golden hour以内では観血整復内固定を行うことは許容されているが、関節近傍など特殊な場合を除き、原則として内固定は避け、二期的手術とする。創外固定や牽引、ギプスなどの外固定とするほうが無難である。

34)手術後長期臥床の患者さんは、医師の立ち会いのもとでが歩行開始する。
■肺動脈血栓塞栓症の発症
 長期臥床中に形成された下肢の深部静脈血栓が、歩行を契機に遊離し、肺動脈に流れ飛んで詰まる肺塞栓症を発症する可能性がある。肥満、悪性腫瘍、エストロゲン製剤の投与、その他の危険因子をもった症例は術後早期の離床でも発症することがある。発症後の致命率は約30%と高い。救命には医師の即時対応が必要で、リスクの高い患者さんが離床するときは医師の立ち会いが重要である。
◆予防処置として、ヘパリン投与、弾性ストッキングの着用、間欠的下肢空気圧迫装置の装着などが行われている。

35)高度の血小板減少の状態では筋肉注射をしない
 高度の血小板減少の状態で筋肉注射を行うと、筋肉内に血腫を形成し疼痛をきたすことがある
・一般に血小板30,000/μl以下の高度の血小板減少状態では、穿刺や切開などの観血処置で止血が不良になる。
・血小板1,000/μlでも表在静脈などは穿刺しても披針後の圧迫止血を5分以上行うと、通常は止血する。
  筋肉内注射では充分に圧迫止血をする慣習はなく、むしろ上から操んだりする人が多い。
血小板敷30,000/μl以下の高度の血小板減少の際には、あらかじめ筋肉注射禁止の指示を出しておくとよい。

36)免疫抑制薬や抗癌剤の使用開始前には、HBVの確認を行う。
 HBVキャリアでは、肝障害などが出現せず自覚症状もないことが多い。HBV陽性患者に免疫抑制薬や抗癌剤による治療を行うと、B型肝炎が増悪し、劇症肝炎を発症することがある。ステロイド治療を行う場合や化学療法を行う場合には、HBVに関する問診や血液検査が必須である。
 HBVキャリアや慢性B型肝炎の患者さんでは、HBVが肝細胞に持続性に感染している状態である。ステロイドその他の免疫抑制薬投与や抗癌剤治療による免疫抑制状態をつくると、HBVが増殖する。免疫抑制作用のある薬剤投与終了後は免疫系が急速に回復する。その際にHBVを排除しようとして感染している肝細胞ごと攻撃する。広範囲に肝細胞が障害され、劇症肝炎に進展する危険性がある。

37)痛み止めは坐薬でも、胃潰瘍、十二指腸潰瘍を起こす。
 一般的な痛み止め(NSAIDs)によって、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの消化管潰瘍が増加することは、医療従事者にとっては常識である。3ヵ月以上NSAIDsを服用している関節炎患者1008例に胃内視鏡検査を行ったところ、15.5%に活動性の胃潰瘍が見つかったとの報告がある(塩川慶一、他:リウマチ、31:96-111、1991)。しかもNSAIDsによる胃・十二指腸潰瘍は半数近くが無症状であった。
 このNSAIDは消化管粘膜への直接作用するだけではなく、血液中に吸収されたNSAIDが、粘膜で高濃度となり、胃液分泌増加、粘液産生減少、粘膜血流減少などの機序により、消化官粘膜を損傷する。したがって、内服薬のみならず、坐薬でも胃潰瘍、十二指腸潰瘍発生のリスクがある。胃潰瘍の患者さんに消炎鎮痛薬を長期投与すべきではない。

38)急性腰痛症に長期安静はかえって有害
 急性腰痛症とは重篤でなく、原因のはっきりしない急性発症の腰痛をさす。いわゆるぎっくり腰が多い。痛みが強いわりには重篤感がない、重量物をもちあげたなどのきっかけがあることなどから診断する。この急性腰痛治療に安静臥床が有効である証拠はない。むしろ、痛み止めや筋弛緩薬をつかって、疼痛を和らげ、早期に日常生活に復帰するのがよい。通常2-3日の安静で激痛は緩和される。腰痛には長期安静臥床は必要なく、社会復帰を遅らせるだけである。
 ただし、尿管結石、大動脈解離、化膿性脊椎炎、病的脊椎骨折、硬膜外血腫などの疾患を除外する必要がある。
 以下で腰痛に対する治療法をいくつか解説する。
牽引:治療期間を短縮する証拠はない。急性期にはかえって痛みを悪化させるおそれがある。慢性期では牽引により一時的に症状が軽快する場合があるので試みて結果良好であれば継続してもよい。
コルセットや腰椎ベルト:ー度仮に装着させて、良好と患者さんが感じる場合は継続させる。
運動療法:慢性期には試みる価値があるが有効性に疑問。
マニピュレーション:最近その有用性が多数報告される。日本で開発されたAKA(arthrokinematic approach)療法は有用である可能性がある。
硬膜外ブロック:治療期間短縮に有効かどうかは不明であるが、目前の疼痛軽減には有用である。激しい疼痛の場合には行う。

39)脊髄圧迫による神経因性の尿閉に対しては緊急除圧が必要。
 尿閉の原因には尿道閉塞と神経因性がある。尿閉に対する緊急導尿は、膀胱や腎の機能障害を防止するために必要である。尿道閉塞の原因追求は、その後にゆっくり精査すればよい。しかし、神経因性の尿閉は脊髄や馬尾が高度な圧迫を受けなければ発生しない。通常は下肢の麻痺を合併する。脊髄や馬尾障害による神経因性の尿閉は緊急除圧が必要である。至急、脊椎外科医に紹介する必要がある。
 椎間板ヘルニア、硬膜外血腫、硬膜外膿瘍が急性に尿閉を発症する可能性があるのでMRIによる精査が必要である。運動機能障害レベル、知覚障害レベル、深部反射から頸椎、胸椎、腰椎のどこをチェックすべきかを判断する。重症な糖尿病などによる神経障害から尿閉になることもある。

40)骨折後ギブス装着後の痛みでは、骨折による痛みではなく、コンパートメント症候群をまず疑う
 骨折などの外傷後の痛みでは、「単なる骨折の痛みだろう。痛み止めを使う」ではなく、コンパートメント症候群(区画症候群)を疑わねばならない。
●コンパートメント症候群とは
 コンパートメント症候群(区画症候群)とは、組織の腫脹により筋区画(コンパートメント)の内圧が血圧より高くなり、血流が不足に陥った状態(虚血)をいう。虚血により筋、神経が壊死(部分的な組織の死)に陥いる。コンパートメント症候群は治療が非常に困難であるので、予防と超早期の治療が重要であり、充分に注意する必要がある。特に、前腕での本症の最終状態をVolkmann拘縮という。
● 診断
 本症の診断には5P(pain 痛み、pallor 蒼白、paresthesia 知覚障害、paralysis 運動麻痺、pulselessness 動脈拍動消失)があげられるが、最も重要なものは痛みである。特に前腕、下腿では指(趾)伸展で増強される痛みが最も診断価値が高い。筋内圧の測定も診断に有用である。
●治療
 本症を疑えば、ギプス除去、減張切開を躊躇なく行う。減張切開では一つのコンパートメントだけでなく複数のコンパートメントの減圧を行う。皮切は充分大きくとる。下腿には4区画あるので2つの皮切を行うと処置が早い。

41)近位部圧迫による手足の止血を長時間してはならない。
 止血のために近位部(出血部位から心臓に近い部分)を長時間圧迫すると四肢が虚血性壊死(血流不足による組織の部分的な死)に陥る。
四肢の出血コントロールのためには近位部で圧迫が有用である。転送時のように阻止時間が不明な場合に出血部より近位を縛って止血をしてはならない。壊死にならなくとも腫脹が高度となり、治療が難しくなる。
 外傷性出血に対する救急止血の基本的処置は出血部の圧迫がよい。出血点を正確に圧迫すればいかなる出血もコントロール可能である。出血点が見つからない場合は創にガーゼを詰めて創全体の圧迫でも有用である。四肢の主要動脈が完全に断裂しても、血管は断裂時には収縮し、通常自然止血する。ただし、不全断裂では血管は収縮できないので自然に止血する可能性は低い。その場合でも局所の圧迫を続ければ止血しうる。

42)手指が動いても腱が切断されていることがある。
  腱断裂の診断にはただ動くことを確認するだけでなく、充分な力を発揮できるか、関節可動域が完全であるか、腱のレリーフを触れるかなど慎重な診察が必要である。指は複数の腱により支配されており、1つの腱の機能が消失しても動く。また腱が2つ以上の関節を乗り越えている場合、指伸筋の機能がなくとも手関節を屈曲すれば、指関節は伸展し、手関節を背屈すると指関節は屈曲するトリックモーションにより動きがみられることがある。腱断裂の診断には動きをみることが第一であるが、動けば腱は正常と即断してはならない。

43)アキレス腱断裂は手術しないで治すことが最近は多い。
 アキレス腱断裂は、ジャンプやターンしたときに起こりやすい。過去にはアキレス腱断裂は手術適応とされたが、最近はほとんどが手術なしで治療する。スポーツ復帰には手術が有利であるという理由で、手術をしている施設も多い。しかし、アキレス腱断裂は、もともとアキレス腱の変性が基盤にあるので中年に多い外傷で、トップアスリートには少ない。また、手術しても1ヵ月程度のギプス装着が必要である。手術なしでもリクリエーションレベルでのスポーツには充分復帰が可能であるので、手術に大きなメリットはない。一流のスポーツ選手以外では保存療法が有利と考えられる。
 
■ギプス治療
 最初の2週間は膝下ギプスを最大尖足位(つま先を伸ばした状態)で、次の2週間は約30度尖足位で、最後の2週間は足関節90度とする、計6週間のギプス治療を行う。その間は松葉杖を使用する。ギプスをはずした後は、つま先立ち、ランニング、ジャンプは禁止するが、日常的歩行は許可する。受傷後3ヵ月頃から徐々にスポーツ復帰を許可する。

44)発熱時に安易に解熱剤を使用しない
 解熱薬による解熱は疾患の治癒とは関係なく、むしろ遷延させたり、重篤な副作用を呈する場合がある。また、熱型が不明となり診断を遅らせてしまう欠点がある。
 水痘やインフルエンザのときのアスピリンとライ症候群の関係、インフルエンザ脳症とシクロフェナック(ボルタレン)、メフェナム酸(ポンタール)などのNSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)との関係が指摘されている。
◆特に、次のような熱には、安易に解熱剤を使い、経過を見るだけではいけない。
 1)生後3ヵ月未満の発熱は、それだけで要注意(化膿性髄膜炎・尿路感染症のことがある)。
 2)ぐったりしている、トロトロしている、消耗した顔つきなど全身状態が悪ければ、絶対要警戒。
 3)42℃以上の熱。
 4)先天性心疾患などの基礎疾患のある子供の高熱。
◆対策◆
 現時点では、小児で処方してよい解熱薬はアセトアミノフェン(アルピニ・アンヒバ坐薬、ピリナジン・カロナールなど)とイブプロフェン(ブルフェン)だけである。アセトアミノフェンは10mg/Kg/回以下が目安で、旧2-3回まで(6時間以上の間をあけて)の頓用を原則とする。本剤は副作用の少ない薬であるが、解熱作用もさほど強くない。また、本剤であっても使用量が多くなれば肝障害などの副作用があることを忘れないようにする。
 「熱が高い」というだけでなく、熱が高く、かつ苦痛(頭痛、睡眠障害など)があるときに使用するようにする。苦痛がなければ、使用しないほうがよい。
◆小児の発熱に対する家族への説明事項◆
1)熱は病気と体が闘っている証拠なので熱を悪者にしない。
2)脳障害を起こす病気で熱が高いことがあるが、体温が高いだけでは、脳障害などはほとんど起こさない。
3)機嫌、食欲、経口摂取、周囲への関心などの一般状態が大切で、全身状態がよければ、熱が高くても様子をみていてよい。
4)熱は、薬を1-2回使用したぐらいでは下がらないことが多い。
5)水分は充分にとる。
6)氷枕、冷えピタなどは使用してよいが、本人の気分をよくするためのものである。いやがれば無理にしなくてよい。
7)着衣.室温などに配慮して本人は涼しめの環境におく。
8)自宅にある使ってはいけない解熱剤を与える危険があるので、解熱薬の副作用について、保護者にある程度説明しておく。

45)咳に対しては強力な鎮咳薬を使用しない。
 咳をみたら、風邪と片付けることなく、原因検索を進めるべきである。強力に咳を抑えることが診断の妨げになることがある。また、喀痰の排出が困難になり、かえって症状を悪化させる場合がある。
◆鑑別すべき疾患
急性の咳→重症の呼吸器感染症、気管支喘息、肺梗塞、心不全など
慢性の咳→後鼻漏、咳喘息、気道異物、先天性循環器異常、胃食道逆流など
 咳は生理的なものであるが、睡眠が妨げられたり、体力を消耗するような咳は抑制することが必要となる。乾性の咳は通常止めてよい咳である。
  小児の咳の多くは痰が多い。強力な鎮咳薬の使用は、喀痰排出が妨げられ、長引いたり悪化してしまう。小児では、咳き込むと吐いてしまうことが多い。これは生理的なことなので、吐き気止めは処方しない。
 強力な鎮咳薬として代表的なものにリン酸コデインがあるが、呼吸抑制作用、気管支筋収縮作用、気道分泌を妨げるなどの作用があるので喘息には禁忌である。また、腸管運動抑制による麻痺性イレウスを起こす可能性がある。
 咳中枢に働きかける鎮咳薬である臭化水素酸テキストロメトルファン(メジコン:ヒスタミン遊離作用があることに注意)やヒベンズ酸チペピジン(アスベリン)もリン酸コデインに匹敵する鎮咳薬である。アスベリンやフスタギンは同時に、去痰作用を有する。
◆β刺激薬は、喘息の場合だけではなく、痙攣性の咳など咳き込みが強いときには用いてみてよい。


46)腹痛・嘔吐を急性胃腸炎や周期性嘔吐症と即断してはならない。
 腹痛・嘔吐ではまず重症な疾患と考えておく。緊急にとるべき処置が遅れてしまうからである
小児の腹痛・嘔吐は、頻度から言えば胃腸炎や周期性嘔吐症が多い。しかし、頻度は低くとも急性腹症をまず考えるようにする。
■急性腹症の診断ポイント
・虫垂炎と腸重積などの腸閉塞を見落とさないようにする。腸重積は、腹部腫瘤、血便、不機嫌などの症状がすべてそろわないことも珍しくないし、幼児期にも起きることがある。
・小児の虫垂炎は3歳くらいからは発症するが、圧痛点不定のことが多く、筋性防御がないこともある。
・内ヘルニア、腸軸捻転、腹腔内腫瘍などによる腸閉塞もある。
・腹部エコーやCTが診断に役立つが、外科医にもコンサルトするべきである。
・脳炎・髄膜炎・出血・腫瘍などの中枢神経疾患でも、同様の症状を呈することがある。一般的には重篤感が強く、他の症状を伴うことが多い。
・食物アレルギー、中毒(食物・薬物など)は医療面接で確認する。Schonlein-Henoch紫斑病では紫斑や関節痛の有無を確認するが、初診時には腹痛のみのことも多い。
・その他、下痢の前兆、咳に伴うものなどもある。
◆対策◆
 ・ 来院時に10回以上も吐いていれば、原因はどうであれ、鎮吐薬処方のみで帰宅してもらってはならない。
 ・帰宅してもらう場合にも、次のようなことがあれば、再度救急で来院するように説明する。
  帰宅後も、腹痛が続いたり何度も嘔吐する場合
  経口摂取ができなくなってきた場合
  軽度の下痢や熱以外の症状が出てきた場合
  全身状態が悪いと感じられる場合など 

47)乳幼児のタバコ誤嚥の多くは、胃洗浄不要。
 胃洗浄を必要とするタバコ誤飲は少ない。紙巻タバコ1本のニコチン含有量は16-24mg、ニコチンの致死量は約1mg/kgである。ニコチンの吸収は緩徐であり、またタバコに催吐作用があるため、誤飲で重篤な中毒症状がでることは少ない。
◆注意点と対策◆
・水に溶けたニコチンの吸収は早いので、灰皿内の水や吸殻の入った空き瓶の中の水を飲むと、急性中毒に至る。
・摂取量が1/4本未満なら経過観察とし、症状が出たら来院してもらう。
・摂取量が1/4本以上の場合や量が不明の場合、催吐や胃洗浄を行う。

48)妊娠4週〜15週末の妊婦に催奇形性のある薬剤投与は禁忌。
 先天異常の原因の多くは原因不明であり、薬剤などの母体の環境的要因はわずかとされている。しかし、妊娠中に不用意な投薬はすべきでない。特に、妊娠初期は胎児の器官形成期であり、胎児に奇形発生の危険性があるので、薬剤の使用は注意する。
■妊娠の時期と薬剤の影響
1)妊娠3週末まで
 受精後2週間以内では薬剤の影響により流産するか、もしくは全く正常かのどちらかである。この時期に妊娠に気づかずに服薬した妊婦から相談を受けた場合、正常妊娠が継続していれば、心配ないと説明する。ただし、残留性の薬剤(風疹などの生ワクチンなど)には注意する。
2)妊娠4週から7週末まで
 重要臓器の器官形成期のため、投薬には特に注意を要する。催奇形性のある薬剤は投与してはならない。
3)妊娠8週から15週末まで
 主な器官形成は終了しているが、性器の分化など一部が終了していない時期のため、催奇形性のある薬剤の投与は避ける。
4)妊娠16週以降
 薬剤による奇形発生は起こらない時期であるが、奇形以外にも児への影響がある薬剤については使用を避ける。
表1 催奇形性に注意が必要な薬剤
【皮膚病治療薬】
エトレチナート(チガソン)
【抗てんかん薬※】 
フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、カルバマゼピン(テグレトール)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)、プリミドン(マイソリン)
 ※注意:
妊娠中に抗てんかん薬を中断し、てんかん発作を起こして母子ともに危険な状況に陥ることがある。薬剤の継続・妊娠の継続については、主治医と十分相談することが必要。
【抗うつ薬】
 塩酸イミプラミン(トフラニール〉、塩酸クロミプラミン(アナフラニール)
【睡眠薬・抗不安薬】
 フェノバルビタール(フェノバール)、ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)
【抗鬱薬】
 炭酸リチウム(リーマス)
【ビタミンA・レチノイド】
 パルミチン酸レチノール(チョコラA)
【抗生物質】
 アミノグリコシド系薬(硫酸ストレプトマイシン、カザマイシン)
 テトラサイクリン系薬(ミノマイシン)
【抗血栓薬】
 ワルファリンカリウム(ワーファリン)
【痛風・高尿酸血症治療薬】
 コルヒチン(コルヒチン)
【高脂血症治療薬】
 HMG-CoA還元酵素障害薬(メバロチン、リピトール)
【降圧剤】
 ACE阻害薬(カプトリル-R、レニベース)
【非ステロイド抗炎症薬】
 サリチル酸製剤(アスピリン、バファリン)など

49)妊娠後期に非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)の連用は禁忌である。
 胎児の動脈管が閉鎖し、子宮内胎児死亡の可能性がある。
非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)はプロスタグランジン合成を阻害するため、NSAIDsの連用により、胎児の動脈管が閉鎖し、子宮内胎児死亡の可能性がある。妊娠中のNSAIDsとしては、アセトアミノフェンを最初に用いることが多い。切迫早産の治療にNSAIDsを用いて効果があったとの報告もみられるが、安全性が確立されているとはいえない。

参考:これだけは知っておきたい医療禁忌 三宅祥三監修、長田 薫編集
 - 診察、投薬、処置時の禁忌事項との根拠と対策 - 羊土社