■インフルエンザ脳症の簡単な解説■
注意: ここの解説は2005年11月に一部改訂されました。

公開日2003.12.10 更新日2006.01.18 TOPへ  インフルエンザとワクチンの解説へ  メニューを隠す

参考
●1)厚生労働省インフルエンザ脳炎・脳症研究班編集の『「インフルエンザ脳症」の手引き』
 大部分をhttp://ha7.seikyou.ne.jp/home/KandN/tebiki.htm(2003.11.5 )から引用した。
 ただし、2005.11月に インフルエンザ脳症のガイドラインが発表された
●2)今日の診療Vol.13 CD-ROM (C)2003 IGAKU-SHOIN Tokyo
●3)インフルエンザ脳炎・脳症:森島恒雄、総合臨床2005年2月号 特集インフルエンザ・ワクチン 永井書店 2005.03.08追加
(1)インフルエンザ脳炎・脳症とは
 典型的なインフルエンザ脳症では、インフルエンザになった乳幼児が、突然痙攣をおこし、意識障害が急速に進行し死に至る。インフルエンザ脳症は1990年代にその存在が認識された。とくに1998年A香港型の大流行時には100人以上の意識障害を伴う小児死亡があったと推定されている。
  インフルエンザ脳症患者の髄液や死亡後の脳組織からはインフルエンザウイルスは検出されない。急激な経過から考えてもウイルスが脳内に進入して、増殖し、直接脳障害を起こしているとは考え難いとされている。遺伝的素因の関与を示す所見もある。
毎年数百人が発病し、適切な治療が行われない場合には死亡率は30%、後遺症が25%にみられる。 
 脳炎は主にウイルスが直接、脳に入って増殖し、炎症を起こす。神経細胞がウイルスによって直接破壊される。一方、脳症は脳の中にウイルスも炎症細胞も見あたらないが、それでも脳が腫れて、頭の中の圧力が上昇する。このために脳全体の機能低下が起こり、意識障害を起こす。
(2)インフルエンザ脳炎・脳症の特徴・疫学
●1年に100〜300人のこどもがインフルエンザ脳症にかかる。
●インフルエンザの流行規模が大きいほど多発する。特にA香港型の流行時に多い。
●おもに6歳以下の子供。1歳をピークとして、乳幼期にもっとも多い。5歳以下が80%。熱性痙攣の既往がある児に多い。
●発熱から、数時間〜1日と神経症状がでるまでの期間が短い。
●おもにけいれん・意味不明な言動・急速に進行する意識障害が症状の中心である。
●死亡率は約30%である。生存者の多くに重い後遺症を残る。
●我が国で多発し、欧米での報告は非常に少ない。
●男女間の差はない。

平成10年厚生労働省人口動態統計より人口10万人における1〜4歳の死亡原因
第1位 不慮の事故
9.3人
  第5位 心疾患
1.8人
第2位 先天性奇形など 
5.4人
  第6位 インフルエンザ
0.9人
第3位 悪性新生物 
2.6人
  第7位 他殺 
0.8人
第4位 肺炎 
2.4人
  第8位 乳幼児突然死症候群 
0.8人

インフルエンザ脳炎・脳症の統計

 1998-99年以降インフルエンザ脳炎・脳症の患者数に関して、全国調査が行われている。その大部分が脳症の患者さんです。これまでの調査結果から、日本では次のような状況にあると推定される。

【厚生労働省・インフルエンザ脳症研究班二次調査】 *調査方法が変わったので、数が増えた。
 
97/98年
98/99年
99/00年
00/01年
01/02年*
インフルエンザ脳炎・脳症の患者数
不明
202人
91人
63人
227人
脳炎・脳症による死亡者数
推定約100人
61人
27人
9人
33人
死亡率
不明
31%
30%
14%
15%

 

(3)インフルエンザ脳症の症状

 発症は急激であり、80%は発熱から数時間から1日以内に神経症状がみられる。
よく見られる症状は、●けいれん、●意識障害、●異常行動などです。

●けいれんは70-80%に見られ、筋肉のこわばりやガクガクとした動きで、1分間程度の短いものから20分以上も長く続くものまで様々である。
回数は1回だけのことも、何回も繰り返すこともある。
●意識障害というのは、簡単にいうと眠ったようになってしまい、呼びかけや痛みで刺激しても眼がさめない様な状態をいう。
軽い意識障害の場合には、何となく、ボーッをしているとか、すぐにウトウトするというような状態のこともある。
●異常行動は、普段と全然違うおかしな言動で、様々なものがある。
よくあるのが、像やライオンなどの幻視・幻覚を中心とした意味不明の言動です。
おかあさんがそばにいるのにおかあさんを探し回るとか、まったく意味不明の言葉をしゃべるとか、理由もなくひどくおびえたりといった言動も時々みられる。
激しい場合には、自分の手を食べ物と勘違いして、かじったりすることもある。
インフルエンザ脳症では、このような症状が熱が上がってからすぐに出現することが多い。
発熱に続いて、けいれん・意識障害・異常行動が起きたときは脳症の始まりの可能性がある。
 ただし、脳症でなくとも高熱そのもののために異常行動を起こすことも子供では珍しくない。
この状態を「熱せんもう」という。異常行動が長く続くときやけいれんを伴うときは要注意。

熱性けいれんとの違い

 日本では、熱性けいれんが6歳以下の小児の5〜8%に起こる。熱性けいれんは高い熱がでるときに誘発されるけいれんです。熱性けいれんは全身けいれんであることが多い。大半は5分以内に自然に止まる。熱性けいれんは良性の病気で、後遺症などの心配はないと考えてください。

(4)重要な検査所見
早期診断として、AST,CK,Crの上昇、Hb、血小板の低下、PT延長、NH3の上昇(10%)、血尿・タンパク尿など。太肉文字は比較的早期に異常を示す。頭部CT検査では、全般的な脳浮腫を示す型、急性破壊性脳症を示す型、出血を伴う型、痙攣重責後に脳萎縮を示す型などが報告されている。脳浮腫や急性破壊性脳症を示す場合は致命率が高い。初期に脳CT検査が正常であっても数時間後に進行する脳浮腫のために、脳ヘルニアを起こし死亡することもある。
(5)脳症の治療

 2001年まで、特別な治療薬はなく、点滴や呼吸管理などの一般療法中心であった。抗インフルエンザウイルス薬は通常のインフルエンザによる発熱期間を短くする効果はあるが、脳症への治療効果は報告されていない。2002年脳症がサイトカインの関与が大きいことが判明し、sくろすぽりん療法を加えた治療試案改訂版が配布された。脳症の死亡率が30%から15%(2003/2004年は10%)に低下したことは、この治療案が普及したためではないかと考えられる。しかし、治療案の最終的な評価は定まっていない(主に総合臨床2005年2月号より:2005.1月発行)

発熱に対する手当

 発熱は感染症に対する生体の免疫反応の一部であり、必ずしも解熱させなければならないものではない。
40度をこえる発熱でなければ、一般的には害はないと考えてよいでしょう。
昔から行われてきたように、発熱の上がり際で寒気がある場合は少し暖め、高熱の場合は冷やしてあげる。
氷枕や氷嚢は乾いたタオルで包んで、頭、首、脇の下、足の付け根などを直接冷やす。
 39度以上の発熱があって、元気がなく、ぐったりしているようであれば、解熱剤を使用してもよいでしょう。
ただし、解熱剤は発熱を緩和するが、感染症そのものを治す薬ではない。
 この時に重要なことは、小児ではアセトアミノフェン(アンヒバ、カロナールなど)以外の解熱剤は、脳症やライ症候群など重篤な病気になりやすくするので、つかわないこと。解熱剤の薬の種類には十分注意する。

(6)ワクチンの効果

 小児へのワクチンの有効性に関しては、まだ結論がでていません。
川崎市立川崎病院院長 武内可尚先生は,ワクチン接種例では死亡したり,脳炎・脳症,その他重篤な病態に陥った例は皆無であると言っている。接種回数に関しては、2000年7月31日に65歳以上の高齢者では接種回数が2回から1回になったが,小学生までの小児は4週間隔で2回接種が原則です。