【レクチャールームNO.6の1】-高コレステロール血症-

  公開日2005.05.28 更新日2005.06.03  TOPへ  左メニューを隠す メニューへ 次へ
このサイトは参考となった講演会の内容を紹介しています。

 コレステロールの新しい常識 
- (第1回)- 
本解説は2005年5月24日のNHK番組「とくもり情報ランチ」(山口県内)で放送された内容のもととなった原稿です。放送でのパネルおよび解説の内容は簡略化したものです。できるだけ専門語を使わないようにしました。

お断り:このサイトの講義対象は一般の方や患者さんです。できるだけ専門用語を少なくするように努めました。
なお、ここでの内容は個々の患者さんには適当でない場合もあります。あくまでも一般論として参考にとどめてください。


「コレステロール値が高いとなぜ悪い」 講師:まえだ循環器内科 前田敏明  

「健康診断でコレステロール値が高い」と指摘される人が多いのですが、最近は高コレステロール血症に対する考え方が変化してきています。
 今回はコレステロールの新しい情報を加えて、「コレステロールの新しい常識」について解説します。
第一回目のテーマは、「コレステロール値が高いとなぜ悪いか」です。


【1】質問「コレステロール値が高いとなぜ悪いのでしょうか」
【1】回答
 それは動脈硬化、特に狭心症や心筋梗塞が増えるからです。
●心臓の表面には冠動脈とよばれる動脈があります。動脈硬化がおこると、血管の壁が厚くなり、また血管の壁に酸化して変性したコレステロールがたまります。このため血管が狭くなり、流れる血液量が減って、狭心症が起こります。
●また、変性したコレステロールの塊を被った膜は、破れやすくて、破れるとその部分に血の塊ができます。血の塊は短時間で大きくなり、血管を完全に塞いでしまうと、血液が全く流れなくなります。この状態が数時間続くと、その血管から酸素を受けていた心臓の筋肉が死んでしまいます。これが急性心筋梗塞が起こる原因です。
●ただし、変性したコレステロールの塊は狭心症や心筋梗塞の原因となりますが、血液中のコレステロールが多いことだけが動脈硬化の原因ではありません。血管の内面を傷つけたり、コレステロールを酸化させるようなものがあると、動脈硬化が起こりやすくなります。コレステロール以外にも多くの動脈硬化の原因があります。
※アテローム:
粥腫(じゅくしゅ)ともよばれる。腐った豆腐のような柔らかいもの(酸化したコレステロールを含む)。
アテロームは表面の膜がうすいところが破れやすく、破れると血液が固まるような化学反応を引き起こす。
アテロームが蓄積するタイプの動脈硬化をアテローム性動脈硬化と呼ぶ。
アテロームが蓄積しない線維性の動脈硬化という種類もあり、より細い動脈でおこる。

【2】質問「コレステロール以外の動脈硬化の原因とは何でしょうか」

【2】回答
  動脈硬化の原因の中でも心筋梗塞や狭心症をおこしやすくする因子を冠動脈危険因子と呼んでいます。
 主な危険因子に、たばこ、高血圧、糖尿病、高脂血症、加齢や男性であることなどがあります。これ以外にも兄弟が心筋梗塞になった、家族性高脂血症である、すでに狭心症や心筋梗塞なったなども重要な危険因子となります。 
●タバコについては、1日20本の喫煙によって狭心症・心筋梗塞の危険度は、中年男性で約2倍、40本以上では5倍に増加します。女性は男性以上に喫煙の影響を受けやすいと言われています。なお、禁煙すると数年で吸わない人と同じまでに危険度が低下します。
●高血圧と糖尿病は危険因子の中でもとくに強い危険因子をされています。軽症であっても、また治療中であっても心筋梗塞の危険性は、正常者よりも高いので注意がいります。
●高脂血症にはいくつかのタイプがありますが、その代表は、総コレステロール値が高い高コレステロール血症です。最近の調査で、他の危険因子に比べると総コレステロールが高いことは、あまり重要ではないという報告がありました。また、次回に説明しますが、善玉コレステロールと呼ばれる成分が多いか少ないかが、とても重要であるとも報告されています。
●加齢と性別は、高脂血症の治療を判断する上で、たいへん重要な危険因子です。後で詳しく解説します。
 これらの危険因子の数が多いほど心筋梗塞の危険性が増加します。



【3】質問「危険因子が多い人ほど注意が必要なのですね。」

【3】回答
 はい、そのとおりです。
●このグラフは、危険因子の数と心筋梗塞の危険度をしめしたものです。心筋梗塞になる危険度は危険因子がひとつ増す毎に、2〜4倍になります。
●逆をいえば、心筋梗塞の予防のためには、出来るだけ危険因子を減らすことが重要です。
●この機会に、自分の危険因子の数を確認してみるとよいでしょう。

 

 


【4】質問「血液中のコレステロールがどれくらい高いと心筋梗塞になりやすいのでしょうか?」


【4】回答
 ひとつの数字を挙げることはできません。心筋梗塞になる危険度の高い人は、より低く、そうでないひとは少し高くても構いません。
●このグラフは米国人の資料です。総コレステロール値以外に危険因子がない場合に、10年間にどれだけ心筋梗塞になるかを男女別に予測したものです。2001年に米国で公開されたプログラムで計算して作成しました。
●縦軸が10年間に心筋梗塞になると予想される割合です。つまり、「5%ということは、10年間に100人中5人が心筋梗塞になると予想されるということです。ただし、米国人は日本人の約4-5倍心筋梗塞が多いとされているので、日本人に置き換えるときには数値を1/4-1/5するとよいでしょう。横軸は年齢です。上の4つの青い線が男性、下の4つの赤い線が女性です。4つの線は上から総コレステロール値がそれぞれ 280、260、240、220です。
●これでみると確かに、総コレステロール値が高くなると心筋梗塞が増加しますが、総コレステロール値の影響よりも、年齢や性別の影響のほうが非常に大きいことがわかります。総コレステロール値280の女性は、220の男性に比べても、すべての年齢で心筋梗塞の危険度がかなり低いことがわかります。
●ただし、女性の場合は総コレステロール値が高くても心筋梗塞の危険度は高くならないというのは、他に危険因子がない場合の話です。他に危険因子がある場合は、女性でもコレステロールの影響を受けやすくなり、危険度がずっと高くなります。


【5】質問「わかりました。心筋梗塞の原因となる危険因子にはいろいろあって、血液中のコレステロール値だけで判断することはできないということでしょうか」

【5】回答
 はい、その通りです。

「今日はコレステロール値と心筋梗塞の関係について伺いました。前田先生、ありがとうございました。」

【番外】本日のまとめです。


●心筋梗塞の危険因子は高コレステロール血症以外に多数あります。危険因子が多いほど心筋梗塞の危険度が増します。日本人で一番の重要な危険因子は高コレステロール血症ではありません。
●つまり、総コレステロール値が240または280だけで、他に危険因子が心筋梗塞の危険度は高くありません。とくに女性は低いと言えます。
●逆に、危険因子が多数あるひとは心筋梗塞の危険度が高く、積極的にコレステロールを下げる治療が有効となる場合があります。
●高コレステロール血症の治療では、総コレステロール値ばかりでなく、ほかの冠動脈危険因子の有無に注意を払う必要があります。 

※放送ではまとめはありません。


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