【レクチャールームNO.6の2】-高コレステロール血症-

  公開日2006.03 更新日2005.06.08  TOPへ 左メニューを隠す 前へ 次へ
このサイトは参考となった講演会の内容を紹介しています。

 コレステロールの新しい常識 
- (第2回) - 
本解説は2005年5月31日のNHK番組「とくもり情報ランチ」(山口県内)で放送された内容のもととなった原稿です。放送でのパネルおよび解説の内容は簡略化したものです。できるだけ専門語を使わないようにしました。

お断り:このサイトの講義対象は一般の方や患者さんです。専門用語を排除するように努めました。
 なお、ここでの内容は個々の患者さんには適当でない場合もあります。あくまでも一般論として参考にとどめてください。


「善玉と悪玉コレステロール」 講師:まえだ循環器内科 前田敏明 

 

「健康診断でコレステロール値が高い」と指摘される人が多いのですが、最近は高コレステロール血症に対する考え方が変化してきているようです。
 今回は「コレステロールの新しい常識」についての第2回目で、「善玉と悪玉コレステロール」についてお話していただきます。

 


【1】質問「コレステロールには善玉、悪玉があると聞いたことがありますが、どういう意味でしょうか?」
【1】回答
●コレステロールは油の一種です。そのままでは血液に溶けずに、油の塊になってしまいます。そのため、タンパク質と結合して、血液に溶けやすくなっています。そのときに結合するタンパクの種類によって、コレステロールの性質が変わります。
●代表的なものが、 LDLコレステロールとHDLコレステロールです。中性脂肪が多くなければ、両者で血液中のコレステロールの大部分を占めます。
● LDLコレステロールは全身の細胞に運ばれてゆくコレステロールです。多すぎると血管にも貯まってしまい、動脈硬化を促進するので、悪玉コレステロールと呼ばれています。一方、 HDLコレステロールは全身で余って不要となったコレステロールを肝臓に持ち帰る働きがあり、動脈硬化を予防する働きがあるので善玉コレステロールと呼ばれています。
●同じ、コレステロールでも一方は動脈硬化を引き起こし、他方は動脈硬化を予防するので、全く逆の働きをしていると言えます。
お断り:放送では、ファイザー製薬から使用許可を得て、左図を使用しましたが、ホームページでの使用許可を得ていませんので、モザイクを掛けました。

【補足】
最近は、悪玉(LDLコレステロール)にも大きさによって動脈硬化の起こしやすさが異なることがわかっています。
小さなサイズのLDLコレステロールは動脈硬化をより引き起こしやすいので、「超悪玉」とも呼ばれています。
糖尿病や高血圧があると超悪玉が増えると言われています。
また、酸化したLDLコレステロールは、さらに悪く、「真の悪玉」とも呼ばれています。
これらは通常の診療では検査できません。


【2】質問「コレステロールには、総コレステロール、善玉、悪玉コレステロールといろいろ種類があると言うことですが、これらはどんな関係があるのでしょうか?」
【2】回答
●総コレステロール値は悪玉コレステロール値と善玉コレステロール値とその他のコレステロール値の合計値となっています。
●悪玉は動脈硬化を促進し、善玉は動脈硬化を抑制します。ですから両者を足した総コレステロールが高いからと言って、動脈硬化の危険性が高いとは一概には言えません。
●高コレステロール血症の治療を考えるあたっては、必ず悪玉値と善玉値を調べる必要があります。米国のガイドラインでも、総コレステロール値は古い指標なので、悪玉値と善玉値を調べて、治療を行うように指導しています。


【3】質問「善玉コレステロール値と、悪玉コレステロール値のどちらが重要でしょうか?」
【3】回答
●日本人では悪玉の数値よりも善玉の数値の方が重要であると報告されています。
 これは昨年の春に発表された北海道での調査結果です。心筋梗塞になった人と他の病気で入院した人を比較して、どの危険因子があると心筋梗塞になりやすいかを調べました。
●男性では善玉コレステロールが少ないと、心筋梗塞が6.2倍に増加しました。高血圧があると2.7倍に増加しました。女性では高血圧があると5.8倍、善玉がすくないと3.4倍になりました。男女ともに、善玉コレステロールと高血圧が重要な危険因子になっていました。
 ところが、悪玉値や総コレステロール値については意外な結果がでました。悪玉コレステロールや総コレステロールは多くても少なくても心筋梗塞の発症率に差がなかったのです。
●これは、 「悪玉コレステロールが高くても心筋梗塞は全く増えない」ということではなく、「他の危険因子よりも影響力が弱い」ということです。

【4】質問「では血液中のいろいろなコレステロール値はどれくいまでならよいのでしょうか?」
【4】回答
  それぞれがお互いに影響するので、ひとつの数字を挙げることは困難です。その理由を説明します。 
このグラフは高脂血症の治療のために、薬を飲み続けた日本人5万人を6年間調査して作ったJ-LITチャートから作成しました。
●縦軸は6年間に狭心症や心筋梗塞になると予想される人の割合です。横軸は血液中の善玉コレステロールの値です。総コレステロール値は270mg/dl、中性脂肪は100mg/dlと一定にしています。
●総コレステロール値が270と全く同じでも、善玉コレステロール値が大きくなると、狭心症や心筋梗塞にの危険度が大きく減少することがわかります。
●善玉が40から70に変化すると、危険度は男女とも約1/4に減少しています。これをみれば、総コレステロール値だけで、危険度が評価できないことが分かると思います。
●ただし、善玉の数値については、一つ注意がいります。
 通常は善玉が多いほど心筋梗塞の危険度が低下するのですが、遺伝的に善玉の代謝に異常があるために善玉が多い人が日本人には500人に1人ぐらいいます。この場合は善玉が多くても、動脈硬化は減らないと言われています。目安として、善玉が100mg/dl以上あるひとは、この遺伝的異常の可能性が高いので、安心はできません。

【5】質問「総コレステロール値が高い人は、悪玉と善玉の値を調べた方がよい」と言うことですね
そうです。
今日は善玉コレステロールと悪玉コレステロールについて伺いました。前田先生、ありがとうございました。

【番外】質問「最後に本日のまとめをお願いします。」


●血液中の総コレステロール値は、悪玉+善玉+その他の3成分の合計です。 
 ・悪玉コレステロール(LDL-C)は動脈硬化を促進
 ・善玉コレステロール(HDL-C)は動脈硬化を強く抑制
●高コレステロール血症でも善玉が多い場合は、危険度は低い! 
●高脂血症の治療を行うときには、総コレステロール値だけでは不十分で、悪玉と善玉を分けた検査が不可欠。

※放送ではまとめはありません。


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