【レクチャールームNO.6の4】-高コレステロール血症-

  公開予定日2005.06.08 更新日2005.06.08  TOPへ 左メニューを隠す  前へ メニューへ
このサイトは参考となった講演会の内容を紹介しています。一部には当院院長の講演や記事のもとになったものを紹介しています。

 コレステロールの新しい常識
- (第4回)- 
本解説は2005年6月4日にサンデー山口(山口市周辺)の解説-変わってきた「高脂血症治療」-の原稿(HTML版)です。コレステロールの新しい常識(1)−(3)の補足として書きました。

お断り:このサイトの講義対象は一般の方や患者さんです。専門用語を少なくするように努めました。
なお、ここでの内容は個々の患者さんには適当でない場合もあります。あくまでも一般論として参考にとどめてください。


【1】「変わってきた高コレステロール血症治療」 講師:まえだ循環器内科 前田敏明

 健康診断で「高コレステロール血症」と診断される人は多いが、現行の高脂血症の診断と治療指針には問題が多いとの発表が国内外で相次いでいます。高脂血症と心臓病の治療に詳しい、まえだ循環器内科(山口市緑町2-21 TEL083-921-7722 http//www.m-junkanki.com/)院長・前田敏明先生に解説していただいた。

●図1 合併症ない場合の心筋梗塞発症率(%/10年)

 

「冠動脈10年リスク計算ソフト(ATPIII)」より算出した数値の1/4の値を日本人の心筋梗塞発症率とした。
● 総コレステロール値280mg/dlの女性は 同じ年齢の220mg/dl男性よりも心筋梗塞がかなり少ないことがわかる。
● また、女性の場合は、総コレステロール値280mg/dlと220mg/dlで、心筋梗塞の頻度に大差がない。

【2】「合併症のない人の総コレステロール値は220より高くてもよい?」
●もともと「総(またはLDL)コレステロール値を下げると心筋梗塞の危険性が低くなり、死亡率も下がる」というのは、すでに狭心症や心筋梗塞になった人、家族性高脂血症の人、糖尿病と高血圧を合併した人など心筋梗塞の危険性が高い人たちです。しかも多くは主に男性を対象とした研究結果です。 合併症のない女性では総コレステロール値280mg/dl以下では心筋梗塞は増えないとの海外の報告があり、 また、合併症のない人の高脂血症治療では、女性だけを抽出すると心筋梗塞は減少していません。日本人女性の場合でも心筋梗塞は55歳未満では男性の1/5、65-70歳でも1/2と女性は心筋梗塞が少ないのです。
●昨年発表された北海道の調査で、心筋梗塞になった人と他の病気で入院した人を比較すると、男性ではHDL(善玉)コレステロールが少ないと6.2倍に、高血圧があると2.7倍に心筋梗塞が増加しました。女性でも高血圧があると5.8倍に、善玉コレステロールが少ないと3.5倍に増加しました。ところが、総コレステロール値やLDL(悪玉)コレステロール値は、高くても低くても心筋梗塞の発症率に差がありませんでした。これは、総または悪玉コレステロール値は、他の危険因子よりも影響力が弱いことを示しています。ほかの国内の調査でも、同様の報告となっています。
●このような結果から、今後は従来の高脂血症治療、とくに合併症がない女性の高脂血症治療は大幅に見直すべきでしょう。

【3】「日本の動脈硬化診療ガイドラインの問題点」
●現在の動脈硬化学会の診療ガイドラインは欧米の基準を模倣したものです。一番の問題点は、総コレステロール値が同じレベルならば、日本では米国の1/4しか心筋梗塞が発症しないのに、米国以上に薬物療法が誘導されやすい内容になっていることです。
●米国では、基本的には総コレステロール値や悪玉コレステロール値そのものを治療を行うかどうかの基準とせず、「10年間に何%の人が心筋梗塞になるか」の心筋梗塞危険度(低リスク10%以下、中等度リスク10-20%、高リスク20%以上)をもとに、悪玉コレステロールの治療目標値を掲げています。また、治療目標値よりも高い薬物療法開始の基準値が別にあります。さらに、善玉コレステロール値が高いときは、治療目標コレステロール値が高くなるようにしています。
●一方、日本では、心筋梗塞の危険度がどれくらいあるかがわからないまま、総コレステロール値だけを参考に薬物投与が行われていることが少なくありません。善玉コレステロール値、年齢、性別も治療に十分反映されていません。なお、昨年、日本健康医学会では、中高年の総コレステロール値を男性260mg/dl、女性280mg/dl台から高コレステロール血症とする別の基準値を提唱しました。

 

【3】「合併症のない女性の高脂血症の治療は」
●50-70歳の女性は男性よりも総コレステロール値で20mg/dlぐらい高く、平均値は約220mg/dlです。ただし、善玉コレステロール値は男性よりも女性のほうが高くなっています。ガイドラインでは220mg/dl以上は高脂血症と診断されるため、閉経以降の女性の約半数が「高脂血症」と診断されています。
●ところが米国の資料(ATPIII)で計算すると、合併症のない総コレステロール値280mg/dl、善玉コレステロール値60mg/dlの60歳女性が10年間に心筋梗塞になる危険度は千人に約6人(米国人の1/4で換算)とごくわずかです。たとえ220mg/dlまで低下させても、2人減るだけです。なお、日本人の資料(J-LITチャート)で計算してもほぼ同じ数値となります。
●このように合併症のない女性は総コレステロール値が280mg/dlであっても、もともと心筋梗塞になる危険度が低いために、コレステロール低下療法を行う必要がほとんどないと考えられます。
●女性の高脂血症治療は、すでに狭心症や心筋梗塞になった人、高血圧と糖尿病を合併した人、家族性高脂血症、代謝症候群などの心筋梗塞の危険性の高い人を中心に行うことが望まれます。