【更年期障害の簡単な解説】 公開日 2003.03.15 更新日 2003.03.15 |
A) 更年期障害とは |
閉経周辺時期(通常,女性の40歳代半ばから50歳代半ばまで)の女性ホルモン(エストロゲン)の急速な低下と加齢による心身の異常により起こる様々な障害を更年期障害と呼びます.診察にあたっては,エストロゲンホルモン欠乏によるものと他の病気によるものを鑑別をすることが大事です.治療においては,環境因子や精神的な要素を配慮し,生活の質を高める全人的なアプローチが重要です.
B) 更年期障害の症状は |
更年期を迎えた女性のうち,何らかの更年期の症状がでるのは75%ぐらいです。更年期になってもほとんど症状のない人が4分の1ぐらいいます.逆に,治療が必要なほど症状の強い人は20〜30%くらいです.
【1】血管運動神経系症状
顔がほてる,汗をかきやすい,腰や手足が冷えやすい,息切れ,動悸,頭痛などの症状が代表的です.顔がほてる,汗をかきやすいなどはエストロゲン欠乏症の代表的症状です.これらの症状は,閉経(平均50.5歳)前後によくみられ,通常5年ぐらいで消失します.
【2】精神神経系症状
不安,いらいらする,気分が落ちこむ,寝つきが悪い,眠りが浅い,記憶力減退,めまい,はき気があるなどの症状です.エストロゲン低下の影響だけでなく,閉経による女性性の喪失感,子供の成長による母性性の喪失感,パートナーとの一体感の喪失などの精神面が影響しています.若年期だけでなく,老年期にもよくみられます.うつ病,神経症,甲状腺機能低下症などとの鑑別を要しますします.(うつ病オンライン健診へ,甲状腺機能低下症オンライン健診へ)
【3】運動神経系症状
肩こり,腰痛,手足の痛み,関節痛,しびれなどが代表的です.
【4】そのた
腟・尿道粘膜の萎縮や分泌物の減少をきたす閉経後膣炎のために,膣前庭の灼熱感,掻痒感,乾燥感および性行痛が出現します.膀胱および周辺の筋力低下にために,頻尿(排尿回数の増加),尿失禁などの排尿障害が出現します.その他に,皮膚の知覚異常,疼痛,しびれ感,蟻走感なども生じます.エストロゲン低下により骨粗鬆症,高脂血症,動脈硬化なども増えます.
C) 更年期障害の診断 |
○卵巣機能の低下または停止の確認
血中ホルモン値は閉経後の場合,血中エストラジオールは10pg/ml未満かつ卵胞刺激ホルモンは40mIU/ml以上であれば卵巣機能は低下と判断します.閉経前の場合,血中エストラジオールは50pg/ml以下,卵胞刺激ホルモンは20mIU/ml以上であれば卵巣機能は低下と判断します.
○不定愁訴の症状を参考
臨床的には簡略更年期指数がよく用いられます.
○鑑別すべき疾患がないこと
・うつ病
・甲状腺機能低下症:血液中の甲状腺刺激ホルモンが著しく上昇します.
※試験的治療による診断
診断が難しいとき,試しにエストロゲンを数週間投与することがあります.エストロゲン分泌低下による更年期障害なら,かなり症状が改善されます.
注意:更年期にそれらしい症状がでたときに勝手に「更年期障害」と自己判断しないようにしましょう.別の疾病が隠れている場合があります.
D)更年期障害の治療 |
まず他の器質的疾患(更年期障害以外の疾患)を内科などで除外し,更年期障害の原因を探ります.器質的疾患がないと診断されたら,婦人科の診察を受け,治療することを勧めます.
更年期障害の原因として,エストロゲン欠乏,環境因子,精神因子があります.なにが主因なのかを考え,これにあった治療をすることが大切です.治療が適切であれば数カ月で改善されます.更年期障害の程度や治療効果の判定には更年期指数を用います.半年以上たっても効果がない場合は,診断・治療方法を再検討したほうがよいでしょう.
具体的には
A.環境の調整
エストロゲン欠乏を主因としない環境因子や精神面での要因が大きい場合には,カウンセリングが効果的です.また,夫や家族の理解も大切です.運動,気分転換などストレスなどの軽減にも注意しましょう.
B.漢方薬
従来より更年期障害の多彩な不定愁訴に対して漢方薬が使われています.ホルモン補充療法を希望しない人や使用できない人に対して行います.当帰芍薬散 (虚証例),加味逍遥散または桂枝茯苓丸(虚証例以外)が代表的です.
C.対症療法
他の方法で改善が不十分な場合に精神安定薬,抗うつ薬,睡眠薬,末梢循環改善薬などが使われます.
D.ホルモン補充療法(HRT):婦人科に相談ください
エストロゲン欠乏が主因の場合は,ホルモン補充療法が最も効果的です.ホルモン補充療法を行ってはいけない人(子宮内膜癌,乳癌,血栓症,ポルフィリン血症など)を十分注意する必要があります.ホルモン補充療法は婦人科で行うことを勧めます.○エストロゲン剤や○エストロゲン剤+黄体ホルモン剤の併用療法が行われます.ホルモン剤の量は症状の程度や子宮出血,乳房緊満などの副作用に応じて増減します.一般の婦人科検診に加えて治療前および治療中の1年ごとに,乳房検診,子宮内膜検査で,肝機能検査,脂質測定,骨量測定などを適宜行います.
薬剤例
プレマリン錠,プロベラ錠,ヒスロン錠,メサルモンF錠エストラダーム(貼布剤※),エストラーナ(貼布剤※),プリモジアンデポー(筋注※),ボセルモンデポー(筋注※)
※貼布剤は2日ごとに貼り替え,筋注は4週ごとに