参考資料
<参考文献及ぴリンク>
1)国立感染症研究所感染症情報センター病原微生物検出情報(月報):IASR
http://idsc.nih.go.jp/iasr/26/310/inx310-j.html
2)感染症発生動向調査週報:IDWR感染症の話、過去10年間との比較グラフ(週報)
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/04gastro.html
3)米国CDC
http://www.cdc.gov/ncidod/dvrd/revb/gastro/norovirus.htm
4)高齢者介護施設における感染対策マニュアル
http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/tp0628-1/index.html
<Q&Aを作成するにあたって御協力を頂いた専門家>
(50音順)品川邦汎先生(岩手大学農学部教授)、武田直和先生(国立感染症研究所ウイルス第二部第一室長)、西尾治先生(前国立感染症研究所感染症情報センター第六室長)、宮村達男先生(国立感染症研究所長)、山本茂貴先生(国立医薬品食品衛生研究所食品管理部長)
(作成協力)厚生労働省健康局老健胃雇用均等・児童家庭局社会-援護局障害保健福祉部
5)広島市衛生研究所のホームページ
(http://www.city.hiroshima.jp/shakai/eiken/topics/tp007/fp_case/fp-004.htm)
感染症週報によれば、2006年11月(第47週)の感染性胃腸炎の定点当たり報告数は、1981年7月に感染性胃腸炎の発生動向調査が開始されて以来の最高値となっている。感染性胃腸炎の患者発生のピークは、例年12月の中旬以降となることが多く、今後とも、その発生動向の推移には注意が必要である。また、同時期に発生する感染性胃腸炎の、特に集団発生例の原因の多くはノロウイルスによるものであると推測されている。
こうした感染性胃腸炎の発生状況に鑑み、「ノロウイルスに関するQ&A」について改定したので、関係機関等への周知をお願いする。
ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒は、一年を通して発生しているが、特に冬季に流行する。ノロウイルスは手指や食品などを介して、経口で感染し、ヒトの腸管で増殖し、おう吐、下痢、腹痛などを起こす。健康な方は軽症で回復するが、子どもやお年寄りなどでは重症化したり、吐ぶつを誤って気道に詰まらせて死亡することがある。
ノロウイルスについてはワクチンがなく、また、治療は輸液などの対症療法に限られる。従って、皆様の周りの方々と一緒に、次の予防対策を徹底しましょう。
○患者のふん便や吐ぶつには大量のウイルスが排出されるので、
(1)食事の前やトイレの後などには、必ず手を洗いする。
(2)下痢やおう吐等の症状がある方は、食品を直接取り扱う作業をしないようにする。
(3)胃腸炎患者に接する方は、患者のふん便や吐ぶつを適切に処理し、感染を広げないようにする。
○特に、子どもやお年寄りなど抵抗力の弱い方は、加熱が必要な食品は中心部までしっかり加熱して食べる。また、調理器具等は使用後に洗浄、殺菌する。
昭和43年(1968年)に米国のオハイオ州ノーウォークという町の小学校で集団発生した急性胃腸炎の患者のふん便からウイルスが検出され、発見された土地の名前を冠してノーウォークウイルスと呼ぱれた。昭和47年(1972年)に電子顕微鏡下でその形態が明らかにされ、このウイルスがウイルスの中でも小さく、球形をしていたことから「小型球形ウイルス」の一種と考えられた。その後、非細菌性急性胃腸炎の患者からノーウォークウイルスに似た小型球形ウイルスが次々と発見されたため、一時的にノーウォークウイルスあるいはノーウォーク様ウイルス、あるいはこれらを総称して「小型球形ウイルス」と呼称していた。
ウイルスの遺伝子が詳しく調べられると、非細菌性急性胃腸炎をおこす「小型球形ウイルス」には2種類あり、そのほとんどは、いままでノーウォーク様ウイルスと呼ばれていたウイルスであることが判明し、平成14年(2002年)8月、国際ウイルス学会で正式に「ノロウイルス」と命名された。もうひとつは「サポウイルス」と呼ぶことになった。
ノロウイルスは、表面をカップ状の窪みをもつ構造蛋白で覆われ、内部にプラス1本鎖RNAを遺伝子として持っている。ノロウイルスには多くの遺伝子の型があること、また、培養した細胞及び実験動物でウイルスを増やすことができないことから、ウイルスを分離して特定する事が困難である。特に食品中に含まれるウイルスを検出することが難しく、食中毒の原因究明や感染経路の特定を難しいものとしている。
このウイルスの感染経路はほとんどが経口感染で、次のような感染様式があると考えられている。
(1)汚染されていた貝類を、生あるいは十分に加熱調理しないで食べた場合
(2)食品取扱者(食品の製造等に従事する者、飲食店における調理従事者、家庭で調理を行う者などが含まれる。)が感染しており、その者を介して汚染した食品を食べた場合
(3)患者のノロウイルスが大量に含まれるふん便や吐ぶつから人の手などを介して二次感染した場合
(4)家庭や共同生活施設などヒト同士の接触する機会が多いところでヒトからヒトヘ飛沫感染等直接感染する場合
(5)ノロウイルスに汚染された井戸水や簡易水道を消毒不十分で摂取した場合
などがある。特に、食中毒では(2)のように食品取扱者を介してウイルスに汚染された食品を原因とする事例が、近年増加傾向にある。また、ノロウイルスは(1)、(2)、(5)のように食品や水を介したウイルス性食中毒の原因になるばかりでなく、(3)、(4)のようにウイルス性急性胃腸炎(感染症)の原因にもなる。この多彩な感染経路がノロウイルスの制御を困難なものにしている。
厚生労働省では平成9年からノロウイルスによる食中毒については、小型球形ウイルス食中毒として集計してきましたが、最近の学会等の動向を踏まえ、平成15年8月29日に食品衛生法施行規則を改正し、現在はノロウイルス食中毒として統一し、集計している。平成17年の食中毒発生状況によると、ノロウイルスによる食中毒は、事件数では、総事件数1,545件のうち274件(17.7%)、患者数では総患者数27,019名のうち8,727名(32.3%)となっている。病因物質別にみると、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ(645件)に次いで発生件数が多く、患者数では第1位となっている。過去6年間の発生状況は次のとおりである。
平成12年 | 平成13年 | 平成14年 | 平成15年 | 平成16年 | 平成17年 | |
事件数(件) | 245 | 269 | 268 | 278 | 277 | 274 |
患者数(人) | 8,080 | 7,358 | 7,961 | 10,603 | 12,537 | 8,727 |
死者数(人) | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
ノロウイルスによる感染症は、「感染性胃腸炎」の一つで、多くは軽症に経過する疾患(注)である。感染症法では、疾患の感染力や重症度に基づき感染症を5段階に分類し、対応することとしている。このノロウイルス感染症は、5類感染症に位置づけられた「感染性胃腸炎」の一部として、全国の定点(約3,000カ所の小児科の病院または診療所)から報告が求められており、その発生の状況について情報提供がされている。ここでは、感染症発生動向調査に基づき調査が実施されている『ノロウイルスが原因のーつである「感染性胃腸炎」』の過去5年間の定点からの報告数等について説明する。
注:「ノロウイルスと感染性胃腸炎」についてノロウイルスは、冬季のr感染性胃腸炎」の原因となるウイルスであるが、感染性胃腸炎は、多種多様の原因によるものを含む症候群であり、主な病原体は、細菌、ウイルス、寄生虫が原因の病原体となりえる。原因となる病原体のうち、ウイルスは、ロタウイルス、腸管アデノウイルス、そしてノロウイルスがあるため、ノロウイルスの感染者は、「感染性胃腸炎」の一部として報告されている。
○感染性胃腸炎の過去5年間の定点からの報告数等 | |||||
平成13年 | 平成14年 | 平成15年 | 平成16年 | 平成17年 | |
定点報告数 | 874,241 | 889,927 | 906,803 | 952,681 | 941,922 |
定定点当たり報告数 | 7,358 | 7,961 | 10,603 | 12,537 | 8,727 |
(感染症発生動向調査事業) | |||||
死亡数(人口動態統計) | 1,242 | 1,228 | 1,398 | 1,432 | 1,732 |
資料:報告数は「感染症発生動向調査事業」に基づく全国約3,000の小児科医療機関からの報告によるもので、すべての患者数を把握するものではない。
一方、死亡数は厚生労働省統計情報部「人口動態統計」によるもので、死亡数は定点報告数の内数でないことに留意が必要。(例えば、平成17年で、死亡数1.732人÷定点報告数941,922のような死亡率の計算はできないことに注意)
参考:人口動態統計とは出生、死亡、婚姻等に関する統計であり、死亡については、死亡診断書に基づく死因の分類がなされている。
過去10年の定点あたり報告数の週別推移(1996年〜2006年)199年3月までは、「乳児嘔吐下痢症」として報告された患者も含む。http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/04gastro.htmlより |
ノロウイルスは世界中に広く分布しているとされ、アメリカ、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、フランス、スペイン、オランダ、アイルランド、スイスなどでヒトヘのノロウイルスの感染が報告されている。
我が国における月別の発生状況をみると、一年を通して発生はみられるが、11月くらいから発生件数は増加しはじめ、1-2月が発生のピークになる傾向がある。
潜伏期間(感染から発症までの時間)は24-48時間で、主症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛であり、発熱は軽度である。通常、これら症状が1-2日続いた後、治癒し、後遺症もない。また、感染しても発症しない場合や軽い風邪のような症状の場合もある。
病院や社会福祉施設でノロウイルスの集団感染が発生している時期に、当該施設で死者が出たことがある。しかし、もともとの疾患や体力の低下などにより介護を必要としていた方などが亡くなった場合、ノロウイルスの感染がどの程度影響したのか見極めることは困難である。なお、吐いた物を誤嚥することによる誤嚥性肺炎や吐いた物を喉に詰まらせて窒息する場合など、ノロウイルスが関係したと思われる場合であっても直接の原因とはならない場合もある。
現在、このウイルスに効果のある抗ウイルス剤はない。このため、通常、対症療法が行われる。特に、体力の弱い乳幼児、高齢者は、脱水症状を起こしたり、体力を消耗したりしないように、水分と栄養の補給を充分に行いましょう。脱水症状がひどい場合には病院で輸液を行うなどの治療が必要になる。止しゃ薬(いわゆる下痢止め薬)は、病気の回復を遅らせることがあるので使用しないことが望ましいでしょう。
このウイルスによる病気かどうか臨床症状からだけでは特定できない。ウイルス学的に診断される。通常、患者のふん便や吐ぶつを用いて、電子顕微鏡法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法などの遺伝子を検出する方法でウイルスの検出を行い、診断する(リアルタイムPCR法ではウイルスの定量も行うことができる)。ふん便には通常大量のウイルスが排泄されるので、比較的容易にウイルスを検出することができる。
このウイルスによる食中毒の原因食品として生カキ等の二枚貝あるいは、これらを使用した食品や献立にこれらを含む食事がある。カキなどの二枚貝は大量の海水を取り込み、プランクトンなどのエサを体内に残し、出水管から排水しているが、海水中のウイルスも同様のメカニズムで取り込まれ体内で濃縮される。いろいろな二枚貝でこのようなウイルスの濃縮が起こっていると思われるが、われわれが二枚貝を生で食べるのは、主に冬場のカキに限られる。このため、冬季にこのウイルスによるカキの食中毒の発生が多いと考えられる。
カキ以外の二枚貝では、ウチムラサキ貝(大アサリ)、シジミ、ハマグリ等が食中毒の原因食品となっている。また、カキや二枚貝を含まない食品を原因とする食中毒も発生しているが、食品からウイルスを検出することが難しいことなどから、原因食品を特定できなかった事例(その他:食事特定及び原因食品不明)が過半数を占めている。これらの多くは、ウイルスに感染した食品取扱者を介して食品が汚染されたことが原因と推定されている。
○ノロウイルス食中毒の原因食品別発生件数の年次推移(件)
|
||||||
総件数 |
245
|
269
|
268
|
278
|
277
|
274
|
魚介類 |
81
|
98
|
83
|
73
|
39
|
45
|
うち二枚貝 |
80
|
94
|
81
|
70
|
38
|
42
|
魚介類加工品 |
2
|
1
|
3
|
0
|
1
|
3
|
肉類及びその加工品 |
0
|
0
|
0
|
0
|
0
|
0
|
卵類及びその加工品 |
0
|
0
|
0
|
0
|
0
|
0
|
乳類及びその加工品 |
0
|
0
|
0
|
0
|
0
|
0
|
穀類及びその加工品 |
2
|
0
|
3
|
3
|
2
|
3
|
野菜及びその加工品 |
0
|
0
|
2
|
1
|
1
|
1
|
菓子類 |
1
|
1
|
0
|
2
|
2
|
3
|
複合調理食品 |
9
|
9
|
11
|
15
|
21
|
19
|
その他 |
105
|
106
|
131
|
145
|
162
|
172
|
うち食品特定 |
3
|
6
|
3
|
6
|
4
|
5
|
うち食事特定 |
102
|
100
|
128
|
139
|
158
|
167
|
不明 |
45
|
54
|
34
|
38
|
48
|
27
|
このウイルスは、主にカキの内臓、特に中腸腺と呼ばれる黒褐色をした部分に存在しているので、表面を洗うだけではウイルスの多くは除去できない。また、カキを殻から出す時あるいは洗う時には、まな板等の調理器具を汚染することがあるので、専用の調理器具を用意するか、カキの処理に使用したまな板等は、よく水洗あるいは熱湯消毒等を行った後、他の食材の調理に使用することなどにより、他の食材への二次汚染を防止することが重要である。さらに、カキを調理したあとは手指もよく洗浄、消毒する。
ノロウイルス食中毒を防ぐためには、(1)特に子どもやお年寄りなどの抵抗力の弱い方は、加熱が必要な食品は中心部までしっかり加熱する(2)食品取扱者や調理器具などからの二次汚染を防止することが重要である。特に、ノロウイルスに感染した人のふん便や吐ぶつには大量のウイルスが排出されるため、大量調理施設の食品取扱者がノロウイルスに感染していると、大規模な食中毒となる可能性がある。具体的な方法はQ15からQ18のとおりである。
ノロウイルスの失活化の温度と時間については、現時点においてこのウイルスを培養細胞で増やす手法が確立していないため、正確な数値はないが、同じようなウイルスから推定すると、食品の中心温度85℃以上で1分間以上の加熱を行えば、感染性はなくなるとされている。
手洗いは、調理を行う前(特に飲食業を行っている場合は食事を提供する前も)、食事の前、トイレに行った後、下痢等の患者の汚物処理やオムツ交換等を行った後(手袋をして直接触れないようにしていても)には必ず行う。常に爪を短く切って、指輪等をはずし、石けんを十分泡立て、ブラシなどを使用して手指を洗浄する。すすぎは温水による流水で十分に行い、清潔なタオル又はべ一パータオルで拭きます。石けん自体にはノロウイルスを直接失活化する効果はないが、手の脂肪等の汚れを落とすことにより、ウイルスを手指から剥がれやすくする効果がある。
ノロウイルスの失活化には、エタノールや逆性石鹸はあまり効果がない。ノロウイルスを完全に失活化する方法には、次亜塩素酸ナトリウム、加熱がある。調理器具等は洗剤などを使用し十分に洗浄した後、次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度200
ppm)で浸すように拭くことでウイルスを失活化できる。また、まな板、包丁、へら、食器、ふきん、タオル等は熱湯(85℃以上)で1分以上の加熱が有効である。
ノロウイルスによる食中毒では、患者のふん便や吐ぶつがヒトを介して食品を汚染したために発生したという事例も多く発生している。ノロウイルスは少ないウイルス量で感染するので、ごくわずかなふん便や吐ぶつが付着した食品でも多くのヒトを発症させるとされている。食品への二次汚染を防止するため、食品取扱者は日頃から自分自身の健康状態を把握し、下痢やおう吐、風邪のような症状がある場合には、調理施設等の責任者(営業者、食品衛生責任者等)にその旨をきちんと伝える。そして調理施設等の責任者は、下痢やおう吐等の症状がある方を、食品を直接取り扱う作業に従事させないようにすべきである。
また、このウイルスは下痢等の症状がなくなっても、通常では1週間程度長いときには1ヶ月程度ウイルスの排泄が続くことがあるので、症状が改善した後も、しばらくの間は直接食品を取り扱う作業をさせないようにすべきである。さらに、このウイルスは感染していても症状を示さない不顕性感染も認められていることから、食品取扱者は、その生活環境においてノロウイルスに感染しないような自覚を持つことが重要である。
たとえば、家庭の中に小児や介護を要する高齢者がおり、下痢・嘔吐等の症状を呈している場合は、その汚物処理を含め、トイレ・風呂等を衛生的に保つ工夫が求められる。
また、常日頃から手洗いを徹底するとともに食品に直接触れる際には「使い捨ての手袋」を着用するなどの注意が必要である。調理施設等の責任者は、外部からの汚染を防ぐために客用とは別に従事者専用のトイレを設置したり、調理従事者間の相互汚染を防止するためにまかない食の衛生的な調理、ドアのノブ等の手指の触れる場所等の洗浄・消毒等の対策を取ることが大切である。
家庭内や集団で生活している施設においてノロウイルスが発生した場合、そのまん延を防ぐためには、ノロウイルスに感染した人のふん便や吐ぶつからの二次感染、ヒトからヒトヘの直接感染、飛沫感染を予防する必要がある。
毎年、11月頃から2月の間に、乳幼児や高齢者の間でノロウイルスによる急性胃腸炎が流行するが、この時期の乳幼児や高齢者の下痢便および吐ぶつには、ノロウイルスが大量に含まれていることがあるので、おむつ等の取扱いには十分注意する。具体的な方法はQ20-23の通りである。
ノロウイルスが感染・増殖する部位は小腸と考えられている。したがって、嘔吐症状が強いときには、小腸の内容物とともにウイルスが逆流して、吐ぶつとともに排泄される。このため、ふん便と同様に吐ふっ中にも大量のウイルスが存在し感染源となりうるので、その処理には十分注意する必要がある。
12日以上前にノロウイルスに汚染されたカーペットを通じて、感染が起きた事例も知られており、時間が経っても、患者の吐物、ふん便やそれらにより汚染された床や手袋などには、感染力のあるウイルスが残っている可能性がある。このため、これら感染源となるものは必ず処理をしましょう。床等に飛び散った患者の吐ぶつやふん便を処理するときには、使い捨てのマスクと手袋を着用し汚物中のウイルスが飛び散らないように、ふん便、吐ぶつをぺ一パータオル等で静かに拭き取ります。拭き取った後は、次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約200ppm)で浸すように床を拭き取り、その後水拭きをする。おむつ等は、速やかに閉じてふん便等を包み込みます。おむつや拭き取りに使用したぺ一パータオル等は、ビニール袋に密閉して廃棄する。(この際、ビニール袋に廃棄物が充分に浸る量の次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約1,000ppm)を入れることが望ましい。)
また、ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあるので、吐ぶつやふん便は乾燥しないうちに床等に残らないよう速やかに処理し、処理した後はウイルスが屋外に出て行くよう空気の流れに注意しながら十分に換気を行うことが感染防止に重要である。
11月頃から2月の間に、乳幼児や高齢者の間でノロウイルスによる急性胃腸炎が流行する。この時期の乳幼児や高齢者の下痢便および吐ぶつには、ノロウイルスが大量に含まれていることがあるので、おむつ等の取扱いには十分注意する。
リネン等は、付着した汚物中のウイルスが飛び散らないように処理した後、洗剤を入れた水の中で静かにもみ洗いする。その際にしぶきを吸い込まないよう注意する。下流いしたリネン類の消毒は85℃・1分間以上の熱水洗濯が適している。ただし、熱水洗濯が行える洗濯機がない場合には、次亜塩素酸ナトリウムの消毒が有効である。その際も十分すすぎ、高温の乾燥機などを使用すると殺菌効果は高まります。布団などすぐに洗濯できない場合は、よく乾燥させ、スチームアイロンや布団乾燥機を使うと効果的である。また、下洗い場所を洗剤を使って掃除をする必要がある。次亜塩素酸ナトリウムには漂白作用がある。薬剤の「使用上の注意」を確認する。
施設の厨房等多人数の食事の調理、配食等をする部署へ感染者の使用した食器類や吐ぶつが付着した食器類を下膳する場合、注意が必要である。可能であれば食器等は、厨房に戻す前、食後すぐに次亜塩酸ナトリウム液に十分浸し、消毒する。また、食器等の下流いや嘔吐後にうがいをした場所等も洗剤を使って掃除をするようにする。
ノロウイルスは感染力が強く、環境(ドアノブ、カーテン、リネン類、日用品など)からもウイルスが検出される。感染者が発生した場合、消毒が必要な場合次亜塩素酸ナトリウムなどを使用する。ただし、次亜塩素酸ナトリウムは金属腐食性があるので、消毒後の薬剤の拭き取りを十分にするよう注意する。
最寄りの保健所やかかりつけの医師にご相談下さい。また、保育園、学校や高齢者の施設等で発生したときは早く診断を確定し、適切な対症療法を行うとともに、感染経路を調べ、感染の拡大を防ぐことが重要であるので、速やかに最寄りの保健所にご相談下さい。
社会福祉施設等においては、「社会福祉施設等における感染症発生時に係る報告について」(平成17年2月22日付厚生労働省健康局長、医薬食品局長、雇用均等・児童家庭局長、社会・援護局長、老健局長連名通知)により、必要な場合は市町村及び保健所への報告等を行うようにして下さい。
なお、介護保険施設等に関しては、厚生労働大臣が定める手順(平成18年厚労苦268「厚生労働大臣が定める感染症又は食中毒の発生が疑われる際の対処等に関する手順」)に沿って、必要な場合は市町村及び保健所への報告等を行うようにする。
広島市衛生研究所のホームページ(http://www.city.hiroshima.jp/shakai/eiken/topics/tp007/fp_case/fp-004.htm)によると、
1)ノロウイルスとは分類学的に「属名」を表しており、遺伝子的にいろんな種類がある。
2) 一般的に、ウイルスが体の細胞の中に侵入し、その中で増殖するためには、まず、細胞に結合する必要がある。この細胞表面のウイルス結合部位を「レセプター」と呼ぶ。インフルエンザウイルスでは、呼吸器の上皮細胞表面のシアル酸がレセプターとなっている。最近、ノロウイルス属に属するウイルスはABO式及びLewis式の血液型を決めている組織・血液型抗原をレセプターとして利用していることが報告された。その物質がないと細胞に侵入できないので、ノロウイルス感染ができない。このことは、ノロウイルスはある血液型の人には感染するが、違う血液型の人には感染しないというように、血液型によりノロウイルスが感染できたり、できなかったりすることを意味している。このため、「カキにあたりやすい人」、「あたりにくい人」がいる。