【一般内科向けの泌尿器科のミニ知識(3)】 
公開日2008.01.10 更新日2008.01.10  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す  
このホームページの記事はあくまでも参考に留め、治療方針は診療医師と相談して決めてください。
内容の難易度のレベルは、一般内科医、研修医レベルです。医師以外にはかなり高度な内容です。
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 「泌尿器科疾患の内科医のためのQ&A(三宅祥三監修、長田 薫編集 羊土社3,360円)」で取り上げられた題材です。参考になりそうなものを、簡単にまとめました。解説した項目は参考書の極一部です。興味のある方は購読してください。薬品名は、できるだけ一般名ではなく、代表的な商品名を使いました。 簡潔な表現にしましたので、断定的な言い回しとなっています。あくまでもそういった見解があるとして、読んでください。

1)何歳まで夜尿症(おねしょ)が続けば異常か
 5歳の20%弱に夜尿症がみられる。何歳までが異常ということはない。多くは覚醒障害で、成人型の単相性睡眠になるにつれて夜尿症は減少する。泌尿器科を受診したほうがよい夜尿症はまれである。

2)男性は高齢になるとすべて前立腺肥大になるか
 顕微鏡的なごく小さな前立腺肥大症結節も含めると、70歳代の約80%に認める。また、超音波検査による集団検診では21%に肥大症が確認されるが、そのうち臨床的な症状を有するものは全体の7%で、高齢になっても80-90%に男性は臨床的に問題ない。 

3)人間ドックで前立腺肥大症を指摘されたが、精査や治療が必要か
 超音波検査で前立腺肥大症を指摘されても、残尿を認めず、自覚症状も日常生活に支障がない程度ならば、精査や治療の必要はない。
4)残尿はどの程度あると問題となるか
 通常50ml以上あると問題。残尿量の簡単な計測方法として、排尿直後の経腹的エコーにより膀胱の上下径、左右径、前後径を測定し、π/6×上下径×左右径×前後径から計算する。複数回測定しておおよその残尿量の目安とする。


5)急性尿閉を含む排尿障害を起こす内服薬は
 薬剤による排尿障害は排尿筋収縮抑制あるいは尿道構成筋収縮によって生じる。健全なひとでは、これらの薬物でも尿閉を起こさない。薬剤性尿閉患者の大部分は、前立腺肥大症をもつ60歳以上の男性である。本人が気が付かない程度の軽い下部尿道閉塞疾患をもっていることが多い。薬物以外に急性尿閉を起こしやすいものに飲酒がある。
 排尿筋収縮抑制を起こす代表的な薬物としては、感冒治療薬やアレルギー治療に用いられる抗ヒスタミン薬がある。他には、消化器の検査時に用いられる鎮痙薬、三環系抗うつ薬、抗パーキンソン病薬には強い抗ムスカリン作用があるために尿閉を招くことがある。
 症状発現までの期間は内服薬では、鎮咳、感冒薬や抗コリン薬で7日未満、トランキライザーや抗うつ薬では7日以上のことが多い。

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●尿閉を起こす薬物 
 ・抗ヒスタミン薬(感冒治療薬や抗アレルギー薬) 
 ・消化器の検査時に用いられる鎮痙薬三環系抗うつ薬抗パーキンソン病薬 
 ・交感神経β2受容体刺激薬(喘息治療薬) 
 ・ 交感神経α受容体刺激薬 
 ・多くの感冒治療薬に含まれているエフェドリン系薬物
 ・エフェドリン類似薬である麻黄を含む葛根湯小青竜湯などの漢方薬 
 ・喘息治療薬である塩酸グレンブテロール
    排尿筋弛緩作用に加えて尿道括約筋収縮作用を有している。
 ・三環系抗うつ薬
    交感神経α受容体刺激による尿道平滑筋収縮作用があり。
●尿閉を起こす薬物(商品名)
  感冒薬 :      PL穎粒、ダン・リッチ、エフェドリン、メチエフ
  鎮咳・去痰 :    ネオアスシロップ、コフミン、アスゲン
  気管支拡張薬:   スピロペント、アストモリジン-D、-M、アストフィリン、テルシガン
  気管支喘息治療薬: アゼプチン
   漢方薬 :     葛根湯、小青竜湯
抗ヒスタミン薬:マレイン酸クロルフェラミン、アレルギン、クロール/トリメトン、ネオレスタミン、ポララミン、ホモクロミン、アゼプチン、アレジオン
抗パーキンソン薬:マドパー、ネオドパストン、ドパール、ペルマックス、カバサール、アーテン、トリモール、アキネトン、エフピー、シンメトレル
鎮痙薬:セスデン、コリオパン、ブスコパン、タイピン、プロパンサイン、ファイナリン、パドリン、ハンプロール、チアトン
三環系抗うつ薬 トリプタノール、アモキサン、トフラニール、アナフラニール、バルネチール、スモンチール
交感神経α受容体刺激薬 エホチール、エフェドリン、リズミック
塩酸クレンブテロール スピロペント 

6)薬剤性の排尿障害が発生したときの対処法
 薬剤の服用を中止することが大原則。薬剤の服用を中止しても症状が継続する場合、あるいは治療上、薬剤の投与が必要な場合には、排尿障害に対しては、α-アドレナリン遮断薬および副交感神経刺激薬の内服、間欠導尿で対処する。蓄尿障害に対しては、抗コリン薬、三環系抗うつ薬、β-アドレナリン刺激薬などを投与する。

7)高齢者の夜間頻尿の原因は何か
 高齢者の夜間頻尿の原因は、1)睡眠障害、2)過活動膀胱、3)夜間多尿による場合がある。
3)の夜間多尿による頻尿が起こる原因は、1)一日の排尿量が多い場合、2)一日の尿量は普通であり、夜間のみ尿量が増加する場合、3)膀胱容量の減少により、昼夜とも排尿回数が増加する場合がある。
  一日の排尿量の増加には、過剰な水分摂取、糖尿病、尿崩症などのほかに、薬剤の副作用によって起こることがある。夜間尿量の増加は、循環器機能不全、腎機能障害(腎不全)、前立腺肥大症などで生じる。膀胱容量の減少は、脳卒中後などの排尿筋過活動や膀胱炎などの膀胱知覚の亢進が原因となっている。

 高齢者では、 腎臓と循環における加齢的な機能低下が、夜間多尿の原因となっていることが多い。就寝のために立位から臥位に姿勢を変換すると、日中の立位姿勢によって下半身に貯留していた体液が腎に容易に環流できるようになり、この結果、夜間の尿量が増加して排尿回数が増加する。

8)高齢者の夜間頻尿の対処法
  対処法としては、利尿薬の投薬を朝食後にする、2)午後の水分摂取を制限する、3)下肢に対する圧迫帯の使用、3)下肢を挙上した姿勢で、昼寝を勧めるなど。 降圧利尿薬などの薬物が、夜間多尿の原因となっていることがある。
  対症的治療としてベシケア、バップフォー、ポラキスなどの抗コリン薬、三環系抗うつ薬などの排尿筋弛緩薬などを使う。
 眠りのパターンが悪いこと(不眠)から生じる夜間頻尿には、デパス、ハルシオン、リーゼなどの短時間型のベンゾジアゼピン系催眠・鎮静・抗不安薬を使いる。治療にもかかわらず夜間頻尿が続き、遺尿を合併する患者には、腎機能や電解質などに注意を払ったうえで、酢酸デスモプレシン点鼻療法(抗利尿ホルモン)も考慮することがある。

9)排尿障害の患者さんには、PSA測定が不可欠か
 必ずしも必要ではない。しかし、55歳以上の患者さんで前立腺肥大症が疑われる場合には、一度はPSAの測定することを勧める。 

10)α遮断薬の効果判定には、どれくらいの期間が必要か
 前立腺肥大の代表的な治療薬であるα遮断薬の効果判定には、自覚症状、他覚症状ともに3ヵ月を一応の目安とする。 

11)生検で悪性所見がない場合のPSA高値の取り扱い
  前立腺特異抗原PSAが高値の場合、泌尿器科での生検が勧められる。生検で悪性所見は検出されなかった場合はどうしたらよいか。
再生検で悪性所見が検出されなくても、PSA値の変化を参考にして再々生検までは勧める。
 PSA値が20ng/ml以上の場合は3ヵ月以内を目安に、10-20ng/mlの場合は6ヵ月以内を目安に、4-10ng/mlの場合は1年以内を目安に再生検を勧める。その理由は、以下の通りである。
 前立腺癌との確定診断は前立腺針生検によりなされるが、生検の偽陰性率は20-30%である。直腸側から6分割6ヵ所の針生検が一般的である。癌病巣が小さい、または前立腺が大きい場合などでは生検針内に病変組織が採取されにくい。そのため、6ヵ所生検では不十分になりやすい。再生検の場合、通常6ヵ所以上の生検がされる。
 また、日本のある地域の55歳以上男性を対象とした前立腺癌検診データによると、初診時PSA値が20ng/ml以上の場合の累積癌発見率は約80%、10-20ng/mlの場合は約40%、4-10ng/mlの場合は約20%である。

12)尿道ステント留置の適応は
 前立腺肥大症のために尿閉を繰り返すが、認知症のために自己抜去を繰り返す患者は、膀胱留置カテーテルが使えない。手術もできない場合は、尿道ステント留置が候補になる。尿道ステントは、局所麻酔下にて挿入が可能なものがある。ただし、ステント挿入後の患者の訪問診療では、尿路感染を確認するために尿検査と、定期的な泌尿器科受診を必要とする。もし、尿閉が出現した場合は、ステントが膀胱に落ち込んでいることがあるので、超音波で確認する。

13)前立腺肥大症患者の夜間頻尿に対して、抗コリン薬を使用してよいか
 残尿が増加して機能的膀胱容量が減少しているために頻尿になっていることがある。エコーで残尿が多くないことを確認してから抗コリン薬を使用したほうがよい。また排尿記録をつけてもらい、夜間多尿による夜間頻尿ではないか確認しておく必要もある。

14)排尿後パンツを上げてから漏れる男性の対応策
 男性で排尿後パンツを上げてから漏れるという方は多い。下着を上げてからの漏れは、尿道に残った尿が流れ出てくるためである。改善の方法として排尿後、数秒待ち、完全に膀胱の尿を尿道に出すようにしてから、指で会陰部を優しく圧迫する。その後、会陰部を前方に圧迫し尿道に残っている尿を押し出すことを数回した後、通常通りペニスを振ると防ぐことができる。日頃より骨盤底訓練を行い、排尿後絞りだすように行うことも有効といわれている。

15)尿道カテーテルがうまく入らないときどうすればよいか
 成人男性の場合は、14-16Frのカテーテルを用いるのがよい。まず患者さんを仰臥位とする。次に、下着を膝下まで下げてもらい膝を軽く立てた開脚の姿勢とする。術者は患者の右側に立ち、患者の亀頭部を十分露出し左手の第1指と第2指で亀頭を軽くはさむように持ち上げ亀頭部を消毒する。
  その後は、陰茎を垂直方向にまっすぐ伸ばすようにして尿道が直線状になるようにする。右手に持った鉗子で滑剤を十分つけたカテーテルを挿入していく。尿道狭窄がなければカテーテルはスムースに入り、約20cmほど入ると模様部尿道に達し、軽い抵抗を感じる。
  陰茎を左手で引き上げるようにしてゆっくりカテーテルを進めると容易に模様部尿道を通過し、外括約筋を越えると抵抗が減弱する。そのままさらにカテーテルを進めるとカテーテルは容易に膀胱内に達し、尿が流出してくる。
  カテーテル留置の場合は、カテーテルの根元まで十分挿入して尿の流出を確認後、もし尿が流出しない場合は膀胱洗浄をして注排水がスムーズに行えることを確認してからバルーンを膨らませると、尿道内でバルーンを膨らませる危険性が少なく安全である。心配な場合は、経腹的エコーにより膀胱内にバルーンがあることを確認すればさらに安全である。
  カテーテルがうまく入らないのは、多くの場合患者さんが緊張して模様部尿道を通過できないためである。そのため患者さんをリラックスさせて尿道括約筋の緊張をとることが大切である。
 患者さんが過度の緊張でリラックスできない場合には、別の手段を用いるとよい。10-20mlの注射器内にキシロカインゼリを10-15mlほど詰めておき亀頭部を消毒後、外尿道口からキシロカインゼリーを詰めておいた注射器を少し差し込んでキシロカインゼリーを尿道内に注入する。このあとは先に述べたのと同じ操作をする。 

16)女性の尿失禁の頻度はどれくらい
 経産婦の半分弱、未経産婦で約15%に尿失禁を認める。しかし、羞恥心から正確な頻度を把握することは難しい。問診では、「急にトイレに駆け込むことがあるか」とか、「風邪のときパッドが必要なことがあるか」など柔らかく間接的に聞くのも一つの方法である。

17)女性の排尿障害は、泌尿器科と産婦人科とどちらへ紹介するか
 女性の頻尿や尿もれなどの大多数では、膀胱や尿道を骨盤底に固定する構造が力負けする「骨盤底弛緩」や子宮の増大する婦人科疾患、エストロゲン欠乏による膣周りの萎縮などが問題になる。排尿の不具合のある女性は一度婦人科的な評価を受けることが望ましい。
  婦人科的にとくに問題のない女性は、泌尿器科医を受診するとよい。

18)女性の尿漏れ対策は
 54歳女性、咳や重いものを持ち上げたときなどに尿が漏れる。夜間は漏れなし。このような女性のように昼間、腹圧負荷時のみ尿が漏れる典型的な腹圧性尿失禁の場合、軽症なら骨盤底筋群訓練や電気刺激療法、磁気刺激療法などが有効である。高度の尿失禁なら膀胱頸部吊り上げ術やTWTスリング法、筋膜スリング法などの手術適応がある。

19)膀胱炎を繰り返す患者は、抗生剤で様子をみてよいか
 抗生剤で難治性やすぐに再発する膀胱炎の中には、膀胱腫瘍や間質性膀胱炎が原因になっていることがある。これらは専門医に紹介した方がよい。

20)無症状の患者の尿からMRSA(多剤耐性ブドウ球菌)や緑膿菌が検出された場合、どう対処すればよいか
  耐性菌の出現は抗生剤の頻用が原因になっている。MRSA、緑膿菌に対してむやにみバンコマイシン、アルベカシン、デイコプラニン、ゲンタマイシンなどを使用することは、耐性菌の出現を促進する可能性が高い。基本的には尿から検出されるMRSA、緑膿菌で症状がなければこれらに対して抗生物質は使用しない。隔離も必要もない。ほかの人に感染しないように手指の消毒を、患者本人や医療従事者が徹底することが大切である。
  急性腎孟腎炎の起炎菌がMRSA、緑膿菌である場合は、逆に十分に上記の抗生物質を使用する必要がある。

21)褥瘡がひどい患者に、一時的に尿道カテーテルを入れることの是非
 尿失禁による皮膚の汚染が仙骨部の褥瘡や外陰部皮膚炎を悪化させていれば、一時的な尿道カテーテル留置は選択肢になる。しかし、尿失禁だけで長期留置することは原則的に避けたい。尿道カテーテルを使う前に、2ないし4週間で抜去すると期間を区切り、それ以上たったら、コンドーム型尿集具、尿とりパッドの活用など、尿が褥瘡側へ流れない別の手だてを考えた方がよい。 

22)症状や発熱がなくても尿道バルーンカテーテル留置中の患者の尿路感染は、治療する必要があるか
 バルーンカテーテルを留置していると膿尿や細菌尿は必発である。通常は尿路感染に伴う症状は出現しないので抗菌薬の投与はしない。しかし、寝たきり状態の患者さんでは膀胱結石が形成されることがあるので、年に一度はレントゲンか超音波検査で確認することをお勧めする。

23)膀胱カテーテル留置患者で、ときどき採尿バッグが紫色に染まったり、3-4日で閉塞する原因と対策
 患者さんによっては留置カテーテルが短期間で閉塞したり、ときどき採尿バッグが紫色に染まったりする場合がある。その要因としては、膀胱粘膜の剥離や出血、リン酸塩付着による管腔の閉塞がある。肉眼的血尿がみられる場合には2-3日の抗菌薬投与で改善することが多い。何度も繰り返すときには膀胱結石や膀胱癌の発生にも注意が必要である。
  膀胱洗浄は閉塞の確認を目的に行いる。洗浄液に抗生剤を入れる必要はない。
  塩分の析出によって閉塞を起こす場合には、カテーテルのサイズを太くして水分の摂取を促する。それでも短期で閉塞する場合には、シリコン製や親水性潤滑剤コーティングのカテーテル、銀コーティングカテーテルなどに換える。
  尿中に排泄される色素によりカテーテルの着色がみられることがあるが、赤く染まる血尿や血色素尿、褐色に染まる黄疸尿以外は、あまり病的な意味はない。

24)長期留置カテーテルが詰まりやすいことの対策
 カテーテルを長期間留置している患者では、尿の細菌感染を防ぐことはできない。カテーテルやランニングチューブの屈曲や捻れ、尿析出物によるカテーテル内腔の閉塞などによって尿の停滞を生じると、膀胱内で細菌が繁殖しやすい。
 カテーテルの内腔が詰まる原因の多くは、変形菌などの尿素分解菌によって尿素が分解されてリン酸マグネシウム・アンモニウム結石を形成するためである。砂状物質がカテーテル内腔を閉塞する。またバルーン表面に付着して卵殻結石(egg-shellstone)を形成する。尿素分解菌尿では、尿のpHが中性-アルカリ性を示する。
  対策法として、
●カテーテルクランプの禁止(細菌繁殖防止のために、尿を停滞させないカテーテル管理の指導)
● 十分に水分摂取、2,000ml前後の一日排尿量を確保する。
● ビタミンC(原末3-5g)やクランベリージュースの飲用を勧め、尿のpHの酸性化を図る。
● 必要なら滅菌水または生食水で膀胱洗浄後に、クエン酸を含む結石溶解液を膀胱に注入する。
● 止む得ないときは滅菌水、生食水、あるいはソリューションG液を用いて3wayカテーテルで持続膀洗を行う。
● 尿培養で変形菌属が分離され、有症候性感染を起こしたときは、耐性菌を作り難い抗菌薬の投薬や尿の酸性化をはかる。
ことなどの対策を立てる。
●カテーテル内腔の詰まりが繰り返し起こると、18Fr以上の太いカテーテルが留置されることがあるが、絶対に避ける。
 尿道がカテーテルにより過伸展され、尿道粘膜一筋層の血流が阻止され、尿道狭窄、尿道皮膚瘻、尿道憩室などを起こす。留置カテーテルは原則として16Fr以下の柔らかいカテーテルを使用する。

25)長期留置による男性の陰茎根部の痩孔の予防対策
 男性の場合、尿道カテーテル長期留置により、陰茎根部に痩孔が生じやすい。痩孔の予防のために、カテーテルの固定は陰茎ごと頭方向へ向け、腹壁に固定する。その固定方向も日々違う方向に変える。陰部を清潔にしておくことも重要である。

26)バルーンカテーテル抜去のタイミングと注意点
 バルーンカテーテル抜去後に、トイレ動作がとれることを確認してから抜く。また、尿排出障害(残尿)対策として、排尿後の導尿(残尿測定)ができる環境を整えて抜く。

27)膀胱訓練(尿意が出現するまでバルーンカテーテルをクランプすることを数回-数日繰り返す)が必要か
 「膀胱訓練」とは、頻尿や尿失禁の患者さんに2-3時間程度排尿を我慢するトレーニングを行う行動療法のことである。バルーンカテーテルをクランプは、リハビリテーションとしての意義はなく、「膀胱訓練」という言葉は使わない方がよい。また、長時間カテーテルをクランプすることは尿路感染予防の観点からも好ましくない。
  留置カテーテルの抜去を試みる際には、いったん膀胱を空にし、尿意が出現する容量まで直接温生食を注入してカテーテルを抜去、自排尿を促して実際の排尿量を測定することを勧める(注入量 - 排尿量 =  残尿量)。

28)長期バルーン抜去後の患者が自排尿できない場合、どうしたらよいか
 長期のバルーンカテーテル留置により、膀胱の収縮機能が低下した可能性がある。尿意があるのに自排尿できない場合は、しばらく導尿で様子をみてよい。しかし、尿意もない場合は、再度バルーンカテーテルを留置し、膀胱訓練にて蓄尿の練習をする。尿意が出現してからバルーンを抜去してみた方がよい。また、再度カテーテルを留置した場合は膀胱を収縮させる薬や、排尿時に尿道を拡げる薬を内服させておいた方がよいこともある。

29)尿道留置カテーテルを自己抜去対策
 認知症の高齢者では、尿道留置カテーテルの自己抜去がしばしば問題となる。以下の工夫を参考にする。
 ●カテーテルをズボンのウエストの方から出さずにズボンの足の方から出す。
 ●自己抜去してもあまり尿道に障害を及ぼさないようにバルーンを小さめにしておく。
 ●尿道留置カテーテルの抜去が可能か泌尿器に再検討してもらう。
 ●長期留置はできるだけ避ける。
 ●尿道損傷を生じないようにカテーテルの固定法に十分注意する。

30)膀胱瘻の長所と短所
 膀胱留置カテーテルを長期挿入するよりは、膀胱瘻の方がよいとされている。長期間カテーテルを留置する必要がある場合は、経尿道的あるいは経恥骨的に留置する。
 【経尿道的留置法の欠点】
● 膀胱三角部にバルーンの部分が接触し、刺激を受けるため膀胱テネスムスが出現しやすい。
● 長期に渡って、不注意にカテーテルを牽引したために膀胱頸部-中枢側尿道を損傷して膿瘍を形成し、菌血症に進展する怖れがある。
● 長期の尿道圧迫と炎症が原因となった尿道狭窄がおこることがある。
● 生理的尿道屈曲部に対するカテーテル圧迫による尿道皮膚瘻がおこることがある。
● 尿道口からの上行性感染による精巣上体炎をがおこすことがある。
● カテーテル交換時の不快感や疼痛が出現することがある。
● 膀胱痩にくらベカテーテル挿入操作が難しい。
 【恥骨上膀胱痩の欠点】
● カテーテルを留置する膀胱ドレナージ法では、2-3週ごとにカテーテルの交換が必要で、交換のたびに来院しなければならない。
 【非カテーテル留置型膀胱痩造設】
カテーテル挿入による合併症や尿路感染も考慮に入れて、患者の病状を考慮したうえで非カテーテル留置型膀胱痩造設(Lapides型vesicostomy)の選択も検討する。 

参考:泌尿器科疾患の内科医のためのQ&A(三宅祥三監修、長田 薫編集 羊土社3,360円)