公開日2006.9.08 更新日 2006.09.12 HOMEへ メニューを隠す
高コレステロール血症の薬物療法の治療効率を考える  
一次予防(心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症など動脈硬化性疾患がないひとが対象)
ここに提示した資料は、学会にも発表していないオリジナルの資料です。

 製薬メーカーがスタチンと呼ばれる血清コレステロール低下薬の有用性を強調する一方で、薬とは利害関係のない大学や研究施設で、高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症は心筋梗塞の発症と関係なかったとの発表が相次ぐ。どちらが本当なのか、なぜ違う結果が出るのか。
  最近の信用できる発表はすべて、日本人における高LDLコレステロール血症の役割は小さいというものばかりである。診療の第一線では、一人一人のリスクにあった高脂血症の治療方針が必要であるが、現行のガイドラインは信頼できず、個別の患者のリスク評価ができずに困っている。
 この答えを求めて、Framingham heart studyの『冠動脈10年リスク評価ツール』で、種々の状態の患者の高コレステロール血症治療効率の検討した。『LDLコレステロール低下療法の治療効率』の評価には、NNT(5年間に一人の発症を減らすのに必要な治療患者数 Number needed to treat)という一般的な指標を用いた。
 解析の 結果、「薬剤によるLDLコレステロール低下療法は心筋梗塞が4倍も多い欧米では大変有用だが、日本では非常に治療効率が低く、薬剤使用はハイリスク患者に限るべきである」と結論にたどり着いた。
  この結果から日本の高脂血症治療ガイドライン(正式名称:動脈硬化診療ガイドライン)を検証すると、著しく過剰な薬物療法を誘導する内容となっている。このガイドラインは、低リスクの人を『高脂血症』という病人に仕立てて、著しく治療効果が低い薬物療法を蔓延させる弊害を生み出しているといわざるを得ない。

- Framingham Heart Studyを基にした米国高脂血症治療ガイドライン(ATPIII)発表の冠動脈疾患10年リスク評価(機能拡張版)ツールによる高脂血症治療効率の解析研究 -
 このツールは医学的に信頼度の高い米国ボストンの近くにあるフラミンガム地域住民における長年の調査資料から作成されている。ただし、オリジナルツールでは糖尿病合併患者は扱っていないので、糖尿病合併時の日本人の冠動脈疾患増加率を掛けて、糖尿病合併でも扱えるようにした。
- 日本人での脂質介入試験1(J-LIT-1)を基にした冠動脈疾患リスク評価(J-LITチャート1)による高脂血症治療効率の解析研究 -
 J-LIT試験は2001年発表、5万人×5年間という規模を誇るが、全員がリポバスというコレステロール低下薬を内服している。また、家族性高脂血症という高頻度に心筋梗塞となりやすい遺伝性の病気の割合がかなり高いので、解釈には注意が必要である。
 J-LIT試験は2005年11月MEGA studyの発表があるまでは、日本人を対象とした唯一の大規模研究である。残念ながら、MEGA studyはJ-LIT試験よりも規模が小さく、また個々の対象者の冠動脈リスク評価方法は発表していない。