高脂血症治療効率(NNT)一覧表の説明
一次予防(心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症など動脈硬化性疾患がないひとが対象)  
公開日2006.09.08 更新日 2006.09.12 HOMEへ メニューを隠す
米国高脂血症診療ガイドライン(ATPIII)の『冠動脈10年リスク評価ツール(機能拡張版)』を用いた解析
LDLコレステロール低下療法による冠動脈疾患の予防効果の検討
■目的 
 今回の研究は、LDLコレステロール低下療法による冠動脈疾患の予防効率を冠動脈疾患の発症率から、治療効率(NNT)を算出することにより推定する試みである。 ただし、間接的な推定なので注意してほしい。

■LDLコレステロール低下療法の治療効率の評価方法について■
 
複数のリスク因子を抱えた個々の対象者の冠動脈疾患(ここでは心筋梗塞と心臓死の重症冠動脈疾患が対象となる)の発症率を、この種の研究では最高の信頼度である米国Framingham heart studyの資料から作成された冠動脈10年リスク評価ツールを使って、治療効率の指標となるNNT(Number Needed to Treat)を算出した。
  冠動脈10年リスク評価ツールは、『人種が違ってもリスク因子の違いによる相対的な危険率は似ているため、係数を掛けることにより、日本人のNNTも推測できる』と考えられる。
 治療効率の判定基準である「NNT(人/5年)の値がいくらまでを効果的な治療」とするかは決まりがないが、今までの薬物療法の報告を参考にすると有益とした報告では50(人/5年)以下が多い。高脂血症治療が心筋梗塞だけでなく、狭心症、無症状の冠動脈狭窄、一部では脳梗塞を予防することを考慮すれば、100(人/5年)以下なら、薬物療法を考慮してもよいと考える。逆に200(人/5年)以上は推定誤差があるとしても、薬物による治療は副作用と治療コストを考えるととても推奨できないと考える。 100〜200(人/5年)はここで取り上げられた以外のリスク因子がない限り薬物療法は勧められないと考える。

■米国人と日本人の冠動脈疾患発症率の差■
 間近の報告では日本人の心筋梗塞発症頻度は、米国の1/4と報告されている。調査の仕方にもよるので、それよりもやや多い米国人の1/3として日本人の冠動脈疾患発症リスクを評価した。リスク計算値が大きくなるように設定したのは、発症リスクを過小評価しないためである。『やや過大に評価したにもかかわらず、高脂血症治療効率は極めて低い』という結果に信憑性を与えるためである。

■糖尿病合併時の治療効率の評価の問題点■
 『冠動脈10年リスク評価ツール』 は本来、糖尿病合併患者には適用されない。糖尿病合併があるというだけで、米国人の場合は10年間での冠動脈疾患リスクが20%以上と言われており、リスク計算の必要がないからである。しかし、日本人では冠動脈疾患発症率が米国の1/4くらいになるので、糖尿病が合併するというだけでは冠動脈疾患のハイリスク患者にはならない。そのために、日本人では糖尿病患者の冠動脈疾患発症リスクも一人一人評価する必要がある。
  ここでは、日本人の調査資料で、もっとも大規模研究である2001年発表のJ-LIT試験の結果である、『糖尿病合併時には、非糖尿病患者に比べて、男性は1.6倍、女性は3倍、心筋梗塞または狭心症が増加する』という数値を採用して、糖尿病患者の冠動脈疾患発症リスクを評価した。

■J-LIT study(高脂血症治療薬を内服中の日本人での5年間の調査)とFramingham heart study(米国ボストンに定住する白人の長期にわたる調査)の対象と調査方法の差■
  前者では全員がスタチンという高脂血症治療薬を内服している、また心筋梗塞だけでなく、診断率にバイアスがかかりやすい狭心症が含まれている。さらに、大きな問題となるのは心筋梗塞の発症率が極めて高い家族性高脂血症の比率が一般住民の割合よりもはるかに多いと考えられる。J-LITはこのような大きな問題点があるので、その資料から作成したJ-LITチャート(心筋梗塞・狭心症の5年間での発症率表)の利用には、特別な注意が必要である。

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