【レクチャールームNO.7】

  公開日2006.10.06 更新日2006.10.10  TOPへ  左メニューを隠す メニューへ 次へ
このサイトは参考となった講演会の内容を紹介しています。
〜医療全体が崩壊の危機-みんなで医療を考えよう〜
綜合病院山口赤十字病院 内科 村上嘉一
本解説は2006年9月に行われた糖尿病の勉強会(山口日赤病院)での配布パンフレット内容です。当院院長も同じ考えです。一般の人にはオーバーな話と感じるかも知れません。しかし、英国では医療崩壊が起こって、自国では入院できずに隣国へ自費で受診する人も現実にいます。


◇はじめに◇
 国民のみなさん。最近になり産科医や小児科医が不足し重大な事態になっていることが報道されていますが、実際には産科や小児科だけの問題ではなく日本中の大病院から勤務医が立ち去り始めており、医療全体が急速に崩壊しつつあることをご存知でしょうか日本の医療制度は現在いくつもの深刻な問題に直面しており、従来どおりの仕組みではもはや成り立たなくなってしまいました。日本の医療はタイタニック号のような状態です。今はまだ波が甲板を洗うような状態ではありませんが、やがて沈没することは避けられない状況だと思われます。そこで政府は今後船をまったく別の形に作りかえることを計画しています。政府は「規制緩和」や「市場原理の導入」を行い、アメリカ型の医療を目指す考えのようですが、そこでは健康を守ることは国の仕事ではなく個人の「自己責任」とされ、医療は福祉ではなく「商品」になります。今国が向かおうとしている方向は、やがて多くの国民を荒海に投げ出すばかりでなく、日本人の徳性をますます破壊し人心を荒廃させ、社会全体に深刻な問題を引き起こすのではないかと思えてなりません。
 しかしながら、現在の医療制度にも大きな問題点があり、いずれにしても新しい船が必要であることには変わりないと思います。しかし新しい船をどういう船にするかは、政府が勝手に決めるのではなく、乗客である国民全体で十分に議論してから決定されるべきではないでしょうか?しかしながら、議論をするためには前提となる正しい知識が必要です。日本や外国の医療のしくみや実情、そして日本の医療が崩壊しようとしている原因をきちんと理解した上で方策を考えないと決して良い制度にはならないからです。
  現在報道されているような「医師の使命感が低下し、きつくて儲からない部署へ行きたがらなくなった」事が医療崩壊の真の原因ではありません。私たち医師の側からみた医療崩壊の原因についてみなさんに知って頂くことは非常に重要なことだと思います。なぜなら国民のみなさんが良い医療を受けるためには、医療従事者にとっても納得のできる頑張り甲斐のある制度にする必要があると思うからです。
 このまま新しい制度ができてしまえば、例えそれがどんなに理不尽でも良心に反するものであっても医師達はそれに従うしか方法がありません。しかし我々医療者がそんな気持ちを持ったままみなさんに接しても決して良い医療は行えません。全ての国民に現状を正しく理解した上で新しい医療制度の建設に加わって頂きたいのです。みなさん一人では医療を変えることはできませんが、関心をもつ人が増えてゆけば、やがては大きな力になるでしょう。少し長い文章ですが、どうか最後までお読みになり、日本の医療について真剣に考えるきっかけにして頂ければと思います。
1)海外と比べた日本の医療
 日本の医療費は高いと思っている方が多いのではないかと思いますが、OECD Health Data 2006によると日本の医療費の対GDP比はOECD加盟30カ国中第21位で、統計のないロシアを除くサミット開催国(旧G7:先進7カ国)中では最低でした。ちなみにイギリスではこれまで僅差で日本より医療費が低く旧G7中最下位でしたが、医療が荒廃し大問題となったため原因が調査された結果、医療を抑制しすぎたことが間違いであったという結論に至り、医療費を1.5倍に増やしてEUの平均まで引き上げるという改革の真っ最中です。このため2004年以降日本の医療費が旧G7中最低に転落しています。一方国民一人当りの年間受診回数は欧米と比べると約4倍の頻度で世界一です。日本では医療機関の受診頻度が高いにもかかわらず医療費の総額が比較的低い水準に抑えられているのは、個々の医療費の単価が世界最低の水準に抑えられているからなのです。一回受診当たりの総医療費の平均は日本では7000円ですが,アメリカでは6万2000円、スウェーデンでは8万9000円です。病床あたりの医師数もアメリカは日本の5倍、ドイツも日本の3倍です。日本では少ない医師が安い治療費でたくさんの患者さんを治療しているのです。外国では多くの場合まず開業医を受診してからでないと専門医を受診できず、開業医を受診するにも予約が必要です。専門医へ紹介されても何ヶ月も先にしか予約が入らず、仮にそこで癌が発見されても手術を受けるのにさらに何ヶ月も待たされる場合もあります。日本では諸外国のような面倒な手続きなしに直接自分の受診したい病院を受診でき、国民皆保険制度よって世界一安い費用で良心的な医療を受けることができるのです。事実日本の医療達成度はWHOから世界第1位(ちなみにアメリカは第37位)と認定されています。
2)日本の医療機関が置かれた理不尽な立場
 このように国際的には高い評価を得ている日本の医療ですが、国内では医療への不信の声が巷に溢れ、医療の安全性の向上や各種の説明の充実も含めた「より良い医療」が強く求められています。しかし安全で良い医療を行うには医薬品や医療機材、機器や設備等にも莫大な資金が必要ですし、スタッフの仕事量も大幅に増えるので医師や看護師の増員も必要となり、より多くの人件費もかかります。
  良い医療を提供するには当然ながら相応のコスト(医療費)が必要になります。一般の企業であれば良い製品には高い値段をつけますが、日本では全ての医療行為に対する治療費は国が決めています。この点で医療は国の統制下にあり、一般の企業が提供するサービスとは根本的に異なります。本来は増やすべきものであっても国の財政難を理由に一方的に減らされているのです。より良い医療への要求と医療費削減という相反する圧力が強まったことにより医療従事者の労働条件はかってないほどに悪化しています。
 最も深刻な状況なのが急性期病院(高度な医療を必要とする重症患者さんを治療する病院。多くはいわゆる大病院)です。より良い医療を行うために様々な手続きが行われるようになったため、急性期病院では一人の患者さんを治療するのに医師が費やす労力が以前と比べると約2倍といわれるほどに増加しています。残業が多い上に主治医として常に拘束され、深夜や休日にも頻繁に呼び出しを受けます。
  当直は過酷でほとんど睡眠をとることができない上、当直の翌日も休むことができず36時間前後ほぼ連続で勤務することが全国の急性期病院では日常的に行われています。厚生労働省の医師の勤務状況調査(平成18年3月27日に中間報告)では病院の常勤医師の労働時間は、平均で週63.3時間(最大152.5時間)と労働基準法が定める週40時間を大幅に上回り、残業時間も月約100時間と、過労死の労災認定基準とほぼ同じ時間に上っています。
  事実最近では過労死する医師が増加していますが、責任を負うべき厚生労働省は見て見ぬふりで、担当者も「労働基準法を厳格に適用したら、救急病院は全てつぶれてしまいます」などと発言しています。このような状況なので良い医療を行うために増やさねばならないはずの勤務医は増えるどころか急激に減少しつつあり、残された医師の負担は増える一方となっています。
3)医療崩壊の原因 
 このような過酷な労働条件の下で、諸外国と比べれば非常に良心的といえる医療を行っているにもかかわらず、マスコミや患者さんからは不信の眼差しを向けられ、「もっと患者中心の納得できて安心で安全な医療を提供すべきだ」との要求の声は高まるばかりです。最も深刻なことはこれまで医療の理想像ばかりが宣伝・報道されてきたため、医療は本質的に不確実であるという「真実」や、高度な医療をうけるには莫大なコストが発生するという事実が国民に認識されていないことです。
  その結果誰もが安価に最高の医療をうけられて当然であり「医療ミスが起こるのは医師が無責任でモラルがないからである」といったような世論が形成されてしまいました。もちろん医師の側にも謙虚に批判を受け止め改善すべき部分はありますが、医療にかけられているコストの低さや人手不足による安全性やサービスの低下などについては全くといってよいほど報道もされず、認識されていないことは著しく公正さに欠けていると思います。
  また一般の方々からは理解されていない重要な事実に「医療はきちんと行えば必ず正しく診断し正しく治療できるというほど完全なものではない」ことも挙げられます。同じ条件の人に同じ治療をして良い結果になる場合もあれば悪い結果になる場合もあります。例えばプロ野球で、ピンチの場面で監督がピッチャーを交代させるかどうかの判断には100%正しい答えはないのと同じようなものです。同様に医療事故はスポーツにおけるエラーと同じような面があり、どんな名選手でもエラーをすることがあるように、どんなに頑張ってもゼロにはできないのです。さらに医療行為は必ず合併症などのリスクを伴います、合併症の発生は不可抗力である場合も多くそのような場合には医療ミスとは言えません。
 しかし最近ではそのような防ぎきれない合併症や事故までもが「犯罪行為」として大々的に報道され、検察や司法までもが医療の本質や現状を理解しないままに医師の側からみれば極めて不当な判断を下すようになりました。このことは全国の医師を絶望させ病院勤務を続ける意欲を奪っています。
  特に福島県の県立病院の産科医が帝王切開の手術中の医療事故が原因で逮捕された事件は、たった一人で献身的な診療を行っていた医師が、医師の側からみれば全くといってよいほど過失がなかったにもかかわらず殺人者扱いされたという点で日本中の医師の心に決定的な打撃を与えました。自分の健康や楽しみを犠牲にするだけでなく家族の幸せまでをも犠牲にして患者さんに尽くしても、ひとたび事故が起これば、例えそれが現状では避けようがなく医師にとってミスだとは思えないような事故であっても結果の重大性のみで場合によっては刑事事件の容疑者として逮捕され、あたかも非道な殺人鬼のごとく報道されたのです。
  このことは多くの医師に言いようのない絶望感を与え、リスクを伴う医療を行うことを避ける傾向が一気に強まり、産科医療は崩壊してしまいました。そして崩壊の波は今や外科、内科、救急医療を中心に医療全体に波及し、全国の急性期病院から医師が立ち去り始めました。従来から地方の急性期病院などは少ない医師の献身的努力によってかろうじて支えられていましたが、さらに医師が減ることにより残った医師の負担が限界を超え、ドミノ倒しのように崩壊が進んでいます。
  全国の病院で診療科の閉鎖が目立つようになり、基幹病院であるのに内科の医師が全員辞職する病院さえいくつも現れてきました。関東のある地方では二日に一日しか内科系の二次救急が行えないという事態になっています。全国の国立大学附属病院も補助金の削減や医師離れにより破綻の危機に瀕しており、日本の医学の発展にとっても取り返しのつかない損失となりつつあります。
4)一度失ったら取り戻すのは困難
 医師を養成するには長い時間と良い教育体制が必要ですが、指導医が次々と大学や病院を去っていく今の状況が続けば、医師の養成も困難となり、外科系では手術の技術が継承できなくなる危険もでてきています。優秀な医師が疲れ果て、また絶望し、次々と第一線を去って行く現状は、第二次世界大戦の際に、人命を大切にしてベテランを育てた連合軍とは対照的に、補給も無い状況で人命を軽視した大消耗戦を行い、育成するのに時間も金もかかる最も貴重な財産である「人材」をいたずらに失った日本軍の状況に似ていると思います。
 すでに各地の大学医局や病院が崩壊しつつあり、医師の間では日本の医療が崩壊の危機にあることが繰り返し語られています。病院勤務に耐えられなくなり開業する医師が増えています。勤務が過酷で理不尽であること以外にも政府、マスコミ、国民からのあまりにも理解のない不当な扱いに多くの医師が絶望しています。
 ランセットという世界的に有名なイギリスの医学雑誌の巻頭言で「イギリスでは医療費削減を失敗と認め医療費を増やしたにもかかわらず十分な成果が上がっていない、それは一度低下した医療従事者の士気を回復させるのは医療費を増やしても困難だからだ」と述べられていますが、現在の日本でもイギリスと同じような事態を招きつつあり、このままでは日本の歴史に消しがたい汚点を残すことになるだろうと思います。
5)医療崩壊を食い止めるための緊急課題
 真に国民のためになる新しい医療制度が確立するまでに、これ以上医療の崩壊が進行するのを少しでも食い止め、被害を最小限にするためには、以下の2つが特に重要だと思います。
 一つは医療事故を公正に処理するシステムの設立です。第三者事故調査機関、第三者調停機関や医療事故損害賠償責任保険等により医療事故が起きた時に公正かつ速やかに適正な判断が行われ、医療従事者も過剰なリスクを背負わなくてすむような制度が必要です。しかし現在のような国民の意識では患者側にとっても医療者にとっても納得できる実効性のある制度とするのは難しいと思われます。医療が本質的に持つ限界や不確実性やリスク等についてマスコミ、検察、司法を含め広く国民一般に正しく認識されることが絶対的に必要です。
 もう一つは政府が医療に対して適正な予算を投入することです。政府は公的医療費の抑制は避けることができないとしていますが、例えば日本の公共事業費は社会保障費の倍近い額に上っており、日本以外の先進6カ国の公共事業費の合計よりも多いのです。
  公共事業が社会保障より多いのは日本だけです、公共事業に対し社会保障はイギリスでは9倍、ドイツでは7倍、フランスでは3倍、アメリカでさえ2.5倍優先されています。この10年間で、先進国では日本だけが社会保障費を減額しています。日本の福祉のレベルは低く、老人保険施設や特別養護老人ホームは、入所したくても数年待ちの状態になっています。公共事業費を欧米並みの金額にすれば国民医療費の半額以上の16兆円を社会保障に活用でき、国民の負担を増やすことなく医療の質を向上させることが可能です。
 社会保障のための投資というとお金を無駄に捨てているような印象を持たれるかもしれませんが、IT・ゲノム・ナノテクノロジー・マテリアルなど今後の日本にとっても重要な科学技術の発展は、すべて医療セクターに実需を持っています。したがって医療への投資はこれらの技術革新の呼び水となり長期的な産業戦略として有用なだけでなく、関連する特許料,新薬の売り上げ,高度医療機器の輸出などに結びつける事ができれば、雇用の増大は勿論、真の国力の向上に結びつき、資源がなく技術力によって立つしか道のない我が国に対しては公共事業以上の国恵をもたらすことが期待できると言われています。
 混合診療に関しても、現在の公的医療水準を維持した上での混合診療であれば必要かもしれませんが、公的保険のカバーする範囲が、なしくずし的に縮小され、まともな医療をうけるためには高額な私的保険への加入を余儀なくされるようになるのではないかと懸念されています。そうなると「命も金次第」という究極の格差社会がもたらされ、貧しい人々は切捨てられ、社会に対する不満が高まり、日本社会の美徳である助け合いの精神が破壊され、日本人の心が一層荒廃するのではないかと心配です。阪神大震災の際には皆が助け合い略奪などは起きませんでした。しかしアメリカのニューオーリンズでハリケーンによる災害の際に、普段から社会への不満を募らせていた人々が略奪などの行為に走ったのと同じようなことがやがて日本でも起こってしまうのではないかと思われてなりません。
 しかし医師側が医療費を増やす必要性を訴えても、「自らの権益を守ろうとする抵抗勢力」と世論操作されています。一刻も早く国民が事態に気づき、公的医療の充実を求める強い世論を形成する以外にはみなさんの未来を守る方法がないように思われます。
 病院への医療費の配分を増やして勤務医の労働条件を改善することも必要です。安全性の確保のためにも病床あたりの医師や看護師の数を増やすことが急務です。しかし現在の病院、特に公的病院は医師にとってあまりも働き甲斐がない場所になっています。医師の勤労意欲を回復させるような手当てが必要です。日本の医療費単価が世界最低水準なのにWHOから世界一と評価されるほどの成果を上げたのは、主に勤務医たちが決して給料のためだけではなく、使命感に燃え、患者さんを思って献身的に医療に取り組んできた努力の結果なのです。勤務医達のその貢献を社会はもう少し正当に評価することが必要だと思います。
  これまでは国民からの感謝の気持ちが勤務医達に使命感を与え無償の奉仕を行わせていました。しかし、奉仕に対する感謝を忘れ、自分の権利ばかりを主張し、相手の権利には配慮しない国民が増えたことが、医師達から力と心を奪っています。医師達に力を発揮させるには、その貢献が正当に評価され、もう少し苦労が報われて、国民からももっと感謝されることが必要だと思います。
  国民の医療に対する理解と感謝を忘れた態度こそが医療崩壊の真の原因だと思うからです。ある方がブログに「医学生の頃実習で小児科をまわったとき、医師が『救急の患者なんて待たしておけばいい。どうせたいしたことないんだから。待たされることで患者も来なくなればいい。』と言っていた言葉に、大いに憤っていた私が、今はその気持ちが理解できてしまうところに医師の現実があるのだと思います。『患者さんのために立派な医師になろう』と考えている医師が、患者さんのことを考えられなくなる。このままでは医師も患者さんもどちらも不幸です。医療というのは、『心』が占める範囲が非常に大きい行為です。どんなに医療システムが完全であっても、例え義務や強制力で医師をしばりつけるようにしても『こんな医療やってられるか』と思っている医師たちに医療を受けた患者さん達は決して幸せにはなれないと思います(さかまりのブログより抜粋)」と書いておられますが、まさにそのとおりだと思います。
6)国民全体で考えよう
 病院は重い病気になった患者を守る最後の砦であり、その果たすべき機能に相応した「人財」や設備への費用が必要です。これまで国民の健康を献身的に守ってきたのは誰でしょうか?医師達の心が折れ、今の医療が崩壊してしまえば、次に現れるのは、一部の特権階級のみが全てを手にし、国民の多くが医療難民となるような荒涼とした社会ではないかと懸念します。
 良い医療を行うためには、相応のコストと、理にかなった良い医療システム、そして何よりも国民の理解が必要です。現在の医療制度は医師が手厚い治療を行えば行う程病院が赤字になるような医療費抑制を至上目的とした理不尽で無慈悲な仕組になっていることも医師と患者さんの関係を悪化させています。私は良い医療(高度な医療や手厚い医療)を行い、患者さんに感謝された医療施設や医師個人が金銭的にも報われるようにすることと、医療者と患者の利害を一致させることが大切だと思います。
  例えば今の制度では長く入院したら病院の収入が減らされ赤字になってしまうので病院は早く退院させようとしますが、患者さんのご家族は家で面倒を見たり施設に入れたりするよりも大きな病院に入院させておいた方が安いし手間もかからないし安心なので退院させたがりません。そして「病院から追い出された」と医師や病院を恨みます。これは医師にとっても不幸な事です。私は病院の入院費用は不当に安いのでもっと引き上げるべきだと思っています。
  その上で「長く入院したら病院の収入も減るが、患者さんの負担も増える」ようにしたり、政府が補助して慢性期病床や老人保健施設などをたくさん作り患者さんの自己負担も減らして大病院に入院するよりはるかに安い費用で入院できるようにしたり、在宅医療の支援システムをもっと充実させれば、病院側も患者さん側も早く良くなって施設に転院したり家に帰ることができるように心を合わせて同じ目標に向かって努力できるので、無用な対立をしないで済み、「戦友」として信頼関係が高まるのではないかと思います。
  また今の制度では初診時を除くと通常は診療所にかかるより病院にかかるほうが患者さんの自己負担額は安くなります。ですから風邪のような病気でも「安くて安心な」病院を受診する患者さんが多く、病院の外来は軽症患者さんであふれ、医師は忙殺され重症患者さんへ十分手が回らなくなっています。
  政府も「病院は外来を減らし、入院患者の治療に専念せよ」と言って、病院が外来患者を診療所へ紹介するように誘導しています。(この4月から廃止されましたが、病院がかかりつけの患者さんを診療所へ紹介して外来を減らさなければ経営が成り立たないようなしくみになっていました。)しかし、これも「診療所よりも安くて安心」な病院での治療を希望する患者さんから「病院から見捨てられた」と恨まれる結果となりました。
  私は病院の受診料を引き上げ、診療所を受診する際には患者さんの自己負担割合を減らし今までより安く受診できるようにしたらどうかと思います。そうすれば患者さんも病状が安定すれば診療所で治療をうけることに納得すると思いますし、高いお金を払っても病院にかかりたい人はそうすれば良いのではないかと思います。
  一般的に病院は診療所と比べ、はるかにコストをかけて高度な医療を提供しているのですからそれが理にかなっていると思います。かかりつけ医による医療はこれまでより安く受けることができるが、大病院で良い医療を受けるためには患者側も相応の負担をする、良い医療を提供した施設はそれに見合った報酬を得ることが理にかなっているのではないかと思います。
  医療機関が治療費をある程度自分で決められるようにして、医療機関の間に通常の企業と同じように「良い医療を提供する」、「料金を下げて患者を増やす」という正常な方向で競争原理が働くようにすれば、競争原理により医療の質が上がり、努力した医師個人も報われ、かつ人としての良心も満たされるのではないかと思います。これは私が個人的に考えていることに過ぎませんから、色々な面から検討が必要でしょう。しかし国中で色々な人が知恵をしぼって考え、国民からの要求が高まれば政府ももう少し本気で考えると思います。そしてそれを報道を通して国民が監視していれば、自ずと良いアイディアが出てくると思います。
 大切なことは、どうすれば日本の医療システムがよくなるのかということを、国民全体が自分自身の問題として真剣に見つめる中で、国家を挙げて議論する事だと思います。日本国民の英知を結集し、真に国民と国家のためになり、そして医療者にとっても働き甲斐のある医療システムを構築することがみなさん自身のために必要です。そのためには多くの方々にこのような議論の前提となる知識を持って頂くことが必要です。医療に関する適切な知識を得る情報源としてまずは

●『医療崩壊一「立ち去り型サボタージュ」とは何か』小松秀樹著 朝日新聞社刊
●武蔵野市医師会のホームページ中の「日本の医療を正しく理解してもらうために」
          http://www.musashino-med.or.jp/city/medical/no01.html
●医療制度研究会のホームページ「このままでいいの?日本の医療」
         http://www008.upp.so-net.ne.jp/isei/top2.html
●日本医師会ホームページの「- 持続可能な医療体制のために - 日本の医療の実情」
  http://www.med.or.jp/etc/ishihara.html
● 小児科医と労働基準
  http://homepage3.nifty.com/akira_ehara/index.html
●周産期医療の崩壊をくいとめる会のホームページ
 http://plaza.umin.ac.jp/~perinate/cgi-bin/wiki/wiki.cgi
などを見て頂きたいと思います。
 今日本の医療は運命の分岐点に立っています。どうか大きく目を見開き、高い視野に立って医療について真剣に考え、多くの方々と意見を交わし、日本中で医療の問題が正しい認識のもとに議論されるようにしてください。国民全体で真剣に知恵を出し合って議論し、そしてみなさん自身の手で納得のできる医療制度を選択してくださることを願います。

2006年10月4日