【新聞・雑誌記事】 公開日2016.05.06 更新日2017.01.08  HOMEへ メニューを隠す   前へ  次へ  掲載記事一覧へ


サンデー山口2016年12月24日号

12/24記事

 

 今から30年以上前、私が医師に成り立ての頃は、まだ心筋梗塞は少なく、リウマチ性弁膜症が心臓病の代表でした。その当時は今後は食事の欧米化で、血液中のコレステロールが増加して、日本人も欧米並みに心筋梗塞が激増するだろうとの予測が一般的でした。実際、心筋梗塞は急増し、現在の心臓病といえば心筋梗塞(冠動脈疾患)が最も重要な心臓病となりました。しかし、血液中のコレステロール値は欧米に追いついて、さらに超したようですが、心筋梗塞の発症率は未だに欧米の1/3〜1/4程度です。血液中のコレステロール上昇は心筋梗塞の危険因子の最大需要因子ではないからです。ハワイの日系人の心筋梗塞発症率は欧米人と同じと聞いていますので、人種差のせいではないようです。個人的には魚食が一番の原因ではないかと思っていますが、解明されていません。
 リウマチ性弁膜症は小児期のリウマチ熱が原因であることがわかっています。この時期の栄養事情や内服抗生剤の普及(ある意味で乱用)がリウマチ熱の治療に役立ち、リウマチ性弁膜症は日本では激減しました(東南アジアではまだ多いようです)。代わって、増加したのが高齢化に伴う弁膜症です。弁を支える腱索の劣化で僧帽弁閉鎖不全症が生じたり、大動脈弁の動脈硬化と同じ変化による弁の癒着が原因で、後期高齢者の大動脈弁狭窄症が増加しました。
  現在は、技術の進歩もあり、高齢でも心臓の手術成功率が上がり、80歳でも全身状態がよければ、心臓の手術をすることが少なくない状況になりました。正確な診断の重要性が増しました。弁膜症の診断のきっかけで、最も多いのは心雑音です。一般の医師でも大きな心雑音なら発見できますが、『音量の小さな心雑音は軽症』と勘違いしている専門外の医師も少なくありません。後期高齢者の心臓弁膜症は頻度の高い病気です。一度は心臓の専門医師の診察を受けておくことをお勧めします。そのときには腹部大動脈瘤も一緒にチェックもらいましょう(同時検査は、検査代が保険請求できないために嫌がる医師もいるかもしれませんが、、)。


サンデー山口2016年8月27日号

2016/08/27記事

 テレビで『肺炎球菌ワクチン』の宣伝があります。多くの患者さんが政府の広報と勘違いしていますが、企業の広告です。肺炎球菌ワクチンには多くの問題がありますが、広告なので、販売促進に都合の悪い情報は伝えていません。このワクチンは安全性は高いのですが、肺炎予防効果は低いと言われています。65歳未満での予防効果はない、このワクチン単独での肺炎予防効果はない、インフルエンザワクチンとの併用で、肺炎減少効果に上乗せ効果があった、肺炎の1/3を占める肺炎球菌にしか効果がない、肺炎球菌感染を100%予防する効果はない、血清抗体価からみた効果の予想では、5年以上であきらかな低下が見られる。あくまでも私的感覚的な予想ですが、『細菌性肺炎の1/3に有効で、有効菌の感染を30%減少できるとしたら、計算上は細菌性肺炎の約10%が予防できる』となります。
 販売元や詳しくない医師は、5年ごとに再接種が望ましいようなことを言ってますが、5年後に再接種した群が再接種しなかった群よりも肺炎が減ったとの報告は、今のところなく、2度目の接種に関しては、少なくとも今のところ補助金がでる予定はありません。生死に関わる重症肺炎は高齢になるにつれて増加するので、超高齢者ほどお勧めです。医療の効率も考慮すると、重篤な合併疾患がない元気な65歳の人にはお勧めできません。


サンデー山口2016年6月17日号

2016/06/17記事

 心房細動の診療に関して、最近気になるある傾向があります。未熟な医師による心房細動の治療が増えているようです。心房細動の治療は、心疾患の治療と脳塞栓の予防の2本立てです。心疾患の治療のためには、心臓疾患の正確な診断が必要です。これには循環器を専門とする医師の診察、検査(とくに心エコー検査)が必要です。未熟な聴診と心電図、胸部レントゲンだけでは不十分です。ところが、十分な心疾患の評価を省略して、かなりいい加減な処方でお茶を濁すような治療が開業医では普通にあります。
 実例をあげると、脳梗塞(脳塞栓症)で脳外科受診、以来脳外科で診療を続けていたが、全身倦怠感や疲れやすいと言って、当院を受診。頻拍を弁膜症による中等度の心不全でした。心不全の診療に慣れていない脳外科医は、脳塞栓症の後遺症でたいしたことのない気分的なものと放置していました。開業医の脳外科は、MRIなどの高価な検査は積極的に行いますが、これが脳塞栓症の予防になっているかというと全く役立ってません。脳外科での心房細動の診療はおすすめできません。


サンデー山口2016年4月22日号

2016/0422記事

 最も一般的な説明では、脂質異常症では、(●1)高LDLコレステロール血症、(●2)高中性脂肪血症、(●3)低HDLコレステロール血症が問題とされています。それでは1)2)3)の重要度の順番はどうなるのでしょうかご存じでしょうか。欧米や日本での信頼できる資料では、いずれも(●2)>(●1)>>(●3)となっています。しかし、実際の患者さんや一般医師の認識は違うようです。学術的には重要度の順位は明らかにもかかわらず、HDLコレステロールが目立たなくなってきたのです。これは製薬会社にとって『高LDLコレステロール血症を強調したほうが、薬の売り上げが伸びる』ため、HDLコレステロールを意図的に目立たなくしたためだと私は考えています。学会も協力しています。
  いわゆるコレステロールの学会(日本動脈硬化学会)は、製薬会社から、多額の経済的な支援を受けています。産学一体となってこの方策を進めています。一般の医師も、えらい先生方が言うのだから、間違いないだろうと、無批判にその考えを取り入れています。日本と欧米で高コレステロール血症のリスク評価の違いや基準値に大きな差があることを知らずに、、、、
  今回は、米国のフラミンガム研究の結果として報告され、米国では広く利用されている『冠動脈10年リスク評価ツール』を使って、65歳男性、血圧正常、糖尿病なし、喫煙習慣なし血清、LDLコレステロール値は標準的な140mg/dl,血清HDLコレステロール値は標準的な50mg/dlの人を例として計算してみました。HDLコレステロール値の-10mg/dl低下は、LDLコレステロール値の+60mg/dlとほぼ同じ、冠動脈疾患の増加を起こすとの結果でした。
 逆に、HDLコレステロール値+10mg/dlの60mg/dlの人は、LDLコレステロール値が+60mg/dlの200mg/dlでも、標準男性と比べて冠動脈疾患リスクはほとんど増えないため、薬物療法は必要ないことになります。それどころか生活改善の必要性もほとんどないと言えるでしょう。
 当院は不必要なコレステロール低下薬物療法を強く批判する者です。医師はもっと勉強しましょう。製薬会社の勉強会、講演会と言った『拡販行事』に参加しただけで、『有名な先生の講義を聴き、十分な知識を得た』と洗脳されないようにしましょう。いろいろな方面からの情報(とくにネットから)を勉強することをお勧めします。製薬会社と一体となって、薬品の拡販になりふり構わず協力する学会にはご注意下さい。


サンデー山口2016年1月15日号

2016/0115記事

 高血圧治療中の患者さんの足の浮腫は、かなりの頻度で見られます。しかし、その90%くらいは気付かずに放置されています。一番の原因は、「医師が診察時に足の浮腫を注意して見ていない」ためです。これは国内外でずいぶん違うようです。海外の副作用頻度をみるとアムロジピン服用での浮腫発症率は10%くらいですが、国内の報告書では1%くらいです。人種差がこれほどあるとは思えません。海外での服薬量が多いせいとも思えません。なぜなら、私が診ているアムロジピン5mg /日以上服用患者の足の浮腫発生率は10%を超えるからです(女性が多い)。
  ある患者さんの話ですが、「そんなに強く押したらへこむのは当たり前、問題ない」と医師に言われたそうです。浮腫の診断が間違っています。へこむ程度ではなく、元に戻るまでの時間が大切です。10秒以上、はっきりとしたへこみがある場合は水分貯留による浮腫と診断できます。
  女性では特に疾患はないのに、体質としてむくみやすい「特発性浮腫」というものもありますが、高血圧症患者ではアムロジピンを代表にカルシウム拮抗薬による浮腫が頻繁に見られます。3年以上の中期〜長期間の処方経験からすると、アムロジピンが2.5mg/日では浮腫の頻度は少ないのですが、5mg/日では5%以上、10mgではおそらく20%以上出現します(10mg/日はほとんど処方していないのはっきりとした頻度は不明です)。浮腫の程度も容量が増えるほど高度になります。靴が窮屈になることもしばしばあります。
  足が腫れるぐらい、健康上支障がないと考える人がいるかも知れません。しかし、起きている現象は「身体の水分が増加している」ということです。足は重力の関係で真っ先に腫れやすいだけです。つまり、内臓もむくみやすいと言うことです。血液中の水分も増加し、血圧がさがりにくい。静脈圧、心臓の内圧が上昇し、心不全になりやすい不整脈も起こりやすい。つまり、足の浮腫は全身の浮腫を一部として出現しています。現在の治療を変更した方が良いという兆候の一つです。
 アムロジピンはしっかりとした降圧効果があり、作用時間は極めて長く、安定した降圧が期待できるとても有用な薬剤です。稀に日光過敏症、極めて稀に重症肝障害がありますが、通常浮腫以外の副作用はめったにありません。アムロジピン以外の一部のカルシウム拮抗薬の浮腫の発生頻度は少ないとの報告もありますが、私が使った感じでは大差ありませんので、変更は無効のことが多い。
 浮腫が生じた場合の対応方法には、完全に他剤へ変更することもありますが、降圧不十分なら、降圧利尿剤の併用をお勧めです。 また、アムロジピンを減量し、降圧利尿剤を併用するのもお勧めです。
  具体的には、ナトリック錠(商品名)1mg(高尿酸血症、低カリウム血症、低ナトリウム血症に注意) 1〜0.5錠を追加併用。、またはスピロノラクトン錠(一般名)25mg(女性化乳房、高カリウム血症に注意)を追加併用をよく処方しています。しっかり降圧したら、アムロジピンが減量できないかもチェックします。
 私から一般医へのアドバイスとして、 カルシウム拮抗薬(ジヒドロピリジン系)は、心不全や不整脈がある人では、できるだけ避けた方がよいという認識をもったほうがよいでしょう。