【新聞・雑誌記事】 公開日2017.02.24 更新日2018.01.14  HOMEへ メニューを隠す   前へ  次へ  掲載記事一覧へ


サンデー山口2017年12月27日号

10/27記事

 入浴中に亡くなる人は、東京都23区の調査では交通事故の3倍だったと言われています。シャワー中心の海外では入浴中の死亡事故はほとんどない。東京は地方に比べて、高齢者が少なく、またシャワー浴の割合も多い。当院(山口市)の聞き取り調査では、交通事故死に比べると桁違いに入浴時の死亡が多かった。自分の親が入浴中に亡くなった人が当院だけでも10人いました。中には両親が亡くなった人がいました。
 テレビ放送やHPをみると未だに、入浴中の死亡の原因は『寒いところから熱い湯に入ったため、血圧が上昇し、心臓の発作が起こる』、つまり『ヒートショックです』という解説が多く見られます。私はこれは全く的外れの迷信と確信しています。理由は色々ありますが、その一つに当院で介護入浴中にお風呂で失神した人が2人います。41度のお湯に首まで浸かり、5分間で意識がなくなった。急いで湯の外に出すと意識が戻った。心臓の発作は起こっていない。もう一人も同じ。また、銭湯で失神した人も同じでした。失神した人は入浴直後ではなく、かなり経ってから意識がなくなっています。入浴中に亡くなった方が心臓の発作なら、湯船の外にでようとします。しかし、実際は全員湯船の中でなくなり、苦しんだり、もがいたり、湯船の外にでようとした形跡はありません。
 飲酒後、温泉で入浴中に失神し、助けられた人がいます。心臓の発作ではなく、『湯あたり』と判断されています。湯船の外に出すだけで、回復し、その後は何もありません。
 2009年1月28日放送のためしてガッテンでも、ヒートショック(心筋梗塞)と考えられるものは1割程度と言ってます。大部分が謎の溺死。体温上昇で血圧はむしろ低下し、脳血流が減少し、失神がおこるのではないかと言ってます。
 もろもろの状況証拠から、『熱中症ですべて説明できます』と私は結論しました。失神した人は首まで深く入り、5分の長い時間使っていました。やせた人、小柄な人が多い印象でした。サウナ風呂で寝て、長い時間経って死亡した人もいました。失神事故は42-43度のやや熱い風呂で多いとされています。これらを元に以下のように推測しました。
40度以上の湯船に首まで深く浸すと、やがて深部体温は39度以上になる。この体温は、大人ではなかなか遭遇しない発熱で、意識障害が生じても不思議ではありません。
 温泉で亡くなる人の最大の共通点は一つです。『誰もいない一人で入浴中の人が亡くなっています。入浴中に倒れても周囲に人がいるときには助かっています』。
 例として、「ゴルフの返りに3人で温泉に行きました。先についた人が湯船で浮いているのを後についた人が見つけています。夕方4-5時で誰もいなかった時間帯です」「温泉旅館での飲み会のあと数人で夜の10時過ぎに大浴場に行った。最後まで残った人が後で湯船に浮いているのを発見された」「朝風呂に入ってた人が湯船で浮いているのを発見された」。温泉では誰もいないとのんびりと長く使っていたくなりますが、首まで深く、長く(5分以上)浸かると深部体温が異常に上昇し、失神し、おぼれる。
 ただし、お湯に浸かって、座り込んだ状態で死亡が確認された人もいますので、全員が溺死というわけではありません。熱中症との診断が適切かと思う理由です。日射病を思い浮かべてください。気温も重要ですが、それ以上に暑い環境にいた時間が大切です。湯船では、首まで深く浸かった時間が大切です。助けるには速やかに涼しいところに移動させることが大事です。湯船の場合は、湯船の外に出すことです。日射病の予防に気温差は重要ではないように、浴室をあたためてもほとんど意味がないと思います。温泉ではどこも着替える前室は寒くありませんが、温泉で倒れる人がいなくなったとは聞いていません。
 当院のお勧めは『首まで浸かったら、3分以内に胸を水面上に出し、身体を冷やす』。『誰もいない風呂(温泉、サウナ)で寝るのは非常に危険』、以上を守って安全な入浴を心がけることをお勧めします。


サンデー山口2017年10月27日号

10/27記事

NHK「ためしてガッテン」は人気の健康番組です。私も録画して欠かさず見ています。また、ガッテンのホームページでは、放送終了後に、放送のまとめが印刷できるようになっています。めまい対策、入浴時死亡対策、転倒予防、腰痛対策、筋トレの方法など私の知らない貴重な情報が少なくありません。しかし、希に変な放送内容もあります。「腕をマッサージすれば薬を使わなくても血圧が下がる(測定時の血圧がさがるだけで、普段の血圧は変化しない)」、「新しい痛風予防の薬ができました(画期的でもない新発売の薬の宣伝に過ぎない)」、「肺炎球菌ワクチンは5年経ったら再接種すればよい?(1回摂取群と2回摂取群で効果に差がない)」、「動脈硬化予防にはコレステロールが大事(高コレステロール血症と相関があるのは、心筋梗塞、しかも中年女性の心筋梗塞リスクは、男性の約1/6)でLHLC200mg/dlでもリスクは低い」などが気になった放送です。
  これらの放送では、専門の医師が話しているのですが、専門家(学会の代表で、製薬会社と利害が一致)で、我田引水となっていることが多い。
  とくに高コレステロール血症に関しては、日本動脈硬化学会や学会役員は、該当薬剤製造メーカーから個人的、組織として多額の報酬、補助金をもらっています。そのため、欧米の治療基準に比べて、過剰な薬物療法へと誘導する記述となっています。ある人の推測では、心筋梗塞患者数に比して、日本の高コレステロール血症治療薬は8倍多く使われているとの推測もありました。
  8倍かどうかをはっきりしませんが、それよりも多いような気がします。当医院を受診される人で、他院から高コレステロール血症治療薬を処方されているひとの10人中9人は「吹田スコア」から推定して、冠動脈リスクはほとんどが2%/10年以下で、全く治療の必要がない人でした。


サンデー山口2017年8月26日号

8/26記事

心臓病に限らず、急性疾患の回復処置(リハビリなど)はできるだけ早期に行う琴が医療の常識となっています。手術の後長期に寝た状態での安静を続けると、下肢の静脈に血栓が生じて、流れて肺の血管に詰まり、重篤な肺塞栓症のリスクが高まります。ロングフライト症候群(=エコノミー症候群)と同じ機序です。記事には書いていませんが、15年前、私が勤務医の頃は、冠動脈ステント留置術後の早期の運動では血栓による閉塞が増加するので、2週間は運動負荷検査や早歩き等の運動も禁止となっていました。
血圧の上昇による大動脈瘤や動脈瘤の破裂の危険性のあるひとは、血圧上昇が大きい激しい運動、力む運動は禁止となります。個々の状態で、運動の指導内容が変化するので、主治医の先生の指導を受けてください。


サンデー山口2017年6月30日号

6/30記事

高血圧症は治療が必要ですが、低血圧症はどうなのでしょう。脳の病気による高度の自律神経障害がある場合は、起立時に血圧が60mmHg以下にもなり、失神するような人もいます。このような場合は低血圧の対策なしでは、普通の日常生活は送れません。しかし、「低血圧で朝が起きづらい。身体がだるい」などは必ずしも薬物による積極的な治療の必要はありません。なぜなら、血圧を上げる薬剤を使用しても症状改善も軽度ですし、その人の寿命が延びたり、合併症が減るなどの予後の改善もありません。
 別の言い方をすると、お化粧品みたいに、見た目の改善には繋がりますが、本質的なものは変化がないので、本人が気に入るかどうかの問題になります。また、必ずしも血圧を上昇させる薬剤がベストというわけではありません。低血圧症の症状は、自律神経の関与が大きいので、生活習慣の改善や運動、薬剤では漢方薬の方が有効なこともあります。
  【参考症例】
  『起立性調節障害』という診断で、血圧を上昇させる薬剤を長期間続けている中学生がいました。16歳になったので小児科ではなく、循環器内科へ行くように言われ、当院を受診しました。低血圧、朝のだるさがあり、学校生活に色々支障が生じていました。運動はあまりしていないが生活習慣はとくに問題なし。現在の時期は6月でやや軟便、食欲やや低下、清暑益気湯を試しました。数日で症状改善、「今まで試した薬のなかで一番よく効きました。続けたいのでまた処方してください。」と言って、再診されました。成長期においては、身体の成長とともに自律神経系も安定化すると言われています。しばらくは、この漢方薬を継続しようと思います。


サンデー山口2017年4月28日号

4/28記事

 高コレステロール血症を扱う専門の学会は『日本動脈硬化学会』です。産学癒着の非常に強い学会です。今年、同学会は5年ぶりに『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』の改訂を行いました。本来、動脈硬化は、血液中のコレステロール値よりも、年齢、性別、高血圧、糖尿病、喫煙の影響のほうが、ずっと強いのに、それらを総合した『動脈硬化予防』の主役が同学会になっていることに強い違和感を覚えます。当然、我田引水となり、高コレステロール血症を動脈硬化の主役級に引き上げています。
  問題の多い同学会のガイドラインで、長年世界の標準的冠動脈疾患リスク評価法(絶対的発症率)から外れる評価法(心臓病死亡率) で冠動脈疾患リスク評価を行ってました。米国の学会は前者にすべきで、後者はだめだとはっきり言ってます。
  2017年に世界の潮流にすり寄る形で改定となりました。内容変更の主役は、3年前に発表された吹田スコアによる冠動脈疾患リスク評価です。欧米に遅れること20年以上です。
 当院では3年前から吹田スコアによるリスク評価とリスクに合わせた治療を行っています。日本動脈硬化学会のガイドライン2012年版では、吹田スコアの代わりに『NIPPON DATA 80』の資料を利用してました。吹田スコアとの大きな違いは、HDLコレステロール値、腎機能がリスク評価の要素に含まれていないこと、心臓疾患死亡率でリスク評価しており、冠動脈疾患発症率の絶対値でないことです。
 吹田スコアは、 米国のフラミンガム研究(心臓の日本語版と言えます。吹田スコアは歴史が浅いので、観察期間や対象数が少なく、米国版よりも実績では劣りますが、今までの日本人対象の資料では現在唯一実用的な評価ツールといってよいでしょう。
2017年版の同学会のガイドラインでは、吹田スコアをオリジナルのまま使うことをせずに、糖尿病と腎機能障害患者をそれだけでハイリスク扱いしています。これでは吹田スコアの役割がゆがめられてしまいます。本当にひどいインチキ商法です。学術学会と言うより、まるで製薬会社の宣伝部会、学会の会長は宣伝部部長のようです。

発症相対リスクと発症絶対リスクについて
 薬物療法の適応の根拠になるのは、絶対リスクのみです。

1)相対リスク評価の例(心臓病死亡率も相対的発症率の代用にすぎない):「コレステロールが40mg 高いと心筋梗塞が●●%増加する」。「10歳の子供は70歳の高齢者の○○倍心筋梗塞が増加する」。両者とも何%、何倍から治療薬が必要か判断できない。例として、以下が間違っているのは、直感的にもわかりますよね。「女性は男性の100倍乳がんになりやすいので、女性は全員、乳がん予防薬をのむべきだ!?」。
2)絶対リスク評価の例:「年齢50歳、男性、喫煙習慣なし、血圧145mmHg,糖尿病あり、LDLC 160mg/dl,HDLC 65mg/dl、腎機能正常なら10年間の心筋梗塞発症率は●●%です」 これなら薬物療法の治療効率が計算できて、薬物療法を行うべきかどうかの判断ができる。 


サンデー山口2017年2月24日号

2/24記事

 最近の脳ブームの影響もあり、『めまい』があると脳外科診療所を受診する人が増えています。脳外科は必要もないのにMR検査を行って、「脳血管に狭窄がある。血流をよくする薬を出しましょう。年に一回脳のMR検査を行いましょう。頸動脈エコー検査をやりましょう。」とワンパターンで検査治療セットを患者に押しつける例を数多く見ています。まともな医師からみると明らかなインチキ診療です。めまいのほとんどは脳外科と関係ありません。また、脳血流改善薬の効用はかなり限定的で、効果と副作用を考慮するとほとんど不要です。
 まずは内科や循環器内科を受診し、貧血や全身疾患、血圧異常の有無、脳血管異常の可能性などを検討して、必要ならそれぞれの専門家を紹介してもらうことがお勧めです。『頭位めまい症』は私の専門外ですが、運動不足、寝相のよい中高年女性に多く見られます。薬物療法もある程度有効ですが、最も有効なのは、『寝返り運動』です。『ためしてガッテン』のWEBサイトでも紹介していますので、印刷して読んでください。これによって当院の良性発作性頭位めまい症の患者さん約15人のうち12人は薬物療法が不要となりました。残念ながら、多くの耳鼻科の先生は、手間暇がかるので積極的に教育指導していませんが、、、