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公開日2011.10.20 更新日2012.01.08 HOMEへ  メニューを隠す  前へ 次へ
 このツールは、高コレステロール血症の診断と治療にあたる医師向けに作成されたものです。結果の解釈には十分な医学知識が必要ですので、十分な脂質異常症の知識を持った医師と相談下さい。ツールの利用により生じたいかなる結果に対しても当院は責任を負いません。

■日本人のための心筋梗塞発症リスク評価(JALS)ツール:2012年動脈硬化学会推奨予定

ツールについて
  2011年秋に、来年の動脈硬化学会では「冠動脈疾患の絶対リスクに基づく診療を推奨する」趣旨が日経メディカルの小冊子に掲載されました。そのためのリスク計算方法やExcel fileの ツールがJALSのサイト(http://jals.gr.jp/result/2010_74_1346-56.html)で公開されています。しかし、このツールを患者さんの説明に使うには使い勝手が悪いので、当院で計算ツールを開発しました。 
  計算方法は、2010年の日本循環器学会誌※に載っています。 計算の要領は論文通り(一部四捨五入)です。
また、2009年に発表されたMEGA study chartも同様に冠動脈イベント(心筋梗塞、冠動脈手術など)の絶対リスク評価に使えますので、同時に計算できるツールも作りました。
※Serum Total and Non-High-Density LIpoprotein Cholesterol and the Risk Prediction of Cardiovascular Events-The JALS-ECC-:Circulation Journal 2010;74:1346-1356
【セキュリティ対策】
 ウイルス対策のために、今回はマクロは使っていません。印刷する場合は手動で印刷画面に変更し、印刷を実行してください。A4横一枚に収まるように設定してあります。
もし、印刷設定を変更したい場合は、シート保護を解除(パスワードなし)して、変更してください。変更後は、再度シート保護を行うと不注意によるプログラム変更ミスを防げます。
計算の途中を示すシートは非表示にしています。ブック保護解除のパスワードは、改ざん予防のため公開していません。
【使い方】
1)入力画面から、左欄の入力項目(冠動脈危険因子を入力してください。ツール(A)では「JALSに基づく、5年間心筋梗塞発症率」と「Mega study cahartに基づく、冠動脈イベント発生率」が中欄と右欄にそれぞれ自動入力されます。ツール(B)では現状の評価とともに改善した状態(総コレステロール値200mg/dl)と悪化した状態(総コレステロール値300mg/dl)にした場合の3ケースの5年間の心筋梗塞発症率が、JALSの手法に基づき計算されます。それぞれの右端には絶対リスクがグラフ表示されます。グラフの見方については、米国の評価法(ATPIII)を参考までに紹介すると、心筋梗塞や心臓死20%/10年以上をハイリスク、10-20%/10年を中等度リスク、5%/10年未満を低リスクとしています。ここでは5年換算の10%/5年をグラフの最大値付近にしています。
2)危険因子を変化させることにより、絶対リスク評価とグラフが変化します。合計スコアが大きいほどハイリスクとなります。それぞれのスコアと知ることにより、各危険因子の寄与度が分かります。
3)評価結果の印刷は、シートを入力から画面印刷に変更し、通常の印刷を行ってください。後の印刷のためにあらかじめ入力シートIDや名前を入れておくとよいでしょう。印刷シートに入力しないでください。プラグラムが変更されてしまいます。
【心筋梗塞リスクとコレステロール低下薬】
 よく勘違いされているのですが、高コレステロール血症治療の主目的は、心筋梗塞予防です。脳梗塞や他の部位の動脈硬化性疾患発病予防には、あまり効果はありません。脳出血を含む脳卒中に関しては、むしろ血清コレステロール値が低い方がリスクが高いという最近の大規模研究結果(NIPPON DATA80)さえあります。つまり、家族性高コレステロール血症を除く、総コレステロール300mg/dl未満の中等度の高コレステロール血症患者の場合、心筋梗塞になる危険度が低いとされれば、欧米でも日本でも薬物によるコレステロール低下療法は推奨されていません。しかし、 残念ながら、現在の日本では血液中の総コレステロール値やLDLコレステロール値が高いというだけで、心筋梗塞の危険度が高いと勘違いし、薬物療法を勧める医師が非常にたくさんいます。JALSの総コレステロール値で変化するスコアの数値をみると分かるのですが、そのスコア値は最大スコア約100点のうち、10-20点に過ぎません。NIPPON DATA ではさらに小さな影響しか出ていません。
日本動脈硬化学会では2012年から、「心筋梗塞発症絶対リスクに基づく治療」を取り入れる予定だそうです。これは、総コレステロール値、LDLコレステロール値、非HDLコレステロール値から投薬の有無を決めるのではなく、心筋梗塞発症リスクを基準にコレステロール低下薬の投与を考慮する方針を後押しするということです(本音は??建前だけ??)。
 ただし、どれくらいの発症率からコレステロール低下薬を推奨するか、具体的な目安を示していません。「無駄な薬物療法を回避する」という建前と「薬物療法の対象者が減ると困る」という関係者の本音のずれが見えます。今までのガイドラインによる方法との比較すると、薬物療法の対象数が大幅に減少することは明らかで、混乱を防ぐため、曖昧にしているようです。
これとは正反対に、米国(ATPIII)推奨の高コレステロール血症診療ガイドラインでは、10年間の心筋梗塞・心臓死の予測率が10%未満を低リスク群、10-20%を中等度リスク群、20%/10年以上をハイリスク群とし、ハイリスク群に薬物療法を行うことを目安する記載があります。ただし、この基準をもとに薬物療法を行うことは強制していません。最終的には医師の判断のもとに薬物療法を行うことを勧めています。つまり、コレステロール低下療法の適応については、まだ未確定なことを多いこと認めています。
 JALSでは「どれくらいから薬物療法を開始するかは哲学の問題で、決められない」と言っていますが、これは今まで続いているの過剰薬物療法を擁護する発言です。薬物療法を行う目安は、冠動脈疾患発症絶対リスクと薬物療法による減少率により、決めることができます。リスク評価の精度も問題となります。多少の過少評価、過大評価など誤差があるとしても、「心筋梗塞発症率1%以下/5年」にコレステロール低下薬を使うのは明白な過剰治療です。
  具体的には、女性はTC300mg/dl以下で、ほかの危険因子がなければ心筋梗塞発症リスクは、40歳代0.05%/5年〜70歳代0.6%/5年となります。高齢者心房細動患者の脳梗塞(脳塞栓)発症率25%/5年に比べてあまりにも低い数値(1/200〜1/16)です。当然、薬物療法は不要と考えるのが妥当です。
 もっと詳しく数値化するのに、NNTという概念を使うことがあります。治療必要数NNT(number needed to treatment) は治療効率を評価する指標です。小さければ小さいほど効率的です。NNT値がいくらまで効率的と言えるかについての一般的合意はありません。
  参考までに、心房細動患者の脳塞栓(重症脳梗塞が多い)予防のためのワルファリン療法では、未治療患者の5年間脳塞栓発生率は合併症によって変わりますが、約25%です。ワルファリン投与によって60%減少すると言われています。つまり、0.25×0.6 = 0.15となり、絶対減少率は15%となります。前述のような患者さん100人がワーファリンを5年間飲み続けると、本来なら25人が脳塞栓になるところが、10人が脳塞栓となり、15人がならずにすむ計算です。NNTはその逆数、1/0.15=6.7人/5年となります。
  また、降圧剤投与でどれぐらい脳卒中を予防できるかを試験したSHEP研究( JAMA1991 ; 265 : 3255 - 3264 ) では、NNTは33.3人/5年です。これらを考慮すると、高コレステロール血症のスタチンによる薬物療法は、大雑把に言えば、「50人/5年以下では、お勧めする」、「100人/5年以上では、お勧めできない」、「200人/5年以上では、全くお勧めできない」と考えてもよいと思います。それぞれの中間は灰色ゾーンで、どうするかそれぞれが判断すべきです(サプリメントみたいなものです)。また
  なお 、JALSに基づく評価値の精度もまだまだ問題がありそうな印象です。
【最後に】
 当院は、高コレステロール血症は治療が不要と主張しているのではありません。すでに狭心症、心筋梗塞になった人、家族性高コレステロール血症の人には、積極的なコレステロール低下薬(スタチン)を使ったほうがよいと考えています。しかし、少なくとも女性の場合、LDLコレステロール値、総コレステロール値が基準よりも80mg/dl高いというだけでは極めて低リスクであり、薬物療法は全く不要と考えています。他の危険因子のチェックと、食事と運動療法のみを指導しています。 

●日本人のための冠動脈疾患リスク評価ツール2012 :2012.1.15更新
JALSによる評価は2012年動脈硬化診療ガイドラインで推奨される予定です。
☆ツールA:日本人のための冠動脈リスク評価2012v1..zip (61.5KB)  ダウンロード  2012.1.5 .改訂 (Microsoft Excel file,Macro なし
JALSによるリスク評価とMEGA study chartによるリスク評価が 、同時にできます。
☆ツールB:JALS冠動脈リスク評価3casev1.zip (60KB)  ダウンロード  2012.1.5.改訂 (Microsoft Excel file,Macro なし
JALSによる心筋梗塞リスク評価(現状,TC200mg/dl,TC300mg/dl)3ケースが同時にでます。

●利用時の注意
・日本循環器学会誌、2010年発表(JALS)と2008年Mega study chartの論文から作製しました。
・日本人を対象とした資料です。手法的にまだ未熟な点も少なくありません。日本人でどれだけ有用かは不明です
・JALSの手法による心筋梗塞リスク評価法は、2012年改定予定の動脈硬化診療ガイドライン に採用される予定です。
・10/26プログラムのバグチェックは完了していません。おそらく大丈夫でしょう。問題あれば、メールで連絡ください。

 【 toshiaki*ymg.urban.ne.jp】  *印は@に置き換えてメールしてください。

【解説】
 使用に当たっては、Microsoft EXcel がインストールされていることが必要です。Open Officeでは、レイアウトが崩れます。シート保護を外して、修正してください。
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作成者:前田敏明(まえだ循環器内科) 2011年11月20日