【新聞・雑誌記事】 公開日2015.03.20 更新日2015.10.29  HOMEへ メニューを隠す    次へ  掲載記事一覧へ


サンデー山口2015年10月21日号

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高コレステロール血症治療の目的は「冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)の予防」です。脳卒中の予防効果は部分的にしか確認されていません。まだ冠動脈疾患になったことのない人の冠動脈疾患予防を一次予防と呼びます。他方、冠動脈疾患またはそれに準じる動脈硬化性疾患になったことがある人の冠動脈疾患予防を2次予防と呼びます。 高コレステロール血症対策では、この2つを区別して考える必要があります。
  さらに、アキレス腱肥厚などを伴う遺伝子異常による家族性高コレステロール血症(FH)はこれらと区別して扱います。ここではFHを除く、高コレステロール血症患者の冠動脈疾患一次予防について話します。

 LDL(悪玉)コレステロール値は140〜180mg/dlを軽度上昇、180〜300mg/dlを中等度上昇と分類されています。これだけでもLDLコレステロール値200mg/dlは慌てるほどの重症ではないことがわかります。軽症なのに必要以上に危険性を煽る医療関係記事が多いのは、それで利益を得る人が多いからです。
 動脈硬化学会も参照している有名なNIPPON DATA 80という調査研究でも、軽症〜軽中等症の高LDLコレステロール血症(総コレステロール値280mg/dl以下)では、心筋梗塞発症リスクは男性は軽度上昇しますが、女性ではほとんど上昇していません。

  心筋梗塞予防が必要となる対象者は、冠動脈危険因子が多数ある人です。代表的な冠動脈危険因子としては、年齢、性別、喫煙、高血圧、低HDLコレステロール血症、高LDLコレステロール血症、腎機能低下などがあります。50歳代では男性は女性の6倍高リスクです。喫煙は30-50歳代では、男性は4〜5倍、女性では10倍以上高リスクになります。年齢、性別を除く危険因子の中では、喫煙高血圧低HDLコレステロール血症は非常に強い因子です。LDLコレステロール血症は男性ではそれに続く危険因子ですが、女性では軽症コレステロール血症ではリスクは増加しないと日本でも欧米でも報告されています。

 冠動脈リスクを評価するのには、重症高コレステロール血症を除いて血清LDLコレステロール値だけで判断するのは不可能です。複数の危険因子によるリスク評価が不可欠です。その雨のツールとして日本人には「吹田スコア」※によるリスク評価法をお勧めします。 吹田スコアは都市在住の日本人の最新調査です。製薬会社とは無関係の組織による大規模調査なので信頼できます。

 欧米での高コレステロール血症治療戦略では、 吹田スコアと同様の方法によるリスク評価を行い、高リスクの場合に高コレステロール低下療法を考慮します。米国の「フラミンガムリスクスコア」※※が有名です。 ただし、日本人よりも約3〜4倍心筋梗塞が多くとされる米国白人での研究なので、そのまま日本人に適用することはできません。
※「吹田スコア」はこちらをクリック、「冠動脈疾患を予測する新しいリスクスコアの開発」(国立循環器病研究センター)
※※「フラミンガムリスクスコア」はこちらをクリック、「Risk Assessment Tool for Estimating Your 10-year Risk of Having a Heart Attack」(米国NIH)



サンデー山口2015年7月10日号

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 腹部大動脈瘤は破裂するまで自覚症状が全くないことが多い病気です。破裂すると運よく自然止血しないかぎり出血多量で、緊急手術も間に合わずに突然死になりやすい。60歳過ぎの高血圧のすべての患者さんに、一度は腹部エコーによる腹部大動脈瘤の検査を勧めます。当院では今までに4-5人の方が腹部大動脈瘤とその末梢動脈の動脈瘤の手術を受けています。無症状のときに診断された腹部大動脈瘤の手術の成績はとても良好です。
  知り合いの医師が腹部大動脈瘤の手術を受けたり、腹部大動脈瘤破裂で突然死した例は稀ではありません。医師は自身が高血圧症になった場合、「高血圧の治療くらい簡単だ」と軽く見がちです。往々にして自身で薬を処方したり、管理したりしがちです。腹部大動脈瘤のチェックを怠ると、不幸な転帰となります。必ず一度はチェックしましょう。腹部大動脈瘤は徐々に大きくなるので、見落としがなく、全く異常のない方は、5年間くらいは大丈夫です。


サンデー山口2015年4月10日号

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高コレステロール血症治療の主役となっているスタチン系薬剤は、副作用が極めて少ないということが定評でした。それが安易に投薬を行う理由にもなっていました。ところが今までわかっていない(多くは恣意的に無視されてきた)副作用がだんだん明らかになり、スタチン服薬も思ったより、弊害があることがわかってきました。このためスタチン内服の是非を厳格に行うことが、今まで以上に大切になりました。心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患発症の絶対リスクを調べてから、スタチンを使うかどうか判断することを強くお勧めします。


サンデー山口2015年1月16日号

山口市は盆地なので、夜間から明け方にかけて、冷え込みが強くなります。鼻炎(鼻汁、鼻閉など)の原因では、「風邪(ウイルス、細菌)」「花粉症」が有名ですが、「化学的刺激」「物理的刺激」でも起こります。以外と多いのは「寒冷刺激」です。冷たい空気や体温の低下は鼻汁を引き起こします。さらに、臥床時の鼻汁は重力に従って、すべて鼻から外にではなく、後ろ方向の喉に流れていきます(「後鼻漏」という)。この一部が気管支の方へ流れていくとこれを排除しようと咳がでます。「咳と痰がある」と患者さんは言いますが、正確には「咳と鼻水由来の痰がある」というのが、正しい表現です。多くの医師もこの間違いをしばしばしているようです。いや、むしろ正しい診断の方が少ないようです。よくある処方では、患者さん:「咳と痰がある。熱はほとんどありません。」、医師:「気管支炎です。抗生剤と痰切れの薬を出しておきましょう。」
  診断の鍵は発熱がないことと後鼻漏ですが、後鼻漏は自覚がないほうが多いようです。「少し鼻声」、「軽度の鼻汁」でも、発熱がない場合は疑って下さい。典型的には咳、痰は夜間や早朝に強くなります。治療薬では、痰切れの薬は全く効きません。抗生剤も細菌合併をおこした一部を除いて効きません。鼻水を止める総合感冒薬も有効ですが、できるだけ強い鼻炎治療薬(強い抗ヒスタミン剤)が有効です。ステロイドと強い抗ヒスタミン剤の合剤、セレスタミン配合錠は最も強力ですが、眠気が強いのと、ステロイドがあるので、短期間にとどめることが必要です。